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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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分けた現在

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

「もう分けた」


カシアの言葉のあとも、俺は15人を置き直そうとした。


先行6人は平らな道の北側。担架は白布の先。歩ける2人も通過。


エリオットとローディは最後尾。アステラは前。ルシアスは俺の右。ノエラは――


白布を持っていた。


今はどこだ。


「レオン、右足の指を動かして」


レイナの声で、数が途切れた。


俺は靴の中で指を曲げた。親指から小指まで動く。(しび)れはない。


足首を内側へ傾けようとすると、外くるぶしの前が痛んだ。


「動く」


「次は膝。私が押さえるから、ゆっくり伸ばして」


右膝の外側には、石へ当てた場所がすでに膨らみ始めていた。布地は破れていない。


血も出ていない。


俺が膝を伸ばすと、打った場所に鈍い痛みが残る。曲げることもできた。


「骨の向きは大きく崩れてない。指も動く。でも足首へ体重はかけないで」


レイナは治癒魔法を使わなかった。


「腫れ方を見たい。先に靴(ひも)を緩める。脱がせるのは煙の外へ出てから」


「歩ける」


「歩けるかは立った回数じゃなく、体重を預けられるかで見る」


「左足で進める。右は地面に置くだけなら――」


「置いただけで膝をついた」


カシアが言った。


俺は返せなかった。


背後で盾が鳴る。


1回。


今度は魔物が当たった音ではない。ローディが下端を石へ置いた音だ。


「白布まで2歩!」


エリオットの声が近づく。


「魔物は?」


俺が聞く。


「1体は(くぼ)みの斜面! 追ってきてない!」


「もう1体は?」


「見えてない!」


未確認。


その位置を頭の中へ置こうとする。入口の上にいた最後の位置。右上で消えた音。


今見えている1体とは別。


だが、どちらがどちらか分からない。


「ローディの右後ろに――」


「いない!」


エリオットがすぐに返した。


「右後ろは僕が見た。今いる1体は斜面の上。ローディの正面じゃない!」


俺が置いたのは、少し前の位置だった。


煙の中では、少し前が今と同じに見える。


「分かった。訂正。見えている1体は斜面の上。もう1体は未確認」


「受け取った!」


エリオットは責めず、現在だけを言い直した。


ローディの大盾が煙から現れる。下端を地面へ着けず、身体の横へ立てている。


エリオットがその後ろから白布を越えた。


「最後尾2人、通過!」


ノエラの声が左から返る。


そこにいた。


白布の外れた端を片手で持ち、もう片方の手で人数を数えている。


「白布より北に15人。担架を含む。窪みに残ってる人はいない」


カシアも数えた。


「確認した。15人」


2人の数が一致した。


俺の頭の中でつながらなくても、人数は欠けていない。


「白布を戻す?」


ノエラがアステラへ聞く。


「戻さない」


アステラは煙の流れる向きを見た。


「窪みはもう使わない。外れた布は次の目印にする。今いる場所を白布の先と呼ぶのもやめる」


使い終えた位置を、現在の基準から外した。


「ここは平らな道の分岐手前。北西の水場まで続く道。右から煙が横切っている」


ノエラが新しい現在を言葉にする。


アステラは胸元から紙を出した。端が湿り、(すす)が細く付いている。


それでも表の文字は読めた。


「現在――平らな道の分岐手前。15人。負傷者2人」


ペン先が止まる。


「レオンは未判定。負傷者に数える?」


「歩行不可として扱う」


レイナが答えた。


「状態は右膝の強い打撲、右足首外側靱帯(じんたい)の損傷疑い。呼吸は煙で咳あり。意識と返事はある。現場では損傷の深さを確定できない。搬送方法はまだ決めない」


「歩行不可じゃない」


俺は言った。


「支えがあれば移動できる」


「それを自力歩行とは書かない」


レイナは靴紐を緩めたまま立ち上がった。


「支えが必要。右脚へ体重をかけない。今分かるのはそこまで」


アステラはレイナの言葉をそのまま書いた。


『負傷者2人。担架1。レオン――支えが必要、右脚荷重不可、呼吸確認継続』


俺ができるかどうかではなく、他の人が動くための状態になった。


右から煙が濃くなる。


膝の高さだった灰色が、一度胸まで上がった。風向きが変わったのではない。


地面近くを流れていた煙が、平らな道の木立へ当たり、上へ巻いている。


「ここに止まり続けられない」


ルシアスが言う。


「風を出す?」


俺は聞いた。


「出さない」


答えはアステラではなく、ルシアスから返った。


「木立で向きが分かれてる。上へ出しても枝に当たって戻る。今は僕の風より移動が先」


自分で見て、自分の風を使わないと決めた。


「前の道は?」


アステラがノエラへ聞く。


「北西の水場へ続く。ここから分岐まで14歩くらい。右は乾いた草へ近い。左は少し高いけど、古い地図だと水場の手前で合流する」


「現在の地図は?」


「左道の途中が空欄。木立の裏が見えない」


ノエラは古い線を今の道として使わなかった。


「分岐までは確認できる。そこから先は見た人の情報が必要」


「補助員は?」


カシアが聞く。


「担架の前。先行6人を分岐まで動かしてる」


俺が答えた。


「違う」


ノエラが首を横へ振った。


「担架の前にいるのは別班の補助員。先行6人を動かした補助員は分岐の左。2人いる」


また、位置を重ねた。


鞍部(あんぶ)へ来た時、補助員は2人いた。俺たちの側に1人。


負傷した班の最後尾に1人。


分かっていた。


それなのに、煙の中で同じ役割を1人の位置にしていた。


「訂正。補助員は2人。1人は担架の前、1人は分岐左」


アステラは紙へ2本の線を引いた。


「訂正を記録する。次から前の人数はノエラ、後ろはカシア。補助員の位置も2人を分けて確認」


俺の情報を使わないとは言わなかった。


だが、数と位置を俺1人から取るのを止めた。


「レオンは私と進む」


カシアが決めた。


「左肩を使って。右脚は浮かせる」


「俺なら1人で――」


「1人で立てるかの確認は、煙の外でレイナがする」


カシアは俺の左側へ入った。


背は俺より少し低い。それでも肩を貸す位置を迷わず、俺の左腕を自分の肩へ回す。


「全部預けないで。左足は自分で出して。私が止まったら止まる」


運ばれるのではない。


だが、自分だけで歩くのでもない。


「レイナは?」


「担架へ戻る」


レイナが答えた。


「あなたの呼吸はカシアが見る。咳が連続したら止める。右脚を着いたら止める。私は前の負傷者から離れすぎない」


「俺の状態を任せていい?」


カシアが確認する。


「返事、顔色、歩幅。判断に迷ったら止めて呼んで」


「分かった」


レイナは俺ではなくカシアへ確認方法を渡し、担架へ走らず戻った。


俺たちも動く。


左足を前へ出す。カシアの肩へ体重を移し、右足は土に触れない高さで運ぶ。


1歩進むたび、浮かせた右足首が揺れる。


痛みは耐えられるが、地面へ下ろせば関節がまた崩れる感覚があった。


「歩幅、半分」


カシアが言う。


「前に合わせなくていい。後ろを詰まらせない位置は私が見る」


俺は前方を見た。


担架の後ろが煙に消えかけている。


「離れてる。あと6歩――」


「4歩」


カシアが訂正した。


「煙で小さく見えてるだけ。担架の後ろまで4歩」


俺は黙った。


戦域把握(せんいきはあく)で最後に見た位置と動きをつなぐ。


担架は同じ速さで前へ進んでいる。俺たちは遅い。差は開くはずだ。


だが、担架は分岐手前で速度を落としていた。


見えない間も同じ速さだと置いた俺の方が違っていた。


「今の距離はカシアの4歩」


声に出して訂正する。


「確認した」


アステラが前から返した。


右の木立で枝が揺れた。


風ではない。下から順に葉が動き、細い幹が1本だけしなった。


「右に何かいる」


俺は止まる。


カシアも同時に止まった。


「見えたものは?」


「枝の動き。下から上。灰色の影は見えてない」


「音は?」


エリオットが後ろから聞く。


俺は耳を向けた。


咳。担架の足音。盾の金具。木の葉。


その奥に低い呼吸がある気がした。


「右、近い」


口にした直後、ローディが言った。


「右じゃない。後ろだ」


「俺の盾の外。木立の入口で土を踏んだ」


同じ音を、俺は右に置き、ローディは後ろに置いた。


どちらが正しいか確かめようと身体をひねる。


右脚が地面へ落ちた。


足首が内側へ崩れ、息が詰まった。痛みを押し込む前に咳が出る。


「止まる!」


カシアが俺の腰を支えた。


「右脚を上げて。レオン、返事」


「できる」


「何回咳をした?」


「2回」


実際には3回だったかもしれない。


カシアは俺の答えを数に使わなかった。


「連続4回。呼吸確認」


前にいるレイナへ伝える。


「胸の痛みは?」


「咳の時だけ」


「目眩は?」


「ない」


「返事はできてる。右脚を1回着いた」


「そのまま支えて。止まるのは10息まで。煙が濃くなるなら先に移動」


レイナの判断が返った。


その間に、エリオットとローディは木立の位置を確かめていた。


「見えた」


エリオットが低く言う。


「1体。木立の入口。僕たちの右後ろ7歩」


ローディが続けた。


「盾を右へ向ける。前へ進みながら残す。止まって受けない」


「僕は盾の左。来なければ斬らない」


2人の答えは、俺の右という言葉もローディの後ろという言葉もそのまま使わなかった。


見える位置まで確かめて、新しい現在を出した。


「もう1体は?」


ノエラが聞く。


「未確認」


エリオットが答える。


「見えた1体だけを書く」


アステラが紙を更新した。


10息が終わる。


「進める?」


カシアが俺へ聞く。


「進める」


「右脚は?」


「着かない」


「全体の位置は?」


答えようとして、止まった。


担架は前。先行6人は分岐。補助員2人。後ろにエリオットとローディ。


右後ろに1体。


どれも聞いた。


だが、今の歩数は分からない。


「分からない」


初めて、そのまま言った。


カシアは(うなず)いた。


「じゃあ、自分の次の1歩だけ。左足を出して」


俺は左足を前へ置いた。


1歩。


カシアと一緒に進む。


2歩目の前に、分岐から補助員の声が届いた。


「右道に煙! 先行6人は止めた!」


同時にノエラが叫ぶ。


「左道の木立が切れた先は見える! でも、地面の高さは未確認!」


アステラが担架の前で止まる。


「現在の道を変える。確認できる人は?」


俺は左道までの位置をつなごうとした。


分岐まで何歩か。担架の幅。先行6人。補助員2人。右後ろの1体。煙の流れ。


頭の中で線を引く前に、咳が出た。


その間に声が重なる。


「僕が左道の入口を見る」


エリオット。


「盾は担架の後ろへ残す」


ローディ。


「先行6人の足元は私が確認する」


ノエラ。


「負傷者2人を同じ場所へ止めない」


カシア。


「煙の向きは私とルシアスで分ける」


アステラ。


「大きい風は使わない。左道へ入れる幅だけ見る」


ルシアス。


「担架の傾きは変えない。レオンの脚はカシアが継続」


レイナ。


俺の答えを待たずに、必要な確認が分かれた。


「レオン」


カシアが俺の腕を肩へ掛け直す。


「今のあなたの範囲は?」


全体、と言いかけた。


言えば、また置けない位置まで抱える。


俺は地面を見た。左足の前に平らな土がある。右脚は浮いている。


カシアの肩はすぐ隣だ。


「次の1歩」


「うん」


「それと、見えたことだけ言う」


「それでいい」


分岐の右で煙が膨らんだ。


木立の入口にいたリッジハウンドが低く(うな)る。


担架、先行6人、負傷した俺、後ろの2人。条件は同時に変わっている。


それでも、誰も俺へ答えを戻さなかった。


俺は左足を、次の1歩へ置いた。

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