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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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入口に残す幅

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

第1退路が煙に消えたあとも、黄色い杭の位置は頭の中に残っていた。


見えなくなった道の手前にエリオットがいる。


その右へ低い位置から来るリッジハウンド。


第2退路の入口にはローディと、乾いた草を回ってきたもう1体。


鞍部(あんぶ)の北側ではレイナが負傷者の右脚を押さえ、カシアが動ける生徒を分けている。


15人を、同じ場所へ固めたままにはできない。


だが、全員を一度に(くぼ)みへ入れれば、入口で止まった時に戻れなくなる。


「歩ける人を先に第2退路の入口へ。6人」


カシアが決めた。


「残りは負傷者の周りに置く。入口の6人が窪みへ下りられたら、次を動かす」


「私が先頭へ行く」


ノエラは新しい地図を畳み、古い地図と一緒に胸元へ入れた。


「砂利の下り口で1人ずつ。底に煙が入ったら、白布まで進まず止まる」


補助員が6人の最後につく。


歩ける生徒の中には、さっき負傷者を支えていた2人もいた。


息はまだ速いが、カシアの呼びかけへ返事ができ、両足も使えている。


アステラが表の現在欄を書き換えた。


『先行6人――ノエラ、補助員。窪み入口で煙確認。残り9人――負傷者固定後に移動。第1退路は使用しない』


「南側の4人は?」


俺が聞く。


「今はつながらない」


アステラは答えた。


「カレン先生と向こうの教員が確認する。私たちが第1退路へ戻れば、負傷者と15人の線が重なる。分からない4人を迎えに行く判断は、今の表へ置かない」


南側の人数を忘れたわけではない。


現在の15人を動かす判断と、見えない4人の救助を同じ場所へ置かなかった。


第2退路側のリッジハウンドが、乾いた草を踏み分けて鞍部へ出た。


ローディまで9歩。首の毛を逆立て、盾の外側にいる先行6人を見ている。


「入口へ来る。ローディから9歩」


俺が伝えると、ローディは盾の下端を土へ置いた。


窪みへ続く砂利の筋を背中で塞がず、左側に人1人分の幅を残している。


「6人は俺の左を通れ。走るな」


ノエラが先に動いた。盾の横を通り、砂利の手前で止まる。


続く生徒との間を2歩ずつ空け、補助員までが鞍部の北側へ並んだ。


リッジハウンドは先頭ではなく、列の中央へ顔を向けた。


盾の正面を避け、右の斜面へ半歩ずれる。


「横へ回る」


ローディが言った。


「入口を狭める?」


「狭めない。人を通す」


盾を動かせば魔物の前は塞げる。だが、先行6人の道も同時に消える。


ローディは位置を変えず、右足だけを斜面側へ引いた。


リッジハウンドが走った。


前脚が土を蹴り、盾の右端へ向かう。


ローディは盾を正面からぶつけず、外側を少し前へ出した。


魔物が斜面へ抜ける角度を作りながら、左の幅を残している。


俺は盾の2歩後ろから水弾(アクアバレット)を放った。


狙ったのは頭ではない。踏み込んだ右前脚の手前へ水の塊を当てる。


土が濡れ、リッジハウンドの爪が半歩分だけ滑った。


崩れた肩が盾の外側へ当たる。


ローディは左足を動かさず、右足と腰で衝撃を斜面へ流した。


魔物の身体は盾に沿って外へ向き、乾いた草の手前で止まった。


「今、2人!」


ローディが言う。


ノエラと次の生徒が砂利の筋へ入る。


2人が窪みの縁まで進んだところで、ノエラが腕を上げた。


「底は見える。煙はまだ上!」


次の2人が動く。補助員は最後尾に残り、鞍部と窪みの両方を見ている。


盾の左に残した幅は、1人ずつなら通せた。


リッジハウンドが濡れた土を避け、もう一度右へ回った。


俺が水を当てた場所を踏まない。次も同じ方法を使えば、さらに外を選ぶ。


外には乾いた草がある。その先は、さっき確認して現在から外した道だ。


足場を確かめていない場所へ追い込めば、別の位置から入口へ戻ってくる。


「同じ場所へ水は出さない」


俺が言うと、ローディが短く(うなず)いた。


「次は盾で向きを残す。倒そうとするな」


魔物を退ける方法を、俺だけの次の手へしなかった。


第1退路側では、煙の中から金属音がした。


エリオットの剣と、何か硬い物が触れた音だ。


姿は見えないが、最後に見た位置から3歩以上は動いていない。


「エリオット!」


「いる!」


返事は近い。咳は混じっていない。


「魔物は?」


「煙の手前! こっちへ抜けようとしてる!」


火から離れれば、リッジハウンドは鞍部へ来る。


第1退路を守っていたエリオットが下がれば、もう1体も15人の側へ重なる。


カレンが煙の端まで進み、片腕を低く振った。


「エリオット、鞍部へ戻ってください。追わず、剣を向けたまま下がる」


「はい!」


エリオットの影が煙の中に現れた。後ろ向きに歩き、剣先を低く保っている。


その正面で灰褐色(はいかっしょく)の頭が一度見え、また煙に隠れた。


「エリオットまで11歩。魔物はその前、距離は見えない」


俺は見えた範囲だけを伝えた。


「黄色い杭の横に火は来てる?」


ルシアスが聞く。


「火は見えない。煙は杭を越えた。草の燃える音は右側」


「上の風は西から東。煙は鞍部へ斜めに入ってる」


ルシアスは両手を開いたまま、まだ魔力を放出しない。


「大きい風を出せば、煙は動く。でも火も動く。方向を決めるには、火の端が足りない」


分からないまま風を使えば、第2退路を空ける代わりに、乾いた草へ火を押すかもしれない。


ルシアスは出せる量ではなく、止める理由を先に置いた。


レイナが負傷者の包帯を締め直した。


赤く濡れた布を外し、洗った傷の上へ厚布を重ねている。


淡い光が両手の間へ集まるが、傷は消えない。


「出血は減った。足首の向きは大きく崩れていない。でも、(すね)の骨はまだ未確認」


「担架に移せる?」


カシアが聞く。


「移せる。右脚へ体重はかけない。添え木を当てて、頭側と足側を4人で持つ」


「あと何人いる?」


「ここは9人。持つ4人、横で支える1人、前後確認2人。負傷者を除いて1人余る」


カシアはすぐに持ち手を決めなかった。


周囲の歩き方を見て、さっき負傷者を運んだ生徒2人を外す。


息の整っている俺たちの班から4人を選ぶ必要がある。


「担架は私、レオン、アステラ、隣の班の1人。レイナは右脚。ルシアスは風から外さない」


「俺は全体を見る」


そう言いかけて、止めた。


担架を持てば、両方の魔物と全員の位置を同じようには見られない。


カシアは俺の腕ではなく、斜面と煙へ向いている視線を見ていた。


「レオンは持たない」


カシアが変更した。


「入口とエリオットをつないで。担架は私、アステラ、あと2人」


「分かった」


運べることと、今持つべきことは同じではない。


先行6人が窪みの底へ下りた。ノエラが縁から顔を出し、両腕で大きな輪を作る。


全員が下り、底の空気に問題がない合図だ。


アステラは現在欄の先行6人へ線を引いた。


「第2陣を動かせる。負傷者を中央。先に歩ける2人、担架、レイナ、残り」


完全な列ではない。煙と2体の位置が変われば、前後はまた変わる。


それでも、全員が(そろ)うまで待ってから決めるより先に、今使える並びを出した。


第2退路側のリッジハウンドが低く(うな)った。


ローディの盾ではなく、鞍部へ戻ってきたエリオットを見ている。


煙の中にいたもう1体の足音も近づいていた。


「2体の間、14歩」


俺は見えた位置を頭の中でつないだ。


1体は入口の右。もう1体は第1退路の煙の中。


エリオットが鞍部へ戻れば、2体は左右から同じ場所へ近づく。


「エリオット、右の1体がそっちを見た」


「分かった。入口には入れない」


エリオットは剣を斜めに置き、ローディの盾と重ならない位置へ動いた。


2人の間には、人が通る幅が残っている。


「俺が前へ出たら狭くなる」


「僕も下がりすぎたら担架に当たる」


2人は互いを見ずに位置を確かめた。


煙からもう1体が飛び出した。


頭を低くし、エリオットの剣へ正面から来る。


エリオットは右へ避けず、左足を半歩引いて剣の腹を肩へ当てた。


勢いを止めるのではなく、鞍部の南側へ流す。


魔物の前脚が着く先には、火床の石囲いがある。


そいつは石を避けて身体をひねり、開いていた北側へ顔を向けた。


負傷者の担架がある方向だ。


俺は水鞭(アクアウィップ)を一度だけ振った。


細い水がリッジハウンドの鼻先と前脚の間を横切り、地面へ崩れる。


魔物は水を噛もうとして頭を下げ、その1歩が遅れた。


エリオットが剣先を首の横へ置く。斬り込まず、担架とは反対の南側へ道を残した。


「そっちへ行け!」


リッジハウンドは剣を避け、火床の外を回った。倒れてはいない。


だが、負傷者へ届く線から外れた。


「今、担架!」


カシアの声で4人が持ち上げる。


レイナが右脚を添え木ごと支え、負傷者の顔を見た。


「痛む?」


「痛い。でも、分かる」


「息を止めないで。揺れたら言って」


担架はローディとエリオットの間を通った。


盾と剣は魔物へ向いたまま、人が通る幅だけを残している。


アステラが紙を胸元へ入れ、担架の前側を持つ。


カシアは後ろ側から人数を数え、レイナは右脚と呼吸を確かめる。


ルシアスは最後まで空と煙を見ていた。


「煙が下がる」


白い煙の端が鞍部の土へ触れた。


風に押されて横へ流れるのではなく、温度を失った煙が砂利の筋へ沈み始めている。


第2退路の停止条件だった。


「まだ底には入ってない」


窪みからノエラの声が返る。


「入口の上。こっちから全員見える」


「このまま入れる?」


俺はルシアスに聞いた。


「今なら歩く人は入れる。でも、担架が下りる間に煙が底へ来る」


「風を使える方向は?」


ルシアスはすぐに答えなかった。


白布、煙、火の音、乾いた草、2体の位置を順に見る。


「右の1体が回る!」


ローディの声が入口へ響いた。


乾いた草の中へ外れたリッジハウンドが、窪みの縁に沿って走っていた。


盾の正面へ戻るのではなく、先行6人のいる底の上へ回ろうとしている。


エリオット側の1体も、火床の南で向きを変えた。2体とも倒れていない。


俺たちが残した道を使い、別の位置を選び直している。


「上を止めるのは僕だけじゃ届かない」


エリオットが言った。


「盾を動かせば入口が閉じる」


ローディが続ける。


ルシアスの両手の間で、風が低く鳴った。出せる量は揃っている。


だが、向きはまだ決めていない。


アステラは煙の端と、窪みの上を走る魔物を見た。


「完全な方向は待たない」


現在の表から顔を上げ、エリオット、ローディ、ルシアスへ順に聞く。


「剣で残せる線は?」


「南側。3歩」


「盾で止められる位置は?」


「入口の右。ここから1歩まで」


「大きい風を1回だけ出すなら?」


「窪みの上から南東。底へ押し込まない。ローディの盾が2回鳴ったら止める」


3人の答えが揃う前に、煙はさらに低くなった。


俺は火、煙、2体、担架、窪みの6人をつないだ。


アステラが決めるために足りない位置だけを言う。


「上を走る1体は、ルシアスから右へ12歩。もう1体はエリオットの前7歩。担架は入口まで4歩」


アステラは頷いた。


「担架を入口へ。ルシアス、1回だけ。方向はあなたが変えていい。止めるのはローディ」


ルシアスは俺を見なかった。


「任された」


風が、両手の間から広がった。

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