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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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二本目の退路

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

次の確認地点は、丘の西側と北側をつなぐ浅い鞍部(あんぶ)だった。


斜面の両側が少し高く、中央だけ草が途切れている。


土の上には細い砂利が広がり、雨水の通った筋が北西へ続いていた。


南側には石で囲まれた火床が1つあり、その周りだけ幅3歩分の草が刈られている。


火床に火は入っていない。


黒くなった薪が2本、石の内側へ残っていた。


灰は湿って固まり、風が吹いても舞わない。


「ここで2つ目の退路を確認します」


カレンが言った。


「黄色い杭へ戻る道とは別に、この鞍部から北側の水場へ出る道を探してください。火床は午後の風向き確認に使います。点火は教員が行います。生徒だけで火を足さないこと」


北側の水場は、南門から来る途中に使った石積みの水場ではない。


新しい地図には、丘の北西へ細い青線がある。


古い地図では『羊飼いの(くぼ)み』と書かれ、道の印は途中で切れていた。


「水場まで着く必要はありますか」


ノエラが聞いた。


「白い境界布までです。そこから先は補助員が確認しています」


「負傷者を運べる幅も見る?」


レイナが続ける。


「見てください。全員が歩ける道と、負傷者を運べる道を分けて記録します」


カレンは俺たちの返事を聞き、火床の横へ赤い布を立てた。


斜面の向こうから、別の組の声がする。


カレンはそちらへ向かう前に、補助員へ火打ち石の袋を渡した。


「点火までは、火床へ触れないように」


教員が見えなくなった後も、俺たちは火床から3歩空けた。


アステラが前の表を開く。戻る道の2本目は、まだ空欄だ。


「今度は埋められるといいね」


隣の班の生徒が言った。


「確認できればね」


アステラは空欄を指で押さえた。


「先に埋めるためには歩かない」


鞍部から北西へ、進めそうな線は2つある。


1つは砂利の筋をそのまま下る道。草が少なく、足元は見える。


だが、途中で地面が低くなり、白い境界布は見えない。


もう1つは右側の斜面を回る道。境界布は見えるが、乾いた草を横切る。


幅は広く、担架も通せそうだった。


「班を分ける?」


エリオットが聞いた。


カシアは10人と2つの道を見た。


「5人ずつなら、互いが見えなくなる。先に右の入口を3人で見て、残りは砂利の筋を進む。右の3人が見えなくなる前に戻る」


「右は俺とローディ。あと1人」


エリオットが言う。


「私が行くわ」


アステラが紙をノエラへ渡した。


「乾いた草と境界布の位置を書く。現在の表はノエラが持って」


右の入口は3人が確認する。


俺、カシア、ルシアス、ノエラ、レイナと隣の班の2人は砂利の筋へ入る。


補助員は火床に残った。


進む前に、俺は両方の距離を見た。


右へ行く3人の背中は、斜面の草が高くなる場所で肩から下が隠れる。


砂利の筋は、12歩先で窪みへ落ちる。


「見えるのは右が16歩、砂利が12歩」


俺が伝える。


「右は12歩で戻る」


ローディが答えた。


「砂利は窪みの縁で止まる」


カシアが決めた。


同時に動いた。


砂利は見た目より柔らかかった。靴を置くと細かい石が外へ逃げる。


急な傾斜ではないが、負傷者を担いで下れば足が(そろ)わなくなる。


レイナが添え木2本を並べ、幅を確かめた。


「横に並べる。でも、持つ人の足場が滑る」


「短い縄を使って、後ろから下がる速さを止める?」


隣の生徒が言った。


俺は道の上側を見る。縄を固定できる木も石もない。


人が持てば、後ろの者も砂利の上に立つ。


「持つ人が増えても、同じ足場に乗る」


俺が伝えると、レイナは添え木を戻した。


「今のままでは、搬送には使わない」


歩ける者だけなら通れる。


だが、10人のうち1人が負傷した時の退路にはならない。


窪みの縁で止まった。


下は深さが膝ほどしかない。底は平らで、砂利ではなく固い土が続いている。


そこから北西の白布まで、草の少ない線が見えた。


「下り口だけ滑る」


カシアが言った。


「底へ入れば2人並べる」


「上がる所は?」


ノエラが地図から顔を上げた。


白布の手前には、低い土の段差がある。こちらからでは高さが分からない。


俺なら先に下り、底と出口を確かめる。戻れることを確認してから、残りを呼ぶ。


だが、下へ入れば鞍部から姿が消える。右へ行った3人もまだ戻っていない。


「ここで待つ」


カシアが言った。


俺は(うなず)いた。


右側では、エリオットが片手を上げた。ローディ、アステラと順に鞍部へ戻る。


3人が合流してから、右の道を聞いた。


「幅はある。乾いた草が膝まで続く」


エリオットが言った。


「足元に穴は見えない。でも、草が重なって土を見られない場所がある」


「風は?」


ルシアスが聞く。


アステラが記録紙を見た。


「上の白布は北西。草の根元は西。同じ向きじゃなかった」


ローディが盾を下ろす。


「担架は通せる。でも、足場を確かめられない。火床からも近い」


現在の退路には使わない。


右の道は裏へ移した。


次は10人で砂利の筋を見る。


エリオットとローディが窪みの下り口へ立った。


エリオットが先に底へ下り、足を置く場所を確かめる。


ローディは上で盾を地面へ立て、手を掛ける位置を作った。


「盾を足場にはしない」


ローディが言う。


「身体が傾いた時に触るだけだ」


1人ずつ底へ下りる。ノエラは地図を胸へ抱え、レイナは添え木を縦に持った。


俺は5人下りた時点で鞍部と底の両方が見える位置へ移る。


上に5人。下に5人。


「両方見える」


俺が伝える。


カシアが上と下の人数を返した。


残りも下りる。


窪みの底は、古い地図の『羊飼いの窪み』と向きが合っていた。


かつて水が流れた跡なのか、中央だけ土が固い。


両側の縁は腰より低く、立てば鞍部の赤い布が見える。


ノエラが古い地図を広げた。


「この線、道じゃなくて水の跡かもしれない。『窪み』の横に、小さい波の印がある」


「今は水がない」


アステラが底の土を靴で押した。


「乾いて固い。でも、雨の後に使えるかは分からない」


現在の条件では使える。雨天は未確認だ。


白い境界布の手前まで進む。


出口の土の段差は、下から見ると腿の高さがあった。自力で歩ける者なら上がれる。


添え木を担架にした場合、そのまま持ち上げるには高い。


レイナが段差の右側へ回った。


土が斜めに削れ、幅1人分の坂になっている。


「ここなら、負傷者を水平に保ったまま上げられる」


「持つ人は並べない」


ローディが幅を見る。


「前後で持つ。横から支える人は上に回る」


「交代場所は底の平らな所」


カシアが10人の位置を変えた。


俺とローディが添え木を2本持ち、負傷者を載せた幅を作る。


レイナが頭側の高さを見る。


エリオットが前で出口を確認し、ルシアスは上の風と白布を見た。


実際に人は載せない。空の添え木を平行に保ったまま、出口の坂を通す。


前後なら通る。ローディの盾は枝に当たらない。足元も見える。


「搬送に使える」


レイナが言った。


「ただし、雨の後は使わない。入口の砂利で滑るなら、その時点で戻る」


ノエラが表の空欄へ線を引いた。


『第2退路――鞍部から砂利の筋、窪みの底、北西の白布。歩行可。搬送可。雨天未確認。入口の砂利が崩れる場合は使用しない』


2本目の退路が埋まった。


俺たちは同じ道を鞍部へ戻った。


出口の坂、窪みの底、砂利の上り口。


進む向きが逆になると、負傷者の頭をどちらへ向けるかも変わる。


レイナが戻りの持ち方を追加し、ローディが盾を置く位置を変えた。


俺なら上り口の砂利を水で固められる。


少量の水魔法で表面だけ湿らせれば、石が動きにくくなる可能性がある。


だが、乾いた後にさらに滑るかは確かめていない。


現在の道は、魔法を使わなくても通れた。


俺は水を出さなかった。


鞍部へ戻ると、補助員が火床の横で待っていた。


カレンも別の組から戻っている。


「2本目は?」


「確認できました」


ノエラが表を見せた。


歩行と搬送、雨天未確認、砂利が崩れた場合の停止。


アステラが使わなかった右の道を裏から見せる。


カレンは窪みの出口と、全員の靴底を確認した。


「現在は乾いています。帰りも同じとは限りません。通る直前に入口を見直してください」


「はい」


「では、風向き確認を行います」


補助員が火床の中央へ乾いた細枝を3本置いた。


その上へ、湿らせた草を少量載せる。


俺たちは火床から5歩離れた。火床の蓋はローディが持つ。


水袋はカシアと隣の班の生徒が1つずつ持った。


「煙の向きだけを見ます」


カレンが言った。


「炎を大きくしません。風向きが変わる、火の粉が石囲いを越える、煙で人の位置が見えなくなる。このどれかで蓋をしてください。誰が決めるかは班で確認を」


「風は僕」


ルシアスが言った。


「人の位置はカシア。火の粉は近い人が見つけた時点で言う。蓋はローディ」


「水は蓋の後」


ローディが続ける。


「先に掛けて灰を飛ばさない」


アステラが現在の欄へ4行だけ書いた。


補助員が火打ち石を打った。


細枝の端に小さな火がつく。湿った草から白い煙が上がり、最初は真上へ伸びた。


ルシアスが白布と煙を交互に見る。


「上は西。火床はまだ上」


高さで風向きが違う。


煙は人の背より高くなると、西へ流れた。


地面近くでは火床の縁に沿い、北へ薄く広がる。


「北の退路へ少し入ってる」


エリオットが言った。


白い煙の端が、砂利の筋を横切っている。濃くはない。10人の姿も見える。


「今は通れる」


カシアが答えた。


「でも、煙が膝より下へ溜まったら、窪みは使わない。底に入ると上から見えなくなる」


アステラが第2退路の条件へ書き足した。


俺は火床、退路、右の乾いた草、10人の位置を同時に見る。


煙の向きが一度変わった。


西へ流れていた上の煙が止まり、火床のすぐ上で形を崩す。


乾いた草の穂はまだ動いていない。


「変わる」


ルシアスが言った。


その直後、煙が南へ倒れた。


火床の内側で、赤い火の粉が1つ浮いた。石囲いは越えていない。


ルシアスはローディを見ずに言った。


「蓋」


ローディが動いた。


盾ではなく、持ってきた火床の蓋を両手で置く。


石囲いの上へ水平にかぶせ、隙間を厚布で塞いだ。


炎が消え、白い煙だけが細く漏れた。


カシアが10人を数える。レイナは煙を吸って咳をした者がいないか見る。


エリオットは右の乾いた草と火床の間へ立った。


俺は風圧(エアプレス)を使わなかった。


風で煙を払えば、火の粉も動く。


どちらへ飛ぶかを全員が同じように確認できていない。


補助員が蓋の隙間から火床を確かめた。


「消えています」


カレンはルシアスに聞いた。


「蓋を決めた理由は?」


「風向きが変わりました。火の粉は石の内側でしたが、次にどちらへ出るか分からなかったからです」


「確認を続けるために、もう一度つけますか」


ルシアスは首を振った。


「今の風は揃っていません。必要な向きは見ました。続けません」


確認課題のために、火をもう一度つける必要はない。


アステラは『南へ変化、火の粉1、石囲い内、蓋で消火』と表へ書いた。


火床の周囲に燃え移りはない。水袋は使わなかった。


カレンは紙を返した。


「この区画の確認は終了です。帰路に入る前に、2班で現在の道を読み合わせてください」


俺たちは鞍部の風下を避け、砂利の筋の入口から離れて集まった。


ノエラが表を読む。


黄色い杭へ戻る第1退路。鞍部から窪みを通る第2退路。動く石。見えない窪地。


乾いた草。火床。風向きが変わった時刻。搬送時の向き。


雨天と煙は未確認の条件が残る。


「帰りはどっち?」


エリオットが聞いた。


「第1退路」


カシアが答えた。


「南門へ戻るなら黄色い杭が近い。第2退路は北側へ出る必要がある時だけ」


「火床の煙は消えた。でも、右の草は通らない」


ルシアスが加える。


「10人。歩き方に変化なし」


レイナが全員を見た。


ローディは火床の蓋を補助員へ返さず、背負い袋の外側へ結び直した。


「これは学園へ戻るまで持つ物だ」


選んだ道具は、使った後も役割を終えていない。


ノエラが表を閉じる前に、俺は2本の退路を見た。


今使うのは1本だけだ。もう1本は、使わない答えとして裏へ回したのではない。


条件が変われば、誰でも現在へ移せる線として表に残っている。


俺が決め直す必要はない。


「行こう」


エリオットが黄色い杭の方向へ向いた。


その時、丘の南東から笛が鳴った。


1回。


短い間を置いて、続けて2回。


合計3回。


魔物を見た時の合図だ。


カレンが南東を向いた。


補助員は火床の蓋を確かめ、もう1人の教員がいる坂へ腕を上げる。


誰も走り出さなかった。


ローディが盾を前へ回す。エリオットは剣の柄へ手を置き、抜かずに南東を見る。


カシアが10人を数え、レイナは添え木と包帯を持つ。


ルシアスは白布と煙のない空を確かめた。


アステラが表を開き、ノエラは新旧の地図を並べる。


俺は笛の方向と、2本の退路と、教員3人の位置を伝えた。


カレンが短く言った。


「全員、その場で待機。現在の退路を保持してください」


10人は動かない。


南東で、もう一度、笛が3回鳴った。

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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