西斜面の十人
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それでは、どうぞお楽しみください。
低い丘の西斜面には、道と呼べる線がなかった。
腰より低い草の間から土が見え、灰色の石が不規則に出ている。
上へ行けば乾いた草が増え、下へ行けば灌木と浅い窪地が続く。
黄色い杭は北側に1本あるだけで、西の端は白い布を結んだ棒で区切られていた。
10人は、黄色い杭の内側で止まった。
「ここから確認を始めます」
カレンが言った。
「西斜面の上段、中段、下段を見て、休息場所を1つ、負傷者を一時的に置ける場所を1つ、戻る道を2つ記録してください。2班は離れすぎないこと。全員で同じ場所を見る必要はありませんが、互いの位置を見失わないように」
坂の下から別の組を呼ぶ声がした。
カレンは俺たちの返事を聞くと、補助員を1人残して斜面を下りていった。
教員が見えなくなっても、始めるための事実は揃っている。
ノエラが地図入れから紙を出した。南門からここまでの表に、新しい欄を足す。
「2班で1枚にする?」
「現在の道は1枚。細かい記録は班ごとでいいんじゃない?」
アステラが答えた。
「戻る時に別の道を書いたら困るから、使う線だけ一緒にする」
紙の表はノエラが持つ。アステラは自分の班の記録紙を開いた。
俺たちは10人の範囲を確認した。
上段はエリオットと、隣の班の生徒1人。中段は俺、アステラ、ルシアス。
下段はローディ、カシア、レイナ、ノエラと、もう1人の生徒が見る。
斜面を縦に3つへ切ったのではない。
上段と中段、中段と下段が互いに見える幅だけ離れる。
曲がりや灌木で姿が消える場所には入らない。
「下で怪我人を置ける場所を見つけても、上へ運べる道がなければ使わない」
レイナが言った。
「上で休めても、風が強ければ外す」
ルシアスが加える。
「人が足りなくなったら?」
カシアが10人を見た。
「残っている人数で範囲を狭める。誰か1人が2つ分を見るようにはしない」
俺が答えると、カシアは頷いた。
表には、『黄色杭を基点』『3段は互いに見える範囲』『姿が消れる場所へ入らない』と書かれた。
上段から先に動いた。
エリオットは草を踏まず、土の見える場所を選んで進む。
隣の生徒は、その2歩後ろで斜面の上を見ていた。
中段の俺たちは、2人が止まるたびに位置を合わせる。
下段は人数が多い。
窪地と灌木があるため、1列にはならず、ローディを斜面側、カシアを外側に置いて進んだ。
レイナとノエラは中央にいる。
最初に止まったのは、エリオットだった。
「石が動く」
上段の土から、拳2つ分ほどの石が半分出ている。
エリオットが靴の先で周りの土だけを押すと、石が斜面の下へ傾いた。
「踏まない。下に知らせる」
隣の生徒が片手を上げた。
俺は中段で同じ合図を出す。
アステラが下段へ見える位置まで2歩移り、掌を斜面へ向けた。
ローディが止まり、後ろの5人も止まった。
石は動かさない。落とせば、下段のどこへ転がるか分からない。
エリオットは石の上側へ、目印の細い枝を横に置いた。
「戻る道には使わない」
アステラが現在の紙へ書く。
「石の大きさと、どこまで埋まっているかは?」
俺は聞いた。
「戻る道を選ぶには、動くことだけで足りるわ」
大きさは班の記録へ残す。表には『上段、動く石。外側を通らない』だけになった。
俺なら、転がる向きと止まる場所まで確かめる。
だが、確かめるために石を動かす必要がある。
今使わない場所のために、下段を危険へ入れる理由はなかった。
上段は石の内側を通り、中段との距離を1歩縮めた。
少し進むと、草の色が変わった。
下段はまだ朝露で濃い緑をしている。
中段では穂先だけが乾き、上段は根元まで白くなっていた。
ルシアスが指先を濡らし、胸の高さへ上げた。
「今は西から東。さっきより弱い」
アステラが草の倒れる向きを見る。
「丘の反対側から回ってる?」
「分からない。ここで弱いことだけ」
ルシアスは短く答えた。
俺は上段と下段の布を見た。
上の白布は東へ揺れ、下の灌木はほとんど動いていない。
同じ斜面でも、風は同じではない。
「笛を試す」
エリオットが上から言った。
「1回だけ。届かなければ距離を縮める」
エリオットの笛が鳴った。
中段では聞こえた。下段のカシアは片手を上げなかった。
俺は肩に触れる合図を使わない。今は全員が1列ではなく、間に距離がある。
代わりに、アステラが下段へ見える場所で両腕を交差した。停止の合図だ。
カシアが同じ形を返す。
「聞こえなかった?」
ノエラが下から聞いた。
「音はしたけど、1回か2回か分からなかった」
カシアが答える。
風の弱い場所でも、草と斜面で音が散っている。
「上と下を直接つながない」
ローディが言った。
「上から中、中から下。笛は1回のまま。見える時は腕を使う」
合図は増やさない。届く区間を短くする。
現在の紙へ、『笛は1段ずつ』『見える時は腕の停止合図』が加わった。
下段で、レイナがしゃがんだ。
地面に細い線が3本ついている。灌木の枝にも、泥が乾いた跡があった。
俺たちは位置を揃えてから下段へ寄った。
線は窪地から斜面の外側へ続き、途中で消えている。
爪の跡にも見えるが、幅が揃っていない。
枝の泥も、何かが触れたのか、水が跳ねたのか決められない。
ノエラが古い地図を開いた。
「昔の記録だと、この斜面に小型の穴掘り獣がいた。3本爪って書いてある記録もある」
「リッジハウンドは?」
隣の生徒が聞いた。
「前脚は4本。けど、全部残るとは限らないわ」
ノエラは線へ指を近づけたが、触れなかった。
「だから、これは3本爪の獣とは決めない。リッジハウンドとも決めない」
俺は窪地の土を見る。表面は乾いているが、線の底だけ少し濃い。
朝露より新しい可能性はある。
「新しさは?」
「昨日の雨より後かもしれない。でも、時刻までは分からない」
アステラが班の紙の裏へ、『下段の窪地から外側へ3本線。枝に乾いた泥。
種類、数、時刻は未確認』と書いた。
現在の道へ影響するかを決める必要がある。
「窪地は使わない」
カシアが言った。
「痕跡がなくても、ここは後ろから見えない。10人が入れば、上から人数を数えられない」
痕跡の種類ではなく、人の位置が見えなくなることを理由にした。
「下段は灌木の手前まで」
ローディが盾の位置を変え、窪地と人の間へ立つ。
表には、『下段の窪地へ入らない。理由――人数と退路が見えない』と書かれた。
3本線は裏のままだ。
確認を再開した。
上段は乾いた草が多く、休息場所には向かない。
中段は石が少ないが、風を遮る物もない。
下段の灌木の手前には、土が平らな場所がある。
レイナがそこへ膝をつき、周囲を確かめた。
「1人を寝かせられる。頭を斜面の上へ向ければ、呼吸と顔を見られる」
「運ぶ道は?」
カシアが聞く。
ローディと俺が平らな場所から黄色い杭まで歩いた。
2人で並べる幅がある箇所と、1人分しかない箇所が混ざっている。
添え木を担架代わりにするなら、狭い場所で向きを変えられない。
「黄色杭へ直接は運ばない」
ローディが盾の縁で中段を示した。
「一度、中段の平らな石まで上げる。そこで向きを変える」
「持つ人を替える場所にもできる」
レイナが答えた。
俺は最短なら、下段から斜面を斜めに上がる線を使う。距離は短く、段差も少ない。
だが、乾いた草を横切る。足元の線が見えず、上段から落ちた石の下にも入る。
「中段を通る」
俺が言うと、ノエラが表へ線を引いた。
俺が考えた斜めの線は書かない。現在使う道ではない。
低い丘の鐘が1回鳴った。確認開始から半刻の合図だ。
10人は中段の平らな石の周りへ集まった。
全員座れる広さはないため、下段側に5人、上段側に5人へ分かれる。
それでも互いの顔は見えた。
カシアが人数を数える。
「10人。歩き方が変わった人はいない。靴紐を直す人は?」
隣の班の生徒が手を上げた。左足の紐が草の種を挟み、少し緩んでいる。
レイナが足首の動きを見た。
「痛みは?」
「ない」
「なら、結び直してから立って。急いで追いつかなくていい」
その生徒が紐を結ぶ間、他の9人も止まった。
俺なら、先に次の確認範囲を決められる。だが、1人だけ後で追わせる理由はない。
エリオットが黒パンの包みを開いた。
「食べる?」
「先に紙を見る」
俺が答えると、エリオットは自分のパンを半分に割った。
「紙は逃げない。風が変わったらルシアスが言うよ」
「言うよ」
ルシアスが水袋を受け取りながら答えた。
俺も背負い袋から黒パンと干し肉を出した。
水袋は後ろ側の1つから使う。カシアが決めた順番だ。
10人が少しずつ飲み、残量を確認して前側へ戻す。
アステラとノエラは食べながら2枚の紙を並べた。
「休息場所はここでいい?」
アステラが平らな石を指す。
「風が強くなければ」
ルシアスが言った。
「今は使える。風が強くなったら下段の灌木手前へ移す。ただし窪地には入らない」
「条件を表へ書く」
ノエラが現在の欄に足した。
完全に安全な休息場所ではない。今の風と人数で使える場所だ。
食べ終わる前に、斜面の上の白布が止まった。
次の瞬間、下段の草だけが揺れた。
ルシアスが立ち、土をひとつまみ落とす。細かい粒が西へ流れた。
「下は東から西。上はまだ分からない」
南門から来た時とは逆だ。
エリオットは上段へ行かず、中段から白布を見た。
「ここで分かるまで待つ。確認のために離れない」
数呼吸後、上の白布も西へ動いた。
風向きが揃った。
乾いた草の穂が一斉に伏せ、擦れる音が斜面を走った。
火はない。煙もない。だが、火が出た場合にどちらへ流れるかは変わった。
「休息場所を下へ変える?」
アステラが聞く。
ルシアスはすぐに答えなかった。草、白布、俺たちの荷物を順に見る。
「今は火がない。風だけなら、ここを使える。ただ、火床を使う班が上に来たら下へ移す」
判断はルシアスの範囲だ。
俺たちは食事を続けた。
休息後、戻る道を2つ確かめる。
1つ目は、来た道を黄色い杭まで戻る線。
動く石の内側を通り、3段の位置を合わせる。
2つ目は、中段から北西の白布へ向かい、斜面を横切らずに北側へ回る線だ。
古い地図には細い道があるが、新しい地図には載っていない。
ノエラが古い地図を指でなぞった。
「道の名前は消えてる。使われなくなった理由も書いてない」
「今、通れるところまで見る」
エリオットが先頭へ移った。
10人で入らず、最初はエリオットとアステラ、ローディの3人が入口だけを見る。
残りは中段にいて、3人の背中が見える距離を保つ。
古い道の入口には草が伸びていた。
人が歩いた土の固さは残っているが、途中で灌木が張り出している。
エリオットが横向きになれば通れる。ローディは盾を背負ったままでは枝へ当たる。
「負傷者は通せない」
ローディが言った。
「10人が戻る道にも使わない」
アステラが現在の紙から2つ目の線を消さず、『入口まで確認。
全員の退路には使わない』と書き替える。
戻る道が1つへ減った。
「もう1つ探す?」
隣の生徒が聞いた。
時間は残っている。北側へさらに進めば、別の線があるかもしれない。
俺は地形を見た。中段の北側には低い石の列があり、その先は斜面の裏へ入る。
確かめるには、今の確認範囲を広げる必要がある。
「今の10人の位置から見えない」
カシアが先に言った。
「全員で移るなら探せる。でも、負傷者を置く場所と最初の退路が見えなくなる」
「戻る道を2つ書くためだけに、今ある道を失うのは違うわ」
アステラが答えた。
課題は2つ記録することだった。
だが、確認できていない線を2本目として埋めることではない。
ノエラは表の2本目を空欄にしたまま、横へ『古道――入口のみ。
搬送不可』と書いた。
「戻る道は1つ。候補は1つ。未確認はそのまま」
補助員は何も言わなかった。
俺たちは黄色い杭へ戻る線だけを、全員で歩いた。
上段の動く石ではエリオットが止まり、中段の俺が下へ伝える。
下段のカシアが人数を確認し、ローディが窪地側を塞ぐ。
ルシアスは風、レイナは歩き方、アステラとノエラは紙と地図を見る。
誰か1人の合図だけで10人が動いたのではない。
黄色い杭へ戻った時、カレンも坂の下から戻ってきた。
「退路は2つ確認できましたか」
「1つです」
アステラが答えた。
「古い地図の道は入口まで通れましたが、盾と負傷者を通せません。北側の候補は、今の位置を保ったまま確認できませんでした」
ノエラが古い地図と現在の紙を見せる。
カレンは空欄を見た。
「2つ目を探さなかった理由は?」
カシアが、10人の位置と負傷者を置く場所を説明した。
ローディが古道の幅、ルシアスが変わった風向き、エリオットが動く石と見えない北側を加える。
俺は何も足さなかった。
必要な事実は、すでに5人から出ている。
「分かりました」
カレンは紙を返した。
「確認できなかったことを、確認した数へ入れないでください。次の区画では、その空欄を引き継ぎます」
次の鐘まで、残りは半刻ある。
俺たちは黄色い杭のそばで荷物を持ち直した。
水袋、添え木、短い縄、笛、火床の蓋。持ってきた物は減っていない。
紙の表には、戻れる道が1つある。2つ目は空欄だ。
裏には3本の線、古い道、動く石の大きさ、風向きが変わった時刻が残っている。
ノエラが紙を地図入れへ戻した。
「次も私が持つわ」
「頼む」
俺は答えた。
斜面の南側で、別の組の笛が1回鳴った。
位置確認の合図だ。
エリオットが1回だけ返す。ルシアスは白布を見る。
カシアが10人を数え、レイナは靴紐を直した生徒の歩き方を確かめた。
ローディが列の外側へ立ち、アステラが次の欄を開く。
10人いる。
カレンの姿も見えている。
俺たちは、空欄を残したまま次の確認地点へ進んだ。
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