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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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西斜面の十人

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

低い丘の西斜面には、道と呼べる線がなかった。


腰より低い草の間から土が見え、灰色の石が不規則に出ている。


上へ行けば乾いた草が増え、下へ行けば灌木と浅い(くぼ)地が続く。


黄色い杭は北側に1本あるだけで、西の端は白い布を結んだ棒で区切られていた。


10人は、黄色い杭の内側で止まった。


「ここから確認を始めます」


カレンが言った。


「西斜面の上段、中段、下段を見て、休息場所を1つ、負傷者を一時的に置ける場所を1つ、戻る道を2つ記録してください。2班は離れすぎないこと。全員で同じ場所を見る必要はありませんが、互いの位置を見失わないように」


坂の下から別の組を呼ぶ声がした。


カレンは俺たちの返事を聞くと、補助員を1人残して斜面を下りていった。


教員が見えなくなっても、始めるための事実は(そろ)っている。


ノエラが地図入れから紙を出した。南門からここまでの表に、新しい欄を足す。


「2班で1枚にする?」


「現在の道は1枚。細かい記録は班ごとでいいんじゃない?」


アステラが答えた。


「戻る時に別の道を書いたら困るから、使う線だけ一緒にする」


紙の表はノエラが持つ。アステラは自分の班の記録紙を開いた。


俺たちは10人の範囲を確認した。


上段はエリオットと、隣の班の生徒1人。中段は俺、アステラ、ルシアス。


下段はローディ、カシア、レイナ、ノエラと、もう1人の生徒が見る。


斜面を縦に3つへ切ったのではない。


上段と中段、中段と下段が互いに見える幅だけ離れる。


曲がりや灌木で姿が消える場所には入らない。


「下で怪我人を置ける場所を見つけても、上へ運べる道がなければ使わない」


レイナが言った。


「上で休めても、風が強ければ外す」


ルシアスが加える。


「人が足りなくなったら?」


カシアが10人を見た。


「残っている人数で範囲を狭める。誰か1人が2つ分を見るようにはしない」


俺が答えると、カシアは(うなず)いた。


表には、『黄色杭を基点』『3段は互いに見える範囲』『姿が消れる場所へ入らない』と書かれた。


上段から先に動いた。


エリオットは草を踏まず、土の見える場所を選んで進む。


隣の生徒は、その2歩後ろで斜面の上を見ていた。


中段の俺たちは、2人が止まるたびに位置を合わせる。


下段は人数が多い。


窪地と灌木があるため、1列にはならず、ローディを斜面側、カシアを外側に置いて進んだ。


レイナとノエラは中央にいる。


最初に止まったのは、エリオットだった。


「石が動く」


上段の土から、拳2つ分ほどの石が半分出ている。


エリオットが靴の先で周りの土だけを押すと、石が斜面の下へ傾いた。


「踏まない。下に知らせる」


隣の生徒が片手を上げた。


俺は中段で同じ合図を出す。


アステラが下段へ見える位置まで2歩移り、(てのひら)を斜面へ向けた。


ローディが止まり、後ろの5人も止まった。


石は動かさない。落とせば、下段のどこへ転がるか分からない。


エリオットは石の上側へ、目印の細い枝を横に置いた。


「戻る道には使わない」


アステラが現在の紙へ書く。


「石の大きさと、どこまで埋まっているかは?」


俺は聞いた。


「戻る道を選ぶには、動くことだけで足りるわ」


大きさは班の記録へ残す。表には『上段、動く石。外側を通らない』だけになった。


俺なら、転がる向きと止まる場所まで確かめる。


だが、確かめるために石を動かす必要がある。


今使わない場所のために、下段を危険へ入れる理由はなかった。


上段は石の内側を通り、中段との距離を1歩縮めた。


少し進むと、草の色が変わった。


下段はまだ朝露で濃い緑をしている。


中段では穂先だけが乾き、上段は根元まで白くなっていた。


ルシアスが指先を濡らし、胸の高さへ上げた。


「今は西から東。さっきより弱い」


アステラが草の倒れる向きを見る。


「丘の反対側から回ってる?」


「分からない。ここで弱いことだけ」


ルシアスは短く答えた。


俺は上段と下段の布を見た。


上の白布は東へ揺れ、下の灌木はほとんど動いていない。


同じ斜面でも、風は同じではない。


「笛を試す」


エリオットが上から言った。


「1回だけ。届かなければ距離を縮める」


エリオットの笛が鳴った。


中段では聞こえた。下段のカシアは片手を上げなかった。


俺は肩に触れる合図を使わない。今は全員が1列ではなく、間に距離がある。


代わりに、アステラが下段へ見える場所で両腕を交差した。停止の合図だ。


カシアが同じ形を返す。


「聞こえなかった?」


ノエラが下から聞いた。


「音はしたけど、1回か2回か分からなかった」


カシアが答える。


風の弱い場所でも、草と斜面で音が散っている。


「上と下を直接つながない」


ローディが言った。


「上から中、中から下。笛は1回のまま。見える時は腕を使う」


合図は増やさない。届く区間を短くする。


現在の紙へ、『笛は1段ずつ』『見える時は腕の停止合図』が加わった。


下段で、レイナがしゃがんだ。


地面に細い線が3本ついている。灌木の枝にも、泥が乾いた跡があった。


俺たちは位置を揃えてから下段へ寄った。


線は窪地から斜面の外側へ続き、途中で消えている。


爪の跡にも見えるが、幅が揃っていない。


枝の泥も、何かが触れたのか、水が跳ねたのか決められない。


ノエラが古い地図を開いた。


「昔の記録だと、この斜面に小型の穴掘り獣がいた。3本爪って書いてある記録もある」


「リッジハウンドは?」


隣の生徒が聞いた。


「前脚は4本。けど、全部残るとは限らないわ」


ノエラは線へ指を近づけたが、触れなかった。


「だから、これは3本爪の獣とは決めない。リッジハウンドとも決めない」


俺は窪地の土を見る。表面は乾いているが、線の底だけ少し濃い。


朝露より新しい可能性はある。


「新しさは?」


「昨日の雨より後かもしれない。でも、時刻までは分からない」


アステラが班の紙の裏へ、『下段の窪地から外側へ3本線。枝に乾いた泥。


種類、数、時刻は未確認』と書いた。


現在の道へ影響するかを決める必要がある。


「窪地は使わない」


カシアが言った。


「痕跡がなくても、ここは後ろから見えない。10人が入れば、上から人数を数えられない」


痕跡の種類ではなく、人の位置が見えなくなることを理由にした。


「下段は灌木の手前まで」


ローディが盾の位置を変え、窪地と人の間へ立つ。


表には、『下段の窪地へ入らない。理由――人数と退路が見えない』と書かれた。


3本線は裏のままだ。


確認を再開した。


上段は乾いた草が多く、休息場所には向かない。


中段は石が少ないが、風を遮る物もない。


下段の灌木の手前には、土が平らな場所がある。


レイナがそこへ膝をつき、周囲を確かめた。


「1人を寝かせられる。頭を斜面の上へ向ければ、呼吸と顔を見られる」


「運ぶ道は?」


カシアが聞く。


ローディと俺が平らな場所から黄色い杭まで歩いた。


2人で並べる幅がある箇所と、1人分しかない箇所が混ざっている。


添え木を担架代わりにするなら、狭い場所で向きを変えられない。


「黄色杭へ直接は運ばない」


ローディが盾の縁で中段を示した。


「一度、中段の平らな石まで上げる。そこで向きを変える」


「持つ人を替える場所にもできる」


レイナが答えた。


俺は最短なら、下段から斜面を斜めに上がる線を使う。距離は短く、段差も少ない。


だが、乾いた草を横切る。足元の線が見えず、上段から落ちた石の下にも入る。


「中段を通る」


俺が言うと、ノエラが表へ線を引いた。


俺が考えた斜めの線は書かない。現在使う道ではない。


低い丘の鐘が1回鳴った。確認開始から半刻の合図だ。


10人は中段の平らな石の周りへ集まった。


全員座れる広さはないため、下段側に5人、上段側に5人へ分かれる。


それでも互いの顔は見えた。


カシアが人数を数える。


「10人。歩き方が変わった人はいない。靴(ひも)を直す人は?」


隣の班の生徒が手を上げた。左足の紐が草の種を挟み、少し緩んでいる。


レイナが足首の動きを見た。


「痛みは?」


「ない」


「なら、結び直してから立って。急いで追いつかなくていい」


その生徒が紐を結ぶ間、他の9人も止まった。


俺なら、先に次の確認範囲を決められる。だが、1人だけ後で追わせる理由はない。


エリオットが黒パンの包みを開いた。


「食べる?」


「先に紙を見る」


俺が答えると、エリオットは自分のパンを半分に割った。


「紙は逃げない。風が変わったらルシアスが言うよ」


「言うよ」


ルシアスが水袋を受け取りながら答えた。


俺も背負い袋から黒パンと干し肉を出した。


水袋は後ろ側の1つから使う。カシアが決めた順番だ。


10人が少しずつ飲み、残量を確認して前側へ戻す。


アステラとノエラは食べながら2枚の紙を並べた。


「休息場所はここでいい?」


アステラが平らな石を指す。


「風が強くなければ」


ルシアスが言った。


「今は使える。風が強くなったら下段の灌木手前へ移す。ただし窪地には入らない」


「条件を表へ書く」


ノエラが現在の欄に足した。


完全に安全な休息場所ではない。今の風と人数で使える場所だ。


食べ終わる前に、斜面の上の白布が止まった。


次の瞬間、下段の草だけが揺れた。


ルシアスが立ち、土をひとつまみ落とす。細かい粒が西へ流れた。


「下は東から西。上はまだ分からない」


南門から来た時とは逆だ。


エリオットは上段へ行かず、中段から白布を見た。


「ここで分かるまで待つ。確認のために離れない」


数呼吸後、上の白布も西へ動いた。


風向きが揃った。


乾いた草の穂が一斉に伏せ、擦れる音が斜面を走った。


火はない。煙もない。だが、火が出た場合にどちらへ流れるかは変わった。


「休息場所を下へ変える?」


アステラが聞く。


ルシアスはすぐに答えなかった。草、白布、俺たちの荷物を順に見る。


「今は火がない。風だけなら、ここを使える。ただ、火床を使う班が上に来たら下へ移す」


判断はルシアスの範囲だ。


俺たちは食事を続けた。


休息後、戻る道を2つ確かめる。


1つ目は、来た道を黄色い杭まで戻る線。


動く石の内側を通り、3段の位置を合わせる。


2つ目は、中段から北西の白布へ向かい、斜面を横切らずに北側へ回る線だ。


古い地図には細い道があるが、新しい地図には載っていない。


ノエラが古い地図を指でなぞった。


「道の名前は消えてる。使われなくなった理由も書いてない」


「今、通れるところまで見る」


エリオットが先頭へ移った。


10人で入らず、最初はエリオットとアステラ、ローディの3人が入口だけを見る。


残りは中段にいて、3人の背中が見える距離を保つ。


古い道の入口には草が伸びていた。


人が歩いた土の固さは残っているが、途中で灌木が張り出している。


エリオットが横向きになれば通れる。ローディは盾を背負ったままでは枝へ当たる。


「負傷者は通せない」


ローディが言った。


「10人が戻る道にも使わない」


アステラが現在の紙から2つ目の線を消さず、『入口まで確認。


全員の退路には使わない』と書き替える。


戻る道が1つへ減った。


「もう1つ探す?」


隣の生徒が聞いた。


時間は残っている。北側へさらに進めば、別の線があるかもしれない。


俺は地形を見た。中段の北側には低い石の列があり、その先は斜面の裏へ入る。


確かめるには、今の確認範囲を広げる必要がある。


「今の10人の位置から見えない」


カシアが先に言った。


「全員で移るなら探せる。でも、負傷者を置く場所と最初の退路が見えなくなる」


「戻る道を2つ書くためだけに、今ある道を失うのは違うわ」


アステラが答えた。


課題は2つ記録することだった。


だが、確認できていない線を2本目として埋めることではない。


ノエラは表の2本目を空欄にしたまま、横へ『古道――入口のみ。


搬送不可』と書いた。


「戻る道は1つ。候補は1つ。未確認はそのまま」


補助員は何も言わなかった。


俺たちは黄色い杭へ戻る線だけを、全員で歩いた。


上段の動く石ではエリオットが止まり、中段の俺が下へ伝える。


下段のカシアが人数を確認し、ローディが窪地側を塞ぐ。


ルシアスは風、レイナは歩き方、アステラとノエラは紙と地図を見る。


誰か1人の合図だけで10人が動いたのではない。


黄色い杭へ戻った時、カレンも坂の下から戻ってきた。


「退路は2つ確認できましたか」


「1つです」


アステラが答えた。


「古い地図の道は入口まで通れましたが、盾と負傷者を通せません。北側の候補は、今の位置を保ったまま確認できませんでした」


ノエラが古い地図と現在の紙を見せる。


カレンは空欄を見た。


「2つ目を探さなかった理由は?」


カシアが、10人の位置と負傷者を置く場所を説明した。


ローディが古道の幅、ルシアスが変わった風向き、エリオットが動く石と見えない北側を加える。


俺は何も足さなかった。


必要な事実は、すでに5人から出ている。


「分かりました」


カレンは紙を返した。


「確認できなかったことを、確認した数へ入れないでください。次の区画では、その空欄を引き継ぎます」


次の鐘まで、残りは半刻ある。


俺たちは黄色い杭のそばで荷物を持ち直した。


水袋、添え木、短い縄、笛、火床の蓋。持ってきた物は減っていない。


紙の表には、戻れる道が1つある。2つ目は空欄だ。


裏には3本の線、古い道、動く石の大きさ、風向きが変わった時刻が残っている。


ノエラが紙を地図入れへ戻した。


「次も私が持つわ」


「頼む」


俺は答えた。


斜面の南側で、別の組の笛が1回鳴った。


位置確認の合図だ。


エリオットが1回だけ返す。ルシアスは白布を見る。


カシアが10人を数え、レイナは靴紐を直した生徒の歩き方を確かめた。


ローディが列の外側へ立ち、アステラが次の欄を開く。


10人いる。


カレンの姿も見えている。


俺たちは、空欄を残したまま次の確認地点へ進んだ。

お読みいただきありがとうございました!

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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