五つ目の皿
ご覧いただきありがとうございます!
よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!
それでは、どうぞお楽しみください。
食堂の窓際には、5つの席がある。
4人用の卓へ椅子を1つ足したため、端の席だけ脚の高さが違っていた。
俺はそこへ座り、昨日の紙を卓の中央に置いた。
まだ誰も来ていない。
表には、俺が観測台へ行く前の道と、いない間に4人が決めた道が続けて書かれている。
俺が戻った後の欄もある。途中で筆跡は変わるが、空白はなかった。
紙の裏を開く。
使わなかった道、布袋を2つ同時に運ぶ案、風向きを遠くから見た時の未確認が残っている。
食事を取りに立つ前に、エリオットが盆を持って来た。
「先にいた」
「ああ」
「紙は?」
「ここだ」
「じゃあ、スープ取ってきなよ。席は見てるから」
エリオットは俺の向かいへ座った。
紙ではなく、空いている椅子の背へ自分の上着を掛ける。
俺が食事を受け取って戻ると、ルシアスとローディも来ていた。
アステラは少し遅れて現れ、脚の高さが違う椅子を引く。
「そこは揺れる」
俺が言うと、アステラは椅子の脚の下へ折った紙片を挟んだ。
「これでいいわ」
ローディが実習の紙を裏返した。
「俺なら、布袋を置く時に板じゃなくて短い杭を2本敷いたな。板を紙に使うかもしれない」
「昨日は紙を僕が持ってたから、板は空いてたよ」
ルシアスが答える。
「なら昨日は板でいい。次に同じとは限らないって裏へ書くか」
アステラが短く記録した。
誰も、俺がいない間に動けたことを話題にしなかった。
誰も、俺が戻ったことも確かめなかった。
パンが1つ余った。エリオットが半分に割り、片方を俺の皿へ置く。
「明日、朝は走る?」
「12周だ」
「僕は6周。その後は剣を振りたい」
「僕は走る前に魔力を細くする。疲れた後だと、最初から崩れるから」
ルシアスが言う。
ローディはスープを飲んでから、首を振った。
「俺は走らない。盾の革紐を締め直す」
3人は俺に必要な役割を聞いていない。
「分かった」
俺は予定帳へ、4人の朝食の時間だけを書いた。
練習の内容は、それぞれが決めている。
翌日の課題は、訓練場の南区画で行われた。
5本の支柱へ長い横木を渡し、麻布で作った狭い通路が3つ並んでいる。
班は木製の水桶を中央の台まで運び、途中に置かれた札3枚の内容を記録する。
昨日と同じ5人だ。
ただし、誰が中間報告へ行くかは、2枚目の札を開くまで分からない。
俺たちは開始前に判断範囲だけを決めた。
エリオットが前方と道、ローディが水桶と足場、ルシアスが水の動きと魔力、アステラが記録と変更条件、俺が全体の位置と範囲同士への影響を見る。
不在になる者の代わりは決めなかった。
「昨日と同じで、空いた範囲を残る4人へ分ける」
エリオットが言った。
「誰が抜けるか分からないから、その時に見えている人で決める」
「決めるための条件は?」
俺は聞いた。
「見えること、持てること、記録できること」
ローディが水桶の持ち手を上げる。
「それが足りなければ止まる。足りるなら進む」
表には、今使う中央の通路だけを書いた。
左は横木が低く、水桶を傾ける必要がある。
右は曲がり角が2つあり、前後が見えなくなる。中央は最も短いが、幅が狭い。
開始の笛が鳴った。
ローディと俺が水桶を持つ。中身は半分だが、歩くたびに水面が揺れる。
エリオットが中央通路の幅と床板を確かめ、ルシアスは水が縁へ届く動きを見る。
アステラが1枚目の札を開いた。
『水をこぼした場合、こぼした量を記録する』
今は縁まで届いていない。アステラは表へ『こぼれなし』と書いた。
中央通路へ入る。麻布の壁で、隣の通路は見えない。
横木の影に2枚目の札があった。
エリオットが札を外し、アステラへ渡す。
『中間報告者――ローディ。水桶を置いて北の受付へ行くこと』
ローディは水桶から手を離した。
「俺か」
「受け取る」
俺が片側の持ち手を両手で持つ。
重さは支えられるが、このままでは反対側が下がる。
エリオットは前方にいる。ルシアスは後ろで水面を見ている。
アステラは札と紙を持っている。
「アステラ、持てるか」
ローディが聞いた。
「短い距離なら。でも、片手では記録できない」
「紙はルシアス。水面は俺が見る」
俺が言った。
「道は?」
「僕がそのまま見る」
エリオットが答える。
ローディの範囲を4人へ分けた。
俺とアステラが水桶を持ち、エリオットが足場、ルシアスが人数と記録、俺が水面と全体の位置を見る。
「戻るまで止まる条件は、持ち手が緩むか、アステラが記録を必要とした時」
ローディが水桶の持ち手を引いて確かめる。
「それ以外は進め」
ローディは札の写しを持ち、北の受付へ向かった。
4人で水桶を持ち上げる。アステラの歩幅はローディより短い。
俺が先に合わせると、水面の揺れは小さくなった。
エリオットが中央通路の先で止まった。
「床板が1枚浮いてる。左足を置くと動く」
「右側は?」
「水桶を持った2人が並ぶ幅はない」
中央を進むなら、浮いた板をまたぐ必要がある。
アステラの歩幅では、水桶を持ったまま越えると片側が下がる。
俺ならアステラから水桶を受け取り、1人で板を越える。その後、別の者へ渡せる。
だが、ローディがいない間に片側を持てる者は、俺しかいない。
俺が両側を持てば、全体の位置と水面を同時に見る範囲が狭くなる。
「左へ戻る」
エリオットが言った。
「横木は低いけど、入口まで戻れば水桶を置いて通し方を変えられる」
「距離は増える」
俺は答えた。
「増える。でも、床板を越えるより、確認できる」
道の担当はエリオットだ。
「左へ戻る」
俺たちは入口まで下がり、水桶を台へ置いた。
ルシアスが『中央――床板1枚浮き、現在は使わない』と表へ書く。
最短の中央通路は裏へ移った。
左の通路は横木が胸の高さにある。水桶を持ったままでは通せない。
「持ち手へ短い縄を通す」
俺は備品の縄を取った。
「片側ずつ引けば、桶を低く保てる」
「水面はどうなる?」
ルシアスが聞く。
「引き始めに揺れる。弱く引いて、横木の下だけ一定にする」
「僕が揺れを言う。止めるのは1回だけ」
アステラは水桶を持たず、記録へ戻った。
俺とエリオットが縄を持ち、ルシアスが横から水面を見る。
ローディの持っていた運搬範囲を、ローディと同じ方法では埋めていない。
1回目は、俺が強く引きすぎた。水が縁へ当たり、少量が床へ落ちる。
「止めて」
ルシアスが言った。
俺は縄を止めた。
アステラが濡れた範囲を指2本分と記録する。
失敗を消さず、引く強さだけを下げた。
2回目で水桶は横木の下を通った。
3枚目の札は、左通路の出口にあった。
『中央の台は使用不可。西の低い台へ変更』
エリオットが西の道を確認する。
アステラが現在の目的地を書き替え、ルシアスは水桶を置く時の揺れを見る。
俺は4人と、北の受付にいるローディの位置を伝えた。
西の低い台へ着く前に、ローディが戻った。
「どこまで行った?」
「左通路を抜けた。水は少しこぼした」
俺が答える。
ローディは水桶の縄を見る。
「俺なら縄じゃなく、盾を下に滑らせた」
「盾は受付まで持っていっただろ」
エリオットが言う。
「ああ。だから俺がいない間は使えないな」
ローディは縄の結び目を引いた。
「これは緩んでない。今のまま運ぶ」
戻ったローディは、自分なら選んだ方法へ変えなかった。
俺が水桶の片側を渡すと、ローディは受け取る。
5人で西の台まで運び、制限時間を14秒残して課題を終えた。
カレンは紙の表を確認した。
中央の通路、左への変更、縄で低く通した方法、西の台。
途中からルシアスの字になり、ローディが戻った後はアステラの字へ戻っている。
「不在でも進める範囲は、誰のために作りましたか」
誰もすぐには答えなかった。
昨日は俺がいなかった。今日はローディがいなかった。
「班のためだ」
俺が答える。
カレンは頷き、次の班へ向かった。
実習後、俺は縄をほどき、水桶を返却台へ運んだ。
ローディは盾を戻し、ルシアスが濡れた床を拭く。
エリオットとアステラは札を順番どおり重ねた。
作業が終わった時、他の4人は先に入口へ集まっていた。
「遅いよ、レオン」
エリオットが言った。
「縄を元の長さへ戻していた」
「それは見れば分かる。食堂、席が埋まる」
俺がいなくても、4人だけで返却の分担はできる。
昨日も、俺がいないまま紙は進んだ。
それでも4人は、入口で止まっていた。
必要な事実が足りないわけではない。俺の判断を待っているわけでもない。
「先に行ってもいい」
俺が言うと、ローディが首を振った。
「一緒に行くって決めただろ」
いつ決めたのかは聞かなかった。
5人で食堂へ向かう。窓際の卓には、脚の高さが違う椅子が1つある。
アステラが昨日挟んだ紙片は、そのまま残っていた。
俺はその椅子を引いて座った。
翌週から始まる郊外実習の注意書きが、食堂の掲示板へ貼られている。
南門から低い丘まで歩き、複数の班が同じ区画を使う。
乾いた草、風向き、狭い退路を各班で確認すること。
エリオットが掲示板を見て言った。
「次も、同じ班になるところは一緒に組もう」
「役割が足りないのか」
「足りるかどうかは、班が決まってから見る」
ルシアスが笑った。
「今は食べる人が1人足りない」
俺の前に、5つ目の皿が置かれた。
紙を開く前に、俺はパンを取った。
お読みいただきありがとうございました!
「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、画面の下(または目次ページなど)にある**【ブックマーク登録】と、【★★★★★評価】**で応援していただけると本当に嬉しいです!
感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。
それでは、次回の更新でお会いしましょう!




