戻るまでの三分
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それでは、どうぞお楽しみください。
翌日の野外基礎では、訓練場の外れにある低い丘を使った。
郊外ではない。
学園の柵から歩いて戻れる範囲で、斜面の上に教員用の観測台が見える。
昨日の経路条件にあった乾いた草と狭い退路を、実際に確認するための場所だった。
丘の南側には腰までの草が広がり、北側には2人が並べない細い道がある。
東には浅い溝、西には荷車が通った跡が残っていた。
風は南から吹いた後、丘へ当たって東へ流れている。
班は俺、エリオット、ルシアス、ローディ、アステラだった。
課題は、丘に置かれた4つの標識を確認し、布袋2つを北の台へ運ぶことだ。
確認した標識の色と位置を記録し、途中で条件が変われば、班の判断で道と担当を替える。
「今日は中間報告があります」
カレンは観測台を指した。
「2つ目の標識を確認した時点で、位置と全体への影響を担当する者が、記録の写しをあそこへ持ってきなさい。報告者は受領印をもらうまで班へ戻れません」
4人が俺を見る。
「俺が行く」
位置と全体への影響は、前の実習から俺が持っている。
「その間は?」
アステラが聞いた。
「必要な事実を確認できなければ止まる」
俺が答えると、エリオットは紙の停止条件を見た。
「確認できるなら、止まらなくていいんだよね」
「そうだ」
「じゃあ、レオンの代わりを1人決める?」
ルシアスが聞いた。
俺なら、位置を最も多く見られる者へ全体を渡す。
エリオットは前方、ローディは布袋と足場、ルシアスは風と魔力、アステラは情報を持つ。
丘全体を見るなら、前方へ出るエリオットが近い。
「エリオットが――」
「1人に全部は無理じゃない?」
エリオットが俺の言葉を止めた。
「僕が前を見る間、後ろのローディは見えない。アステラが紙を持っても、草の向こうは見えない」
ローディが布袋の紐を確かめながら言う。
「人数は俺が数える。荷も俺のところにある。前の道はエリオット、風と見えない側の音はルシアス、紙はアステラでいいだろ」
「全体の範囲を4つに分けるの?」
「レオンが戻るまでだけな」
アステラが表の『位置と全体への影響――レオン』の下へ、4人の名前と見る範囲を書いた。
エリオットは前方と道。ローディは人数と荷。ルシアスは風と音。
アステラは確認済みの情報と、担当同士への影響。
俺が考えた1人の代わりではなかった。
「重なった場合は?」
俺は聞いた。
「持っている情報をその場で出す。決めるのは、変更される範囲の人」
アステラが答えた。
「道ならエリオット。荷ならローディ。風や魔力ならルシアス。2つ以上に関わっても、全員が止まる条件に当たらなければ、それぞれが自分の変更を決める」
42項目を作った時、俺はすべての組み合わせを先に決めようとした。
今の紙には、組み合わせごとの答えはない。
開始前の表には、現在使う道だけを書いた。
南の草地を避け、西の荷車跡から丘へ上がる。布袋はローディと俺が1つずつ持つ。
エリオットが前、アステラが中央で記録し、ルシアスが後方の風と魔力の変化を見る。
開始の笛が鳴った。
1つ目の標識は、西の荷車跡の脇にあった。青。土へ半分埋まり、倒れている。
「位置は道から2歩西。倒れているが、杭は抜けていない」
俺が伝え、アステラが表へ書く。
「倒れた理由は分からない」
「未確認に置くわ」
俺たちは標識を起こさず、そのまま進んだ。
斜面では、荷車の跡に雨水が乾いた浅い溝が残っている。
ローディは布袋を肩から胸の前へ移し、足元を見やすくした。
俺も同じ持ち方へ替えたが、ローディから指示されたわけではない。
運搬と足場の範囲で、本人が先に変えた動きを使った。
2つ目の標識は、丘の中腹にある平らな場所に立っていた。黄色。
北へ向けて布が結ばれている。
アステラが色と向きを写し、記録の半分を切り離した。
「レオン、中間報告」
俺は布袋をローディへ渡した。
「2つ持てるか」
「持てる。道が狭くなったら1つ置いて、戻る位置を書く」
「置く場合は土が乾いた場所を――」
「俺が見る」
ローディは2つの布袋を左右へ分けた。
俺は記録を受け取り、観測台へ向かった。
丘の上までは走ればすぐだが、訓練中の班を横切らないよう、白い杭に沿って回る必要がある。
観測台では、別の班の報告者が先に並んでいた。俺の前に2人いる。
カレンは課題の区画へ残り、受領印は別の教員が押していた。
待っている間も、丘の中腹は見えた。
エリオットが北の細道の入口へ進み、ローディが2つの布袋を持って続く。
アステラとルシアスは、その少し後ろにいる。
俺が離れてから、まだ全員の位置は変わっていない。
教員が赤い旗を上げた。
条件変更の合図だ。
丘の中腹にいた補助員が、4人へ札を渡す。距離があり、文字は読めない。
エリオットが北の細道を見てから、西を指した。
ローディは布袋を下ろさず、身体の向きを変える。
アステラが紙を裏返し、ルシアスは草の揺れを見た。
4人が相談している。
俺なら、まず変更札の内容、北の道の状態、風向き、布袋を置く場所を同時に確認する。
観測台から見える範囲では、北の細道の出口に別班の荷車が止まっている。
南の草地は風が変わり、草の上だけが西へ倒れていた。
ルシアスが短く笛を吹いた。
1回。停止ではなく、位置を知らせる合図だ。
エリオットが振り返り、ローディが左の布袋を地面へ置いた。
アステラは表へ1行書き、裏へ2行移す。
何を決めたのか分からない。
俺が戻れば、荷車の位置と風向きを伝えられる。
北を避けるなら、西を少し戻り、南の草地の端を通る道がある。
だが、草の倒れ方だけでは足元の状態を確認できない。
列が1人進んだ。俺は記録を教員へ渡す。
教員は内容を上から読み、受領印を押した。
「戻ってよい」
俺は記録を受け取り、白い杭に沿って丘を下りた。
4人は、北ではなく西へ進んでいた。
来た荷車跡を途中まで戻り、浅い溝を越えた場所で南へ曲がっている。
ローディが置いた布袋は、アステラの足元にあり、地面との間へ記録板が敷かれていた。
「変更は?」
俺が合流して聞いた。
エリオットが前を見たまま答える。
「北の道は別班の荷車で通れない。西の標識が白へ変わった。4つ目は南の草地の端」
「風は南から東じゃなくて、今は東から西」
ルシアスが続けた。
「草の上は動いてるけど、根元の土は見えない。僕が風だけ見て、道はエリオットが近くで確かめた」
「布袋は?」
「2つ持つと草地の端で足元が見えにくい」
ローディが言った。
「1つはここに置く。地面が湿ってたから板を敷いた。俺とエリオットで1つ目を先に北の台へ運ぶ。戻って2つ目を運ぶ」
往復すれば距離は増える。
俺なら5人で2つを同時に運び、足元を確認する者を先に出す。
「2つを一度に運べる」
俺が言うと、ローディは頷いた。
「運べる。でも、細い草地で袋を持つ人を2人にしたら、前を見るエリオットと、風を見るルシアスと、紙を見るアステラしか残らない。後ろから足元を見る人がいない」
「俺が戻った」
「だから、2つ目は戻ってから一緒に運ぶ。1つ目の道が使えれば、次は確認を減らせる」
俺がいない間に決めた判断を、俺が戻った後も使う。
全員の位置は揃った。必要な事実も確認できている。
止まる条件には当たらない。
「分かった」
俺は位置と全体への影響を持ち直した。
表には『西を戻る』『南の草地の端』『布袋は1つずつ』『保管位置は黄色標識から西へ6歩』とある。
文字はアステラのものだ。
エリオットが草地の端へ入る。棒で土を押し、沈まない範囲だけを選んだ。
ルシアスは風の向きが変わるたび、短い笛を1回鳴らす。
ローディは布袋を胸の前に抱え、俺は5人の間隔と、後方の保管位置を伝えた。
3つ目の標識は緑だった。4つ目は赤。
どちらも草の根元に杭があり、遠くからは見えにくい。
北の台へ1つ目の布袋を置いた後、同じ道を戻る。
最初に通った時の足跡があるため、エリオットは確認の回数を減らした。
風はまた南から東へ変わったが、ルシアスが知らせ、道を変えずに進めると判断した。
保管した2つ目の布袋は濡れていない。板を外し、ローディと俺で運んだ。
終了の笛が鳴った時、制限時間は9秒残っていた。
カレンは4つの標識と布袋を確認し、俺が持ち帰った受領印を表へ置いた。
「報告者が不在の間、停止しましたか」
「変更札を読む間は止まりました」
エリオットが答えた。
「でも、レオンを待つためには止まっていません」
「変更した判断を説明してください」
4人が自分の範囲を順に話した。
エリオットが道、ローディが布袋、ルシアスが風と音、アステラが現在の情報と他の範囲への影響を説明する。
俺の代わりに答える者はいなかった。
4人が分けて持っていた。
「レオン」
カレンが俺へ向いた。
「戻った時、その判断を変更しましたか」
「変更していない」
「同じ判断でしたか」
「違った。俺なら2つを同時に運んだ」
「では、なぜ変えなかったのですか」
俺は草地に残った2往復分の足跡を見る。
時間は増えたが、布袋は濡れず、前後と足元を確認する者が残った。
2回目は確認を減らし、制限時間内に終えている。
「必要な事実が揃っていて、各担当が自分の範囲で決めていた。変える理由がなかった」
カレンは紙を返した。
「その通りです」
実習後、アステラが表を清書した。中間報告までの欄には俺の名前がある。
不在の間だけ、位置と全体への影響の横へ4人の名前が並び、戻った後にはまた俺の名前が書かれていた。
空いた時間はなかった。
俺がいない3分の間も、紙は進んでいる。
ローディが布袋を返却台へ運び、ルシアスとエリオットが標識を抜きに戻る。
アステラは俺へ清書した紙を渡した。
「明日も同じ班だそうよ」
「同じ課題か」
「違う課題。今度は、誰が報告へ行くか始まるまで分からない」
俺は4人の名前が並んだ箇所を見た。
「分かった」
「食堂へ持ってきて。裏も確認したいから」
アステラはそう言って、記録板を返しに向かった。
俺は紙を折った。表には、俺がいない間に決まった道が残っている。
その紙を持ったまま、先に食堂へ向かった。
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