紙の裏側
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それでは、どうぞお楽しみください。
昼休み、俺は予定帳に写した北の線を3度見直した。
川沿いの家から石橋へ向かう最短の線。
その横には、荷車置き場を経由して東へ抜けた班の線がある。
変更後の条件では、カシアの線が使えた。北の線は使われなかった。
それでも、土砂崩れが起きなかった場合、北の坂を先に確認できた場合、18人の移動速度が揃っていた場合を分ければ、使える条件は残る。
俺は北の線を消さず、条件だけを増やした。
午後の野外基礎では、5人で小型の荷車を運ぶ実習が用意されていた。
木壁で3本に分けた通路の奥へ、布袋4つと水桶2つを届ける。
布袋は濡らさず、水桶はこぼさず、途中で渡される変更札に従って置き場所を変える課題だ。
班は俺、エリオット、ルシアス、ローディ、アステラだった。
昨日作った名前のない紙を机へ置き、5つの範囲へ名前を入れる。
エリオットが前方と道、ローディが運搬と足場、ルシアスが魔力と水桶、アステラが情報、俺が位置と全体への影響を持った。
通路は、左が最も広い代わりに遠い。中央は短いが、荷車1台分の幅しかない。
右は途中に低い段差があり、水桶を載せたまま通れば揺れやすい。
「最初は中央でいいよね」
エリオットが言った。
「今は他の荷車がない。前も出口まで見える」
「持ち手も壁に当たらない」
ローディが荷車を中央の入口へ合わせた。
俺も中央が最短だと考えていた。
アステラが紙の上へ『中央』と書き、開始の笛が鳴る。
最初の確認地点までは問題なく進んだ。
エリオットが前方を見て、ローディが段差のない位置へ車輪を通す。
ルシアスは水桶の縁へ細い魔力を沿わせ、揺れた水だけを中央へ戻した。
俺は5人と荷車の位置、残る2本の道、木壁の向こうから近づく車輪音を伝えた。
変更札は、最初の確認地点で渡された。
『中央通路へ空の荷車が入る』『左通路の中程に濡れた地面』『右通路の段差へ板を1枚設置』。
エリオットは左と右を見比べる。
「右へ変える。板の上なら水桶の揺れを減らせる」
「左でも通れる」
俺は言った。
「濡れた場所は右端を踏まなければ避けられる。距離は増えるが、板がずれた場合の停止は少ない」
ローディが右通路の板を見た。
「俺は右でいい。板の手前で荷車を止めて、先に踏んで確かめる」
「中央の荷車は?」
アステラが聞く。
「まだ木壁の向こうだ。入口へ来るまでに右へ移せる」
エリオットは右へ進むと決めた。
俺は紙の『中央』に線を引き、その下へ『右』と書いた。
さらに横へ『左――濡れた場所の右側を使用』と残す。
「左も使うの?」
ローディが聞いた。
「板がずれた場合は左へ変えられる」
「ずれたら止まって伝える。それから決めればいいだろ」
「先に残しておけば、止まる時間を減らせる」
ローディは紙を見たが、そのまま荷車の後ろへ戻った。
右通路へ入る前に、ローディが板へ体重をかけた。沈みも傾きもない。
荷車の前輪を板へ載せ、ルシアスが水桶の揺れを抑える。
5人は板を越えて、2つ目の確認地点まで進んだ。
次の札には、4つの変更があった。
『右通路の先に木箱を置く』『左通路の濡れた地面は布で覆われた』『中央通路の空荷車は停止』『届け先を北の台から西の台へ変更』。
現在地から西の台へ向かうなら、右を戻って左へ入る道と、右の木箱を動かして先へ進む道がある。
中央へ戻れば距離は短いが、停止した荷車の横を通れる幅はない。
「木箱を動かす」
ローディが言った。
「箱は空だ。荷車を止めて、俺が先へずらす」
「左へ戻った方が、箱を動かす時間はない」
俺は2つの時間を考えた。来た道を戻り、左通路へ移る距離。
荷車を止め、木箱を端へ寄せ、全員が通る時間。
ローディなら木箱を動かす方が早い。
「ローディの案でいい」
エリオットも答えた。
アステラが『右を継続、木箱を移動』と書く。
俺はその下へ、『左へ戻る』『中央の荷車が動いた場合は中央』も書き足した。
紙には、中央、右、左、右の継続、中央へ戻る条件が残った。
線を引いた箇所と現在使う箇所が近く、どれが決定した道かは、書いた俺には分かる。
ローディが木箱へ向かう前、アステラが紙を持ち上げた。
「今はどれ?」
「右を継続する」
「なら、他の線は何?」
「条件が変わった場合の次の道だ」
「その条件は、まだ起きていないわ」
「起きてから考えれば遅れる」
後方で短い笛が鳴った。中央通路の空荷車を押す生徒が、停止を知らせている。
右へ来る予定はない。俺たちの道には影響しなかった。
「進めるぞ」
ローディが木箱へ手をかける。
3つ目の変更札は、木箱の裏に留められていた。
『木箱は動かさない』『右通路は荷車のみ通行可能』『西の台へは左通路から入る』。
ローディは木箱から手を離した。右を先へ進めず、西の台へは左から入る。
来た道を戻る必要がある。
「左へ変更」
エリオットが言った。
俺は紙の中から、先に書いた左の線を指した。
「この条件を使う。濡れた場所は布で覆われている」
「分かった」
エリオットはすぐ荷車の前へ回った。だが、ローディは紙を見たまま動かなかった。
「どの合図で戻す?」
「左へ変更だ」
「紙には左が2つある。板がずれた時の左と、西の台へ行く左だ。中央へ戻る条件も残ってる」
「どちらも通る道は同じだ」
「理由が違うなら、止まる場所も違うだろ」
板がずれた場合は、板の手前で止まり、左へ戻す。今回は木箱の前まで来ている。
荷車を回す広さがないため、後ろ向きに板まで戻し、そこで向きを変える必要がある。
俺が説明する間、エリオットは荷車の前で待った。
ルシアスは水桶を押さえ、アステラは複数の線から現在使う文を探している。
「後退。板の手前で向きを変え、左へ移る」
俺が言うと、ローディは荷車の後ろへ立った。
再開までに22秒使った。
荷車を左通路へ移し、西の台へ布袋と水桶を届けた時、制限時間を11秒超えていた。
布袋は濡れず、水も目盛りより減っていない。置き場所も正しい。
カレンは提出した紙を机へ置いた。
「止まった理由は?」
「俺が複数の道を残した」
「残したこと自体が問題ですか」
俺は紙を見る。
最初の中央、板がずれた時の左、選んだ右、木箱を動かす右、中央の荷車が動いた場合の中央、西の台へ向かう左。
どれも条件が合えば使える道だった。
「使える案が同じ紙に残り、現在の判断を探す時間が増えた」
アステラが答えた。
「記録と、実習中に見る紙を分けたはずでしょう」
カレンの言葉は、42項目を減らした時と同じだった。
俺は使わなかった北の線を予定帳へ残した。あれは記録だ。
実習中に見る紙へは、今使う判断だけを置く。
分けたつもりだった。
だが、条件が変わるたびに自分の考えた道を消さなければ、使う紙はまた増える。
「次は紙を裏返そうぜ」
ローディが言った。
「裏?」
「今使う道は表に1つ。使わなかった案は裏へ書く。変更札が来たら、表を消して1つ選ぶ」
「次に使う可能性がある」
「ある。だから捨てない。でも、合図に使うのは1つだけだ」
アステラが新しい紙の表へ、大きく『現在』と書いた。
裏には『後で確かめる』と書く。
「記録は裏に残す。表へ戻す時は、担当範囲の人が選ぶ。全部を表へ並べない」
「誰の案かも書く?」
ルシアスが聞いた。
「理由を聞き直す可能性があるから、裏には書く。表は道と止まる条件だけでいいわ」
2回目の実習は、最初と変更の順番が入れ替えられた。
開始時、表にあるのは『中央』だけだった。右と左は裏へ書かれている。
中央へ空荷車が入ると、エリオットが右を選び、表の中央を消した。
俺は左を使った場合の距離と、右の板が全体へ与える影響を伝えたが、どちらを使うかはエリオットとローディが決めた。
表には『右――板の前でローディが確認』だけが残った。
木箱の札が出ると、ローディは動かさずに戻ると決めた。
俺なら箱の中身と固定を確認し、動かせる条件を探した。
だが、ローディの範囲は運搬と足場で、木箱へ触れず荷車を戻す方が確実だった。
「後退。板の手前で向きを変える」
ローディはそれだけを言った。
アステラが表を『左――西の台』へ書き換える。
俺が考えた木箱を確認する案は、裏へ回された。
荷車は止まらなかった。
左通路へ移った後、ルシアスが水桶の片方を荷車から下ろした。
濡れた地面を覆う布が水を吸い、車輪が沈みやすくなっていたからだ。
水桶を手で運べば荷車の重さが減る。
俺は水桶を2人で持つ方が揺れないと考えた。
だが、ルシアスは自分の魔力で水面を保ち、一人で運べると言った。
ローディは軽くなった荷車を押し、エリオットは前方を確かめる。
俺の案は、また裏へ書かれた。
2回目は、制限時間を17秒残して終わった。
カレンが表と裏を確認する。表には、実際に使った道と停止条件だけが3行ある。
裏には、俺の案が4つ、エリオットの案が1つ、ルシアスの案が2つ、ローディの案が2つ残っていた。
「裏の案は、失敗ですか」
カレンが聞いた。
「使わなかっただけだ」
「では、表の判断と同時に使えますか」
「使えない」
道は1つしか選べない。荷車を右へ進めながら、同時に左へ戻すことはできない。
水桶を荷車に載せたまま運びながら、同じ桶を手で持つこともできない。
使わない判断を残すことと、使う判断を1つにすることは両立する。
それでも、裏に回った4つのうち3つは俺の案だった。
実習後、ローディは紙を半分に折り、表側だけが見えるようにした。
「次もこれでいいな」
「裏を確認しなくていいのか」
「終わってから見る。動いてる間は、今の1つでいい」
ルシアスとエリオットも頷いた。
アステラは裏にある案の名前と条件を読み返し、足りない言葉だけを補った。
俺の案は消されていない。
だが、紙を折ると見えなくなった。
俺は予定帳の『自分にしかできない確認』を開いた。下には、昨日の北の線がある。
その隣へ、今日使われなかった4つの案を書こうとして、手を止めた。
ローディの折った紙の裏には、すでに同じ内容が残っている。
俺は新しい行を作らず、空いたままの欄を閉じた。
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