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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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紙の裏側

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

昼休み、俺は予定帳に写した北の線を3度見直した。


川沿いの家から石橋へ向かう最短の線。


その横には、荷車置き場を経由して東へ抜けた班の線がある。


変更後の条件では、カシアの線が使えた。北の線は使われなかった。


それでも、土砂崩れが起きなかった場合、北の坂を先に確認できた場合、18人の移動速度が(そろ)っていた場合を分ければ、使える条件は残る。


俺は北の線を消さず、条件だけを増やした。


午後の野外基礎では、5人で小型の荷車を運ぶ実習が用意されていた。


木壁で3本に分けた通路の奥へ、布袋4つと水桶2つを届ける。


布袋は濡らさず、水桶はこぼさず、途中で渡される変更札に従って置き場所を変える課題だ。


班は俺、エリオット、ルシアス、ローディ、アステラだった。


昨日作った名前のない紙を机へ置き、5つの範囲へ名前を入れる。


エリオットが前方と道、ローディが運搬と足場、ルシアスが魔力と水桶、アステラが情報、俺が位置と全体への影響を持った。


通路は、左が最も広い代わりに遠い。中央は短いが、荷車1台分の幅しかない。


右は途中に低い段差があり、水桶を載せたまま通れば揺れやすい。


「最初は中央でいいよね」


エリオットが言った。


「今は他の荷車がない。前も出口まで見える」


「持ち手も壁に当たらない」


ローディが荷車を中央の入口へ合わせた。


俺も中央が最短だと考えていた。


アステラが紙の上へ『中央』と書き、開始の笛が鳴る。


最初の確認地点までは問題なく進んだ。


エリオットが前方を見て、ローディが段差のない位置へ車輪を通す。


ルシアスは水桶の縁へ細い魔力を沿わせ、揺れた水だけを中央へ戻した。


俺は5人と荷車の位置、残る2本の道、木壁の向こうから近づく車輪音を伝えた。


変更札は、最初の確認地点で渡された。


『中央通路へ空の荷車が入る』『左通路の中程に濡れた地面』『右通路の段差へ板を1枚設置』。


エリオットは左と右を見比べる。


「右へ変える。板の上なら水桶の揺れを減らせる」


「左でも通れる」


俺は言った。


「濡れた場所は右端を踏まなければ避けられる。距離は増えるが、板がずれた場合の停止は少ない」


ローディが右通路の板を見た。


「俺は右でいい。板の手前で荷車を止めて、先に踏んで確かめる」


「中央の荷車は?」


アステラが聞く。


「まだ木壁の向こうだ。入口へ来るまでに右へ移せる」


エリオットは右へ進むと決めた。


俺は紙の『中央』に線を引き、その下へ『右』と書いた。


さらに横へ『左――濡れた場所の右側を使用』と残す。


「左も使うの?」


ローディが聞いた。


「板がずれた場合は左へ変えられる」


「ずれたら止まって伝える。それから決めればいいだろ」


「先に残しておけば、止まる時間を減らせる」


ローディは紙を見たが、そのまま荷車の後ろへ戻った。


右通路へ入る前に、ローディが板へ体重をかけた。沈みも傾きもない。


荷車の前輪を板へ載せ、ルシアスが水桶の揺れを抑える。


5人は板を越えて、2つ目の確認地点まで進んだ。


次の札には、4つの変更があった。


『右通路の先に木箱を置く』『左通路の濡れた地面は布で覆われた』『中央通路の空荷車は停止』『届け先を北の台から西の台へ変更』。


現在地から西の台へ向かうなら、右を戻って左へ入る道と、右の木箱を動かして先へ進む道がある。


中央へ戻れば距離は短いが、停止した荷車の横を通れる幅はない。


「木箱を動かす」


ローディが言った。


「箱は空だ。荷車を止めて、俺が先へずらす」


「左へ戻った方が、箱を動かす時間はない」


俺は2つの時間を考えた。来た道を戻り、左通路へ移る距離。


荷車を止め、木箱を端へ寄せ、全員が通る時間。


ローディなら木箱を動かす方が早い。


「ローディの案でいい」


エリオットも答えた。


アステラが『右を継続、木箱を移動』と書く。


俺はその下へ、『左へ戻る』『中央の荷車が動いた場合は中央』も書き足した。


紙には、中央、右、左、右の継続、中央へ戻る条件が残った。


線を引いた箇所と現在使う箇所が近く、どれが決定した道かは、書いた俺には分かる。


ローディが木箱へ向かう前、アステラが紙を持ち上げた。


「今はどれ?」


「右を継続する」


「なら、他の線は何?」


「条件が変わった場合の次の道だ」


「その条件は、まだ起きていないわ」


「起きてから考えれば遅れる」


後方で短い笛が鳴った。中央通路の空荷車を押す生徒が、停止を知らせている。


右へ来る予定はない。俺たちの道には影響しなかった。


「進めるぞ」


ローディが木箱へ手をかける。


3つ目の変更札は、木箱の裏に留められていた。


『木箱は動かさない』『右通路は荷車のみ通行可能』『西の台へは左通路から入る』。


ローディは木箱から手を離した。右を先へ進めず、西の台へは左から入る。


来た道を戻る必要がある。


「左へ変更」


エリオットが言った。


俺は紙の中から、先に書いた左の線を指した。


「この条件を使う。濡れた場所は布で覆われている」


「分かった」


エリオットはすぐ荷車の前へ回った。だが、ローディは紙を見たまま動かなかった。


「どの合図で戻す?」


「左へ変更だ」


「紙には左が2つある。板がずれた時の左と、西の台へ行く左だ。中央へ戻る条件も残ってる」


「どちらも通る道は同じだ」


「理由が違うなら、止まる場所も違うだろ」


板がずれた場合は、板の手前で止まり、左へ戻す。今回は木箱の前まで来ている。


荷車を回す広さがないため、後ろ向きに板まで戻し、そこで向きを変える必要がある。


俺が説明する間、エリオットは荷車の前で待った。


ルシアスは水桶を押さえ、アステラは複数の線から現在使う文を探している。


「後退。板の手前で向きを変え、左へ移る」


俺が言うと、ローディは荷車の後ろへ立った。


再開までに22秒使った。


荷車を左通路へ移し、西の台へ布袋と水桶を届けた時、制限時間を11秒超えていた。


布袋は濡れず、水も目盛りより減っていない。置き場所も正しい。


カレンは提出した紙を机へ置いた。


「止まった理由は?」


「俺が複数の道を残した」


「残したこと自体が問題ですか」


俺は紙を見る。


最初の中央、板がずれた時の左、選んだ右、木箱を動かす右、中央の荷車が動いた場合の中央、西の台へ向かう左。


どれも条件が合えば使える道だった。


「使える案が同じ紙に残り、現在の判断を探す時間が増えた」


アステラが答えた。


「記録と、実習中に見る紙を分けたはずでしょう」


カレンの言葉は、42項目を減らした時と同じだった。


俺は使わなかった北の線を予定帳へ残した。あれは記録だ。


実習中に見る紙へは、今使う判断だけを置く。


分けたつもりだった。


だが、条件が変わるたびに自分の考えた道を消さなければ、使う紙はまた増える。


「次は紙を裏返そうぜ」


ローディが言った。


「裏?」


「今使う道は表に1つ。使わなかった案は裏へ書く。変更札が来たら、表を消して1つ選ぶ」


「次に使う可能性がある」


「ある。だから捨てない。でも、合図に使うのは1つだけだ」


アステラが新しい紙の表へ、大きく『現在』と書いた。


裏には『後で確かめる』と書く。


「記録は裏に残す。表へ戻す時は、担当範囲の人が選ぶ。全部を表へ並べない」


「誰の案かも書く?」


ルシアスが聞いた。


「理由を聞き直す可能性があるから、裏には書く。表は道と止まる条件だけでいいわ」


2回目の実習は、最初と変更の順番が入れ替えられた。


開始時、表にあるのは『中央』だけだった。右と左は裏へ書かれている。


中央へ空荷車が入ると、エリオットが右を選び、表の中央を消した。


俺は左を使った場合の距離と、右の板が全体へ与える影響を伝えたが、どちらを使うかはエリオットとローディが決めた。


表には『右――板の前でローディが確認』だけが残った。


木箱の札が出ると、ローディは動かさずに戻ると決めた。


俺なら箱の中身と固定を確認し、動かせる条件を探した。


だが、ローディの範囲は運搬と足場で、木箱へ触れず荷車を戻す方が確実だった。


「後退。板の手前で向きを変える」


ローディはそれだけを言った。


アステラが表を『左――西の台』へ書き換える。


俺が考えた木箱を確認する案は、裏へ回された。


荷車は止まらなかった。


左通路へ移った後、ルシアスが水桶の片方を荷車から下ろした。


濡れた地面を覆う布が水を吸い、車輪が沈みやすくなっていたからだ。


水桶を手で運べば荷車の重さが減る。


俺は水桶を2人で持つ方が揺れないと考えた。


だが、ルシアスは自分の魔力で水面を保ち、一人で運べると言った。


ローディは軽くなった荷車を押し、エリオットは前方を確かめる。


俺の案は、また裏へ書かれた。


2回目は、制限時間を17秒残して終わった。


カレンが表と裏を確認する。表には、実際に使った道と停止条件だけが3行ある。


裏には、俺の案が4つ、エリオットの案が1つ、ルシアスの案が2つ、ローディの案が2つ残っていた。


「裏の案は、失敗ですか」


カレンが聞いた。


「使わなかっただけだ」


「では、表の判断と同時に使えますか」


「使えない」


道は1つしか選べない。荷車を右へ進めながら、同時に左へ戻すことはできない。


水桶を荷車に載せたまま運びながら、同じ桶を手で持つこともできない。


使わない判断を残すことと、使う判断を1つにすることは両立する。


それでも、裏に回った4つのうち3つは俺の案だった。


実習後、ローディは紙を半分に折り、表側だけが見えるようにした。


「次もこれでいいな」


「裏を確認しなくていいのか」


「終わってから見る。動いてる間は、今の1つでいい」


ルシアスとエリオットも(うなず)いた。


アステラは裏にある案の名前と条件を読み返し、足りない言葉だけを補った。


俺の案は消されていない。


だが、紙を折ると見えなくなった。


俺は予定帳の『自分にしかできない確認』を開いた。下には、昨日の北の線がある。


その隣へ、今日使われなかった4つの案を書こうとして、手を止めた。


ローディの折った紙の裏には、すでに同じ内容が残っている。


俺は新しい行を作らず、空いたままの欄を閉じた。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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