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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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残った北の線

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

翌朝、外周走路の色杭はいつもと同じ間隔で並んでいた。


俺は12周の回数を変えず、予定帳へ足した確認だけを増やした。


赤い杭を通るたびに前後の足音を数え、青い杭では水滴の位置を変え、白い杭では走路の端と空の雲を見る。


誰かが追い越せば歩幅と進路を覚え、すれ違う者がいれば次の角まで足音を残した。


3周目まではできた。


4周目、右手の水滴を2つに分けたところで、後ろの足音と前を横切った生徒の位置が重なった。


水滴の片方が潰れ、青い杭を通った時の呼吸回数も分からなくなった。


俺は走る速さを落とさず、次の白い杭から数え直した。


回数は増やしていない。走る距離も、水滴の数も、魔力の量も昨日までと同じだ。


確認する対象を増やしただけだった。


7周目には、色杭を1本見落とした。


9周目、左足の着地がわずかに外へ流れたが、前を走る2人の間隔を覚える方を優先したため、直すのが3歩遅れた。


12周を終えた時、身体に痛みはない。


呼吸が整うまでの時間も、普段より大きくは変わらなかった。


それでも予定帳には、見落とした杭が2本、割れた水滴が3回、数え直した足音が5回残った。


できなかった項目が増えている。


俺は追加で走らず、決めた通り身体を確認してから食堂へ向かった。


窓際の席では、エリオットたちが朝食を半分ほど食べ終えていた。


ローディの盾は革(ひも)が新しい結び目へ変わり、ルシアスの袖口には魔力訓練場で使う白い粉が付いている。


3人は俺がいない間に、それぞれの予定を終えていた。


「おはよう。外周、長かった?」


エリオットが俺の皿を寄せた。


「12周だ」


「それは昨日も聞いたよ」


俺は答えず、予定帳を閉じた。


ルシアスが表紙からはみ出した紙へ目を向けたが、食堂を出る鐘が鳴り、4人で教室へ向かった。


最初の授業は、机上で行う避難経路の整理だった。


教室の前には、大きさの違う木札と3枚の地図が置かれている。


地図には学園内の建物ではなく、川沿いの小さな集落、2本の道、浅い坂、石橋、荷車置き場が描かれていた。


セルドは地図を黒板へ留めた。


「5人で1つの報告を作ります。ただし、最初に役割名だけを決め、担当者の名前は後から入れなさい」


昨日作った紙と同じ使い方だった。


班は、俺、アステラ、カシア、ノエラ、レイナになった。


机を寄せると、アステラが紙の中央に5つの範囲を書く。


前方と道。人と移動。負傷と搬送。記録と情報。位置と全体への影響。


「私は記録と情報を持つ」


アステラが言った。


「古い言葉があるなら、私もそこを見たい」


ノエラは地図の隅に書かれた小さな文字を指した。


「同じ範囲に2人はだめ?」


「だめとは言われていないわ。でも、残りが空く」


「じゃあ、私が前方と道を見る。古い呼び方があったら、アステラに渡す」


カシアは人と移動、レイナは負傷と搬送を選んだ。


最後に残ったのは、位置と全体への影響だった。


俺は自分の名前をそこへ書いた。


最初に渡された情報は5つある。川沿いの家から18人を高台の倉庫へ移す。


石橋は通行可能。坂道は荷車1台が通れる。歩けない者はいない。


雨は降っているが、川の水位は朝から変わっていない。


地図だけを見れば、川沿いの家から石橋を渡り、北の坂を上る道が最短だった。


「北の坂から倉庫へ行く」


俺が言う前に、ノエラが地図の端へ顔を寄せた。


「この『上道』、今の北の坂と同じか分からない」


「地図はいつの?」


アステラが聞く。


「右下に12年前とある。別の記録には、6年前に石橋の東へ新しい道を作ったと書いてある」


ノエラは2枚目の紙を並べた。


地図の北にある細い線と、記録にある新しい道が同じものかは書かれていない。


アステラが確認済みと未確認の欄を分ける。


「石橋は今も通行可能。北の坂が地図の上道と同じかは未確認。東の新しい道の現在状態も未確認」


「最短は北だ」


俺は言った。


「同じ道ならね」


カシアが18人分の木札を机へ並べる。


大人を示す長い札が11枚、子どもの短い札が5枚、年配者の丸い札が2枚あった。


「全員が同じ速さでは歩けない。石橋で列が詰まるなら、短いだけで早いとは限らないよ」


「歩けない者はいない」


「歩けることと、18人で同じ速さにできることは別」


カシアは丸い札を列の前ではなく中央へ置いた。


遅れた者を最後に残さず、前後から見られる位置にするためだ。


レイナは坂道の横へ指を置いた。


「負傷者はいない。でも、雨で足を滑らせた場合、北の細い坂では横に人を付けにくい。東の道の幅が分かれば、そちらを使える可能性がある」


「今分かっているのは北の坂が荷車1台分だ。東は現在状態を確認できていない」


「だから、最初から18人を動かさず、確認する人を先に出す必要があると思う」


俺も同じ結論だった。


北へ進むなら石橋と坂の出口、東へ進むなら道幅と倉庫までの接続を確かめる。


2人で別々に確認し、戻った情報で選ぶ。


だが、カシアは違った。


「確認する人を2人出すなら、残るのは3人。18人を川沿いで待たせる間に水位が変わるかもしれない」


「朝から変わっていない」


「この後も変わらないとは書いてないよ」


アステラが雨と水位を未確認の欄へ移した。


「現在の水位は変化なし。今後は未確認。確認役を出すなら、待機場所も決める必要があるわ」


カシアは川沿いの家から少し離れた荷車置き場を指した。


屋根はないが、地図上では川から一段高い。


「まず全員をここへ移す。短い距離で、橋を渡らない。私は人数と遅れる人を見る。その間に道を確認する」


俺は地図を見た。荷車置き場へ移れば、北の石橋へ向かう距離は少し伸びる。


最短の道を使う場合、移動が重複する。


「川沿いの家から直接北へ行く方が短い」


「北を使えると決まればね。でも、決まるまで家の前に18人を置いておくより、一段高い場所へ動かしたい」


「水位は変わっていない」


「雨は降ってる」


カシアは俺の方を見た。


「変わってから動かすの?」


危険を見つけた後で動くより、先に安全側へ寄せる。俺も依頼ではそうしてきた。


だが、北の道を使える可能性が高いなら、最初から石橋へ向かった方が早い。


「レオン」


アステラが止めた。


「あなたの範囲は、位置と全体への影響でしょう。最短の道を決めることではないわ」


昨日、俺たちで作った紙にそう書いた。


俺は5つの範囲を見直した。前方と道はノエラ。人と移動はカシア。


負傷と搬送はレイナ。情報はアステラ。


俺が伝えるのは、各判断が全体へ与える影響だ。


「荷車置き場へ移せば、北へ進む場合は距離が増える。川沿いに残せば、確認中に水位が変わった場合の退路が短くなる。確認役を2人出せば、残る3人で18人を見る」


アステラが3つを記録した。


「では、人の移動はカシアが決めて」


「荷車置き場へ移す。列は私とレイナで見る。道の確認は1人ずつ、近い北から先にする」


「私は東の記録を確認して、道の呼び方が繋がるか探す」


ノエラが答えた。


「転倒者が出たら、移動を止めるかどうかは私が見る」


レイナも自分の範囲を決めた。


俺の最初の案とは違う。北の石橋が使えれば、余分な移動が増える。


18人の移動中に別の危険が出る可能性もある。


変更情報の札が配られた。


『川の水位が上がり始めた』『北の坂で小さな土砂崩れ』『東の新しい道は荷車2台が並べる』『年配者1人が足を痛めた』『高台の倉庫は東側の入口のみ使用可能』。


5人が内容を共有すると、カシアは荷車置き場へ移した18人を、そのまま東へ向けた。


ノエラが新しい道と東側入口の記録を繋ぎ、アステラが確認済みの条件を並べ直す。


レイナは足を痛めた1人へ2人を付け、歩ける速さで列を分けた。


北の坂は使えなくなった。


最初から北へ向かっていれば、石橋を渡る前か、渡った後で引き返す必要があった。


荷車置き場へ移したカシアの判断によって、18人は川から離れ、東の道へ変えられる位置にいる。


「全員の位置は?」


カシアに聞かれた。


「先頭は東の道の入口。足を痛めた1人と付き添い2人が中央。最後尾まで荷車置き場を出た。川沿いの家と石橋には誰も残っていない」


「なら、このまま進める」


カシアが決めた。


5人は制限時間内に報告を完成させた。


セルドは答えの道だけでなく、誰がどの情報から変更したかを順に確認する。


「最初に北の道を提案したのは誰ですか」


「俺です」


「採用しなかった理由は?」


アステラが記録を読む。


「北の坂と古い地図の上道が同じか未確認で、18人を川沿いに待たせる間の水位変化も未確認でした。カシアが先に荷車置き場へ移すと決め、変更後も東へ移りやすい位置を保てたためです」


セルドは俺へ向いた。


「自分の案と違いましたか」


「違った」


「結果だけで、どちらが常に正しいとは決められません。では、報告に何を残しますか」


俺は北の道を使った場合の距離と、カシアが選んだ位置の利点を見比べた。


「採用した判断と理由を残す。北の道は、確認前の案として分ける」


「そうしなさい」


報告書の最終欄には、東の道を使った経路と5人の判断理由が書かれた。


俺が考えた北の線は、未採用案の欄へ細く残る。


授業後、カシアたちは机を戻しながら次の課題の話を始めた。


ノエラは古い地図の道名をもう少し調べたいと言い、レイナは18人の列で負傷者が出た場合の位置をカシアへ尋ねる。


アステラは2人の会話を聞き、確認順を紙の端へ書き足した。


俺が紙を集めていても、相談は進んだ。


「レオン、さっきの3つ、もう一度教えて」


アステラが言った。


「3つ?」


「荷車置き場へ移した時に、全体へ出る影響。距離と、残る人数と、退路」


俺は同じ内容を答えた。アステラは記録へ写し、カシアとレイナが次の確認に使う。


俺の情報は必要だった。


それでも、北へ引いた線は使われなかった。


教室を出る前に、俺は未採用案の欄を自分の予定帳へ写した。


北の方が短い条件、荷車置き場が安全になる条件、確認役を出せる人数を分けて書く。


『自分にしかできない確認』の空欄へ入る言葉ではない。


アステラも、カシアも、ノエラも、レイナも、それぞれ別の条件を見つけていた。


俺は見出しを消さず、その下に北の線だけを残した。

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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