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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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空いた欄

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

記録板を返し終えた時、食堂の鐘はもう鳴っていた。


訓練場から寮棟へ戻る生徒の列は途切れ、濡れた石畳の上に靴跡だけが残っている。


俺は5枚分の返却印を予定帳へ書き、いつもの食堂へ向かった。


窓際の席には、エリオット、ルシアス、ローディが先に座っていた。


4人用の卓へもう1脚寄せ、アステラも紙を広げている。


俺の椅子だけが通路側へ少し引かれ、その前には蓋をかぶせた皿とパンが置かれていた。


「遅かったね」


エリオットが言った。


「記録板を返した」


「うん。冷めるから、先に食べて」


俺が座る間も、4人は紙から目を離さなかった。


昼に7つへ減らし、実習後に1つ消した紙だ。


アステラの前にある1枚だけ、言葉の順番が変わっている。


「どこを変えた」


「止まる条件よ」


アステラが紙を俺の方へ回した。


昼には、『位置や安全を確かめられない時』と『情報が食い違い、事実を確認できない時』を別に書いていた。


新しい紙では、2つの下に一本の線が引かれ、『判断に必要な事実を確かめられない時』とまとめられている。


「さっきの実習で、煙の原因と避難所の裏にいる人の位置は確認できなかったでしょう」


「確認できないものが2つあった」


「でも、止まった理由は同じだった。必要な事実が足りなかったから、確認できる場所まで進んで、そこで止めたの」


ローディがパンをちぎりながら続けた。


「道でも人でも箱でも、分からないのに進めば危ないなら止まる。それで足りるんじゃないかって話だ」


「情報が食い違った時も、どちらが事実か分からないなら同じだよ」


ルシアスは自分の紙から2つの文を消し、アステラの短い文を写していた。


俺は昼の紙と新しい紙を見比べた。


対象を分けておけば、何を確認できていないかが分かりやすい。


人の位置が不明な場合と、道の安全が不明な場合では、確かめる者も方法も違う。


「分けて残す理由はある」


4人が俺を見る。


「何が未確認かを区別できる。人の位置なら人数を数える。道なら足場と幅を確認する。情報が食い違うなら、情報源を確かめる」


「それは記録へ書けばいいんじゃない?」


エリオットが聞いた。


「動く時に見る紙には、止まるかどうかだけでいい。何を確認するかは担当した人が決める」


昨日までなら、俺は確認方法も全部残した。抜ければ失敗する可能性があるからだ。


けれど、今日の実習でエリオットは道を、ローディは箱を、ルシアスは火を、アステラは条件を自分で確かめた。


俺が答えなくても、確認方法はなくならなかった。


「まとめても動ける」


俺が言うと、アステラは線の下に新しい文を清書した。


これで共通の停止条件は1つになり、その下には各自の担当範囲だけが残る。


「5つか」


「5つというより、1つと5人分ね」


アステラが訂正する。


「止まる条件が1つ。判断する範囲は5人に1つずつ」


ローディは自分の名前の横にある『運搬と足場』を指で叩いた。


「俺はこれでいい。箱の持ち手を替えるたび、全員に許可を取らなくて済む」


「僕も、火と魔力に関わる変更は自分で決める。ただし、他の人の位置が分からない時は止める」


ルシアスは言いながら、止まる条件と自分の範囲を線で繋いだ。


エリオットは『道と前方』の横へ、小さく『見えた範囲』と書き足す。


見ていない道まで安全だと決めないためだった。


アステラは『情報の並べ替え』を『確認済みの情報を並べる』へ変え、推測を事実と同じ欄へ置かないようにした。


俺の欄には、『全体の位置と変化を伝える』とある。


「レオンは?」


エリオットに聞かれた。


「変更はない」


「今日、灰色の布を見つけた時みたいな伝え方でいい?」


「位置と、何に影響するかを伝える。どう動かすかは担当が決める」


「じゃあ、それを書こう」


アステラが俺の言葉を短くし、『位置・変化・影響を伝える』と書いた。


俺が口にした内容だが、紙の形を決めたのはアステラだった。


食堂には、夕食を終えた生徒が増えていた。


皿の触れ合う音と椅子を引く音で、隣の卓の会話も聞き取りにくい。


ローディが紙を押さえ、ルシアスが顔を近づけて読み返す。


「この1枚だけで、次も試せるね」


「試して足りなければ戻す。最初から増やさない方がいいわ」


「明日の野外基礎も同じ班とは限らないよ」


エリオットが言った。


アステラは5人分の欄を見てから、別の紙を取り出した。


「なら、誰と組んでも使える形か確かめましょう。担当者の名前ではなく、担当する範囲だけを書いた紙も作る」


「俺たち用と、他の班でも使える用か?」


「違うわ。私たち用の答えを渡すんじゃない。役割を決める時に、抜けている範囲がないか確かめるだけ」


4人の相談が続く。


エリオットは道を見ない班なら誰が前方を確かめるのかと問い、ルシアスは魔法を使わない課題なら自分の欄を別の役割へ替えられると言った。


ローディは運ぶ物がなければ、足場と停止の確認を持つと答える。


俺は冷めたスープを飲みながら聞いた。


必要な範囲は残っている。担当者が変わっても、その場にいる者が決めれば動ける。


俺がいない場合だけを別に書く必要はない。


その結論も、俺が言う前に4人の間で(そろ)った。


アステラが新しい紙の上へ、名前のない5つの欄を作った。


前方、運搬、魔力、情報、全体。どれを誰が持つかは、その時に決める。


「レオン、全体ってこの言葉で足りる?」


「全員の位置と、担当を越えて影響する変化を確認する」


「長いわ」


「なら、『位置と全体への影響』」


「それにする」


アステラは短く書き直した。


俺の言葉は使われた。


だが、俺がいなくても4人は必要なところまで進み、足りない一部だけを俺へ聞いた。


食べ終わる頃には、6つあった文が、1つの停止条件と5つの範囲へ並び直されていた。


数は同じでも、担当者の名前が消えたことで、誰が欠けても埋め直せる紙になっている。


「明日の朝、少し試さない?」


ルシアスが言った。


「僕は魔法訓練場へ行くから、魔力の欄を持つ。ローディは盾の革(ひも)を見るんだよね」


「ああ。備品庫にも寄る」


「僕はエリオットと足運びをする。道の確認を交代でやってみるよ」


3人はそれぞれの予定を口にし、その場で重ならない順番を決め始めた。


以前は俺が全員の予定を聞き、練習内容と時間を並べた。


今は、誰が先に何をするかを俺が書かなくても決まっていく。


エリオットが俺へ向いた。


「レオンは明日の朝、いつもの外周?」


「そうする」


「終わった後、僕たちのところに来る?」


外周、剣、魔力、足運び。自分の予定は決めてある。


3人の練習も、俺が見なければ進められない内容ではなかった。


「必要なら呼んでくれ」


「必要かどうかじゃなくて、一緒にやるか聞いたんだけど」


エリオットの言葉に、すぐ答えられなかった。


一緒にやれば、俺は3人の動きを見つける。足の遅れ、魔力の途切れ、革紐の緩み。


見つけたものを伝えれば使われるかもしれない。


だが、3人だけでも互いに見て、直せるようになっている。


「自分の練習をする」


俺が答えると、エリオットは一度だけ(うなず)いた。


「分かった。終わったら食堂で」


アステラは女子寮へ戻り、俺たち4人も皿を返した。


窓際の卓を離れる前に、ルシアスが5つの範囲を書いた紙を折り、俺の分も渡してきた。


寮の部屋へ戻ると、ローディは盾の革紐を机へ出し、ルシアスは魔力訓練場の使用票を確認した。


エリオットは翌朝の予定を小さな板へ書く。


3人の動きに、俺の指示を待つ時間はなかった。


俺は自分の予定帳を開いた。


外周12周。低速の足運び。剣。魔力接続。水滴操作。終了後の身体確認。


いつも通りの順番を並べ、その下に『位置と変化を伝える』と書いた。


それだけでは足りない気がした。


位置を見つけるのが遅ければ、他の者が先に見る。


変化を伝えるのが遅ければ、担当した者が自分で気づく。


影響を考えるのが遅ければ、アステラが情報を並べ、エリオットたちが決める。


なら、誰より早く見つけ続けなければならない。


俺は『外周12周』の横へ、確認する色杭と足音の数を書き足した。


水滴を維持する時間、剣を振る間に見る位置、部屋へ戻るまでに覚える人の動きも増やしていく。


「レオン、それ全部明日やるの?」


寝台からルシアスが聞いた。


「いつもの内容だ」


「横に書いてるのは増えてるよ」


「回数は増やしていない」


ルシアスは何か言いかけたが、ローディに革紐の結び目を見せられ、机の方へ移った。


2人は結び方を試し、エリオットも横から紐の余りを指で測る。


3人だけで、直す方法を相談している。


俺は予定帳へ目を戻し、『自分にしかできない確認』という欄を作った。


だが、最初の行に何を書くか決められなかった。


机の端に置かれた明日の予定板には、外周、魔力訓練場、盾の手入れ、足運びが別々に並んでいる。


どの行にも、全員を決める者の名前はなかった。


一番下に、エリオットの字で『朝食 窓際』とだけ書かれていた。


俺はそこを読んだ後、空いた欄へ視線を戻した。

お読みいただきありがとうございました!

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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