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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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呼ばれなかった答え

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

午後の訓練場には、午前から残る湿った木の匂いがあった。


水袋、毛布、縄、油、添え板の箱は、朝と同じ場所へ戻されている。


左の木板も交換され、白い線の内側には新しい札が伏せて置かれていた。


俺たちは昼休みに作った紙を1枚ずつ持って、開始地点へ並んだ。


42項目は(かばん)の中に残し、手元にあるのは7つだけだ。


全員が止まる条件は2つ。


位置や安全を確かめられない時と、受けた情報が食い違い、事実を確認できない時。


残りは5人が自分で変えてよい範囲だった。


カレンは俺たちの紙を集めず、内容も確かめなかった。


「午前と同じ箱を使います。条件は変わります。準備ができた班から始めなさい」


アステラが紙を中央へ置いた。


「役割は書いた通り。変えた場合は、理由だけを全員へ伝える。確認できない危険が残った時だけ止まる」


エリオットが右と左の道を見て、ローディは箱の持ち手を順に確かめた。


ルシアスは油の箱と、訓練場の隅に置かれた火床の札を見る。


俺は5人と箱、2本の道、避難所の位置を頭の中へ置いた。


開始時の条件は、避難所にいる6人へ夕方までの雨をしのぐ物を届けること。


そのうち1人は足首を痛めているが、自分で歩ける。


避難所には水が半日分と屋根があり、火床は使用できた。


「毛布、油、縄かな」


エリオットが言った。


「水は足りている。添え板は、歩けるなら今は外せるわ」


アステラが条件を整理する。


ローディは毛布の箱を持ち上げ、左の道へ向いた。


「こっちなら2人並べる。俺が先に運ぶ」


「油は僕が見る。火床まで持っていっていい」


ルシアスも箱の横へ立った。


俺は左の道の途中にある低い柵と、避難所の入口に立つ青い旗を確認した。


柵の根元は朝より深く床板へ差し込まれ、ぐらつきはない。


ローディが毛布の箱を持って通っても幅は残る。


最初の箱が動いた。


俺は何も決めていない。


それでも、ローディは左の道を選び、エリオットが前を確認し、ルシアスは油の箱を持って後ろについた。


アステラは開始時の条件と選んだ3つの箱を記録している。


俺は最後尾から全体の位置を見た。左の道に3人、開始地点に俺とアステラ。


箱同士の間隔は十分あり、戻る者とすれ違える。


ローディが低い柵を越えたところで、カレンが赤い札を立てた。


避難所の手前にある青い旗も倒し、代わりに黄色い旗を置く。


「変更です」


5人へ別々の札が渡された。


俺の札には『避難所の裏手で煙を確認。原因は未確認』と書かれている。


エリオットは『左の道は避難所から戻る者が使用中』、ローディは『毛布の箱の底に破損あり』、ルシアスは『火床は使用禁止』、アステラは『足首を痛めた1人が歩けなくなった』だった。


「避難所の裏手で煙。原因は分からない」


俺が伝えると、4人も札の内容を口にした。


俺なら、最初に火の可能性を考え、油の箱を止める。


左の道を空け、歩けなくなった者のために縄と添え板を選び直す。


毛布の底が抜ける前に別の箱へ移す。


答えは出ていた。


けれど、油と火はルシアス、道はエリオット、運搬と箱の破損はローディ、条件の並べ替えはアステラが決める。


「油は置く。煙の原因が分かるまで火に関わる物は近づけない」


ルシアスはその場で箱を下ろし、全員へ理由を伝えた。


「左は戻る人を優先する。僕たちは右へ変える。右の幅はさっき見た。箱1つなら通れる」


エリオットが右の道へ移る。


「毛布はここで止める。底を縄で支えるより、必要な縄を使えなくなる方が困る。中身を油の空いた箱へ移すぞ」


ローディは毛布の箱を床へ置き、破損箇所が広がらない向きへ倒した。


アステラは4人の変更を聞き、歩けなくなった者への対応を最後に回さなかった。


「煙の原因が未確認だから、避難所へ入る前に位置を確かめる必要がある。荷は右の道の手前で一度止める。運ぶ物は毛布、縄、添え板へ変更。水は半日分あるという最初の情報を維持する」


誰も俺へ聞かなかった。


4人の判断に危険なところはない。


煙を見て火事と断定せず、油を外し、退路を塞がず、歩けなくなった者へ必要な物を選んでいる。


俺が考えた順番とは違うが、進められる。


「全体の位置は?」


アステラが聞いた。


判断ではなく、俺が渡す情報だった。


「右の道にエリオット。分岐の手前にローディと毛布。ルシアスは油の箱から離れている。左は戻る者が使っている想定で入れない。開始地点から避難所まで、俺たち以外の位置は確認できていない」


「なら、避難所の手前で人数を確認する」


アステラが決めた。


エリオットが先に右の道へ入り、見える範囲の床と柵を確かめる。


ローディとルシアスは毛布を空いた箱へ移し、縄と添え板を続けて運んだ。


俺は3人の間隔と、開始地点に残った箱の位置を見ながら後ろにつく。


途中で右の柵の影に、朝にはなかった灰色の布が落ちていた。


端が通路へ出ていて、箱の角が引っかかる位置にある。


「エリオット。右の柵の内側、灰色の布。箱の角に触れる」


「見えた。外側へ寄せる」


エリオットは布を拾い上げず、靴先で道の外へ押した。


触れてよい物かは確認できないが、箱が引っかからない幅は作れる。


俺なら同じようにする。


その先で、ローディが箱を持ち替えた。右側の持ち手がわずかに裂けている。


「こっちを持つ。ルシアス、左を頼む」


「分かった」


2人は止まらず位置を替えた。俺へ戻す条件はない。


俺が持ち手の裂けを見つけた時には、ローディはもう自分で確かめていた。


避難所の手前で、アステラが全員の位置と3つの箱を確認した。


煙の札が置かれた裏手へは入らず、見える位置から旗と床の状態を記録する。


原因不明のまま安全だとは決めず、課題の引き継ぎ欄へ未確認と書いた。


最後の箱が白線を越えた時、砂時計にはまだ砂が残っていた。


カレンは毛布、縄、添え板を順に確かめ、記録板を読んだ。


「油を外したのは誰ですか」


「僕です。煙の原因が未確認で、火床も使えなくなったからです」


ルシアスが答えた。


「道の変更は?」


「僕です。左は戻る人を優先し、確認済みの右へ変えました」


「箱の入れ替えは?」


「俺だ。壊れた底をその場で直すより、中身を空いた箱へ移した」


ローディのあとに、アステラが選び直した荷と未確認事項を説明した。


カレンは最後に俺を見た。


「あなたは何を決めましたか」


俺は記録を思い返した。


煙の情報を伝え、全員の位置を伝え、灰色の布をエリオットへ伝えた。


判断はしている。油を外し、右へ変え、箱を入れ替える答えも考えていた。


だが、決めてはいない。


「何も決めていません」


「では、何をしましたか」


「位置と変化を確認し、担当へ伝えました」


「その情報は使われましたか」


「使われました」


カレンはそれ以上聞かず、課題達成の印を記録板へ付けた。


片づけでは、俺が避難所側の札を回収し、エリオットが柵を戻した。


ルシアスとローディは空にした箱と毛布を備品棚へ運び、アステラは5人分の紙を集めて変更点を見比べている。


「『担当がいなければ近くの者が一時的に持つ』は、なくても動けたわ」


アステラが言った。


「持ち手を替えた時も、決めてなかったな」


ローディが紙の1行へ線を引く。


「じゃあ、6つになるね」


ルシアスは自分の紙にも同じ線を引いた。


俺は奥の棚へ赤い札を戻していた。


振り返った時には、3人の紙から同じ1行が消えている。


エリオットも柵を戻し終え、その理由を聞いて(うなず)いた。


「レオンの紙も消していい?」


声をかけられて、俺は近づいた。


「問題ない」


4人は俺がいない間に、使わなかった条件を見つけていた。


判断を戻されなくても課題を終え、その後の修正も進めている。


それは、目指していた形に近い。


俺は自分の紙から同じ1行を消した。


残った6つのうち、俺だけに決定を任せるものはない。


次の実習で俺がいなくても、5つの範囲と2つだった停止条件は、さらに減りながら使われていくかもしれない。


「食堂、行こうよ」


エリオットが俺の記録板を取り、他の4枚と重ねた。


「先に返却する。4人は行っていていい」


「僕も行くよ」


「場所は分かる」


俺が答えると、エリオットは少しだけ眉を寄せた。


それでもアステラたちに呼ばれ、記録板を俺へ返して入口へ向かった。


4人の背中は、次にどの条件を試すか話しながら遠ざかっていく。


俺は5枚の記録板を抱え、備品棚の数をもう一度確かめた。


今日、俺が見つけた変化はすべて使われた。


俺が考えた答えは、一つも呼ばれなかった。

お読みいただきありがとうございました!

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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