↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
PR
234/268

減った紙

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

昼の鐘が鳴る前に、俺は食堂の窓際へ42項目の紙を広げた。


4枚を横へ並べると、いつもの盆を置く場所が足りない。


エリオットが自分の椅子をずらし、隣の卓から1脚借りてきた。


アステラは俺たちより少し遅れて来ると、紙の端を(そろ)えてから席についた。


「昼休みは鐘が2回鳴るまで。最初に、何を残すか決めましょう」


「何を消すかじゃなくて?」


ルシアスが聞いた。


「消す方から始めると、42項目を全部読むことになるわ」


アステラは新しい紙を中央へ置き、上に一本だけ線を引いた。


「この紙がなくても各自で判断できることは、最初から書かない。全員が共通して知る必要があることだけ残す」


俺は水袋を選んだ時の条件を指した。


飲み水がない、移動人数が5人、歩けない負傷者が1人、避難所に屋根がある。


どれかが変われば、必要な荷も変わる。


「それを共有しなければ、違う箱を選ぶ」


「違う箱を選んでもいいんじゃない?」


エリオットが言った。


「必要な物が足りなくなる」


「足りないと判断したら変える。でも、最初から全員が同じ3つを選ぶ必要はないよ」


俺は答えず、条件の紙へ目を落とした。昨日は水袋、毛布、添え板を選んだ。


それが最も安全だったから運び終えた後の結果は同じになったが、別の組み合わせから始めても修正できた可能性はある。


ローディは4枚目の紙を自分の前へ引き寄せ、太い指で3つの行を隠した。


「俺は、箱を持てる人数と、道の幅と、止める場所が分かれば運べる。持ち手を誰が握るかまで書かなくていい」


「片腕を使えない者が出た場合は?」


「その時に空いてる奴と替わる」


「空いている者が2人いたら?」


「近い方だ」


「同じ距離なら?」


ローディが俺を見た。


「その場で呼んで、先に返事した方」


条件を決めているようで、紙には書かない。


俺が続きを聞く前に、ルシアスがローディの前から紙を取った。


「僕も、魔力を出す量と方向と止める合図は必要。でも、誰がどこに立つかまで決められると、動いた人に合わせられない」


「昨日は火床が使えなくなった」


「だから油を外した。そこは僕が決めていいんだよね?」


「火と魔力に関わる変更は任せた」


「なら、油を外した後に担当が終わったかどうかを、別の紙で決めなくていいよ」


ルシアスは該当する3行へ横線を引いた。俺が昨夜書いた字が見えなくなる。


間違っているとは思わなかった。


それでも、条件が消えるたび、その下にあった失敗まで消されるように見えた。


書かなければ、同じ状況が来た時に思い出せないかもしれない。


「記録には残す」


俺は言った。


「使う紙から外すだけで、失敗の記録は消さない」


アステラが(うなず)いた。


「ええ。記録と、動く時に見る紙を分けるの」


その言葉で、俺は昨日の紙を見直した。


42項目には、前に止まった理由、間違えた合図、届かなかった声、俺へ判断を戻した条件がすべて入っている。


残しておく理由はある。けれど、実習中に全部を見る理由とは同じではなかった。


「まず、全員が止まる条件を決めよう」


エリオットが新しい紙の上へ指を置いた。


ローディが言った。


「道か足場の安全を確かめられない時」


「人の位置が分からない時も」


ルシアスが続ける。


「受けた情報が食い違って、どっちが事実か確認できない時」


アステラは3つを短く書いた。


俺は紙を見ながら、火、煙、負傷、敵、荷の破損、退路の変更を考えた。


どれも危険だが、危険が起きたことだけで止まれば、何も変えられない。


「危険を見つけた時、では広すぎる」


「うん。だから、見つけた人が自分の範囲で避けられるなら動く」


エリオットは道を担当する者の欄を示した。


「僕なら、通れない道を見つけたら別の道を選ぶ。別の道も安全か分からないなら止める」


「判断する範囲を、危険の種類で分けないのか」


「担当で分けた方が少ないよ」


アステラが新しい紙を半分に区切った。


左に全員が止まる3つ、右に各担当が自分で変えてよい範囲を書く。


道と前方はエリオット、運搬と足場はローディ、魔力と火はルシアス、情報の並べ替えはアステラ。


俺の欄で、4人の手が止まった。


「レオンは、どこを担当したい?」


エリオットに聞かれ、俺はすぐには答えられなかった。


危険発見、退路、全体の位置、役割が重なった時の変更。今までならそう書いた。


けれど、それでは4人の範囲と重なる。俺が早く見つければ、また先に答えを出す。


「全体の位置を確認する」


「確認した後は?」


「必要な相手へ伝える」


「決めるのは?」


俺は右側の4つの欄を見た。


「担当している者だ」


アステラが、俺の名前の横へ『位置と変化を伝える』と書いた。


決定、変更、最終確認という字は入らなかった。


食堂の鐘が1回鳴った。窓際の席に置いたままの盆から、湯気はもう消えている。


ローディがパンを口へ入れながら、42項目の紙と新しい紙を見比べた。


「まだ多いな」


「新しい方は8つよ」


「止まるのを3つから2つにできないか?」


「人の位置が分からない時と、道の安全が分からない時は別」


「でも、どっちも確かめられない危険だろ」


ルシアスとローディが言葉を重ね、エリオットが2人の間へ紙を回した。


アステラは消した線の横へ小さく理由を書き足す。


俺も口を挟もうとしたが、何を言うか決める前に話が進んだ。


「レオン、水を取ってきてくれる?」


ルシアスが空になった杯を持ち上げた。


俺は4人の杯を受け取り、席を立った。水差しの置き場は食堂の反対側にある。


列に並び、5つの杯へ水を入れて戻るまで、長くはかからなかった。


窓際の席では、4人が新しい紙を囲んでいた。


「それなら、止まった人が一番近い担当へ理由を伝えるだけでいい」


「担当がいなければ、近くの者が一時的に持つ」


「戻ってくるまで止める、は消せるわね」


俺が席へ戻っても、4人はすぐには気づかなかった。


エリオットが指で道をなぞり、ルシアスが言葉を短くし、ローディが実際に使えるかを確かめ、アステラが順番を整えている。


俺がいなくても、紙は減っていた。


昨日まで、それを作ることが必要だった。


俺がいない間にも動けるようにしたかった。


4人だけで整理できているなら、直そうとしたことは進んでいる。


それなのに、胸の奥に細いものが残った。


俺は5つの杯を卓へ置いた。音に気づいたエリオットが顔を上げる。


「レオン、ここまで減ったよ」


新しい紙には、全員が止まる条件が2つ、各担当が自分で変えてよい範囲が5つだけ残っていた。


42項目のうち、35は実習中に見る紙から外れている。


「確認した」


「違う。見て、変えたいところがあるか聞いてる」


俺はもう一度読んだ。俺の欄は『全体の位置と変化を伝える』。


その下に、必要なら担当の判断を手伝う、と4人の誰とも違う字で書き足されている。


「これは誰が書いた」


「僕」


エリオットが答えた。


「レオンが何も決めないって意味じゃないから。聞かれたら一緒に考える」


「聞かれなければ?」


「その人が決める」


それが、判断を渡すことなのだと思う。俺が先に見つけても、先に決めない。


相手が必要とした時にだけ、一緒に考える。


分かる。紙の内容も、4人の言葉も間違っていない。


俺は変更したい箇所を探したが、見つけられなかった。


「これで試す」


アステラは紙を5等分に写し始めた。


ルシアスとローディが残った食事を急いで口へ運び、エリオットは俺の前へ冷めた皿を戻した。


「食べないと、午後に遅れるよ」


俺は頷き、パンを手に取った。4人は紙を写しながら、次に試す場面を話している。


俺が知らない案が出るたびに、新しい紙は使いやすくなっていった。


鐘が2回鳴る前に、5枚の紙が完成した。


42項目の紙は俺の(かばん)へ戻り、7つだけ残った紙は5人の手元へ分かれた。


俺の名前は、もう誰かが判断を戻す先には書かれていなかった。

お読みいただきありがとうございました!

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、画面の下(または目次ページなど)にある**【ブックマーク登録】と、【★★★★★評価】**で応援していただけると本当に嬉しいです!


感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。