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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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渡していないもの

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

朝食の盆を窓際の席へ置くと、ルシアスは椅子へ座る前に脚をさすった。


「明日は走らないからね」


「同じ内容にする必要はない」


俺が答えると、向かいのエリオットが(うなず)いた。


「それは分かった。でも、昨日の実習で僕たちが止まった理由も分かった気がする。レオンは、見てから決めるまでが僕たちよりずっと短いんだ」


ローディは杯を棚から持ってきて、水差しを4人の中央へ置いた。


「だから、お前が決めた方が早い。それで、お前もそうしてる」


否定できなかった。


左の道へ変えられると分かってから、俺が箱を動かすまで迷う時間はなかった。


3人が同じ速さで決められないなら、俺が先に決め、理由をあとから渡す方が課題は早く終わる。


ただ、それでは俺がいない間に止まる。


昨日と同じ条件にはしないため、俺は食事の横へ新しい紙を置いた。


「今日は、2人以上の役割が重なっても止めない。見つけた者同士で確認し、進めるなら進めていい」


エリオットが紙を読み、俺を見た。


「誰が最後に決めるの?」


「必要な情報が(そろ)っている者だ。揃わなければ止まる」


「それ、誰が揃ったって決めるの?」


ルシアスの問いに、俺は紙へ視線を戻した。


道、荷、記録の3つなら、それぞれの担当が返事をすれば揃う。


危険が増えた場合は全員で確認し、それでも決められなければ俺へ戻す。


その条件を書き足すと、食堂を出る鐘が鳴った。


野外基礎の集合場所には、昨日使った区画ではなく、学園の北門へ続く道に荷車が2台並んでいた。


俺たちはカレンに従い、門の外にある低い丘まで歩いた。


朝露の残る草地には細い道が3本あり、斜面の途中へ赤と青の旗が立てられている。


今日の班は、俺、エリオット、ルシアス、ローディ、それにカシアだった。


丘の上には布を巻いた人形が2体置かれ、片方の脚には赤い印、もう片方の胸には青い印がある。


入口には折り畳んだ担架、縄、木札、記録板が用意されていた。


カレンは5人の前へ黒い腕帯を置いた。


「2体の状態を確認し、安全線まで運びなさい。赤い旗の道は使用禁止です。途中で鐘が鳴った場合、黒い腕帯を渡された者は負傷したものとして扱います」


「負傷した者は、どこまで動けますか」


「歩行と作業はできません。自分から指示を出すことも禁止します。質問された内容には、見聞きした事実だけを答えて構いません」


俺は丘の3本の道を見た。中央は人1人なら通れるが、担架には狭い。


右は傾斜が緩く、左は短い代わりに乾いた草と石が多い。


2体を別々に運ぶなら、右の道を往復するより、上りと下りを分けた方が早い。


開始前の確認では、エリオットが前方の道、カシアが人形の状態と全員の動き、ルシアスが旗と記録、ローディが担架と退路を担当した。


俺は4人の報告を集め、全体の道と役割変更を決める。


「さっき言った通り、役割が重なっても止まらなくていい。必要な情報を持つ者同士で決めてくれ」


「レオンが近くにいなくても?」


カシアが聞いた。


「構わない。危険が増えた場合だけ俺へ戻す」


「分かった」


開始の笛が鳴ると、エリオットが右の道へ走った。


俺は担架の留め具を確認しながら、中央の入口にある土の色が周囲と違うことに気づいた。


靴先で軽く押すと、薄い板が沈んだ。


「中央は使わない。板の下が空いている」


ルシアスが記録板へ書き、青い木札を入口へ置こうとした。


「青は確認済みの道に使う。ここは赤だ」


俺は籠から赤い札を取り、板の手前へ置いた。


ルシアスが持っていた青い札を戻す間に、斜面の上からエリオットが手を振る。


「右は上まで通れる。途中の曲がり角も担架の幅がある」


「ローディ、右から上がる。カシアは人形を見てくれ。ルシアスはここまでの道を記録したら後ろにつく」


4人の返事を待ち、右の道へ入った。


先頭のエリオットが石を避ける位置を示し、ローディが畳んだ担架を肩へ担ぐ。


ルシアスは曲がり角ごとに歩数と傾きを書き、カシアは俺たちの足と呼吸を見ながら最後尾を進んだ。


最初の人形は右脚に赤い印があった。


カシアが膝と足首を確かめ、脚を動かさず担架へ固定する必要があると判断する。


ローディが担架を広げると、右側の布(ひも)がねじれていた。


「そのままだと締めた時に片側だけ短くなる。先に戻した方がいい」


俺が布紐を外しかけると、ローディの手が先に留め具を押さえた。


「俺がやる。担架は俺の担当だろ」


「分かった。エリオットは左の下り道を確認。ルシアスは青い印の人形の位置を記録してくれ」


ローディは布紐を直し、カシアと2人で人形を担架へ固定した。


俺は斜面の左へ移り、エリオットより先に下り道の入口を見た。


幅はあるが、乾いた草の下へ丸い石が隠れている。


「左は担架を下ろすには危険だ。帰りも右を使う」


「まだ下まで見てないよ」


エリオットが言った。


「入口で担架の前側が滑る。右なら通れることを確認している」


「分かった」


エリオットは左へ入らず、青い印の人形へ向かった。


俺とローディで担架を持ち上げ、右の道を下り始める。


カシアが前方の石と担架の傾きを伝え、ルシアスが通過した位置へ札を置いた。


最初の曲がり角を抜けたところで、鐘が鳴った。


カレンが斜面の下から上がってきて、黒い腕帯を俺へ渡した。


「ここから負傷者です」


俺は担架を地面へ下ろし、腕帯を巻いた。歩けない。作業も指示もできない。


右の道の途中には俺たちが運んでいる人形があり、丘の上にはもう1体残っている。


ローディが俺の側の持ち手を見た。


「担架は俺とエリオットで持てる。だが、エリオットは上だ」


「僕が呼んでくる」


ルシアスが上を見たが、すぐには動かなかった。


「先にこの人形を下ろす? それとも、青い方を確認してから?」


カシアは俺の顔と足元を見てから、道の上下へ視線を移した。


「レオンも歩けない。ここに残すなら、誰かが一緒にいないと人数が分かれすぎる」


3人は必要なことを見つけていた。


ローディは担架を運ぶ組み合わせ、ルシアスは運ぶ順番、カシアは残る人数を見ている。


エリオットは丘の上で、2体目までの道を確認している。


それでも、誰も動かなかった。


俺なら、今の担架を安全線まで下ろし、ローディとルシアスを残してカシアにエリオットを呼んでもらう。


俺は道の端へ移り、次の担架が通る幅を空ける。


考えた順番を口に出しかけたが、黒い腕帯が目に入った。


「レオン、右の道はこの先も通れる?」


ルシアスに聞かれ、俺は確認した事実だけを答えた。


「入口からここまでは通った。この先は上る時に確認した。担架の幅と、2人が並ぶ足場はある」


「じゃあ下ろせる。でも、誰がここに残る?」


「俺が残れば担架を持つ者が足りない」


ローディが言う。カシアは丘の上へ声を張ったが、エリオットから返事はなかった。


風向きが変わり、声が斜面の外へ流れている。


砂時計の砂が落ちる音は聞こえない。


それでも、3人が止まっている時間は分かった。


昨日の47秒と同じように、見ているものは足りている。


カシアが腰の縄を外し、道沿いの杭へ結んだ。


「私がここに残る。縄を上へ伸ばして、エリオットが戻ったら引く。ルシアスは下まで一緒に行って、記録を安全線へ渡したら戻ってきて」


「でも、僕が戻るまでレオンとカシアだけになるよ」


「2人とも今は動かさない。道も確認できてる。ローディは担架を下ろせる?」


「もう1人来ればな」


ルシアスが頷き、丘の上へ走った。


少ししてエリオットが戻り、ローディと担架を持つ。


4人は俺へ判断を求めず、最初の人形を安全線へ下ろした。


その後、エリオットとルシアスが戻り、俺を斜面の端から安全線へ運んだ。


残った人形はカシアが状態を確認し、右の道を使って最後に運ぶ。


2体の固定も木札も正しく、全員が安全線へ入った時には、制限時間を1分6秒過ぎていた。


カレンは人形の固定と記録板を確かめ、黒い腕帯を外すよう俺へ言った。


「課題は達成しています。レオンが負傷してから、最初の担架が動き出すまでに58秒かかりました」


「俺が判断を持ったままにしたからです」


「今朝、条件を変えたんでしょう」


ルシアスが記録板を見せた。見つけた者同士で確認し、必要な情報が揃えば進める。


俺が書いた行が残っている。


「4人には、自分で決めていいと伝えました」


カシアが俺の紙を受け取り、上から順に読んだ。


道の危険、札の色、進む順番、担架の紐、下りに使う道。


実習が始まってから決めたことは、そのほとんどが俺の言葉で記録されている。


「決めていいって言っただけだよ」


「範囲も渡した。必要な情報を持つ者同士で決めるようにした」


「でも、誰かが見る前にレオンが見つけて、考える前にレオンが答えを言ってた」


カシアは、俺が赤い札を置いた中央の入口を指した。


「ルシアスが札を選ぶ前に色を決めた。エリオットが左を調べる前に帰り道を決めた。ローディが紐を直す前にやり方を言った」


どれも間違った判断ではない。


中央の板は沈み、左の下り道には丸い石が隠れていた。


布紐もねじれたまま締めれば、人形の脚を固定できなかった。


「危険を残さないために必要だった」


「うん。レオンがやった方が早かった」


カシアは紙を返した。


「でも、それは任せたんじゃない。私たちの代わりに決めただけ」


反論する言葉が出なかった。


カレンは俺たちへ、開始地点まで道具を戻すよう指示した。


答えも、次の条件も言わない。


ローディが担架を畳み、ルシアスが木札を数え、エリオットが人形の布紐をまとめる。


俺は黒い腕帯を籠へ戻した。動けなくなったあと、4人は課題を終えた。


けれど、最初の58秒に4人が集めていたものは、俺が戻るのを待った昨日とほとんど変わらなかった。


帰りの荷車で、カシアの言葉を予定帳の空いた欄へ書いた。


任せたのではなく、代わりに決めただけ。


その下へ何を直すかは、まだ書けなかった。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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