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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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短い方の朝

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

夕食から戻ったあと、俺は机へ紙を広げた。


47秒の遅れ。白い旗から入口までの往復。


赤い旗が上がってから3人が確認を終えるまでの時間。


俺が戻って左の道を選び、箱を持ち上げるまでの時間。


分けて書いても、カレンが指した場所は変わらなかった。


「3人が情報を持っていて、判断だけを持っていなかった」


声に出すと、エリオットが隣の椅子へ座った。


「レオンは、あの場所を見てすぐ決めたよね」


「道の幅と段差は確認できていた。迷う理由はなかった」


「僕たちも同じものを見てた。でも、レオンほど早く決められなかった」


ローディが壁へ立てた盾の革(ひも)を確かめながら、こちらを見た。


「お前、普段から何をやってるんだ。授業の実習だけで、そうなったわけじゃないだろ」


「朝に走って、剣と魔力操作をしている。夜は記録を整理する」


「それだけ?」


ルシアスに聞かれ、俺は予定帳を開いた。


起床、身体確認、走行、足運び、剣、魔力操作、朝食、授業前の復習。


項目ごとの開始時刻と終了条件を見せる。


3人は同じ頁をしばらく見ていた。


「明日の朝、一緒にやる?」


エリオットが言った。


「構わない。ただ、授業があるから短い日だ」


翌朝、起床の鐘が鳴るより前に目を開けた。


寝台から起き上がる前に、呼吸を5回繰り返す。胸と腹に痛みはない。


右腕、左腕、指、足首、膝を順に動かし、昨日の疲労が残っていないことを確かめる。


脈を数え、左右の脚へ力を入れた時の違いも見る。


「もう始まってるの?」


隣の寝台から、眠そうなルシアスの声がした。


「身体確認は訓練の前に必要だ」


俺は予定帳へ短い線を引いた。異常なし。朝の内容は変更しない。


3人も着替え、まだ人の少ない外周走路へ向かった。


空は薄暗く、校舎の屋根の向こうだけが赤くなっている。


走路は学生寮、実習棟、北の訓練場、資料棟の外側を大きく回り、途中に石畳、土、2つの坂がある。


「何周するの?」


エリオットが聞いた。


「12周」


「短い日で?」


「いつもより剣を減らす。走る速さも上げない」


ローディが走路の先を見た。


1周すれば、寮から見えていた建物をほとんど回ることになる。


「盾は置いてきて正解だったな」


俺は足首を回し、最初の目印へ立った。


「最初の2周は呼吸と姿勢。3周目から左手へ魔力を流す。5周目から水を維持する。色の付いた杭は位置と数を覚える。最後の2周は最初と同じ歩幅へ戻す」


「全部、走りながら?」


「止まったら並行する練習にならない」


俺たちは走り始めた。


最初はエリオットが横へ並び、ローディとルシアスが少し後ろについた。


速く走る必要はない。


呼吸4回で一定の歩数を進み、石畳へ移る場所で足を置く角度を変える。


坂へ入っても歩幅を急に狭めず、身体をわずかに前へ倒す。


1周目を終えても止まらない。


「準備運動は、ここまでじゃないの?」


ルシアスが後ろから聞いた。


「身体は温まった。ここから流れを増やす」


2周目の坂でローディの足音が離れ始めた。


ローディは速度を落としたが、呼吸を崩さず走り続けている。


自分の維持できる速さへ変えたらしい。


3周目に入る。腹の奥から胸、肩、左腕、指先へ細く魔力を通す。


足が地面へ触れるたびに流れが揺れるが、止めずに細いまま戻す。


ルシアスも左手へ魔力を集めた。


最初の角までは保っていたが、石畳から土へ変わる段差で流れが大きくなった。


「足を見たら、手の方が増えた」


「増えた分を止める。全部消さなくていい」


「走りながら言うことじゃないよ」


それでも、ルシアスは速度を落として流れを作り直した。


外へ出す量なら俺より多い。


けれど、弱いまま走る動作へ重ねると、呼吸の変化まで魔力へ伝わっている。


5周目、俺は腰の小瓶から水を1滴だけ左の(てのひら)へ落とした。


魔力で薄く包み、指から少し浮かせる。走路の風を受けて水滴が揺れた。


「それも維持するの?」


エリオットが横目で見た。


「形が崩れたら、走るのを止めずに戻す」


右へ曲がる。水滴は左へ伸びたが、散る前に魔力の流れを弱め、丸い形へ戻した。


坂では腕の振りを小さくし、平地へ出たら元へ戻す。


エリオットは6周目まで同じ位置にいた。


剣を持たず、走ることだけなら速度はほとんど変わらない。


ただ、2つ目の坂を越えたあと、呼吸の間が短くなった。


「まだ上げないの?」


「最初から変えていない」


「それが変だって言ってるんだよ」


エリオットは笑ったが、7周目の入口で速度を落とした。


歩きにはならず、俺より後ろで自分の呼吸へ合わせて走り続ける。


俺は色杭を数えた。


北の訓練場に赤が2本、資料棟の角に青が1本、寮の裏に黄が3本。


前の周で青い杭の隣にあった木箱がなくなっている。


作業員が移動させたところは見ていないため、なくなったことだけを覚える。


8周目、左の水滴を保ったまま、指先へ流す魔力を半分にする。


呼吸、歩幅、足音、周囲の学生、荷車、開いた扉を順に確認する。


見えない曲がり角の先は、前の周の情報だけで空いているとは考えない。


坂の途中で水滴が2つに割れた。速度を変えず、左手の流れを中央へ寄せる。


小さい方が指へ触れたため、無理に戻さず小瓶へ落とし、大きい方だけを維持した。


「失敗したのに続けるのか」


後ろから追いついたローディが言った。


「1滴を保つ課題は失敗した。走行と再接続は続けられる」


「分けるのか」


「全部やり直すと、疲れた時の修正にならない」


10周目を終えたところで、ルシアスは走路の外へ出た。


呼吸を整えながら、俺の足元を見ている。


「最初と足音が同じだ」


ローディも立ち止まり、寮の壁へ手をついた。


「坂でも間が変わってない。何周目から疲れてる?」


「6周目から脚は重くなっている」


「重くなって、それなのか」


疲労がないわけではない。


膝を上げる高さを少し下げ、後ろへ流れていた足を身体の真下へ戻している。


腕の振りも最初より小さい。


ただし、歩幅と足を置く間隔は予定した範囲から外していない。


最後の2周は、水滴を小瓶へ戻した。


魔力は左腕へ細く流したまま、1周目の呼吸と歩幅を再現する。


速くするのではなく、崩れた部分を最初の形へ近づける。


12周目の目印を越え、俺は決めた場所で速度を落とした。追加では走らない。


歩きながら呼吸を整え、脈、膝、足首、左右の脚の張りを確認する。


エリオットが俺の最初の記録と、今の走りを見比べた。


「最後まで、ほとんど同じだった」


「最後は腕の振りが小さくなった。水滴も1度割れた」


「そういう話じゃないよ」


ルシアスが地面へ座りかけ、途中で思い直して立ったまま呼吸を整えた。


「走って、魔力を流して、水を浮かせて、杭を覚えてた。それで失敗した場所まで分けてる」


「毎日同じではない。今日は授業があるから短い」


3人が同時に黙った。


寮へ戻ると、俺は水を飲み、朝食までの時間を確認した。予定より遅れていない。


剣の型は半分に減らし、足運びと魔力をつなぐ反復だけを行う。


木剣を取ろうとすると、エリオットが柄を押さえた。


「まだやるの?」


「走行のあとに動作をつなぐところまでが朝の日課だ」


「僕は見てる」


「俺もだ」


ローディは椅子へ座り、ルシアスは俺の予定帳を開いた。


3人が見ている前で、俺は低速の足運びから木剣を振る。


左足を置く間に魔力を腕へ通し、剣が止まる前に次の位置へ移る。


速さより、走ったあとの身体でも順番を崩さないことを確かめる。


決めた回数で木剣を下ろした。痛みなし。魔力の乱れは2回。水滴の分離は1回。


色杭は赤2本、青1本、黄3本。青い杭の横の木箱は移動理由を未確認。


予定帳へ書き終えると、起床の鐘が鳴った。


食堂へ向かう途中、エリオットが聞いた。


「これを何年続けてるの?」


「内容は変わっている。走りながら魔力を保つようになったのは最近だ。走ることと剣の反復は、もっと前から続けている」


「僕たちが昨日見つけた道を、レオンだけすぐ決められた理由が少し分かった」


「同じように繰り返せば、3人も速くなる」


俺が答えると、ルシアスは予定帳を返しながら首を振った。


「速くなるとは思う。でも、明日から同じにはならないよ」


窓際の4人席には、まだ誰も座っていなかった。


俺はいつもの場所へ盆を置き、朝の記録をもう一度見た。


12周のうち、水滴が割れたのは1度だけだった。


昨日の47秒より、直す場所は少ない。


けれど、3人が見ていたのは、俺が失敗した1度ではなかった。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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