埋めた空欄
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それでは、どうぞお楽しみください。
翌朝、ルシアスの帳面には、昨日空いたままだった欄が残っていた。
白い杭から左奥の岩まで14歩。途中で風は右から左へ変化。青い布は岩の北側へ張りついた。
俺が覚えている内容を読み上げると、ルシアスは順番に書き込んだ。最後の行まで埋まると、帳面を持ち上げて文字の間隔を確かめる。
「これで提出できる」
「位置も条件も合っている」
「うん。でも、僕はその途中を見てないんだよね」
「俺が見た。班の記録なら、誰が見ても同じだ」
ルシアスは少し考え、行の端へ小さく俺の名前を書いた。
朝食後、4人で野外基礎の教室へ向かった。机の上には、昨日の記録を清書するための紙と、今日の実習区画を示す簡単な図が置かれている。
図には東西2本の道と、中央を横切る細い溝があった。救助対象はなく、3つの荷を指定された場所へ運ぶ課題らしい。道の幅や地面の状態は書かれていない。
カレン・フェルは全員が席に着くのを待ち、黒板へ3つの条件を書いた。
「割れ物は傾けない。赤い杭の内側へ入らない。警告の鐘が鳴った場合は、全員が位置を確認するまで荷を動かさない」
机の端には、木箱、細長い筒、蓋のない籠を示す札が並んでいる。
「運ぶ順番と役割は班で決めなさい。開始後、道の状態と荷の置き場所を変更します」
俺は昨日の紙を裏返し、3人の役割を書いた。エリオットは前方の道、ルシアスは荷と変更内容の記録、ローディは荷の保持と停止。俺は全体を見て、空いた役割へ入る。
「細い筒は僕が持つよ」
エリオットが札を取った。
「長いから、曲がり角の前を見ながら運べる」
「木箱は俺だな。重い方が止まりやすい」
ローディが木箱の札を選ぶ。残った籠をルシアスが持つことになった。
「最初に木箱を西の台へ運ぶ。次に筒を東。籠は最後だ」
「どうして木箱から?」
ルシアスが聞いた。
「道が変わる前に重い物を置いた方がいい。軽い物は後でも動かせる」
答えながら、紙へ順番を書いた。3人が頷いたため、そのまま実習区画へ向かった。
区画には腰の高さの板壁が並び、入口から左右の道が見えた。西は広いが途中に浅い坂がある。東は平らだが、曲がり角が2つあり、その先は見えない。中央の溝には短い板が1枚渡されていた。
開始の笛が鳴る。
ローディが木箱を抱え、俺が前を歩いた。エリオットは西の坂の上まで進み、足元を確かめる。ルシアスは入口で出発時刻と荷の順番を帳面へ書いた。
「坂の左側は硬い。右は少し沈む」
エリオットの報告を聞き、俺は左を指した。
「左を通る。ローディ、箱の右側を少し上げてくれ」
俺が反対側へ手を添える前に、ローディが箱を持ち直す。坂を越え、西の台へ木箱を置いた。
戻る途中で短い鐘が鳴った。
俺たちはその場で止まり、互いの位置を確認した。入口の札が裏返され、細長い筒の置き場所が東から中央へ変わる。さらに、西の坂に赤い杭が2本立てられた。
「西はもう使えない。筒を中央へ運ぶ」
エリオットが入口へ戻り、細長い筒を持ち上げる。中央の溝へ渡された板は、筒を持ったまま2人で並ぶには狭かった。
「僕が先に渡って、向こうから受け取る」
エリオットが言った。
俺は板と溝の縁を見た。板は中央より少し右へ寄り、向こう岸には乾いた土が崩れている。
「先に行くのは俺だ。向こう側の板を押さえる。エリオットは筒を水平にして渡せ」
「向こうから見た方がいい?」
「板がずれたら筒を落とす。俺なら渡りながらでも端を見られる」
俺は板を渡り、反対側へ足を置いた。板の端を靴で押さえ、エリオットから筒を受け取る。途中で左端が少し浮いたが、体重を移して戻した。
筒を中央の台へ置くまで、動きは止まらなかった。
ルシアスが帳面を開いたまま近づいてくる。
「板が浮いた場所を記録したい。どっち側だった?」
「入口から見て左。端から手の幅1つ分だ」
「待って。今の位置からだと、僕の右?」
「あとで図へ書く。先に籠を運ぶ」
俺は入口へ戻り、蓋のない籠を持ち上げた。中には木製の球が6個入っている。傾ければこぼれるため、平らな東の道を使うのが早い。
「ルシアスは記録を続けてくれ。ローディは東の曲がり角を見て、エリオットは後ろから球を押さえる」
3人が動く。最初の曲がり角は広かったが、2つ目には低い横木が追加されていた。籠を持ったままでは下を通れない。
ローディが横木の留め具を見た。
「外せそうだ。戻せばいいか?」
「課題の道具を動かしていいとは言われていない。外さない」
俺は周囲を見る。曲がり角の手前に、中央へ戻る細い通路がある。籠1つなら通る幅だが、人が両側へ立つ余裕はない。
「俺が籠を押す。エリオットは反対側から受け取ってくれ」
「球が転がるよ」
「ローディが入口側を支える。ルシアスは向こうへ回って、籠の傾きを見てくれ」
俺が籠を通路へ入れると、底が左右の壁へ触れた。ローディが後ろから水平を保ち、エリオットが正面から少しずつ引く。向こう側へ回ったルシアスが、右が下がっていると声を上げた。
「止める。左を上げる」
俺が籠の左下へ指を入れた。木の球は1つもこぼれず、籠は通路を抜けた。
そのまま東の台へ運び、最後の荷を置く。カレンは砂時計を止め、木箱、筒、籠の状態を順に確かめた。
「破損なし。木球も6個あります。警告後の停止と位置確認もできています」
ローディが横木を振り返った。
「外さなくて正解だったか?」
「外しても規則違反ではありません」
カレンは横木の留め具へ触れた。
「元へ戻せることを確認し、班で合意していたなら、外す方法もありました」
俺は横木を見る。外す時間と戻す時間を考えれば、細い通路を使った方が早い。結果も成立している。
「この方法の方が早かったです」
「そうですね。時間は昨日に続いて最短です」
カレンは評価票へ線を引いたあと、3人へ順に目を向けた。
「エリオット。中央の板を渡る前、何を確認しましたか」
「幅と、向こう側の土です。レオンが先に渡ると言ったので、筒を持ちました」
「ルシアス。板のどちら側が浮きましたか」
ルシアスは帳面を見た。
「入口から見て左です。僕の位置からどちらだったかは、まだ書けていません」
「ローディ。横木を外さず戻った理由は?」
「レオンが外さないと言ったからだ。留め具が戻せるかは、まだ触ってない」
3人の答えは間違っていなかった。俺が確認したことも、決めたことも、全部課題の中に残っている。
カレンは評価票を閉じた。
「結果は正しいです。記録を清書して提出しなさい」
放課後、俺たちは備品庫で使った木札と紐を返した。棚の前でルシアスが帳面を開き、中央の板と東の横木を図へ加える。
「板の浮いたところは、ここだ」
俺が指すと、ルシアスはその位置へ印を付けた。ローディは返却する紐を束ね、エリオットは木札の枚数を数えている。
「横木の留め具、どんな形だった?」
ルシアスに聞かれ、俺は思い出そうとした。ローディが触れる前に止めたため、外し方までは見ていない。
「輪に棒を通していた。戻せるかは確認していない」
「じゃあ、未確認でいいね」
ルシアスは空欄を埋めず、その下へ小さく書いた。
「外さないと決めた者――レオン」
俺の名前の横だけ、文字が増えていた。昨日の記録と同じように、見た者と決めた者を分けたらしい。
備品を返し終えると、ローディが食堂へ行こうと声をかけた。エリオットは数え終えた木札を棚へ戻し、ルシアスは空欄の残った帳面を閉じる。
俺は提出用の紙を持った。時間は最短で、結果は正しい。空いている箇所も、俺が覚えていることならあとで埋められる。
4人で廊下を歩きながら、俺は明日の役割を考え始めた。
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