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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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先に決めた道

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

翌朝、俺は昨日の紙を開いた。長い笛を1回、旗の色、近くにいる人が決めてよい範囲。そこまでは残したが、下の空欄には新しい文字が増えていた。


「変更が必要な場合は、俺へ戻す」


書いたあとで、昨日の3人の動きを思い出した。エリオットは俺へ戻さず横道を選び、ルシアスは板の下を確かめ、ローディは盾を通せる道へ箱を回した。それでも課題は終わっている。


俺はその3つを消す代わりに、紙の端へ役割を書き足した。エリオットは前方の確認、ルシアスは道具と記録、ローディは退路の維持。俺は全体の変更を決める。


書き終えたところで、エリオットが椅子の背へ手を置いた。


「今日も野外基礎だよ。紙、使うの?」


「使う。昨日より分かりやすくした」


エリオットは紙を見て、前方確認の文字を指でなぞった。


「見つけたことは、どこまで変えていい?」


「危険があれば止まる。道を変えるときは、俺へ伝える」


「伝わらないときは?」


俺は答える前に、紙の中央を見た。昨日なら、そこで空欄を埋めていた。


「近くにいる人が、止まるか進むかを決めていい」


「昨日と同じだね」


「ただし、全体の道は俺が決める」


エリオットは一度だけ頷いた。納得したのか、まだ確かめているのかは分からなかった。


野外基礎の集合場所は、学園の外壁から少し離れた低い丘だった。木の杭で区切られた範囲には乾いた草が広がり、ところどころに腰の高さほどの岩が出ている。風は一定ではなく、丘の上から下へ流れたあと、斜面の途中で横へ逃げていた。


カレン・フェルは地面へ白い布を敷き、その上に木製の担架を置いた。


「範囲内に、青い標識が2つと、救助対象を示す白い布があります。白い布の下には人形が1体。標識を確認し、人形を担架へ乗せ、全員で安全線まで戻りなさい」


彼女は丘の向こうを指した。草が高く、入口からは奥の地面が見えない。


「途中で風向きと旗の色を変えます。赤い旗の側は通行禁止。青い旗の側は通行可能です。救助対象を引きずってはいけません」


俺たちは入口へ並んだ。昨日のようにレオンだけが外へ残ることはない。けれど、今度は俺が最初の配置を決める役になっていた。


「エリオットは先に入って、青い標識を探す。見つけたら、その場から動かずに位置を知らせてくれ。ルシアスは中央を通って、白い布を探す。ローディは最後尾で担架を持つ。俺は中央で全体を見る」


「標識を見つけたあと、別の道が安全そうだったら?」


エリオットが聞いた。


「俺が決める。旗が変わったら、いったん止まる」


「分かった」


開始の笛が鳴った。エリオットが右の草むらへ入り、ルシアスが中央の低い斜面へ向かう。ローディは担架を片手で持ち上げ、俺の後ろへついた。俺は3人の位置を見ながら、草の倒れ方と岩の並びを確認する。


右側には、草の先端だけが同じ方向へ折れていた。エリオットが進んだ道の先に、人が通った跡がある。中央の斜面は風が抜ける場所だけ草が短く、白い布が見えにくい。俺はルシアスへ手を上げ、少し左へ寄るよう伝えた。


「そこから3歩、左。岩の裏を見てくれ」


ルシアスが岩の裏へ回る。白い布は見つからなかったが、斜面の下に細い溝があった。人形を置くには浅すぎる。俺が戻るよう伝える前に、ルシアスは溝の先へ視線を向けた。


「向こうに草が倒れてる。行ってみる」


「待て。エリオットの位置を確認する」


俺は右へ向かい、声が届く場所まで進んだ。


「エリオット、見つけたか」


「青い標識はあった。けど、そこから先は道が2つある。左は広い。右は短いけど、草が深い」


俺は丘の形を見た。左は遠回りになるが、担架を運べる幅がある。右は短いものの、途中で地面が沈んでいるように見えた。


「左を使う。標識の位置を覚えて、戻ってくれ」


エリオットは返事をして戻ってきた。入口から見た左ではなく、エリオットが進んできた向きを基準にした左だったが、今回は位置を直接確認できた。俺は紙へ書いた条件を使いながらも、最後の道は自分で選んだ。


2つ目の標識は中央の奥にあった。ルシアスが先に見つけ、地面へ置かれた白い石の横を指で示す。俺は全員を近くへ集め、標識を確認してから白い布を探す方向を変えた。


そのとき、丘の上の赤い旗が上がった。右側の草むらが通行禁止になる。エリオットのいる位置から安全線へ戻るには、中央を横切る必要があるが、中央には担架を持つローディがいる。


「エリオットはその場で止まれ。ローディ、担架を中央へ置く。ルシアスは左の斜面を見てくれ」


3人は指示どおりに動いた。俺は赤い旗の位置と、青い旗が残っている左側の道を見比べる。白い布はまだ見つかっていない。戻れば入口へ近いが、救助対象を残すことになる。


ルシアスが左の岩陰で手を上げた。


「白い布がある。人形の足が岩に引っかかっている」


俺は担架を持ってルシアスのところへ向かい、ローディを反対側へ回した。岩陰は狭く、担架を正面から入れられない。ローディが盾を外し、地面へ置く。


「俺が足を支える。レオンは頭側を持てるか」


「エリオット、入口側の草を押さえてくれ。ルシアスは人形の周囲にある石をどかす」


「分かった」


エリオットが草を押さえ、ルシアスが小さな石を拾う。俺とローディで人形の肩と脚を持ち上げ、担架へ移した。持ち上げる順番は俺が決めたが、ローディは俺の合図を待たず、地面が沈んだ側の足を避けて位置を変えた。


「そっちは崩れそうだ」


「分かった。頭側を少し左へ」


俺は担架を持ち直した。ローディが先に見つけた足場へ合わせることで、人形の身体が傾かずに済む。


帰路は左の道を使った。先頭をエリオット、担架の前を俺とローディ、後ろをルシアスが歩く。赤い旗が上がった場所を避けるため、丘の端を回る。途中で草が横へ倒れ、風が一度だけ強くなったが、担架へかかるほどではなかった。


「止まる?」


ルシアスが聞いた。


俺は風の向きと草の揺れを見てから首を振った。


「進める。足場だけ確認する」


エリオットが先に岩の間を確かめ、ローディが担架の前を少し上げる。3人の動きを見ながら、俺は安全線までの距離を数えた。


全員が線の外へ出ると、カレンは人形の固定具を確認した。白い布は破れておらず、標識も2つとも正しく報告されている。


「救助対象の扱い、通行禁止への対応、帰還経路。すべて問題ありません」


俺は丘を振り返った。開始前に決めた右、中央、最後尾の配置は、旗が変わったあとに崩れている。けれど、前方の確認、足場の変更、石の除去、担架の持ち方は、それぞれが担当した範囲で動いていた。


「昨日より、早かったですか」


「時間だけなら、そうです」


カレンは評価票へ書き込みながら答えた。


「ただし、全員があなたの指示を待っていた時間もありました」


俺は3人を見る。エリオットは最初の標識を見つけたあと、俺が道を選ぶまで動かなかった。ルシアスも白い布を見つけたあと、俺が向きを決めるのを待っていた。ローディが足場を変えたのは、担架を持つ自分の範囲だったからだ。


「それでも、役割は渡せています」


「そうですね」


カレンは否定しなかった。


「次は、役割を渡した相手が何を見て、どこまで変えてよいかを考えなさい」


帰り道、俺は聞かれた言葉を繰り返した。昨日は、自分とは違う判断で結果が成立することを見た。今日は、結果へ着くまでの一部を任せた。それでも、全体の道と旗が変わったあとの進路は、俺が決めていた。


寮へ戻ると、机の上に昨日の紙が残っていた。俺は新しい行を加えた。


「任せる理由」


エリオットの前方確認。ルシアスの細かな記録。ローディの足場と停止。書き出してから、それぞれの下に「変更できる範囲」と続けた。


「明日は、最初からここまで決めておく?」


ルシアスが後ろから紙を見た。


「決めておいた方が、迷わない」


「決められた方が、迷うこともあるよ」


ルシアスはそう言って、自分の買った薄い帳面を机へ置いた。表紙には、昨日の実習で付いた土がまだ残っている。


夕食の鐘が鳴る。エリオットが扉のところで待ち、ローディは先に窓際の席へ行くと言った。俺は紙を閉じる前に、最後の行へ「レオンが変更を決める」と書きかけた。


けれど、そこへ線を引くことはできなかった。

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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