残した判断
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それでは、どうぞお楽しみください。
翌朝、俺は昨夜の紙を机へ広げた。アステラがまとめた停止の条件を残し、ローディが太線で囲んだ長い笛を1回だけ書く。右と左の合図は消したが、空いた場所には別の問題が残っていた。
「旗を見て、通れる方へ進む。これだけでいいんじゃない?」
エリオットが紙を覗き込み、赤と青の札を端へ寄せた。赤い旗の通路は使わず、青い旗の通路は使う。それなら、入口から見た右か、進んできた向きの右かを決める必要はない。
「道が2つとも青かったら、どっちへ行く」
「近い方。近さが同じなら、先に見つけた方でいい」
「先に見つけた人が、全員へ伝えるのか」
ルシアスが聞くと、エリオットは少し考えてから首を横に振った。
「伝える。でも、伝わらないなら、その場で見えている人が決める」
俺は筆先を止めた。決める人を最初から置かない。伝わらない場合の代わりを指定しない。昨日までなら、そこへ条件を足していた。
「止まるのは、長い音を1回。旗が変わったときも、聞こえた人は止まる。それ以外は、見えている範囲で進む」
ローディが紙を指で押さえた。
「俺が盾で通路を塞いだら、俺は動かない。後ろを通すか、別の道へ変えるかは、近くにいるやつが決めていいか」
「……いい」
返事をしてから、俺はその言葉を紙へ書いた。ローディが止まる条件だけではなく、止まったあとに別の人間が変えてよい範囲まで残す。けれど、何を基準に変えるかは書かなかった。
野外基礎の開始前、カレン・フェルは実習区画の前に4つの木箱を並べた。箱には赤、青、黄、白の布が結ばれ、壁の奥には同じ色の台が置かれている。入口から出口までの通路は3本に分かれ、中央の道だけが途中で狭くなっていた。
「4つの箱を、それぞれ同じ色の台へ運びなさい。箱は1人で持っても、2人で持っても構いません。旗の色は途中で変えます」
カレンは俺たち4人を見たあと、俺の前へ白い札を置いた。
「レオンは入口の外で記録をしなさい。開始後、区画へ入ってはいけません」
「班は3人で動くんですか」
「そうです。今日の課題で、あなたは班員へ指示を出せません」
俺は紙を握り直した。3人へ伝えるはずだった役割も、変更条件も、まだ入口の外にある。エリオット、ルシアス、ローディは箱を見てから、俺ではなく互いに向き直った。
開始の笛が鳴る。エリオットが赤と青の箱をまとめて持ち、ルシアスが黄色、ローディが白を受け取った。大盾を背負ったままでは狭い中央の道を通れないため、ローディは白い箱を胸へ抱え、左の通路へ入る。俺なら最初に箱を分け、ローディを広い道へ置いていた。
3人は入口から見て右、中央、左へ分かれた。エリオットは赤の箱を右の道へ運び、ルシアスは黄色の箱を中央の狭い道へ進める。ローディは左の角で足を止め、壁へ掛かった青い旗を確認した。
カレンが短い笛を鳴らし、右奥の旗を赤へ変えた。続けて中央の旗が白へ変わる。俺は長い音が鳴るのを待ったが、カレンは笛を吹かなかった。
エリオットは赤の旗の前で止まり、持っていた赤い箱を地面へ置いた。ルシアスも白い旗の手前で足を止める。ローディだけが、左の青い旗を見たあと、白い箱を抱えたまま先へ進んだ。
「ローディ、止まらないのか」
俺の声は区画の中へ届かない。ローディは左の台へ白い箱を置き、戻る途中で青い布の掛かった箱を拾った。右の道が使えず、中央も旗が変わったなら、左を通れる箱から運ぶつもりらしい。
エリオットは赤い箱を抱え直し、右の手前にある細い横道へ入った。入口からは見えない道だ。俺なら旗が変わったあと、全員を止めてから別の進路を探す。エリオットは一度だけ奥を見て、赤い箱を持ったまま進んだ。
ルシアスは中央の前で待たず、白い旗の脇にある低い板を指で押した。板の下には、人が1人だけ通れる隙間がある。黄色の箱を置き、両手を空けてから板を持ち上げる。魔法を使わず、先に通路を確かめるための動きだった。
ローディが戻ってきた。青い箱を左の台へ置く代わりに、黄色の箱を持ち上げたルシアスへ近づく。盾を背負ったままでは板の下を通れないため、ローディは中央へ入らず、左の広い通路から奥へ回ることを手で示した。
ルシアスは一度だけ中央の隙間を見たあと、黄色の箱をローディへ渡した。自分は白い旗の前に残り、旗が戻るかを確認する。ローディは黄色の箱と青い箱を順番に運び、左の台へ置いた。
エリオットが右奥から戻ってくる。赤い箱は台へ置けたが、出口へ続く道が途中で塞がれているらしい。彼は手のひらを下へ向け、3人を止める合図を出した。笛は鳴っていない。それでも、近くにいたローディが足を止め、エリオットの指した板壁を見る。
壁の下には、箱だけなら通せる隙間があった。エリオットは赤い箱を先に滑らせ、反対側から引き寄せる。ローディが盾の縁で隙間を広げようとしたが、板が軋んだため、すぐに手を離した。代わりにルシアスが周囲の杭を確認し、崩れない方へ箱を回す。
3人は、俺が考えていた順番とは違う動きを続けた。誰かが全体の指示を出しているわけではない。見えたものを近くの相手へ渡し、持っている箱と通れる道をその場で組み替えている。
最後に、白い箱が出口へ運ばれた。3人全員が区画の外へ出るまでの時間は、昨日より短かった。箱の色と台はすべて合っている。
カレンは評価票へ記入し、俺へ白い札を返した。
「箱の選択、通路の変更、全員の退出。正しいです」
俺は区画の中を見た。最初に決めた配置は途中で崩れている。けれど、箱は4つとも台に置かれ、3人は誰かを待ち続けることなく出口へ着いた。
「俺が中にいたら、赤い旗へ変わった時点で全員を止めて、左の道へ運び直していました」
「それでも達成できたでしょう」
「はい。ただ、もっと時間がかかります」
カレンは評価票から顔を上げた。
「あなたがいない班は、あなたの方法を使いませんでした」
3人を見る。エリオットは赤い箱を置いた場所を指で示し、ルシアスは低い板の下へ手を入れた形を再現し、ローディは盾を背負ったまま通れる道を確かめていた。
「違う方法でも、結果は成立する」
口に出すと、思ったより重かった。任せた相手が俺の決めた通りに動くなら、失敗しても直す場所は分かる。けれど、別の判断で正しい結果へ着いた場合、俺は何を確認すればいいのか分からない。
放課後、寮の机へ紙を広げた。昨日まで並んでいた笛の種類は消え、残ったのは長い音を1回、旗の色、停止後に近くの人が決めてよいという3つだけだった。
俺は紙の中央へ「誰が決めるか」と書き、ペン先を止めた。
そこを埋めれば、また俺が決めることになる。空けたままでは、次に何をしてよいか分からない人が出るかもしれない。
夕食の時間を知らせる鐘が鳴った。エリオットが机の横を通り、扉の方を顎で示す。
「行かないの? 今日は窓際の席、空けてあるよ」
俺は紙を伏せた。空欄は消えないままだったが、机の上へ置いたままにして、3人の後を追った。
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