増やした合図
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それでは、どうぞお楽しみください。
資料室で本を返したあと、エリオットとは中庭の端にある練習区画へ向かった。借りられた木剣は2本だけで、俺たちは1本ずつ持ち、先にエリオットが試したい動きを3回、そのあと俺が確かめたい受け方を3回と決めた。
エリオットは踏み込む直前、剣先をわずかに下げた。俺が上から来ると見て木剣を上げると、刃は外側から手首へ回る。2回目は同じ動きから肩を狙い、3回目は踏み込みだけを見せて止まった。
「最初に決めた形と違う」
「レオンが同じ受け方をしなかったからね。僕も変えた」
俺は最初の3回を終えたあとも、エリオットがどこまで変えてよいかを決めていなかったことに気づいた。けれど、エリオットは俺の指示を待たず、自分の剣が届く形へ変えていた。
練習を終えると、今度はルシアスと筆記具の店へ向かった。棚には同じ値段の帳面が4種類並び、紙の厚さも綴じ方も違う。俺は普段使っているものに近い帳面を選んだが、ルシアスは一番薄い紙を指で持ち上げた。
「魔法陣の下書きなら、これでもいいと思う。でも、何度も消すと破れそうだ」
「残す記録と、試すだけの記録で分ければいい」
「じゃあ、薄い方を2冊と、厚い方を1冊にする」
予定表には、筆記具を買うとしか書いていなかった。店で何を選ぶかまで俺が決めなくても、ルシアスは用途を分けて選べる。
寮へ戻ったころには、ローディが盾の革紐を付け替え終えていた。机の中央には、訓練場から持ち帰った紙が広げられている。3色の札と5つの笛の鳴らし方に加え、ローディの字で2つの注意が書き足されていた。
「盾を前に出しているときは、札を壁に掛ける。笛が聞こえなかったときは、その場で止まる。これでいいか」
「見えない場所で止まったままなら、確認に行く合図もいる」
俺は短い音を3回鳴らした場合を、確認に向かう合図として加えた。エリオットは木剣を棚へ戻しながら、紙の空いている場所を見る。
「右と左は、誰から見た向き?」
俺は筆を止めた。通路の向きが違えば、同じ右でも進む先が変わる。
「入口から見た向きに統一する。入口が見えない場合は、進んできた方向を後ろにする」
「途中で向きを変えたら?」
「曲がる前の向きを基準にする」
条件を1つ足すと、その条件が使えない場合が出た。俺たちは消灯の鐘が鳴るまで紙へ書き足し、最後には笛が7種類、札の出し方が4種類になった。
翌朝の野外基礎では、昨日と同じ実習区画の壁が一部だけ外されていた。入口から出口までは見えないが、板壁の上には赤と青の小旗が立ち、通路の途中に空の籠が3つ置かれている。
カレン・フェルは入口の台へ、同じ大きさの木片を12個並べた。
「木片を4個ずつ3つの籠へ入れ、全員が出口へ移動しなさい。途中で旗の色を変えます。赤い旗の通路は使えません。青い旗の通路は使えます。開始前の確認は3分です」
俺たちは昨日の紙を開いた。最初に笛の長い音と短い音を確認し、次に札の色、向きの基準、聞こえなかった場合、見えなかった場合を読み上げる。ローディが盾を持つときの札の掛け方まで進んだところで、カレンが砂時計を伏せた。
「確認時間は終了です。始めなさい」
木片を誰がどの籠へ運ぶかは、まだ決めていなかった。
「俺とローディが左。エリオットが右。ルシアスは中央へ4個運んでから、空いた方を手伝ってくれ」
俺が急いで決め、4人で木片を取った。最初の籠までは問題なく運べたが、カレンが中央の旗を赤へ、右奥の旗を青へ替えると、ルシアスが分かれ道で止まった。
俺は短く1回、笛を鳴らした。右へ進む合図だ。ルシアスは右を見たあと、入口側へ戻ってくる。
「入口から見た右? それとも僕が進んでいた向きの右?」
「入口から見た右だ」
「今は入口が見えない場合だから、進んできた方向を後ろにするんじゃなかった?」
紙へ書いた条件では、ルシアスの判断が正しい。俺は長い音で全員を止め、声の届く位置まで戻した。
「向きの合図は使わない。青い旗へ進む」
「使わないことを示す合図は?」
エリオットが壁の向こうから聞いた。決めていない。俺は直接伝えるため右の通路へ向かいかけたが、ローディが盾の縁を板壁へ当て、足を止めた。
「今、お前が動いたら、誰が左の籠へ入れる数を数えるんだ」
左の籠には木片が3個入っていた。俺の手には1個ある。ローディが持っている2個のうち、どちらを左へ入れ、どちらを次へ運ぶかを決める前に、俺はルシアスへ伝えに行こうとしていた。
「俺の1個を左へ入れる。ローディは2個とも持って次へ進め」
「分かった。どの合図で進む?」
俺は笛を口元まで上げ、止めた。短い音には向きが割り当てられている。長い音は停止。3回は確認に向かう合図で、連続音は入口へ戻る合図だった。
「声で伝える。そのまま進め」
結局、壁の向こうにいる相手へは走って伝えた。3つの籠に4個ずつ入れ、全員が出口へ着いたとき、砂時計の上側は空になっていた。
カレンは籠の中を数え、評価票へ記入した。
「木片の数と通路の選択は正しいです。制限時間は1分18秒超過。開始前の確認でも、役割分担まで届いていません」
昨日より遅れている。声が届かない場合に備えて合図を増やしたのに、どの合図を使うか決める時間が増えた。
「合図が足りなかったのではありません」
俺が言うと、カレンは評価票から顔を上げた。
「では、何が多かったですか」
机へ戻り、俺たちは紙を広げた。授業の記録を提出しに来たアステラが、紙の端に並ぶ7種類の笛を見て足を止める。
「同じ結果になる合図が3つあります」
アステラは、停止、聞こえない場合の待機、判断できない場合の待機を指した。理由は違っても、その場で動かないという結果は同じだった。
「理由は止まったあとに確認できます。先に必要なのは、止まることではないですか」
ローディは3つを囲み、太い線で1つにつないだ。
「これなら、長く1回だけでいい」
「でも、右と左を消すと、進む方向を伝えられない」
俺が言うと、エリオットは赤と青の札を持ち上げた。
「旗の色を見て決める課題なら、方向までレオンが決めなくてもいいんじゃない?」
紙の上には、まだ6種類の合図が残っていた。俺は右と左の説明へ線を引こうとして、筆を止めた。
消してよいのは合図だけなのか、それとも、俺が決める範囲もなのか。そこはまだ空いたままだった。
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