届かない声
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それでは、どうぞお楽しみください。
翌日の野外基礎では、実習区画の木壁が昨日より高く組み直されていた。胸の高さを越える板壁が3本あり、中央には麻布を張った枠が立っている。隣の区画では別の班が杭を打っていて、木槌の音が途切れず響いていた。
カレン・フェルは、区画の入口に置かれた籠から、赤、青、黄の木札を1枚ずつ取り出した。
「壁の向こうに同じ色の台があります。木札を対応する台へ置き、4人全員が出口まで移動しなさい。壁は越えないこと。途中で1か所、通路を閉じます」
入口から見える道は、最初の分かれ道までだった。その先は板壁と麻布に隠れ、出口も見えない。
同じ班は、エリオット、ルシアス、ローディ、俺だ。俺は木札と通路を見てから、3人へ向き直った。
「昨日と同じで、先に希望を聞く。どこを見たい」
「僕は奥へ行く。曲がり角が多いなら、通れる道を先に確かめたい」
エリオットは赤い木札を取った。ルシアスは入口に残った2枚を見比べ、青を指す。
「僕は中央がいい。布の向こうなら、人影くらいは見えるかもしれない」
「俺は黄だな。狭い道で盾が引っかかるなら、先に分かる」
ローディは大盾を背から下ろし、横幅を確かめた。俺は3人の希望を使い、最初の配置を決める。エリオットが右、ルシアスが中央、ローディが左へ進み、俺は入口近くの分かれ道に残る。行き止まりや閉鎖を見つけたら戻って報告し、次の道は俺が決める。
「始めなさい」
エリオットが右の壁へ消え、ローディも左へ入った。ルシアスの影は麻布越しにしばらく見えていたが、奥へ曲がると消える。俺は3人の足音と、壁の隙間から見える範囲を追った。
右奥から、エリオットの声がした。
「赤の台は見つけた。ここから出口も見える」
木槌が3度鳴り、最後の言葉は聞き取れなかった。俺は右の通路へ数歩入り、もう一度言うよう声を返す。
「赤は置ける! でも、この先は――」
また木槌の音が重なった。赤の台を見つけたことは分かる。先へ進めるのか、戻る必要があるのかは分からない。
中央では、麻布の向こうにルシアスの影が止まっていた。手を上げているが、指している方向までは見えない。左からは盾の縁だけが一度見え、すぐ壁の奥へ消えた。
カレンが笛を1度鳴らした。
「条件を変更します。中央の通路は閉鎖。青い札のある通路を使えます」
麻布の手前へ縄が張られ、右奥の壁際に青い札が立てられた。ルシアスの影が縄の前で止まる。新しく開いた通路はエリオットのいる右側へ続いているが、そこからルシアスが見えるかは分からなかった。
「ルシアス、右へ戻れ!」
返事はない。隣の区画で木槌が続けて打たれ、別の班の呼ぶ声も重なった。
俺は右へ走った。最初の角を曲がると、エリオットが赤い台の前で待っている。
「赤を置いて、出口へ行け。ルシアスを右へ回す」
「この奥に青の台もあったよ」
「分かった。ルシアスに伝える」
元の分かれ道へ戻り、閉鎖された中央の手前まで進む。麻布越しに、ルシアスがまだ同じ場所にいるのが見えた。
「右へ戻れ。エリオットの通路に青の台がある」
「聞こえた。ここから戻る」
ルシアスの影が遠ざかる。左ではローディが黄色の台を見つけたらしく、壁の向こうから木札を置く音がした。しかし、そのまま出口へ進んでいいのか、入口へ戻るのかを確認できないためか、盾の擦れる音が止まった。
俺は左へ向かった。通路は大盾を正面にすれば通れる幅だったが、途中で折れ、ローディの姿は見えない。
「黄色を置いたか」
「置いた。目の前に出口へ続く道がある」
「そのまま進め」
「分かった」
俺が分かれ道へ戻ると、右からルシアスが青い木札を持って現れた。奥へ進むよう指示し、俺も後を追う。青の台は赤の台から壁を1枚隔てた場所にあり、エリオットはすでに出口で待っていた。
ルシアスが木札を置き、俺たちが出口へ入る。少し遅れて、左の道からローディも出てきた。
カレンは砂時計を見ていた。上側には、もう砂が残っていない。
「3枚とも正しい台に置かれています。全員も出口へ到着しました。ただし、制限時間を42秒超過しています」
俺は通ってきた道を振り返った。距離は長くない。箱を運んだ昨日より、重い物もなかった。それでも、指示を1つ伝えるたびに俺が壁を回り、3人の動きが止まった。
「声が届かなかったからです」
カレンは評価票へ目を落としたまま聞いた。
「何が届きませんでしたか」
「通路が変わったことと、次に進む方向です。木槌の音で聞こえず、壁と布で姿も見えませんでした」
「では、どう直しますか」
俺は区画の入口に置かれた籠を見た。中には使わなかった予備の木札と、短い白紐が入っている。
「声以外の合図を決めます。色の札を上げるか、紐を壁の角へ結ぶ。笛が使えるなら、回数で進む方向を分けます」
カレンは一度だけ頷いた。
「次の実習までに、班で決めてきなさい」
問いはそれだけだった。誰が進むかを決めてよい範囲については、何も言われなかった。
授業後、俺たちは空いた長机へ集まった。俺は紙の中央に実習区画を描き、声が届かなかった場所へ印を付ける。右奥、中央の布壁、左の曲がり角。3か所とも、俺が移動して伝え直していた。
「赤い札を上げたら停止。青なら進む。黄色なら元の道へ戻る」
俺が書くと、エリオットが紙の右端を指した。
「僕は赤を置いたあと、出口へ行けた。あそこで待たなくてもよかったと思う」
「でも、通路変更後に出口側が使えるか分からなかった」
「僕からは見えたよ」
「俺からは見えなかった。だから、合図で確認できるようにする」
ローディは腕を組み、3色の横に並んだ説明を読む。
「盾を持ってると、札を高く上げにくいぞ」
「なら、壁へ掛ける。見えない場所では笛を使う」
「笛の音は木槌と混ざらない?」
ルシアスが聞いた。俺は少し考え、笛を長く吹く場合と短く吹く場合を書き足した。
「長い音を停止にする。短い音を1回なら右、2回なら左。聞こえなければ、その場で待つ」
これなら、声が届かなくても指示を渡せる。俺が壁の向こうまで走る時間も減らせるはずだった。
エリオットは何か言いかけたが、訓練場の鐘が鳴ると紙から手を離した。
「今日は資料室へ本を返すって言ったよね。先に行ってくる」
「俺も行く。剣はそのあとで見る予定だった」
俺が立つと、ルシアスも筆記具の店へ行く支度を始めた。ローディは長机の端に残った紙を丸めず、4人分の杯を置いている棚の下へ差し入れる。
紙には、3色の札と5つの笛の鳴らし方が並んでいた。誰が判断するかを書く場所だけが、空いたままだった。
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