書いていないこと
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それでは、どうぞお楽しみください。
救助基礎から寮へ戻ると、俺は共有票を机へ並べた。レイナの状態確認、カシアの人物観察、アステラの記録、ノエラの古い言葉。その横へ、エリオットの剣、ルシアスの魔力放出、ローディの盾と書き足す。
誰へ何を任せるか分かっていれば、班が変わっても迷う時間を減らせる。俺は別の紙を開き、明日の授業後に確かめる順番を決めた。
「エリオットに剣を見てもらう。次にルシアスの放出を俺が止める。ローディとは盾の後ろから合図を出す練習をする」
窓際で剣帯を外していたエリオットが、こちらを見た。
「明日?」
「授業が終わったあと。剣は30分。魔法は量を決めて5回。盾は廊下ではできないから訓練場を借りる」
「僕、明日は資料室へ本を返しに行くよ」
ルシアスも棚へ本を置きながら言った。
「僕は筆記具を買い足したい。店が閉まる前に行くつもりだった」
ローディは寝台の脇に立てた盾の革紐を持ち上げた。表面が白く乾き、金具の近くに細いひびが入っている。
「俺はこれを手入れする。今すぐ切れるほどじゃないけど、訓練で使う前には終わらせたい」
3人の予定は、俺の紙のどこにもなかった。
「なら、順番を変える。エリオットは朝。ルシアスは買い物のあと。ローディの盾は、革紐を直してからにする」
「朝なら空いているとは言ってないよ」
エリオットが笑う。俺は筆を止めた。
「空いてないのか」
「朝食前は自分の訓練をする。君と剣を合わせるなら、その内容も変わる」
「先に聞けばいいだろ」
ローディが革紐を引きながら言った。
「誰に何を任せるかは書いてある。でも、いつならできるかは聞いてない」
「必要な時間と回数は決めた」
「僕たちに必要かは?」
ルシアスの問いに、すぐ答えられなかった。エリオットなら剣の練習を断らないと思った。ルシアスは放出を止める練習が必要で、ローディとは合図を確かめた方がいい。どれも間違ってはいないはずだった。
ただ、3人が明日何をしたいかは、一度も聞いていない。
夕食の鐘が鳴り、ローディが盾の革紐を寝台へ置いた。
「先に飯にしよう。今日は早く行かないと、窓際が埋まる」
「窓際がいいのか」
「出入口と配膳台が見える。あと、4人で座れる机がある」
食堂へ着くと、ローディは壁際の長机ではなく、窓の近くにある小さな机へ向かった。椅子は4脚あり、1脚だけ少し脚が短い。座ると揺れたが、ローディが折った紙を挟むと止まった。
「寝台だけじゃなく、椅子も見るんだな」
「揺れるものは気になる」
俺たちはそれぞれ食事を受け取った。今日の皿には豆と根菜の煮込み、黒パン、薄い肉が載っている。ルシアスは煮込みに入った香草を端へ寄せ、ローディはそれを見て自分の空いた皿を差し出した。
「食わないならくれ」
「香りが強いものは苦手なんだ」
「昨日も残してたな」
「見ていたなら、昨日言ってくれればよかったのに」
「今日も残すか分からなかった」
ローディは香草を受け取り、自分の肉を1切れ返した。ルシアスは断ろうとしたが、ローディはもう食べ始めている。
向かいでは、エリオットが黒パンを煮込みへ浸していた。
「硬いまま食べないのか」
「朝ならそのまま食べる。夜は顎が疲れてるから浸す」
「剣の訓練で?」
「授業中もずっと喋っていたからじゃない?」
ルシアスが言うと、エリオットは否定しなかった。剣の間合い、魔力の量、盾の正面。共有票に書かれたことは、3人ができることの一部だった。食べ方も予定も苦手な匂いも、そこには書かれていない。
食事を終え、俺は4人分の皿を重ねた。持てる量だったのでそのまま配膳台へ運ぼうとすると、上から1枚ずつ皿が減った。
エリオットが自分の皿を持ち、ルシアスも続く。最後にローディが残った2枚のうち1枚を取った。
「俺が運べる」
「知ってるよ」
エリオットは先に歩き出した。
「でも、自分の皿くらい自分で戻せる」
部屋へ戻ると、俺は机の紙を開き直した。剣、魔力放出、盾と並べた項目は消さず、その横へ3人の予定を書く。エリオットは朝に自分の訓練。ルシアスは放課後に買い物。ローディは盾の手入れ。
「空いている時間は?」
今度は、書く前に聞いた。
エリオットは少し考える。
「本を返したあとなら剣を見られる。でも、30分ずっと君の練習にはしない。僕も試したい動きがある」
「分かった。交代でやる」
「僕は買い物に付き合ってくれるなら、その帰りでいいよ」
ルシアスが言った。
「筆記具を買うだけじゃないのか」
「店の場所は分かる。でも、同じ値段でも紙の厚さが違うらしい。レオンは帳面をたくさん使っているから、見てほしい」
「なら行く」
ローディは新しい革紐を盾へ通しながら、口で端を引いた。
「俺はこれが終わったらだ。合図の練習より先に、後ろから声をかけられたときの向き方を見たい」
「盾の横と後ろが見にくいから?」
「それもある。お前、足が速いから、声を出す前に横へ来るだろ。あれは困る」
俺は紙へ書こうとして、やめた。
「どこから声をかければいい」
「それを一緒に試すんだよ」
ローディが笑った。
消灯前、机の端には洗った木の杯が4つ並んだ。ローディが棚へ移し、同じ間隔で置いていく。俺の杯だけ縁に小さな欠けがあった。
「それ、俺のか」
「昨日から使ってるだろ。場所を決めた方が取り違えない」
右からエリオット、ルシアス、ローディ、俺。役割ではなく、4人分の場所だった。
俺は予定を書いた紙を閉じず、机の中央へ置いた。
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