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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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運ぶ前に

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

午前の救助基礎では、訓練室の床に倒れた棚、木箱、担架が置かれていた。奥には3人の生徒が負傷者役として座り、腕や脚、胸元に状態を示す色布を巻いている。課題は、扉から中へ入り、誰をどの順で搬送するか決めることだった。


「声の大きさと傷の重さは同じではありません。運ぶ前に状態を確認し、判断の理由を共有してください」


教員の説明後、俺はカシアと、白い布袋を腰に下げた少女と同じ班になった。少女はレイナ・ソルと名乗り、俺たちは入口脇の机で共有票を交換する。


カシアは自分の《ステータス》を開き、迷わず必要な項目を書いた。


---


カシア・ロンド


12歳


Lv15


筋力27


耐久25


敏捷44


魔力12


精神34


《剣術 Lv3》


《回避 Lv5》


《走行 Lv4》


《観察 Lv4》


《不屈 Lv3》


---


得意な欄には、人の疲れ、視線、かばう動き、人数と退路を見ること、とある。剣の欄には、速く動けるが技術だけならエリオットに及ばない、と自分で書き足した。


レイナの票には、別の項目が並んだ。


---


レイナ・ソル


12歳


Lv12


筋力16


耐久21


敏捷25


魔力28


精神39


《観察 Lv4》


《魔力操作 Lv3》


《生活魔法 Lv2》


《治癒魔法 Lv3》


---


「治癒魔法は使えます。でも、傷の種類を勝手に教えてくれるわけではありません」


レイナは得意な欄へ、呼吸、出血、痛む場所の確認、洗浄、固定、搬送までの安定、と書いた。その下に、骨折や内側の損傷は治せない、原因が分からないまま動かさない、と続ける。


俺は寮で作った共有票を2人へ渡した。カシアは技能欄を上から下まで見たあと、余白にある「先に任せる相手」の欄へ目を止めた。


「今日は誰を書くの?」


「状態確認はレイナ。周囲と退路は俺が見る。運搬も俺がやる」


「私は?」


「負傷者が動かないように見てくれ」


カシアはすぐには頷かなかった。


「人の状態を見るのは、レイナ1人?」


「治療はレイナが一番できる」


「治療と、変化に気づくことは別でしょ」


開始の合図で仕切り布が外された。入口近くの生徒は前腕の赤い布を押さえ、大きな声で助けを求めている。右奥では別の生徒が倒れた棚に脚を挟まれ、左奥の壁際では3人目が胸元を押さえて静かに座っていた。


俺は出口までの幅、棚の重さ、木箱の位置を見た。入口近くの生徒なら歩かせられる。棚は持ち上げられる重さで、脚を外したあと俺が担架を運べる。左奥までの床にも大きな障害はない。


「先に入口の1人を出す。次に棚を上げる」


動こうとした俺の袖を、カシアが引いた。


「待って。左の子、さっきから返事してない」


壁際の生徒は目を開けていたが、呼吸のたびに肩が小さく上がっていた。胸元を押さえる手にも力がなく、助けを求める声へ顔を向けていない。俺は位置と障害を見ていたが、3人の呼吸までは比べていなかった。


レイナが近づき、膝をつく。


「名前を言えますか。私の声は聞こえますか」


返事は短く、途中で息が切れた。レイナは胸元の布だけを見ず、呼吸の速さ、顔色、痛む場所を順に確かめる。そこで教員が状態札を渡した。


「胸を強く打った可能性があります。自分で歩かせません。身体を起こしすぎず、呼吸が変わったら止めます」


「先に担架か」


「はい。でも、まだ動かさないでください。カシア、ほかの2人が立とうとしたら教えて。レオンは担架までの床と、持ち上げる側の足場を見てください」


俺は頷き、左奥から安全線までの木箱を退けた。持ち上げる力なら俺が一番ある。それでも、いつ持ち上げるかはレイナの判断を待つ必要があった。


入口近くで、負傷者役の生徒が立ち上がろうとした。カシアがすぐに肩へ手を添える。


「歩けそうでも、まだ立たないで。押さえてる腕と反対の足をかばってる」


赤い布は前腕に巻かれていたが、生徒は右足へ体重を乗せていなかった。教員から渡された次の札には、腕の出血に加えて足首の捻りとある。大きな声と目立つ布だけを見れば、腕だけの負傷として歩かせるところだった。


「どうして分かった?」


「立つ前から、片方の踵が浮いてた。腕を見てると見落とすよ」


レイナは壁際の生徒を担架へ移す姿勢を決めた。俺とカシアが左右を持ち、レイナが頭と呼吸を確認する。俺が一人で持ち上げるより遅かったが、身体は傾かず、途中で呼吸が乱れたときにもすぐ床へ戻せた。


2度目は合図を合わせ、安全線まで運び切った。残る2人についても、出血を押さえる役、足首を動かさない姿勢、棚を持ち上げる前の声かけを決める。俺は棚を上げたが、脚を抜く判断と固定はレイナへ任せ、カシアは3人の返事と顔色を見続けた。


終了後、教員は3枚の状態札と共有票を並べた。


「レオンは障害物、運搬経路、必要な力を早く確認できました。ただし、最初は動かす順番まで自分の見えた情報だけで決めています」


「はい」


「レイナは治療を始める前に、治療してよい状態かを確認しました。カシアは傷そのものではなく、呼吸、返事、足の置き方を見ています。救助では、運べる人が順番を決めるとは限りません」


俺は共有票の余白を開いた。運搬の右へ自分の名前を書いたまま、その上に一行を加える。


状態確認はレイナ。人の変化はカシア。2人が動かしてよいと判断してから、俺が運ぶ。


俺には3人とも運べた。だが、運べることと、先に運ぶ相手を決められることは同じではなかった。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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