任せる手
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それでは、どうぞお楽しみください。
翌日の魔法基礎では、ルシアスとローディと同じ班になった。
課題は、水槽の水を溝のある板へ流し、3つの容器へ基準線を越えない量で分けること。開始前に役割を決め、変更した場合は理由を記録する。
《水弾》や《水鞭》なら、形を作って放つまでの工程は決めてある。だが、分かれ続ける流れを3つとも調整するのは別の操作だった。
「俺が《水操作》を使う」
紙を読み終えてすぐ言うと、ルシアスが板を横から見た。
「全部?」
「水を動かす課題だから」
「右の溝が深い。強く流すと、分かれたあとで右へ寄るよ」
ローディは空の容器を持ち上げた。
「俺は魔法で動かせない。容器を押さえる役か?」
「流れている間に位置を変えていいかは確認する必要がある」
ルシアスが水槽へ手を向けた。水面が大きく持ち上がり、板へ届く前に端が崩れる。
「多い」
俺が言うより先に、ルシアスは流れを切った。落ちた水が水槽の外へ跳ねる。
「少量を出すのが苦手なんだ」
「魔力が足りないんじゃなくて?」
ローディが聞く。
「逆。出すのは簡単だけど、少ないまま保つと揺れる」
生来の魔力量が多く、一度に外へ出すことへ慣れているルシアスと、魔力の少ない俺では、同じ操作でも難しい場所が違う。
「俺がやった方が早い」
言った直後、ローディが眉を上げた。
「それ、班にする意味あるか?」
「失敗したら俺が直せる」
「お前が失敗したら、誰が直す?」
答えが止まった。
ルシアスが濡れた板を拭きながら言う。
「最初は僕が出す。ただし、レオンが量を見て止める。分岐したあとはレオンが動かす。ローディは3つの容器を見て、全体を止める。それなら?」
「最初の流れを任せて大丈夫か」
「多ければ止めて。出せないわけじゃない。少なく保つのが難しい」
教員のリディア・ノルクへ計画を伝え、開始する。ルシアスが水を持ち上げ、俺の合図に合わせて細くする。最初は揺れたが、板へ落ちる前に余分な流れを切った。
「右が速い」
ローディが言う。
「少し左へ寄せる」
俺が分岐後の水を動かす。今度は中央で水が溜まり始めた。
「止めろ」
ローディの声で、ルシアスが流れを切る。勢いが残り、板の上の水が右へ寄った。
俺は容器の高さを見る。
「次は右を途中で止める」
「どこまで任せる?」
ローディが聞いた。
「ルシアスは板へ入れるところまで。俺は分岐後の右側。ローディは3つを見て、基準線の手前で停止を言う」
「最初からそう言え」
2回目。ルシアスの流れが一度太くなったが、俺の合図で止まり、少ない量へ戻る。右へ流れた水だけを《水操作》で細くし、左と中央へ回した。
「右を止める」
俺が流れを切る。
「左も多い」
「止める」
「待て」
ローディの声で手を止めた。
「板に残った水が中央へ回る。今切ると中央が足りない」
3人で流れを見る。残った水が中央へ落ち、3つの高さが近づいた。
リディアが終了を告げ、記録を確認する。
「最初の役割から変えましたね」
「はい」
「レオン。なぜ自分で最初の流れを作らなかったのですか」
「ルシアスは必要な量を一度で出せます。多くなったときに止める人を決めれば、俺が最初から全部を動かすより早かった。俺は分かれた後の流れを直す方が合っていました」
「ローディへは?」
「3つを見る範囲と、止める合図を任せました」
ローディが腕を組む。
「途中からな。最初は何も言われてない」
「そこは俺の失敗です」
リディアは記録へ線を引いた。
「任せるなら、役割だけでなく範囲と戻す条件まで共有しなさい。中心にいる人が倒れても、班が動ける形にすること」
昼休み、ルシアスが言った。
「僕に任せるの、不安だった?」
「少し」
「僕もだよ。止めるのが遅れることがあるから」
ローディが笑う。
「だから声を出せばいい。黙って失敗される方が困る」
「ローディは水を動かしてない」
俺が言うと、ローディは3つの容器を指した。
「でも止めた。魔法を使う手だけが役割じゃないだろ」
使えることと、自分がやるべきことは同じではない。任せることは放棄でもない。相手の得意な範囲を知り、戻す条件まで伝え、その結果を一緒に引き受ける選択だった。
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