紙の上に置く
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それでは、どうぞお楽しみください。
試験当日の朝、袋を3度目に開こうとしたところで、ゼノに手首を止められた。
「中身は逃げない」
「失くしてないか確認するだけ」
「さっき確認した。朝飯を食え。腹の中は空だ」
宿で食事を取り、昨日まで歩いた道を会場へ向かう。門前には受験者と付き添いが集まり、同じ道が別の場所のように見えた。
「ここから先は1人だ」
ゼノが言う。
「終わったら、門の外?」
「この柱の横にいる」
「遅くなったら?」
「答案を持って逃げなければ待つ」
「逃げない」
教室では机が離され、試験監督が注意を読み上げた。問題用紙が配られるまで筆記具以外を出さない。不明点は手を挙げる。問題の意味そのものは教えない。
斜め前の席にはアステラがいた。目が合うと一度だけ頷き、すぐ机の上へ視線を戻した。
開始の合図で紙をめくる。
読み書きでは、報告文から事実、判断、未確認を分けて要約する。似た言葉に引かれそうになったが、誰が見たのか、何を確認していないのかへ線を引いた。
計算には荷車の速度、坂道、2度の休憩が混ざっていた。答えを出したあと、使っていない条件を探す。最初の式では2度目の休憩が抜けていた。
世界・社会基礎で知らない制度名が出た。手が止まる。
保留する。
小さな印を残し、先へ進んだ。地図には川、街道、農地がある。町の名前を知らなくても、人と荷物が集まりやすい場所は読み取れる。
魔物・野外安全では、新しい足跡、折れた枝、臭い、遠くの音が示されていた。種類や数は書かれていない。退路と周囲の安全を先に置き、確認事実と推測を分け、追跡には追加判断が必要だと書いた。
魔法基礎理論では、使える技の名前ではなく、目的、周囲、必要な出力、止める条件を問われた。《水弾》を撃てることと、必要な量、距離、方向を安全に選べることは違う。《水鞭》も《風圧》も、使えることだけでは答えにならない。
残り時間を確認し、印をつけた問題へ戻る。制度名の後ろにある具体例から役割を整理し、断定できない部分は広げなかった。計算の写し間違いも1つ直したところで鐘が鳴った。
「筆記具を置いてください」
答案が手から離れる。もう直せない。
門の外で、ゼノは約束した柱にもたれていた。
「どうだった」
「知らない言葉があった。計算も1度間違えた」
「それで?」
「保留して、最後まで見た。戻って直した。でも、合ってるかは分からない」
「なら、分からないが答えだ」
少し遅れて、アステラも門から出てきた。
「野外安全は書き切れましたか」
「危険と行動を先に書いた。理由は短くした」
「私は最後の計算を確認できませんでした」
「間違えた?」
「確認できなかった、と言いました」
「そうだった」
アステラは小さく息を吐いた。
「合否を予想しても、答案は変わりません。明日の案内を確認します」
別れてから、ゼノが横を見る。
「似た者同士か」
「違う。アステラの方が細かい」
「お前も十分細かい」
宿へ戻り、実技・判断の案内だけを読み直す。観察、危険判断、指示理解、退避、報告。
「持ち物を見たら休む」
俺が先に言うと、ゼノは頷いた。
紙の上へ置いたものは、もう動かせない。明日は身体と声で、今まで積んだものを示す。
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