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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第七章 選んだ先へ
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八メートルの死体

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

翌朝、南の町のギルドへ戻ると、2階の小部屋には昨日の報告を待っていた人が集まっていた。


机の上には山道の地図と、テンペストドレイクの身体を簡単に写した紙が並んでいる。討伐の報告より先に、道の支え、負傷者の有無、別個体の確認結果が読み上げられた。


「身体を残したままでは、谷側の道を開けられません。ですが、すぐに運び出せる大きさでもない」


調査担当者が言った。


「素材を取るだけなら、解体と記録の人員を追加できます。全体を動かすなら、道具も人手も別に必要です」


「先に何をする?」


ゼノが聞いた。


職員は地図の上に3本の線を引いた。町から山道入口までの線。閉鎖地点から崩落地点手前までの線。そして、支えを通ってテンペストドレイクのいる場所へ続く線だ。


「まず、現地へ戻る。身体の状態、周囲の変化、支えの通行可否を確認します。そのうえで、持ち帰れる素材と現地へ残すものを分けます」


「運び出しは?」


「今日の確認で決めます。死体を動かすために隊列を増やすなら、先に退路を広げなければなりません」


素材を取ることが目的になれば、道を使う人間が増える。人間が増えれば、必要な幅も、食料も、負傷した場合の戻し方も変わる。倒れた身体があるからといって、最初に決めた条件を無視していいわけではなかった。


ゼノは俺たちの方を見た。


「行くか」


「うん」


「今日は見るだけになるかもしれない」


「分かってる」


返事をしてから、俺は地図へ目を戻した。見たいものがあると、そこへ行く理由を増やしたくなる。けれど、今日の目的は素材を持ち帰ることではない。持ち帰れる条件があるかを確かめることだった。


同行するのは、昨日までの5人に、解体を担当する2人と荷物を扱う2人を加えた編成になった。解体担当者は短い刃物と厚手の手袋、木製の楔を持ち、荷物を扱う者は滑車と縄、折り畳んだ板を準備する。戦闘をするための隊ではない。だからこそ、戦える者がどこを守るかを先に決めた。


ゼノは先頭。ガイウスは荷物と人の間。レムスは後方と斜面。調査担当者は記録。解体担当者は俺と離れず、刃物を使う場所では全員を止めてから作業する。


俺の役割は、前と同じく比較と記録の補助だった。身体へ近づくことを優先せず、隊列と道の状態、昨日から変わった場所を伝える。


山道入口の詰め所で、昨日送った報告への返事を受け取った。別の個体を見たという報告はない。ただし、見ていないことは不在の証明にはならない。詰め所の者は、南の林へ入る細い道にも見張りを置き、俺たちが戻るまで人を通さないと伝えた。


閉鎖縄の内側へ入る。昨日より人数が増えた分、歩く間隔を狭くしすぎないようにした。荷車は崩落地点手前までしか入れないため、滑車と板は人の手で運ぶ必要がある。


最初の狭い区間へ着く前に、調査担当者が手を上げた。


「止まります」


昨日と同じ場所に、細かな石が増えている。杭の白い布は風で揺れていたが、谷から上がる流れは弱い。地面の端を確認すると、昨日直した板の外側へ新しい砂が薄く溜まっていた。


「担架を通せる?」


ガイウスが聞く。


「昨日の測定とは別です。まず空の板で確認します」


荷物を扱う者が折り畳んだ板を開き、何も載せずに支えへ置いた。板が沈み、杭がわずかに鳴る。調査担当者が線を引き直した。


「人1人なら通せます。荷物を載せた場合は、もう一度測る必要があります」


昨日より悪化していたわけではない。良くなったわけでもない。変化がないことを、安全と書き換えないように記録する。


板を一度外し、今度は滑車と縄を使って軽い木箱を渡した。木箱の中身は空だったが、運ぶ者の手が増えれば支えへかかる力も変わる。1人ずつ渡り、全員が同じ側へ揃うまで次の荷物を動かさない。


その手順だけで、昨日より時間がかかった。


「時間がかかるな」


解体担当者の1人が言った。


「時間を使わずに通れる条件がないからです」


俺が答えると、その人は少し黙ってから頷いた。


「そうだな」


ガイウスが板の沈みを見て鼻を鳴らした。


「昨日は命を運ぶ道だった。今日は鱗一枚で同じだけ測るのか」


「重さが違えば、昨日の記録だけでは足りません」


調査担当者が答える。


俺は油布に包まれた鱗を見た。


「素材だから急がなくていい。人より先に通す理由もない」


「そういうことです」


レムスは斜面へ視線を残したまま付け加えた。


「測っている間に別の痕跡が出たら、鱗は置いて戻ります」


狭い区間を越えた先で、昨日立てた白い布が見えた。テンペストドレイクの身体は、昨日と同じ場所に横たわっている。首の傷、岩へ残った白い線、板状鱗の欠けた場所にも、目立った変化はなかった。


ゼノが先に周囲を見た。ガイウスは斜面側へ盾を向け、レムスは後ろの曲がり角を確認する。音は少ない。小さな虫の羽音と、遠くの枝が擦れる音はある。けれど、近くに【魔物】がいないとは言わなかった。


「昨日から新しい跡は?」


俺は地面を見ながら聞いた。


前脚の近くには、細い鳥のような足跡がいくつかある。テンペストドレイクの身体へ近づいた跡かもしれないが、途中で消えている。尾の外側には小さな石が転がっている。風や斜面の崩れでも動く大きさだった。


「確認できる範囲では、身体へ近づいた大型の跡はありません」


調査担当者が答えた。


「小型のものについては、足跡だけで数と行動は決められません」


身体へ近づく前に、昨日の記録と今日の記録を並べた。首の両側の膨らみは変わらず、灰青色の鱗に湿り気はない。口は閉じたままで、前脚の位置も変わっていない。


ゼノが剣の先で地面を指した。


「まず、外れた鱗だけだ」


背の板状鱗の一枚が、根元の一部を失って浮いている。戦闘で剥がれたものか、古い傷で弱っていたものかは分からない。解体担当者が近づき、周囲の石へ足を置かないように位置を決めた。


「刃物を入れます」


全員が止まった。


俺は《戦域把握 Lv4》で見えている範囲の位置を確認した。ゼノ、ガイウス、レムス、調査担当者、解体担当者。岩の向こうは分からない。身体の下も見えない。


「始めていい」


ゼノの声を合図に、楔が鱗の下へ入った。簡単には動かない。解体担当者が力を足すと、板状鱗の根元から乾いた音がした。


「止める」


俺が言った。


全員の手が止まる。


鱗が動いたのではなく、近くの石が押された音だった。解体担当者は足元を見て、使っていた楔を抜いた。下の地面が少し崩れ、足を置く場所が狭くなっている。


「別の場所から」


調査担当者が指示した。


解体担当者は身体へ近づくのではなく、外側へ回り、残った根元を少しずつ分けた。板状鱗は重かったが、完全に剥がすのではなく、浮いた部分だけを外す。下には新しい傷ではない、硬く閉じた皮膚が見えた。首から肩へ伸びる古傷とは別の位置だった。


「この部分は、戦闘で割れた可能性があります」


「戦闘前から弱っていた可能性も残ります」


調査担当者が記録した。


外れた鱗は大人2人で持ち上げる大きさだった。表面は硬く、内側には細い血管の跡のような線が走っている。けれど、これだけで身体全体の状態を判断することはできない。


「持ち帰る?」


解体担当者が聞いた。


ゼノはすぐに答えなかった。鱗を運ぶには、空の板をもう一度支えへ通す必要がある。人間が増えた状態で、荷物が1つ増える。持ち帰る価値はあるが、道の安全を確かめずに運べば、記録より先に危険を増やす。


「包んで、まず支えを測る」


鱗は油布へ包まれた。持ち上げるのは後にする。


腹部へはまだ触れない。首の器官も、口の中も、身体を動かさずに確認できる範囲だけに留める。古傷の原因も、南へ下りた理由も、今日ひとつの答えにまとめない。


帰りの準備をしながら、俺は地面に残った小さな跡を見た。テンペストドレイクの身体があることで、周囲の【魔物】が近づきにくくなっているのかもしれない。逆に、死体が餌になるまで時間が必要なだけかもしれない。どちらも、今は可能性だった。


「レオン」


ゼノが呼んだ。


「見る場所を変える」


「どこへ?」


「身体の下じゃない。ここへ来るまでの道だ」


テンペストドレイクがいた場所だけを見ても、南へ下りた理由は分からない。どの斜面から来たのか、途中で何を避けたのか、どこに餌があったのか。身体の外に残った線を、移動した順番で確認する必要がある。


俺は油布に包まれた鱗と、まだ地面へ置かれたままの身体を見比べた。


持ち帰るものは、素材だけじゃない。


見た場所、測った数、残った傷、分からないままの部分。どれか一つを落とせば、次の人間は最初から探し直すことになる。


俺たちは鱗をその場へ置いたまま、テンペストドレイクが来たと思われる斜面の入口を記録した。今日はそこへ入らない。支えを通る荷物の重さと、戻るまでの時間を確かめる必要がある。


町へ戻る道は、行きより長く感じた。荷物を増やさず、確認を持ち帰る。今は、それができる一番確かな進み方だった。

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