切れない流れ
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それでは、どうぞお楽しみください。
テンペストドレイクが暴れ、太い尾が支えに近い岩を砕いた。破片が狭い区間へ飛び、ガイウスが調査担当者の前で盾を傾ける。正面で受けず、谷側へ流すように角度をつけたため、石は板の外へ落ちた。
レムスは魔物へ矢を向けない。後方の斜面と曲がり角を見ながら、別個体らしい動きがないかを確かめる。見えている範囲に大型の影はないが、不在とは言わず、音と動きを確認できないとだけ伝えた。
「杭が1本動いた。担架は止める」
俺は谷側へ下がった板を指し、対応隊員を手前へ戻した。杭は抜けていないが、朝につけた線を指1本分越えている。このまま重さを載せれば、板の端がさらに沈むかもしれない。
ゼノの隣へ行けば攻撃は増えるかもしれない。だが、負傷したゼノを戻す道が消えれば、勝っても全員で帰れない。俺は魔物ではなく支えへ膝をつき、板の下へ新しい砂が流れ込んでいることを確認した。
「角材は動いてない。板だけ下がってる。追加の板を外側から重ねる」
ガイウスが盾を残したまま応じ、対応隊員が予備の板を運ぶ。支えの上で受け渡さず、手前で1人ずつ位置を変える。戦闘音が近くても、急いで順番を崩さない。
テンペストドレイクは首を大きく膨らませ、地面へ圧力を叩きつけた。岩が割れ、砂煙の中でゼノの姿が一度消える。俺は支えから目を離しかけたが、板を持つ者の足が重なったため、先にその位置を直した。
「右を空けて。戻る人が通れない」
次にゼノが見えたとき、左前腕がわずかに遅れていた。剣を握り直す動きが右より遅い。それでも剣先は《重ね断ち》で作った亀裂から離れていない。圧力を流し切れず、腕へ衝撃が残ったのかもしれない。原因までは分からない。
「ゼノ、左腕が遅れてる!」
返事はない。ゼノは聞こえていないのではなく、今は巨体から視線を外せない。俺は見えた変化を繰り返し叫ばず、ガイウスへ手当てと担架の準備を伝えた。
追加の板を重ね、杭の外側へ砂袋を置く。一度に人を載せず、対応隊員が片足だけで沈みを確認した。朝より狭いが、1人ずつなら通れる幅は戻った。
「退路、通れる。担架は再測定が必要!」
俺の声が道を通る。ゼノは後ろへ視線を向けない。《風装》をまとい直し、亀裂を隠そうとする首の動きへ合わせて位置を変えた。
俺たちが退路と周囲を見ているため、ゼノは一体の敵だけを見られる。ゼノが圧力と爪を引き受けているため、俺たちは支えを直せる。戦う場所は離れていても、役割は切れていなかった。
テンペストドレイクが再び息を吸い、周囲の砂が頭部へ集まる。これまでより広い範囲で枯れ葉が動いた。俺は板の上から全員を下げ、ガイウスが盾を置ける場所を空ける。
自分以外を守るために広げていた意識を、ゼノが一体へ絞れる場所がようやく残った。その場所を維持することが、俺たちの攻撃だった。
前へ出ないことを、何もしないことにはしない。俺は杭、板、人の位置を更新し続け、最後まで戻る線を手放さなかった。
支えを補強したあと、俺は通れる幅を歩数で確かめた。荷を持たない者なら1人ずつ通れる。ガイウスの盾を横へ向ければ岩へ当たり、担架は追加の板なしでは水平を保てない。戦闘が終わる前に、その違いを全員へ伝えた。
「負傷者が出たら、盾を先に外す。担架は手前で組む」
「俺が盾を持って戻る」
対応隊員が言うと、ガイウスは首を振った。
「二人で持て。片方が足を取られても、道を塞がねえようにな」
調査担当者が板の線を確かめる。
「担架を組む前に、空で一度通します」
「戦ってる間に?」
「だから今、順番だけ決めます。必要になってから相談はできません」
俺は全員の位置へ、まだ使っていない担架の通り道も加えた。
対応隊員が復唱し、調査担当者は杭の新しい線を記録した。誰が負傷するか分からなくても、運ぶ手順は決められる。
前方で圧力が炸裂し、白い粉がこちらまで流れてきた。一瞬視界が狭まり、レムスの姿が消える。俺は最後に見た位置を現在地とせず、呼子を1度鳴らした。後方から同じ音が返り、位置を声で更新する。
ゼノの戦いへ集中したい気持ちは強かった。だが、背を預けられたまま目を逸らせば、ゼノが捨てたのではなく預けた情報まで消える。
「後ろは任せた」
ゼノの声が届き、返事が重なる前に、ゼノは息を一つ落とした。戦闘音に紛れるほど小さく、口元が動く。
「……《極点》」
聞き慣れない言葉だった。意味を拾うより先に、ゼノの気配が変わる。まとっていた《風装》が静かに張り直され、周囲の砂が一瞬だけ動いた。
ガイウスが盾の角度を微かに変える。
「……風が、変わった?」
レムスも矢を向けないまま、ゼノの背を見ていた。俺は問い返さず、任された側として見続けた。
杭、板、調査担当者、ガイウス、レムス、対応隊員。俺は誰かが動くたび位置を置き直した。見えない場所は呼子と声で確かめ、取得していない情報を技能で補わない。
テンペストドレイクの尾がもう一度岩を打った。今度は破片が支えから外れた方向へ飛ぶ。板は鳴らない。俺は『安全』とは言わず、『今の一撃では変化なし』と伝えた。
同じ場所を守っていても、状態は一撃ごとに変わる。だから確認も一度で終わらない。ゼノが剣を繋ぎ続けるように、俺たちも退路の確認を切らさず繋げる。
切れない流れを作っているのは、前の一人だけではなかった。後ろの全員が自分の役割を止めないことで、ゼノの戦いも最後まで一つに繋がっていた。
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