↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
197/313

同じ場所へ

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

一撃目は白い線だった。二撃目が重なると、鱗の表面から細い粉が落ちた。テンペストドレイクが首を振り、ゼノの姿勢と足場を変えても、三撃目は同じ線の中央へ入った。


「《重ね断ち》」


姿勢も角度も足場も違う。それでも刃だけが前の傷へ戻り、複数の浅い斬撃が一本の亀裂へ変わっていく。一撃で硬い鱗を断つのではなく、外れないことで少しずつ硬さを削っていた。


ゼノが斬るたび、テンペストドレイクも狙いを変える。首を岩壁側へ寄せて傷を隠し、尾で足場を薙ぎ、ゼノの着地点へ前脚を落とす。巨体の動きは大きいが、道が狭いため逃げられる場所は少ない。


ゼノは傷を追って岩壁側へ入らず、魔物が頭を戻すまで前脚の内側へ残った。圧力を放つためには首をこちらへ向けなければならない。その瞬間だけ、隠した亀裂が再び外へ出る。


4度目の斬撃が同じ場所へ入った。亀裂はまだ浅い。それでも白い線の中央だけ色が変わり、粉の量が増える。俺なら結果を確かめるため目を止めるところで、ゼノは次の前脚と尾を見ていた。


テンペストドレイクの鉤爪が横から迫る。ゼノは《無拍》で内側へ入ったが、崩れた石が足元で転がった。着地が半歩ずれ、爪の先が脇腹を掠める。黒い服へ細い血の線が広がった。


「ゼノ、右脇腹!」


声を上げても、ゼノは傷を見なかった。傷を受けた側へ身体を捻れば、首の亀裂から剣が外れる。呼吸と足を崩さず、《風装》を整え、巨体の次の向きを見る。


俺は前へ出そうになった足を止めた。傷が見えたから助けに入るのではない。ゼノが自分で動ける間に俺が前へ出れば、圧力の線を増やし、退路を塞ぐ。今は傷の深さを遠くから見て、戻ったときに必要な手当てを伝える方が先だった。


「歩ける傷に見える。出血は増えてない」


「本人へ聞ける距離じゃねえ。断定するな」


ガイウスの声が飛ぶ。


「見える範囲では、歩幅は変わってない。右脇腹を庇う動きも確認できない」


「それなら使える」


レムスが後ろから続ける。


「私は左腕を見ます。レオンは足と脇腹を」


「分かった。変わったらすぐ言う」


一人で全身を追おうとするより、見る場所を分けた方が小さな変化を落とさずに済んだ。


ガイウスが頷き、手当ての布を取り出しやすい位置へ移した。レムスは後方と斜面の確認を続ける。誰もゼノの戦いだけへ視線を集めなかった。


5度目の剣が亀裂へ入る。テンペストドレイクは傷を守るため頭を低くし、前脚で道を削った。ゼノはその動きに逆らわず、下がる石を足場へ変え、下から同じ一点へ刃を戻した。


《重ね断ち》は、同じ姿勢を繰り返す技ではなかった。相手が変えた位置、崩れた足場、受けた傷まで含め、それでも狙いだけを外さない。


俺なら一つが崩れるたびに作り直す処理を、ゼノは崩れた瞬間から次へ繋げていた。剣だけではない。足、風、視線、呼吸、相手の向きが一つの目的へ戻り続ける。


亀裂から小さな欠片が落ちた。まだ致命傷には遠い。それでも、硬く閉じていた鱗に初めて奥へ続く線ができた。


ゼノは喜ばず、同じ場所へ剣を向けた。積み重ねた結果は、止まる理由ではない。次の一撃を外さないための始点になっていた。


亀裂が深くなるほど、テンペストドレイクは首を守る動きを増やした。岩壁へ寄せ、前脚を重ね、圧力を足元へ撃つ。同じ場所を狙うと分かっていても、ゼノは狙いを変えなかった。


ただし、同じ攻め方を繰り返しているわけではない。正面から届かなければ前脚の内側へ入り、傷が隠れれば魔物が空気を集めるまで待つ。狙う一点を残したまま、そこへ至る道だけを変えている。


ゼノの脇腹から落ちた血が石へ一滴ついた。俺は出血の間隔を見た。増えてはいない。呼吸も乱れていない。それでも痛みがないとは決めず、帰還後に伝えるため位置と長さを覚える。


左前腕の動きも一度遅れた。剣は亀裂へ戻ったが、柄を握り直す指がわずかに止まる。テンペストドレイクの圧力を流し切れなかったのか、連続した斬撃の負荷なのかは分からない。


「左腕も確認する」


俺がガイウスへ言うと、手当ての布と副木が取り出しやすい場所へ移された。まだ使わない。必要になってから荷を探せば、戻る時間を失う。


《重ね断ち》は鱗へ傷を重ねる技だった。けれど、ゼノが重ねているのは剣だけではない。相手が変えた位置、崩れた足場、受けた傷、残った風を次の一撃へ繋ぎ、同じ目的へ戻し続けている。


一撃ごとの結果は小さい。白い線、細い粉、小さな欠片。それでも外さず積んだものが、硬い鱗に奥へ続く亀裂を作った。


俺はその亀裂を見ながら、自分の反復を思い出した。一度で届かないなら、同じ失敗を繰り返すのではなく、届く形へ修正して重ねる。ゼノの技は、俺が信じてきた積み方を、戦闘の一瞬へ圧縮したものに見えた。

お読みいただきありがとうございました!

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、画面の下(または目次ページなど)にある**【ブックマーク登録】と、【★★★★★評価】**で応援していただけると本当に嬉しいです!


感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。