第一章第三節② Don't stand so close to me
[Don't stand so close to me]
2014.5.21 03:51:32
side:白波 月夏
まだ空が青みがかってもない早朝、変わらず照明の明るいモーテルを後にする。
暗くじめっとした空気がまとわりつく。
だが、服は乾いたし、腹ごしらえもできた。
そして休めた代償に、筋肉痛が重くのしかかっていた。
「はは……やっぱ寝ると来るよな……」
回復の証というけれども、今はただただ痛いだけ。
「ま、さっさと終わらせて……あの家の片付けになるよなぁ……」
あの半壊した惨状を思うと、諸々の説明などがとても億劫になりそうになるが、気を取り直す。
そしてなにより、あのバスのおっちゃんに起きたことを……遺族や警察に、伝えるしかない。
例えふざけてるのかと罵られようと。
「月夏?」
薄暗い中で少し先行していた鴉那が覗き込んできた。
「おわっ、びっくりさせんなって……いや何、もうすぐだなって気合い入れてただけさ」
「そうだね、この街に来てなんとなく、師匠の気配を感じるんだ。きっと、あそこにいる。あの研究所に」
まだ暗くて分からないが、鴉那が目的地を知っているだろう。
「そうだな、少しでも進もう」
街灯だけが指し示す暗闇へ向けて、歩みを進めた。
「そういえば師匠ってどんな人なんだ?」
そういえば聞いてなかったな。
「んー、妖怪なんだけど、色々教えてくれた人……人?まあいっか、そんな感じ」
「ふうん、先生みたいな?」
「そうだね……あちこち転々として学校あまり行けなくて……その代わりに色々と教えてもらってたの」
……中々重いな。少しずらそう。
「へぇ、妖怪とか幽霊って土着というか、あまり移動しないのかなと思ってたけど」
「うーん、なんか転勤族?なんだろ、いろんなところで必要とされてるからねって」
「内潤卦とかもその師匠から?」
「そうだね、ショクバミも禍弾も、師匠から教わったんだ。あなたならこれが出来そうって」
「才能を見る目があるってわけだ」
「スパルタだけどね」
「だろうな」
これまでの会話から、少し気になったことがある。
「……なあ、その師匠と一緒にいて、辛いとかは?」
これまでの言動を見るに、何かしらありそうだが。
「……私に才能がないってことを、痛感するくらいかな」
「そんなにか?」
「うん……私は、出来ない子なんだって、師匠は言わないけどね」
少し寂しそうな笑顔が、逆に痛ましい。
「あれだけできるのに?」
「うん……月夏も師匠に教えてもらえたらきっと、もっとすごくなれるよ……」
「そっか……そういえば、名前は?」
「あっ、言ってなかったね。
神空 麗子だよ」
「あれは無理そうだな……」
空も白み始めた時間、不気味なくらいに障害もなく鴉那の先導で目的地付近までは来れた。
曰くこの敷地内だという。
「星見里運輸か……」
輸送会社だというのに守衛が立っており、そして柵が一面に張り巡らされてる。
普通の営業所ならこんな厳重にしてるとも思えない。きっと、何かある。
きな臭さは増していく一方だが……ん?そうなると
「なあ、アナが逃げ出す時はどこから逃げたんだ?」
「あー……飛んだね……」
「そういやその手があったんだな、今は無理だが」
もうこの時間では通行人も現れる頃合いだろうし、そんなので守衛に見つかると間違いなくヤバそうだ。
「山の方も電気柵みたいなのがあって飛ばなきゃ無理だったんだよねぇ、なんか基地!って感じ」
「うーん、なるほどなぁ……関係者になりすますのは無理そうだし」
「んー……あっ!そういえば非常口があるって研究所の人が……確か山の中にあるトンネルと繋がってるって……」
「わざわざトンネルに?」
「みたい、ただ、そのトンネル、心霊スポット?って言ってたけど」
研究所近くの心霊スポット、か……
「……例の奴らでないことを願おう」
頭によぎった嫌な予感が当たらないといいが。




