第一章第三節① Love is dangeR
[Love is dangeR]
2014.5.20 17:21:39 星見里町南部
side:白波 月夏
戦力の逐次投入。
そんなことするのは余裕の証か、慢心か……いや、どっちだろうと関係ない。こちらを格下と踏んだ、とんだ舐めプだ。
それどころか、「その時なんとか倒せうる」相手ばかりぶつけて来ている。
最初から化け物を2体けしかければ俺たちに打つ手なんかなかった。
舐めやがって……鴉那も多分薄々勘付いているだろう。
何かの理由があるかは知る由もないけどな。
ただ、その横っ面に一発かましてもいいだろ?
「月夏?」
鴉那が不安そうに覗き込んでくる。
「あ、すまない少し考え事をな。それより、一度何処かで休みたいな……森の中で寝ただけだからか、いろんなところが悲鳴あげてやがるぜ」
「それは……うちも、かも……」
これまではランナーズハイというか、気持ちで走れていたがやはりこのままで行けるほど甘くはないだろう。
一度ちゃんと休みたいのだが……
「こんなところじゃホテルなんてないだろうしなぁ……」
それに、道中にあんな事件があった矢先だ。民宿やホテルは足がつきかねない。
こんなところで足止めされるわけにはいかないのに……
それにさっきのように他の人を巻き込みかねないので、人の密集する場所は避けたいし……
この辺りに知り合いがいるわけでもないし、スマホもねぇ……
「あっ!月夏!」
そんな考えをよそに少し前を歩いてた鴉那が何か気がついたらしい。
「ね、あそこ!休憩できるって!」
霧がかっているが、道沿いに確かに建物から照明が見える。
ん?休憩……?
「まて、そこは……」
この田舎にあるにしてはやけに照明がギラギラとしたその一角……なんというか、嫌な予感がする。
「わっ!広いね!!天井もキラキラしてるし!」
入るまでにフードを目深に被ったり、なるべく鴉那がカメラに映らないように連れ込む風にしたりと無い知恵を絞ったこちらとは裏腹に、
すっかりテーマパークに来たみたいなテンションの鴉那。
……最も縁遠い場所だと思ってたんだがな。
「あ、あぁそうだな……アナ、先に風呂入ってきな。ちょっと洗濯機やら確認して来るよ」
「ん?わかった。じゃ先に行って来るね」
と、少しシャワールームを見た鴉那が脱ぎ始めようとしてた。
「おおおおい!!なんでここで脱ぐんだよ!!」
鴉那が目にしない方が良さそうなものを排除しようとしてた矢先の突飛な行動に思わず心臓が弾けそうになる。
「え?だってこの中、脱ぐスペースはないし……」
チラッと見せてもらうと、クソデカい湯船や実在したのかとちょっと感動しそうになったマットなどがある代わりに確かに脱衣スペースがない。
いや、本来の用途であれば確かにいらないのかもしれないが……!
「わ、わかった。しばらく向こう向いておくから、服脱いだらそこに置いておきな!洗濯機に入れとくからさ!!」
「どうしたの向こう向いて?
……うーん、まあいいや。お願いね」
布の擦れる音がしばらくした後扉が閉まる音がして、ようやく胸を撫で下ろす。
無防備すぎないか……いや、それだけ信用されたと喜んでいいのか?
兎に角、いらん煩悩を振り払いつつ、それっぽいものを着々と隠していった。
「ね!月夏!お風呂が泡出たりすごい勢いで水が出たりすごかったよ!」
鴉那は割とこの空間を楽しんでるらしい。
「おうっ……よ、よかったな!」
タオルと浴衣は浴室の出口にあったらしく、出る時は何も起きなかった。ドアが空いた時に変に身構えてしまった己を恥じる。
自分だって普通の男子大学生だ、そりゃ人並みに興味はある。
だが、倫理観、そしてなにより全身の筋肉痛がそんなことよりさっさと休めと責め立ててくる。
第一次欲求はやはり何者にも勝るようだ。
「じゃ、アナ。俺も洗濯回して風呂入ってくるからさ!飲み物とテレビのリモコンはそこだからさ!」
余計なものに触れないよう、あらかじめ水とジュース、そして最近切り替わったデジタル波のテレビ局へ調整もした。
大丈夫だ、お前はよくやってる、俺を信じろ、俺!
「わかった!月夏もしっかり入ってきてね!」
そのすれ違い様にふわりと香るシャンプーの匂いに、少し気を取られかける。
いや、まず風呂だ。
危うく理性の狭間に飛ばされるところだった。
一方で当の本人をドアの影でそっと確認するが、ジュースを飲みながらゴールデンタイムのテレビを見ていたので多分大丈夫そうだ。
それを確認し、洗濯機を回して風呂に入る。
多分相当にエンジョイしたのだろう、ちょいちょい泡が残ってたりソープ類も色々使った形跡がちらほら残ってる。
湯を張り直す傍らで体と髪を洗う。
ところどころ切り傷ができていたのか、水の染みる痛みと、それ以上に体にまとわりついていた汗や汚れが落ちて心まで軽くなった気分だ。
湯船に浸かった中で、再びまた考えが跨げてくる。
そもそも奴らの目的は何か、今襲ってくる可能性は、そもそも親玉は……?
考えてもどうしようもないことなのはわかっている、だがその考えは堂々巡りを続ける。
そんなことを考えてたら、うつらうつらとしていた。
はっ!マズい、土左衛門になるところだった。
流石に風呂を出ることにした……のだが、そこで一つの事実に気がつく。
「パンツないじゃねぇか……」
つまり、鴉那も同じで。
「っはぁ!」
思い切り頬を叩く。
そんなことよりまずは、洗濯物が終わってたら乾燥機に入れて乾かすまでは寝ることも出来ないし、なにより、煩悩に打ち負ける暇もない。
何故だかわからないけど変な罪悪感に苛まれつつ外に出ると、当の本人はベッドの上で寝落ちしていた。
流石に疲れたのだろう、俺だってそうだし。
その無防備な姿と、浴衣の隙間から見える素肌が否応なしに目についてしまう。
そんな邪念をなんとか封じつつ、鴉那に掛け布団を乗せて明日の出立に向けた準備を進めておく。
ここの料金は大丈夫だ。本当なら、あのバスに二人で半分は溶けてただろうが……
いや、いまはそれを悔やむのはよそう。
飯も今日のうちにルームサービスで頼んでレンジで温めよう。
乾燥機もあと15分ほどだ、敵も、睡魔も、それ以外の感情も、何も来ないことを祈る地獄のような15分が始まった……
明くる明朝3時、ここを後にする。
とりあえず俺も準備をした上で寝ることができ、飯も食った。
金銭以外の装備も、町内ならなんとかなるだろう。
「敵も来なかったしよく休めたね月夏!体はちょっとまだ痛いけど!」
主力が回復したようで何よりだ。
自分もそれなりに寝ることができたが、やはり筋肉痛が至る所で蝕んでくる。
「ね、月夏」
「どうした?」
「また来ようね!」
その屈託のない笑顔に、苦笑いだけ返した。
勘弁してくれ。




