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追放されたA級パーティの雑用係(38歳)、辺境の廃村で気ままに飯を作っていたら最強の村になっていた  作者: 月代


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第9話「追放者たちの村、立つ」


「D級ダンジョンで壊滅しかけたこと……知っていますか」


セルディオが茶の杯を両手で包みながら言った。


「噂くらいはな」


知っていた。正確には、ギルドの掲示板に報告が出たことをバロッサから聞いた。


A級パーティがD級ダンジョンで。


驚きはなかった。


ただ、やっぱりか、と思っただけだ。


「罠を見抜ける者がいませんでした。食料管理もめちゃくちゃで。状態異常の回復手段もなくて。全員重傷で——辛うじて生きて帰るのが精一杯でした」


セルディオの声は震えていた。


茶の表面が波打っている。手が揺れているんだろう。


「ガルドさんがいなくなって初めてわかった」


顔を上げた。碧眼が赤い。


「僕たちは——僕は、あなたに甘えていた。全部任せて、何もしなかった」


知ってるよ。


とは言わなかった。


代わりに聞いた。


「それを言いに来たのか?」


「違う」


セルディオが杯をテーブルに置いた。


「謝りに来た。でも、謝って済む話じゃないことも……分かっています」


沈黙。


暖炉の薪がはぜる音。


俺は——何を感じている?


怒りか。


いや、怒りはとっくに通り過ぎた。追放された日に、もう終わっている。


悲しみか。


それも違う。


あるのは——がっかりだ。


二十年見てきた男が、二十年経っても同じ場所にいることへの。


「お前は」


口を開いた。


「優しいくせに何も決められない奴だった」


セルディオが息を呑んだ。


「それは今も変わってないな」


厳しい言葉だと分かっている。


だが、ここで甘い言葉をかけても意味がない。


二十年間、俺はこいつに甘い顔をし続けた。装備を整え、飯を作り、問題を先回りして潰し、この男が何も決めなくても済むようにした。


それが——間違いだったとは言わない。


だが、もう続ける気はない。


「変わりたい」


セルディオが拳を握った。


「変わらなきゃいけないのに——」


「なら、明日の朝、自分で決めろ」


セルディオの目が俺を見た。


「教会に協力するのか、しないのか。誰かの言いなりじゃなく、お前自身で」


「ガルドさん——」


「俺はお前を恨んじゃいない」


本当だ。恨みなんかない。


「ただ、お前にはがっかりした。だから——明日、お前が何を選ぶか、見届ける」


茶を啜った。ぬるくなっている。


セルディオは長い間黙って、それから立ち上がった。


「……ありがとうございます」


掠れた声だった。


扉が閉まる。


一人になった。


暖炉の火を見る。


「やれやれ」


独り言が漏れた。


似合わないことを言った気がする。


だが——嘘は一つもない。


明朝。


十六日目。


空が白み始めた頃に目を覚ました。


全員が既に起きていた。


朝食はいつもより軽く。パンと白湯だけ。


食べ終えて、村の入口に向かう。


ゼノが待っていた。


黒い法衣の男が、騎士三名を従えて柵の前に立っている。


昨日より顔が険しい。一晩待たされて苛立ちが溜まっているのだろう。


「時間だ。聖女を引き渡せ」


俺は全員を背にして立った。


リーネ。マルト。ドラン。エルナ。


フィオは村の裏手だ。


「引き渡す気はない。昨日と答えは同じだ」


ゼノの目が据わった。


「ならば——力ずくだ」


騎士三名が、今度は本気で来た。


昨日とは足運びが違う。陣形を組んでいる。


一人目がドランに向かって突進した。


ドランが受け止めた。


正面から。


金属同士がぶつかる音。ドランは素手だ。だが、騎士の盾を両手で掴んで押し返した。


「どけよ!」


一声。


騎士が三歩後退した。ドランの膂力は、鎧を着た騎士を上回っている。


二人目がマルトに向かった。


マルトの足が動いた。


右膝をかばっている。踏み込みが浅い。


だが——関係なかった。


騎士の剣が振り下ろされる。


マルトはそれを半歩でかわし、剣を抜かずに鞘で騎士の手首を打った。


かつん、と乾いた音。


騎士の指が開き、剣が落ちた。


「若いのう」


マルトの声は穏やかだった。


三人目がリーネに向かう。


リーネが手を翳した。


地面から氷の槍が突き上がる。一本、二本、三本。


騎士の足元を囲むように。


氷が靴の周りで固まり、騎士は身動きが取れなくなった。


三人。数秒。


だが——。


ゼノが動いた。


黒い法衣の袖から、白い光が溢れた。


聖属性の魔法。


教会の高位聖職者が使う攻撃魔法——冒険者時代に資料で読んだことがある。


光の矢が——エルナに向かって飛んだ。


「エルナ!」


叫ぶより先に体が動いていた。


エルナの前に飛び出した。


両手を前に突き出す。


詠唱——いや、正式な詠唱じゃない。言葉が出る前に、魔力が手のひらから溢れた。


防護の支援魔法。


対象を守るための、盾。


パーティの仲間をダンジョンの罠から守る時に何百回も使った、あの感覚。


だが——今日は、違った。


今日は本気だった。


光の矢が俺の防護魔法にぶつかった瞬間、衝撃が全身を貫いた。


足が地面を削る。二歩後退した。


だが——防いだ。


光の矢は、俺の防護の壁に弾かれて四散した。


「……なっ」


ゼノが目を見開いた。


俺の手のひらから、淡い光が放射状に広がっている。


これが——俺の支援魔法か。


こんなに強い光を見たのは初めてだ。


いつも「まあ、こんなもんだろ」と思って使っていた。


本気で使ったことなんて、一度もなかったから。


マルトの声が背後で聞こえた。


「やはりお前さん……とんでもない支援魔法使いじゃのう」


「……まあ、支援しかできないからな」


体が重い。魔力を一気に使った。


だが、立っていられる。


ゼノが歯を剥いた。


「この村は——」


二発目を撃とうとしたその時。


横から——影が割り込んだ。


金髪が朝日に光った。


セルディオがゼノの前に立ちはだかっていた。


「審問官殿。これ以上は無意味です」


「貴様——何をしている。名門レクト家の三男が教会に逆らうのか」


ゼノの声が裏返っている。


セルディオの背中が——震えていた。


怖いのだろう。当然だ。家名に逆らうということは、この男にとって全てを失うことに等しい。


だが。


「逆らうんじゃない」


セルディオの声は震えていた。


けれど——目は真っ直ぐだった。


「僕は——僕の意志で、ここに立っている」


俺は——。


笑った。


声には出さない。口元がほんの少し緩んだだけだ。


「……ようやくか」


ゼノが周囲を見回した。


騎士三名は無力化されている。自分の魔法は防がれた。目の前にはA級冒険者。


勝ち目がないことを、さすがに理解したのだろう。


「覚えておけ。この件は本部に報告する」


捨て台詞を吐いて、騎士を引きずりながら去っていった。


その背中を見送りながら、俺は息を吐いた。


まあ、報告されたところで——あの人は冒険者ギルドの公正さを何より重んじる人間だ。教会の横暴を黙認するタイプじゃない。バロッサがギルド経由で状況を記録してくれているはずだ。


完全な解決じゃない。


だが、今日のところは——守れた。


セルディオが、俺の前に立った。


目の下の隈。震える唇。それでも、まっすぐな目。


深く、頭を下げた。


「ガルドさん。二十年間、ありがとうございました」


声が震えている。


「そして——追い出して、すみませんでした」


頭を下げたまま、動かない。


俺はしばらくその頭を見下ろして——。


「頭を上げろ」


セルディオが顔を上げた。涙が頬を伝っている。


肩を、軽く叩いた。


「お前が自分で決めたなら、それでいい」


セルディオの顔がくしゃりと歪んだ。


泣くな。いい歳した大人が。


——まあ、俺も人のことは言えないか。


「僕は王都に戻って、パーティを立て直します」


セルディオが袖で顔を拭いた。


「ヴィルマとも……ちゃんと話をします。今度は、自分で」


「そうか」


それだけ返した。


「飯食っていけ」


セルディオが驚いた顔をして——笑った。


「はい」


全員で昼飯を食べた。


七人分のスープ。


セルディオは一口飲んで「懐かしい」と呟いた。


そして「うまい」と笑った。


ドランが「だろ?」と胸を張った。お前が作ったわけじゃないだろ。


リーネは黙って食べていたが、セルディオをちらちら見ていた。警戒というより、観察しているようだった。


マルトが「若いのは涙もろいのう」とからかった。


エルナが「でも、立派でしたわ」と微笑んだ。


フィオが裏手から戻ってきて、「終わったですか?」と首を傾げた。


ああ。終わった。


今日は終わった。

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