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追放されたA級パーティの雑用係(38歳)、辺境の廃村で気ままに飯を作っていたら最強の村になっていた  作者: 月代


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第8話「王都からの招かれざる客」


灰谷に来て十五日目。


バロッサの手紙を受け取ってから三日。


その間に、できることは全てやった。


今朝、全員を集めた。


小屋の前。朝食後。


俺、リーネ、マルト、エルナ、ドラン、フィオ。六人。


「話がある」


手紙の内容を伝えた。


教会の異端審問官がエルナを追って来ること。


そして——セルディオが来ること。


エルナが手首を握った。あの癖だ。


「わたくしのせいで皆さんに迷惑を——」


「お前のせいじゃない」


遮った。


「追ってくる方が悪い」


エルナの口が閉じた。目が揺れている。だが、俺が言い切ったことに救われたようにも見えた。


「で、どうする」


マルトが聞いた。声に緊張はない。元S級冒険者の余裕か。


「迎え撃つか」


「戦いたいわけじゃない」


首を振った。


「だが、ここにいる奴を渡す気もない」


ドランが立ち上がった。


「よっしゃ。まず柵を強化しようぜ。見張り台も仕上げる」


「頼む」


リーネが静かに口を開いた。


「……わたしも、戦えます」


その声には覚悟があった。折れた角の付け根に手をやりかけて——やめた。


自分で自分の弱さを隠すのをやめた、ように見えた。


フィオが不安そうな顔をしている。服の裾を握っている。


リーネがフィオの前にしゃがんだ。


「大丈夫。ここは誰にも渡さない」


フィオが小さく頷いた。


準備に取りかかった。


ドランが柵の補強と見張り台の仕上げ。丸太を運び、杭を打ち、二時間で村の防御力が格段に上がった。


マルトがリーネに実戦を想定した動きを教えている。足運び、間合いの取り方、避けるべきタイミング。


エルナが薬草を調合し、治癒に備えた。魔力を温存するため、治癒魔法は使わない。


フィオには——。


「お前は村の裏手で待機だ」


「ぼくも何かしたいです」


「お前の仕事は、逃げ道を覚えておくことだ。いざという時、ここから離れられるように」


フィオが顔を曇らせた。


分かっている。この子は「役に立てない自分」を一番怖がっている。


だが——十歳の子供を戦いに巻き込むわけにはいかない。


「これは大事な役割だ。お前にしか頼めない」


嘘じゃない。万が一の時に、この子だけは逃がさなければならない。その道を知っているのがフィオ自身なら、自分で判断して逃げられる。


フィオは唇を噛んで、頷いた。


全員の配置と役割を決める。


誰に何をさせれば最も効率がいいか。


ドランは前衛。力と体格で入口を押さえる。


マルトは遊撃。膝の負担を最小限にしつつ、技術で相手を制する。


リーネは後方支援兼防衛。氷魔法で壁を作り、進路を塞ぐ。


エルナは最後方。治癒に専念。


俺は——。


俺は全体を見る。


それが俺の仕事だ。


誰がどこで何をすべきか。どこに穴があるか。何が足りないか。


「輝きの剣」で二十年やってきたことと、変わらない。


いや——一つだけ違う。


今は、ここを守りたくてやっている。


昼過ぎ。


リーネが見張り台から声を上げた。


「来ました。南東の街道から四人。馬はなし。徒歩です」


立ち上がった。


村の入口に向かう。


柵の向こうに、四つの影が見えた。


先頭に立つのは、黒い法衣を纏った中年の男。


細面で、冷たい目をしている。


その後ろに騎士が三名。軽装の鎧に剣を帯びている。


教会の人間だ。


黒い法衣の男が柵の前で立ち止まり、俺を見た。


「この村の責任者か」


横柄な声。


「そうだ」


「異端審問官ゼノ。王国教会の命により、聖女エルナ・フォン・クレーリスの身柄を引き渡すよう求める」


予想通りだ。


「引き渡す気はない。帰れ」


ゼノの目が細くなった。


「たかが辺境の開拓村如きが、教会に逆らうと?」


「逆らうもなにも、ここは王国の放棄地を正規に開拓した村だ。ギルドに届を出してある。お前らの管轄じゃない」


ゼノの口元が歪んだ。笑っているのか、怒っているのか。


「この村に、異端者と魔族がいることは把握している。引き渡さなければ——村ごと焼く」


脅しとしては上等な部類だ。


だが、俺は——怖くなかった。


なぜかは分からない。いや、分かっている。


俺の後ろに五人がいる。


その五人を渡す気は、微塵もない。


「やるなら好きにしろ。ただし——」


柵の内側で、氷が生えた。


リーネの氷壁。


地面から腰の高さまで、透明な氷の壁が柵に沿ってせり上がる。


騎士たちの足が止まった。


「うちの住民は全員、それなりに強い。覚悟はできてるか」


ゼノの顔から余裕が消えた。


「——やれ」


騎士に命じた。


三人の騎士が抜剣して、柵に向かって突進する。


一人目がリーネの氷壁に突っ込んだ——壁が砕けるかと思ったが、砕けない。


足元に氷が広がって、騎士の靴が滑った。態勢を崩す。


だが、すぐに体勢を立て直した。訓練された動きだ。


ドランが柵を越えて、一人目の騎士と正面から対峙した。騎士が盾を構える。ドランが一歩踏み込む——が、騎士は後退して間合いを取った。力の差を悟ったのだろう。睨み合いが続く。


二人目の騎士がマルトに向かった。


マルトが剣の柄に手をかけた——だが、抜かなかった。


半歩動いただけで、騎士の踏み込みを止めた。


「やめておけ。怪我をするぞ」


穏やかな声だが、騎士の足が止まった。構えを崩せないまま、動けなくなっている。格の違いを肌で感じたのだろう。


三人目の騎士がリーネに向かう。


リーネが手を翳した。地面から氷の槍が三本、騎士の進路を塞ぐように突き上がる。


騎士は足を止めた。無理に突破すれば怪我をする。


膠着状態だ。


ゼノの顔が青ざめている。力押しでは通じないと悟ったのだろう。


そこへ——別方向から、馬の蹄の音が聞こえた。


全員がそちらを見た。


一頭の馬が、街道を全力で駆けてくる。


乗っているのは——。


金髪碧眼。


見間違えるはずがない。


セルディオだ。


「待ってくれ!」


叫びながら馬を飛び降りた。息を切らしている。長距離を一気に駆けてきたのだろう。


「ガルドさん、僕は——」


セルディオが口を開きかけた瞬間、ゼノがその腕を掴んだ。


「ちょうどいい。A級冒険者のレクト家の者なら、教会に協力する義務がある。この村に異端者と魔族がいる。手を貸せ」


セルディオの顔が凍りついた。


板挟み。


教会に逆らえば名門レクト家に傷がつく。セルディオにとって家名は重荷であると同時に、拠り所でもある。


だが目の前にいるのは——かつて自分が追い出した恩人。


セルディオは動けなかった。


目が泳いでいる。唇が震えている。


いつもの、何も決められない顔だ。


二十年見てきた、あの顔。


「お前の答えは聞いてない」


俺は言った。静かに。


「俺はここを守る。それだけだ」


セルディオに背を向けた。


ゼノが叫んだ。


「ならば明朝、正式に審問を行う! それまでに異端者を引き渡さなければ、力ずくで排除する!」


最後通牒か。


ゼノは騎士たちを引き連れて、街道の手前に陣を張った。


焚き火が遠くに光っている。


セルディオは——その場に立ち尽くしていた。


日が暮れた。


緊張した夜だ。


だが——俺は夕飯を作った。


いつも通り。根菜と肉の煮込み。


ドランが切った薪で火を起こし、マルトが水を汲み、リーネが食材を冷やして保存し、エルナがハーブを摘んで添えた。


フィオは食器を並べた。裏手の逃げ道をちゃんと確認してきたらしい。偉いぞ。


六人分の椀に、スープを注ぐ。


「明日がどうなろうと、今日の飯はうまく食え」


全員が椀を手に取った。


リーネが一口飲んで、言った。


「……ガルドさんらしいですね」


「どういう意味だ」


「どんな時でも、まず飯を作る人だということです」


褒められているのか呆れられているのか。


多分、両方だろう。


食後。


全員が各自の小屋に戻った。


俺は暖炉の前で火を見ていた。


明日。


教会の追手を——退けなければならない。


そしてセルディオ。


あいつは何をしに来た?


俺を連れ戻しに来たのか。


それとも——。


小屋の扉が叩かれた。


開けると、セルディオが立っていた。


夜風に金髪が揺れている。


目の下に隈がある。ろくに寝ていないんだろう。


「ガルドさん……話を、聞いてくれませんか」


俺は——少し考えて。


扉を開けた。


湯を沸かして、茶を淹れた。


セルディオの前に、湯気の立つ杯を置いた。


「座れ」


セルディオが腰を下ろした。


長い夜になりそうだ。

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