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次期領主の憂鬱 1

お待たせしております。


この話から新章です。その内にでも各話の前に章を追加するかもしれません。


「犬25、鳥3!!背後なし!!」


「応!」


「前衛を崩します!あとはいつも通りで」


 バーニィが愛剣を手にデスハウンドの中に突っ込んだ。生半可な腕の奴なら即座に首を食い千切られているだろうが、バーニィは違う。初めの頃は数の多さに戸惑っていたが、俺も見つけたデスハウンドの攻略法に直ぐに気付いたようで犬どもの中を縦横無尽に斬りまくっている。


 クロイス卿も流石は二つ名を持つ冒険者、本人は引退したと言ってはいるものの実力はまったく衰えていない。彼は魔法剣士として中衛を担い、バーニィが敢えて討ち漏らした敵を剣と魔法を器用に使い分けて殲滅している。


 俺の仕事といえば主に後方の監視と戦術の全体管理といったところだ。数が多すぎた際の敵の調整や仲間を呼ぶブラックイーグルの即時殲滅くらいだ。

 

 これが実に上手くいった。バーニィが突っこみ、クロイス卿が脇を固めて俺が穴を埋めるとあれだけ手を焼いた21層の敵が簡単に倒されていく。


 当たり前の話だが、パーティーである事の強さを再確認した感じだ。多人数の手で互いの弱点を消し、長所を活かす。解っちゃいたがやはり気心の知れた仲間は良いものだ。これで報酬の分け前の問題さえなければ今すぐ仲間を募っていただろう。


 25匹いたデスハウンドはバーニィによって掻き乱されて勢いを殺され、クロイス卿によって翻弄された。自分の所に辿り着いたのは僅か3匹に過ぎなかった。俺は真っ先にブラッドイーグルを排除した後は二人がデスハウンドをあしらっていくのを眺めているだけで十分だった。


「後続なし。やはりこの陣容なら楽勝の層ですね」


 俺は蜂蜜入り特製マナポーションをクロイス卿に渡しながら周囲を警戒する。結構派手に暴れているが、今のところ敵がこちらに殺到する様子はない。二人には最悪延々と戦い続ける羽目になると警告してあるが、今日は()()だし休憩は取れるうちに取っておくべきだ。


「よく言うぜ。お前が全部見ててくれるからこっちが好き勝手やれてるだけだってのはわかってるさ。じゃなきゃデスハウンド20以上を相手にこうまで有利な状況にならない」


「そうだよ、敵の数や来る時期まで正確に把握できてるんだ。必ず先攻取れて不意打ちの心配もなく前だけ見てればいいんだ。これ滅茶苦茶楽だよ?」


 やはり有能な連中は理解も早いな。一々面倒な説明も要らないからこっちも楽だ。ドロップアイテムをスキルで回収しながら進む。


「しかし、どうやってあの額を稼いでいるのかと思えば、まさかこんな方法とはな。さっきの戦闘でどれくらい手に入ったんだ?」


 クロイス卿の質問に俺は<アイテムボックス>の表示を覗いて数えた。他人にはこの(ウインドウ)が見えないようなので自分で見て数える必要がある。だが、今回は報酬山分けなのでちょくちょく覗いて確認していたからすぐに解った。


「牙が8に毒牙が2です。魔石が10個ですね。鳥のほうは喉笛1個だけでした。まあ、3匹だけですし」


「この短時間で金貨150枚以上確定かよ。どんなスキルか見当もつかないが、とんでもないな。いや、あの額の借金にはこうでもしないと追いつかないのは解るがよ」


「たった一回で一人あたり金貨50枚以上……ユウの金銭感覚が崩壊した理由が解った気がするよ」


 クロイス卿の魔力の回復を待って俺達は行動を再開する。ついさっき倒した階層主からは帰還石と特別なドロップアイテムを手に入れた。今回は掘り出し物を引き当てた。

 通常魔法使いは魔法を行使する時に発動体を必要とする。クロイス卿は大陸有数の魔法剣士だが俺のような非常識の塊ではないので小杖(ワンド)を用いて魔法を行使している。魔法と剣を両方駆使できるだけで相当の器用さだが、やはりワンドが邪魔になる事も多かったそうだ。剣とは違ってかなり壊れやすい品なのでこれまでも数回破損しているという。そもそもワンドを持って前線に出るなといえばそれまでなのだが。


 だが、今日出たアイテムはそんな彼の苦悩を吹き飛ばすアイテムだった。指輪形の発動体である。しかも指輪に嵌められている石は宝珠であり、数種類の魔法を溜め込める逸品だ。指輪の金属自体が発動体としての役割をしているので、彼はこれからワンドを持つ必要がなくなったのだった。


「なんで引退した後にこういうものが出るかねぇ。お前と知り合ったことといい、あと10年、いや5年早く出会っていれば全く違った未来があっただろうに」


 これも含めてな、と特製マナポーションを振りながらクロイス卿はため息をついた。特にマナポーションは衝撃を受けていて、これまで飲んだあのクソ不味いマナポーションのことを悪し様に罵っていた。

 なんでも飲み続けていると舌の感覚がおかしくなり、最後には何を食べても味を感じなくなるという。

 

 そんな怪しい材料を使ってはいないはずだが、俺も実際にマナポーションを飲んでみた時は彼の言葉に深く同意せざるを得ない心境になった。蜂蜜入りを飲んだ後だと二度と口にしたくなくなる味だ。


 魔法職の人間は、敵と戦う他にもマナポーションと一戦交えなければならないのだ。その存在上、味覚があるか怪しい相棒も”罰ゲーム用の品”と言い切っているほどだ。


 クロイス卿は金のある冒険者なら倍額出しても買うと断言していたからセラ先生もこれから増産するようだ。蜂蜜の供給元は俺なんだが、誘引香さえ確保できれば14層で一刻(一時間)で大瓶500個は堅いのでなんとかなるだろう。


 ちなみに、あれから一度だけ蜂の特殊個体に出くわした。またも運よくロイヤルゼリーを2個落としたが、こちらの使い道も決まっていないな。魔約定に行きはもったいないという理由で結構溜め込んでしまっている。

 そういった品が最近増えている。キリングドールのミスリルはもちろん、そろそろ二桁に届こうかというゴーレムの起動核やもう1セット確保した転移環など、表に出せないような品だけで金貨数千枚は達するだろう。勿体無いが、いずれこれ以上の大金になると信じて待とう。


「これも縁という奴ですね。この借金で頭抱えてはいますが、だからこそ二人や殿下、シルヴィアお嬢様とも知り合えたわけで、今ではそこまでこの借金に理不尽さを感じてないんですよ」


 なにしろ借金返済が自分の存在意義みたいになってしまっている。一日も早く借金返済したいという気持ちと、もし終ってしまったら俺は何をするべきなのかと思う気持ちもある。今この時もライルの体を貰って好き勝手に生きてやろうという気にはなれないのだ。我ながら損というか馬鹿な性格である。


「それはそうなんだが……まあ、これはお前が持っておけよ。売れば高いだろう。俺は今更持っても仕方ないからな」


「いや、それはクロイス卿が使ってくださいよ。指輪なら剣と違ってどこでも持ち込めますからいざという時に役立つでしょう。バーニィもそれでいいよな?」


「ええ、どうせ僕は魔法使えませんし、クロイス卿が使ってください」


「お前も魔力あるんだから魔法は使えるはずだぞ。今度一緒に練習するか?」


 バーニィも正式な貴族だし、剣に魔力を載せているので魔法が使えないはずがないのだ。


「いや、お前の言いたいことはわかるが、こいつは一点特化だからこその強さでもあるからな。下手に手を広げるより長所を伸ばしたほうがいい気もするな。魔法攻撃ならそれこそ魔導具や宝珠もあるんだしよ」


 確かにそれもそうか。と話している時間はなくなった。新手だ。


「この感じ、敵ですね」


「ああ、後ろから犬が32匹。鳥なし背後なし後続なし」


「ほんと便利だな。俺のスキルはダンジョンじゃ意味ないんだよな」

  

 バーニィは既に敵に突っ込んでいる。クロイス卿は魔法の詠唱を始めている。さっそく指輪の発動体を使ってみるようだ。

 俺は二人を視界に収めながら、この”接待”であるウィスカのダンジョン体験ツアーを怪我人なくのりきるため、何時にも増して集中した。


楽しんで頂ければ幸いです。



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