裏事情 3
お待たせしております。
その夜、我が家では大騒動が起きた。
私が父に魔導具の件で詰め寄ると、父は初耳のようだったがすぐさまお抱えの鑑定士を呼んだ。あいつに言われた通りなら次で爆発してしまうはずなのでわざわざ距離をとって地下で行う念の入れようだった。
もう夜も遅いのだが他の兄弟まで集まってきた。下の子供達はもう寝る時間なのに自分たちだけ楽しそうな事やっててずるいと文句を言っているが、もし本当に爆発したら洒落にならないのだけど。
そして案の定、盛大な音をたてて爆発した。防音の魔導具を用意して備えていたが、それ以上の轟音が響いてしまい警備の人間が大慌てでやって来るほどだったが、こっちはそれどころではなかった。
鑑定士である祖父の代からずっと王宮勤めのゲール爺さんは爺さんで責任を取って死のうとするし、父が半狂乱になってレスター卿とフレデリック伯を呼び出そうとしていたのだ。二人はこの国における魔法学と魔導具製作の権威だが、流石に夜遅くに呼び出すのはどうか。兄たちが止めてなんとか事なきを得た。
ゲール爺さんの忠誠心を疑う気はない。秘書官の地位も兼任していた爺さんは家族みんな子供の頃から知っている間柄で鑑定士も片手間にやっている印象だった。秘書官という職は事務的なイメージを受けるが、実際は家族に深い関わりを持つので家臣というより家族の一人のような感じになっている。
それに爺さんが私の事件の時も弱気になっていた父を大喝して叱り飛ばした話は、我が家に永く勤めている者なら誰でも知っている武勇伝だ。爺さんが私たちを騙していたとはとても思えない。
皆は大騒ぎだったが、私の気分は悪くなかった。父の反応からこの家にとってのお荷物である私をこの機に排除しようとしているのでは? という拭いきれない疑念の答えをもらっていたからだ。あの男がソフィアに伝えたという内容から、あいつが最悪の想像をしているということは解った。
だとすると私を呼び寄せようとしたのは恐らくその最悪から守るためなのかしら? だとしたら少しは評価を上げてあげてもいいかもしれない。
父と兄弟たちは爆破した魔導具の件で喧々諤々の大騒ぎ中だ。あいつが魔導具に爆発するよう仕込んだのではといぶかしむ声もあったが、そんな技術は聞いたことがないし、さらに私にソフィアを介して忠告するはずがない。母たちは轟音に興奮している子供たちを連れて出て行った。
ゲール爺さんは、絞り出すような声で、<精密鑑定>なるスキルの存在を明かしてくれた。祖先に一人だけ持っていた人がいるみたいだけど、その人以外は誰も発現しなかったようだ。爺さんの一族では恥を隠すように、その存在を秘していたみたいだ。
皆はその<精密鑑定>で盛り上がっていたが、私はもう済んだ話なので気にならなかった。
私の話す用件は済んだし、なにしろこれから荷造りをしなければならないのだ。
父にその件を話すと、不承不承納得してくれた。嫁入り前の娘を……などと言っていたが、もとより私に価値などない。あるのは面倒な火種だけだ。ただでさえ厄介な私を引き取れそうなのは、あらゆる難題を力ずくで解決するような豪腕さが必要だろう。
ああ、ソフィアが変な事を言うからあの男の顔が思い浮かんだじゃない。でも、そうか。あの男ならそんな問題も笑って打ち砕いてしまうに違いない。このありえない借金だって、最後は支払ってやると何故か納得してしまったし。こっちは滅茶苦茶助かったし、父はいつか褒美をくれてやると大絶賛してたけど。
「お父様、あの双子を向こうに連れて行っていいかしら? あちらのご指名なのよね」
「そうか、わかった。惜しいが仕方ない、本人たちには伝えたのか?」
双子は元は父の護衛だ。もちろん他にもとびきり優秀な護衛は居るが、父の信頼篤い二人なのだ。それを知っていたので私も父の厚意と思って連れて行ったし、だからこそ魔導具が爆破するなんて思いもしなかった。
と言っても、父が一番驚いていたが。
双子の方は問題ない。あの男と会っている最中にその話はしていたし、双子は父の判断に任せると言っていた。それにあの男の従者みたいな女性と親交を深めていた。最後は朗らかに歓談していたし、関係は悪くないと思う。
思えばあの女性も謎ね。双子は実力主義なところがあるから弱い人の言葉は耳を傾けない。つまり双子の上を行ったことは間違いないのだけど、昼間会話した感じでは本人は錬金術師だと言っていた。だけど只の錬金術師をあの男が配下にするわけはないから、なにか秘密があるのだろう。
とんでもない美人であることは、あまり関係ないかな。関係者の証言でも、あの男は人の美醜にほとんど興味を示さず、性格で友人を選ぶと聞いているし。
「私としてはお前を遣りたくはないが、この案件は他人には任せられん。確かに適任はお前なんだろう。それはそうと、連絡はどのようにつけるつもりだ?」
鳥でも使うかと父は思っていたようだが、私はあの男から渡された通話石を取り出した。
「なんとまあ」
「ソフィアはあの慮外者たちの物資を根こそぎ奪ったと言っているから、出所はライカールでしょうね」
「待て待て、設定はどうなっている? 石同士が対応せねば意味がない。それに魔力の残量も」
私は一対で渡されたもう一つの石を取り出して父が手にしている方に通話を行った。音声はクリアだから、魔力がたっぷり残っていることになる。念の為、二対で渡されていたのだ。予備を考えられるほど大量の石を持っていることになる。元々魔力の切れた通話石もしばらく時間がたつとごく僅かな時間であるが、また使用可能になったりするので捨てない事が多いとは聞いているから在庫自体は大量にあるのだろう。それを充填して再度利用可能にするなんて誰も想像できなかったに違いない。
「最近良く通話石を見かけると思ったが、まさか魔力の補充が事実とはな。報告は受け取っていたが、本気にはしなかった」
「やれやれ、恐るべしは妖精連れだな。彼がこちら側で良かった。これが敵だったら首をくくった方が早いぞ」
兄の一人が、通話石をあれこれさわっている。ガラクタになったものは良く見ても、通話可能な石なんて父以外には滅多にさわれないから気持ちは解る。私もさっきまで両方をもって双子と遊んでいたのだ。
「とにかく、これで連絡をとります。報告は最初は1日に一度入れますが、そのあとに頻度は考えます」
「その頻度では直ぐに魔力が切れるぞ。第一本当に魔力が補充できるのか? 直に見たわけではあるまい」
父が大導師から大金を出して補充済みの石を買っている事を知っていたが、それには触れないでおく。親の不器用な愛情である事はわかっている。
「数を持っている理由がライカールの皇太后からの支給品であることを考えると、大量のガラクタが混ざっていると思われます。そのガラクタを使えるようにしているとなると、やはり補充できるのではないかと。実際にあの男の回りの人間には石を渡して会話しているそうです」
「なんと贅沢な。我らとてそのような事をしていないものを」
「ねえ、セリカ。その人に言ってすこし分けてもらってよ」
「どうでしょう。話した限りではかなり気難しい男でした」
今まで戦いを生業とする人達が殺気がどうとか、よく口にしていたが、今まではあまりピンと来ていなかった。そんなものかな、と軽く考えていたのだが、実際受けてみると洒落にならない重圧だった。あらゆる護りを与えるという魔導具をつけてあの有り様なのだ。下半身の準備を整えていなかったら人生で最悪の瞬間を迎えていただろう。
「そうなの? 私が聞いた話では筋道立てて話せば聞く耳を持つと聞いたけど? いったいどういう話をしたのよ」
とてもキレさせる前提で煽りまくったとは言えない。
「ああ、それと、石の他にも黒濡れ羽ももっと納品するように伝えてくれないかしら。ソフィアちゃんが夜会で帽子に差していたのを見てから気になって仕方ないのよ。父様は私達に絶対回してくれないからこっそりお願いね。あの羽で扇を作ったら素晴らしい事になると思わない」
「ああ、そういうことなら俺も要求がある。肉をもっと入れるように伝えてくれ。いくら気安いとはいえ毎回公爵の家に食いに行くわけにはいかんからな。頼むぞ」
「じゃあ、私は肉球をセットで欲しいね、アイシャが偶然見つけて以来、あれが欲しいと聞かないんだ」
「ねえ様、私は蜂蜜の詰合せがいい。シーちゃんとソフィア様が持ってきてくれる量では少ないんだもの」
「俺はゴーレムの核を頼むぞ。起動核は流石にまずいが核程度なら大事にはならんだろうからな」
「魔法研究所からは触媒をもっとくれと煩いな。だが、予算以上の触媒が溢れる位納品されるから来期の予算は触媒だけで良いと言って来るかもしれんな。それはそれで大助かりだが」
皆は自分のツテで情報仕入れまくってるじゃない! 私が選任である必要は……まあ、手が空いているのは私だけか。
やれやれと家族を見回すと、みんな笑っていた。何がそんなに楽しいの? とおもっていたけど、私の顔もどうやら笑っているみたい。
だって仕方ないじゃない。これから間違いなくとんでもない毎日が始まる予感を抱いていたんだから。
当の本人がこれを聞いたらとても嫌な顔をするであろう事も含めて、私達は夜も遅いというのに笑いあっていた。
楽しんで頂ければ幸いです。
主人公、考えすぎて自爆するの回でした。
さて、次ぎから新章です。




