王都にて 17
お待たせしております。
ここから後日談です。
さっき見たらこの話のほかに後4万字ほどありましたが、後日談です。
俺はすっかり常宿になっているホテルで目を覚ました。日は既に高く、時刻は11時少し過ぎた辺りだと〈時計〉が教えてくれた。普段からは考えられないほど遅い時間だが、昨日は色々あって床に就くのが遅かったし、後始末なんかも済ませたら日が昇り始めるような時間になっていたのだ。
あの後、リットナー伯爵家では「祝賀会」が開かれたはずだ。内容はグレンデル高司祭の悪魔への昇華(?)を祝うものだ。もちろんお題目で実際は奴を永遠に排除できた祝賀なのだが、いつでも建前は大事である。
部外者の俺が参加できるはずもなく、色々な後始末を終えた後で夜陰に紛れてホテルへ戻った。屋敷を出るときに僅かに漏れ聞こえてきた声はアドルフ公爵のもので、グレンデル高司祭の偉業を声高に褒め称えるものだった。
「物語」としては彼が行った儀式でなんと高司祭は悪魔への受肉を果たし、高位の存在となる。ランヌ王国がこの慶事に関われた事は望外の喜びであり、教団への貢献を高く評価されるだろうという展開だ。
実の所、俺のこの褒め殺し作戦の提案に公爵はかなり渋った。やはり最愛の孫娘をただの嫌がらせ、さらにはもののついでで殺そうとした相手を賞賛するのは心情的に受け入れられないものだったようだ。公爵位を持つ最上位貴族らしからぬ態度ではあるが、頷ける話ではある。
最後は俺が「死ねばみんないい奴になってるじゃないですか?」と助言すると、目を丸くして吹き出した後、承諾してくれたが。
シルヴィアはほんの一時だけ目を覚まし、公爵やクロイス卿と僅かな会話ができたようだ。公爵家では万事を想定して対策を取っていたはずだから、今頃は手厚い看護を受けているはずだ。〈鑑定〉で確認できたステータスとやらは全てを数値化するが、分かりやすいがゆえにかなり大雑把でもある。数字上と実際の状態は比例しない。と言うか無理だ。前にも言ったが、老衰で死ぬ間際のHP1と空腹で餓死寸前のものでは状況は全く異なるが表記上は同じだからだ。
魔法が非常に発達しているので本物の医者など見たことがないが、公爵家ならば当然手配しているはずなので彼らに委ねるしかない。
リリィが破壊した魔導具の手枷も完全に力を失っているので向こうが仕掛けた罠は全て潰したと思うが、しばらくは経過を見守るしかない。やはりあちらに主導権を渡すとこちらが完全に事態を掌握するのは無理だな。意図しない事で綻びがでるのはわかっていたが、あの娘に何か後遺症があると思うと居ても立ってもいられない。様々な知識のあるセラ先生に相談してみる必要もあるかもしれない。リリィの特殊能力はこういうときは役に立たない。調べる項目が曖昧だと信じられないほどの時間がかかる上に、知りたい結果も大量に現れる。そしてその沢山の結果を一つずつ調べる羽目になるという手間も必要になるという悪循環だからだ。
シルヴィアの容態が不明という点以外はランヌ王国としては結果的に満点の結果だと思う。グレンデルの影響を排除するどころか本人を抹殺し、さらにはそのことを非難される謂れもない。教団本部の原理主義派もこちらを賞賛することしかできず、言いがかりをつけることもできない。
たとえ本心がどうであれ悪魔への受肉は彼らの教義にとって最終目的の一つであり、到達者として教団史に永遠に名を残すほどの偉業だ。
こちらが高司祭を褒め称える以上、教団はそれを受けるほかないという寸法だ。高司祭を罠にかけて殺したなどと告発しようにもグレンデルが悪魔に変化した姿を見た者があまりにも多すぎた。それに教団が持つ連絡手段で公爵が既に一報を世界中に広めてしまっていた。外堀を完全に埋められて、今はグレンデルを邪魔に思っている世界の王侯貴族たちからの「心からの賞賛」が教団本部には送られてきている手筈だ。
こういった手管は流石に本職だと思わされる。根回しが鮮やかすぎる。教団内部も様々な権力闘争があるのかもしれないが、流石に最高位貴族のそれには敵わない。ほんの三日かそこらで全ての流れを纏めて作り出し、準備万端で儀式を待ち構えていたのだ。高司祭も強力な手札をもっていたが、それは俺がちゃぶ台返しでひっくり返してやったしな。………ちゃぶ台ってなんだっけ???
寝起きの頭で色々考えてたのだが、腹が減ったな。普段はあまり食欲旺盛というわけではないが、昨日は回復魔法を使いっぱなしで精神が疲れた。スキルの効果ですぐさま回復するはずなんだが、消費量が回復量をわずかに上回っていたし、いつ不測の事態が起きてシルヴィアが死ぬか解らなくて非常に心臓に悪い時間が続いた。クロイス卿の到着がもう少し遅れていたら不味いことこの上ないマナポーションに手をつけなければならないかと思っていたほどだ。
とりあえず何か腹に入れようか。時間的に食堂は無理だろうからラウンジかな。
王国の最高級ホテルだけあって時間が過ぎたら食事は出ない、などということはなく食堂に向かうと軽食が出されるようになっていた。食堂の奥にあるラウンジに向かう。このホテルのスイートの特権の一つにラウンジの無制限使用権があるのだ。
この世界は基本朝と夜の二食しか取らないが、裕福な者はその限りではない。それに、その代わりに間食はそこそこ取る傾向にあるのでかなりの量が用意されている。無論、間食を食べられるのは懐に余裕のある人種に限られる事は言うまでもないが。
そしてこのレベルのホテルになるといちいち注文をとるようなケチ臭い真似はしない。金が有り余っているような金持ち以外お断りと門構えで宣言しているような最高級ホテルのラウンジだ。食事、飲み物、軽食、全て無料で提供されるし、食べ物が減ったり冷めたりしたら勝手に補充される。
卓の上にある軽食を適当に腹に入れ、さらにまだ残っているハンク爺さんの作ってくれた弁当を食べる。実はまだあと3食もあったりするのだ。流石にウィスカに持ち帰るわけにも行かないだろうから、誰かにあげてしまおうかと考えていると、横から静かにお茶が置かれた。
「女給を雇った覚えはないぞ。そんな金もないしな」
「この程度は契約の範疇と考えている」
「必要ない。君だってやりたくもない事をする必要はない」
横には年若い女が立っていた。仕立てのよい服を纏い、ぴしりと背筋が伸びたその姿は公爵邸で見た家宰を思わせる。男物の見慣れない異国の服を着ているが、一分の隙も見い出せないその姿は、「氷の美貌」という表現がしっくりくるその気配は近寄りがたいに一言に尽きる。
ウィスカの冒険者ギルドに属するユウナもこの感じを受けるが、彼女は職業上感情を抑えているからああ見えるのだ。王都の倉庫街で驚かせた時はもっと感情豊かだったから、あれが素なのだろう。
だが、この女は違う。今も澄ました顔をしているが、初めて会った時は感情の全てを凍りつかせたような無表情だった。俺が彼女を縛り付けていた事情とやらを行きかがり上、叩き潰してしまったようなのでこれでもマシになったほうだという。
「あれから何も指示を受けていないのでな、今はする事がないのだよ」
「何もしなくていい。君の好きなことを好きなようにやればいい。俺たちの〈制約〉は互いに何かを強制するものではない」
俺はこの美貌の女を溜息と共に見上げた。文字通り溜息の出るような美人だが、外側の評価をこの女は気にも止めないだろう。巧妙に隠しているが、その身には信じられないほど膨大な魔力を宿しており、その気になればこの王都を灰燼に帰すことも容易いはずだ。
何でそんな奴か俺の側に控えているのを説明するには、昨夜の魔族との争いにまで遡る必要がある。
眠いわ腹は減るわ面倒くさいわでやる気がゼロどころかマイナスだった俺は、魔族の男の首を一発で刈り取った。短距離の<転移>を戦闘に活用する野郎で、まともに戦えば相当に苦戦したはずだ……というより普段の俺ならその<転移>の解析に嬉々として取り組んだだろう。だって面白そうだしセラ先生にそのスキル気になるんで色々試させてくださいとは頼みづらい。あの不可思議なスキルを色々研究するのにもってこいの相手だった。今思えばもったいない事をしたと思う。
だが、俺の状態があまりにも悪かったため、そして何より相手が完全にこっちを舐めきっていてほぼ無防備だった。抜群の切れ味を誇るバーニィの愛剣を手に、渾身の踏み込みで「すぱん」と首を飛ばして終了だ。銀髪の男は驚愕を浮かべることさえできずに間抜けな顔をして死んだ。
魔族が死んだ事により、張られていた<結界>が崩壊した事を感じるが、流石にこのままではまずいだろう。色々と後片付けをするのに便利そうなので自分の手であらためて<結界>を張った。先程のものよりも大きく、更に強力なやつをだ。なにしろ敵の魔族はもう一人、赤黒い髪のやつがまだ残っている。あれが暴れだしたらグレンデルの比でない損害が出るだろう。今死んだ銀髪の魔族でさえ、グレンデルが足元にも及ばない力の持ち主だった。敵の強さがどうというより、これから行わねばならない工作に不利益が出るだろう事を警戒したのだ。ここまでやって後始末で失敗するなんて絶対に嫌だ。
だが、あのときの俺は魔族を殺したことより、バーニィの剣の軽やかな切れ味に呆気に取られてしまった。
あまりに手応え無く、気持ちよくさっくりといってしまったのだ。
この剣もクロイス卿の業物と並ぶ名剣と呼ぶにふさわしい逸品と感動しきりだった。欲しいな、と一瞬思ったもののこれはバーニィの持ち物だし、あいつが命の懸かった戦場に持ち込んだ剣というだけでどのようなものかは推し量れる。
それに何より………売り飛ばして借金の足しにする自分が予想できたのでやめる事にする。
この剣に銘が無ければ”魔族殺しと名付けたい所だが、魔族襲来を声高に宣言するわけにもいかない。泣く泣く諦めたが、この剣にはそれにふさわしい名が必要である事には変わりない。バーニィを誘ってどっか大物を倒しにいくのもいいかもしれないな。
首を失い倒れ伏す魔族は身じろぎもせず動かない。〈鑑定〉して完全に死亡している事を確認する。普通の生き物なら首を飛ばされたら死ぬはずだが、彼らがそれに当てはまるのか分からなかったが、流石に死ぬようだ。噂に聞く魔族なら首と体が分かたれてもそのまま襲ってくるくらいしてもよさそうだが、脳みそと神経で体を動かす二足歩行生命体じゃ首を刈られたら死ぬか。当たり前の話だな。
「で、そっちはどうする?」
俺が剣を向けた先にはもう独りの魔族がいる。背後に控えていた赤黒い髪の奴だ。
「ほ、本当にハルトマンは死んだのか?」
甲高い声でその魔族は尋ねてくる。この声、もしかして女か? 外見は男みたいだが、まあ細いし男装の麗人とか言う奴かも。
「死んだな。俺はボックス持ちだ。生きた奴が入らないのは知ってるだろう?」
証明とばかりに転がっていたハルトマンとやらの首を〈アイテムボックス〉に放り込んだ。悪魔といい魔族といい最近ロクなもの入れてないなと思うが、このまま放置というわけにもいくまい。
すると、女魔族の様子がおかしい。
「ははは、これは傑作だ。見下していた人間にあっけなく殺され、蘇生もかなわぬとは………なんとも愚かな下種の最期らしいではないか!!」
その女魔族は首を失ったハルトマンとかいう魔族の死体を眺めながら堪えきれぬように笑った。愉悦収まらぬといった風情たが、俺はなんとなくそんな予感がしていた。
奴の首を飛ばす際に意識を彼女の方にも向けていたのだが、その時かすかに笑ったような気がしたのだ。もしやと思ったが、やはり仲違いしていたようだ。
「その様子だとこちらと事を構える気はないみたいだな」
「もちろんだ、何が悲しくて憎くもない相手と殺しあわねばならぬのだ」
良かった、実に話のわかる相手だった。これ以上の面倒事は御免だったし、そろそろ俺の精神力も限界に近かった。いっそのことまとめて始末してしまうかと物騒なことを考えていたりもする。いやいや、人間短絡的になってはいけないな。
「そいつは良かった。じゃあ、お帰りはあちらだ。この中は〈結界〉で閉じてあるから誰にも気付かれてないが、今から解くからその溢れ出る力を抑えてくれ。ここにはそれなり以上の力を持つ連中もいる。あんたのことを気付かれたら説明が面倒だ」
俺は天井を指差しなから言った。そして風属性の上級魔法<テンペスト>を使って天井の一部を吹き飛ばす。深夜の貴族街に響く轟音と共に地下聖堂に開けた大きな穴からは夜空と星が覘いていた。
これは始めからの計画で、悪魔化したグレンデルはここからいずこかへ飛び去ったという設定にするのだった。参加者は今の轟音で何があったと気付き、穴を見て理解するという流れだ。
関係者には公爵がこの設定どおりに口裏を合わせるべく大きな何かが飛び去ったと界隈に噂を流してもらう手筈だったが、丁度いい。彼女にも手伝ってもらえないか聞いてみよう。
「なあ、もしよかったらここから出る時になるべく派手にやってもらえないか? 結構前からここにいたのなら俺たちの状況も少しは分かっているのだろう?」
「それはかまわないが……できればこちらの条件を飲んでもらえれば有難いのだが」
「俺にできる範囲ならな」
その女魔族、レイアが語った契約を俺は承諾し、<誓約>という違えた時は互いの命を以って購うというスキルを用いてその場は別れたはずなのだ。
俺としては隅で隠れていたリノアを連れてホテルへ戻ったつもりなのだが、リノアとその女魔族に何か通じ合うものがあったようだ。そういえばしきりにリノアのほうに視線をやっていたな。今にして思えばそのときに黒装束で性別の見分けのつかないリノアの正体を見抜いていたのかもしれない。それはリノアも同じなようで、折角滅多に近づくことの出来ない最高級ホテルに泊まるのだからと、彼女も一緒に連れてきたようだ。一体どうやって合流したのかは、俺は知らないのだが。
俺は不覚といえば不覚だが、女魔族がついてきている事に気づいていなかった。回復魔法を延々と使い続けたことにより、魔力欠乏による酩酊を久々に覚えていたこともあり注意散漫だったが、これも言い訳だな。もし危害を加えるつもりで追って来ていたら対応できなかったもしれない。
「ああ、ようやく目覚めたのね」
「おはよう、そっちは早いな。眠りについたのは同じくらいだと思ったが?」
「無理にでも起きたのよ。サウザンプトンの朝食を食べないなんてもったいない事できないもの。あのバターと生クリームをふんだんに使ったスクランブルエッグは王都に住んでいる女なら一度は口にしてみたい逸品なのよ。思わぬ形で実現したから、これでみんなに自慢できるわ」
「なるほど、やはりあの朝食は素晴らしかった。余程名のある人物が作ったものに違いないと見ていたが、評判の品なのだな」
「焼きたてクロワッサンなんて持ち帰りたいくらいだもの。寝不足は家に戻ったらいくらでもなんとかなるけど、ここの食事だけは宿泊しないと味わえないから。しかも最高級スイートなんて一生の自慢よ」
このラウンジもね、と俺の対面に座ったリノアが興奮状態で続けた。
「サウザンプトンのラウンジでメイスンの紅茶を飲む事ができるなんて……ああ、幸せ」
「喜んでくれて何より。もう何もかも払い終えているからこれ以上の金はかからんから好きにすればいい」
ちなみに代金は王国持ちだからこっちの懐も痛まないというオマケつきだ。それにしても名前も聞いていない女魔族とリノアは随分と親しくなったようだ。出会って半日にも満たないとは思えない親密ぶりだ。
「ん? ここの食事に手をつけずになに食べてんの? お弁当?」
「ああ、ウィスカから持ってきた弁当だよ。宿の爺さんが沢山作ってくれたんだが、食べる機会がなくてな、今の内に消費してる」
「ええ? サウザンプトンの食事を食べないなんてもったいなさ過ぎる。それにウィスカから持ってきたって事はいつ作ったのよ。保存食……じゃないようね、湯気立ってるし」
「リノア、我が君は特殊な力を有しているのだ。<アイテムボックス>持ちと出会ったのは初めてではないが、時間停止能力まで持っているのは有史以来おそらく初めてはないかな」
「はあ? <アイテムボックス>ぅ?…………いや、あんたの事で驚くのはもう止めたんだった。ユウならそういうこともあるでしょうよ。ええそうでしょうとも」
なんか最近みんなが俺のことで驚いたら負けみたいな空気になってきてるな。それと女魔族、勝手に自分の情報を漏らすな。そういえば俺は彼女の名前も知らないことに気付いた。これはいかんな。
「俺の事は置いといてだ。まずはみんな座れ、お互いに自己紹介をしておくべきだろう」
側に控えていた魔族も座った事を確認して口に出したが、リノアから冷たい視線を受けてしまう。
「今更? 私たちはとっくに済ませてるんだけど。ああ、あんたさてはレイアにまだ自己紹介もしてないんでしょう?」
「リノア、それは仕方ない事だと思う。我が君は今朝方まで動かれて非常にお疲れだったのだ。そこを考慮して私も口にする機会を逸していたのだ」
レイアという女魔族が庇ってくれたが、実は彼女と<誓約>をした後の事はあまり記憶にないのだ。冷静に考えればリノアをホテルに連れ込んだ事になるのだが、その時は深く考えなかった。腰が抜けて立てないリノアと行く所がないというレイアを連れて朝方にホテルに戻ったが、怪しさ満点の俺達にもドアマンは完璧な職業意識を発揮して笑顔で迎えてくれた。女性陣用に風呂を焚いた後は自分の寝台に倒れこんだ後は覚えていない。
そして遅く起きて食堂に来て、今に至る感じである。
非常に今更の話ではあるが、リリィはソフィア達と王城にいる。昨日の隠れた功労者である相棒は公爵とも面通ししたようだが、俺が居ないと人見知りするから会見がどうなったのかは不安である。今は城で蜂蜜食べている最中のようだから、何事も無かったと思いたいが。
「言いだしっぺの俺からだな。俺は冒険者をやっているユウという。本名は違うが、まあ通り名みたいなものだと思ってくれ。リノアはもう調べているだろうから、気になるなら彼女から聞けばいい。普段はウィスカのダンジョンを攻略しているが、今は王都で依頼をこなしている最中だ。王女殿下たちとはこの任務で知り合ったが、今日中には王都から離れると思う。俺からは以上だ」
「なんて表面的な自己紹介。間違ってないだけに騙された感がすごいわ」
「秘密まで話す自己紹介があるか。お互いを知る程度でいいんだよ、次はリノアな。そういえばちゃんと聞いたことってなかったよな。店に行ったら君のおばあちゃんとばかり話していたし」
「そういえばそうね、お互い大体察しはついてるけど。私はリノア。この王都で代々お店をやっている一族に生まれたの。何の仕事かはみんな解っているから省くけど、私はその店を任された新米店長というところかしら。昨日はこいつの手伝いであそこにいたんだけど。本当に居ただけね、なにも出来なかったし」
「元々保険だって言ったじゃないか。何かあったときに動ける人がいればいるだけこっちが助かるんだ。そっちにも利点は多かったと思うが」
あの後、僅かではあるが主要な人物にも面通ししているのだ。”俺の友人”として紹介しているので向こうも扱いは弁えてくれるだろう。
「それはそうだけど、何しに行ったの?と言われると考えちゃうのよ。これから一族に報告する必要もあるんだし」
「いやいや、その齢で一族の長とは大したものではないか。私がその齢の頃は己の事で精一杯だった。鍛錬に次ぐ鍛錬で、将来のことなど、まして他の者を率いてゆくなど考えもできなかったよ」
「私の場合はおばあちゃんが健在だから。今は経験を積んでいる最中で、実質的にはお飾りの頭領よ。実務や依頼の受注関係の面倒事は全部任せちゃってるから」
珍しくリノアが照れている。レイアは男装の麗人と呼ぶに相応しい格好と居住まいだからまるで口説いているようにも見えなくもない。最も魔族が見かけ通りの年齢である保証はないが、それを口にして確かめる勇気はまだない。
それと、なかなかきわどい発言が多かったので途中から俺達の周りに<消音>を使っている。自分のみに使用する事も範囲指定もできる優れものだが、逆に喧騒がうるさい場所で使うと非常に目立つ弱点もある。このラウンジは俺達以外には給仕をするメイドしかいないので使用に問題はない。
俺達二人の話が終わり次はレイアの番となったとき、ラウンジの扉が開いた。女性二人の視線が、甘い香りを漂わせるスコーンに釘付けになってしまった。焼き立ての山盛りスコーンの隣には蜂蜜やジャム、クロテッドクリームやクリームチーズなどの付け合わせが揃っている。
既にスコーンに意識を奪われている二人に軽く頷いてやると、二人は揃ってスコーンに殺到した。今朝もああやって二人で朝食を楽しんだのかもしれない。そう考えれば仲良くもなるはずである。
何故かリリィがスコーンずるいと騒いでいるのだが、今さっき君はフィナンシェとシブーストを食べた後じゃないか。別腹は蜂蜜で十分だろうに。
あと、蜂蜜で思い出したが、あそこに乗っている蜂蜜は俺が提供したものだ。気前よく渡したら俺への扱いが、王女一行にくっついている下男から、護衛の一人くらいにまでは格上げした。
それ以降の俺への態度がそれを証明している。俺の偏見かもしれないが、このような場所に勤めている奴は本人も特権意識に凝り固まっている事が多い。自分より下だと思えば客であってもなかなか愉快な扱いをしてくれる。わかり易い見せ金や簡単な付け届けでそれが変わるなら俺はそれを惜しまない派である。
ソフィア達には頭を下げるくせに俺には素通りとかを連日やってくれると、普段は気にもしないものが妙に気に障ることがあるものだ。
今ではドアマンやメイドも俺に最敬礼だ。かなりの量の蜂蜜をばら撒いたが、リノアと行った蜂蜜狩りの成果は大きかったし、どうせ明日にもウィスカに戻るのだ。嫌でもこれから蜂蜜は貯まっていくと思うから遠慮はしなかった。相棒もそれが分かっているのか煩くは言ってこない。
皿に山盛りのスコーンとクリーム類を乗せた、二人が戻ってきた。特にレイアの表情は明るく朗らかだ。初めて会ったのが昨夜とはいえ、あのときの冷酷ささえ感じる怜悧な顔は今は見る影もない。女の顔が曇っているを見るのは嫌なので良い事だとは思う。
メイドを呼んで新たな紅茶を淹れてもらっている間、二人は絶賛の言葉と共にスコーンを口に運んでいる。俺はごってりと塗りたくられたクリームやジャムを見ただけで満足です、はい。
二人の食事は終わる気配を見せなかったので、こちらから声をかけることにした。
「食べながらでも構わないから、話を続けてもらっていいか? 何故君とあの男があの場所にいたのか、その理由を俺は知りたいと思っている」
顔を綻ばせながらスコーンを口に運んでいたレイアは、自分が今何をしていたのか思い出したかのように居住まいを正した。これまでの印象が完全に変わっていて本人は照れているようだが、俺はそれを好意的に捉えている。
「少し込み入った長い話になる。そのつもりで聞いて欲しい。まずはあの男との関係からだ」
俺達は、そこから魔族たちの古い因習についての話を聞く事になった。
残りの借金額 金貨 15002532枚
ユウキ ゲンイチロウ LV128
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV143〉
HP 2084/2084
MP 1454/1454
STR 363
AGI 341
MGI 357
DEF 332
DEX 290
LUK 208
STM(隠しパラ)572
SKILL POINT 505/515 累計敵討伐数 4699
楽しんでいただけたら幸いです。
活動報告でも書かせてもらってますが、主人公の魔力について補足します。
各種スキルによってMPにして毎秒800ほどMPが回復しますが、それを上回る魔力を用いて
シルヴィアを回復させていました。そのせいで久々に魔力欠乏じみた状況に陥ります。
MPは2秒で全快するんですが、酩酊感は消えない設定です。
そのようなスキル関係の補足を活動報告でやっていけたらなと思います。
早く王都編を終わらせてウィスカのダンジョンに戻りたい今日このごろですが
ストックとの戦いでもあるので、次の更新も日曜にさせてください。
最後になりますが、感想をいただけた方、評価をいただけた方、ブックマークをしてくださった方、
本当にありがとうございます。
誤字脱字を報告してくださる方、感謝しかありません。いつも申し訳ないです。
そして読んでいただけた皆様にも深い感謝を。次もがんばります。




