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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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王都にて 16

遅くなりました。加筆修正が多すぎて時間かかりました。



「お前ら、生きてるだろうなっ!」


 待望の援軍、クロイス卿が現れたのは時間にして四半刻(15分)も経ったころだった。彼は招待客の誘導の指揮を取っていたが、客たちの混乱が予想以上に酷くてこちらに来るのが手間取っていたのだ。俺は<マップ>で位置関係を把握していたから、彼がかなりの困難を切り抜けて来たことを知っている。


 それくらいの余裕はある状況だった。目の前には元気に暴れる10匹の悪魔とそれを手玉に取っているバーニィ、そして魔法を繰り出してくる上級悪魔と全く同じ魔法で相殺する俺の姿があった訳だが……。


「シルヴィ!! おい、状況は!?」


「動かさない方がいい。腕に嵌められている魔導具が生命力を奪い続けていて今も瀕死だ。俺じゃ解呪できないから専門家が必要だ。不用意に動かすと何が起きるかわからない。目の前のでかいのがグレンデルだった奴でグレーター・デーモンになった」


「そうか、解った」


 彼はそれだけで全てを悟ったようだ。暴れているデカブツよりもよほど恐ろしい殺気が湧き上がったがすぐに収束した。無くなったわけではなく凝縮されているのであろうことは想像に固くない。ああ、切れるとこうなる人種なんだな。敵に回すとこういう手合いの方が怖いな。



「あれがグレーター・デーモンか。やれやれ、伝説とご対面というわけか……仕方ない、ここは俺に任せてお前はシルヴィを連れて退避しろ。外には腕利きの神官や呪術師が待機している、魔導具は解呪できるはずだ」


「相手は普通の悪魔よりも更に魔法が効かないですよ。一人では危険です」


「そう言うがな、ここはそうする他ないだろう。俺ではそこまで強力な回復魔法を使えない。お前が連れ出してくれなければこの子は助からん。なに、心配するな。守りに徹すれば時間稼ぎくらいはやって……」


 前に出ようとする彼を何とか抑えつつ俺は気配を辿る。バーニィは全く心配要らないようだ。隙を見て反撃しているが、武器が武器なのでまともな威力になっていない。あくまで注意を引き付けているだけだ。


「俺の相棒が来てくれれば全て解決しますから、もう少し待ってくださいよ。それに今出ると、よっと」

 

 グレンデルが()()()()()()()()()魔法を放とうと魔力を収束させ始めたので、ごく弱い火魔法で邪魔を入れる。たったこれだけで簡単に魔法の発動を阻害できるのだが、頭の悪い奴はこのカラクリに未だ気付いていない。何度か発動させて奴の魔法自体に問題がないと思わせる小技も用いているが、知能が低いのは間違いない。


「どこ向いてんだあいつ? それとしてまた器用な事してるな。理屈じゃ解るが、実戦でやる奴は初めて見たぜ。それに相棒? お前にそんな奴がいたとは初耳だな。一体どんな奴だ」



「ユウ、おまたせ~」


 ついに待ち望んだ声がした。流石に敵から視線を外すことはできないが横に相棒がいる気配があった。


「待ったよ、リリィ。君が来てくれなければどうにもならなかった」


「ふっふっふ。やっぱりユウは私がいないとダメ……って、うわ悪魔じゃん! キモ! 最悪だし!」


 リリィは視界にも入れたくないのか俺の頭の後ろに隠れてしまう。


「そんでこの子が例の女の子ね。ん~どれどれ……また変な魔導具つけられてるねぇ」


 こともあろうにリリィはとりゃ、とシルヴィの腕に嵌められていた魔導具をぶっ壊してしまった。

 い、いや……どうやったんだ今の? ただ腕を振ったようにしか感じなかったが……そんなもんでいいのか? 今までの俺の苦労は一体……。


「これでよし。じゃあ安全な所まで運ぼうか」


「お、おい!! な、何が起こったんだ? いきなり魔導具が壊れたぞ。シ、シルヴィは無事なのか!?」

 

 クロイス卿の声は不意の出来事に慌てているが無理もない。姪の生死を握っているだろう魔導具がいきなり壊れ落ちたのだ。俺だって事情を知らなければ取り乱している。だが、今も回復魔法は使用中だったので既に体力値は最大まで回復している。だが、グレンデルが仕込んでいる罠がこれだけとも限らない。医者の見地や他の専門家の力が必要な事は変わりない。シルヴィアにどんな事をしたのかと問い詰めようにも、張本人はすでにアレだからな。


 リリィは人見知りもあって普段から自分を透明化している。そんな彼女を視認できるのは『魔眼持ち』と呼ばれるソフィアの様な特殊スキル保持者か、あるいは自分から姿を現すかしかないから、俺は虚空に向かって話しかけているようにしか見えないだろうな。とりあえず可視化してもらった。


 クロイス卿はきっと口を挟むべきではないと思っていてくれたのだろうが、姪の変化を見て、居ても立ってもいられなかったのだろう。


「リリィ、こちらはクロイス・ウォーレン卿だ。公爵家に連なる方で更には超一流の冒険者でもある。ご挨拶を」


「へ~。なかなかのイケメン。だけど世界じゃ二番目ね! 私はリリィ、ユウの保護者よ」


 相棒が俺の保護者なのかどうかは小一時間ほど問い詰めたいが、今はその余裕はないな。


「お前の相棒は妖精なのか! こりゃあ変わった二人組だな。始めまして、リリィ。私はクロイスという名のおっさんさ。私の姪を苦しめていた魔導具を壊してくれたのは君なのかな?」


「そうだよ。こんなものちょっと力を籠めれば簡単だしね」


 いや、何が起こるかわからないから、俺たちは専門家に任せるべくなんとかして今の状態を維持していたんだがな……俺の苦労を返してほしいわ実際。


「どうでもいいけど余裕だね君たち……」


 状況が変わったのを知って、全ての悪魔を倒し終えたバーニィがこちらにやってきた。一体でも苦戦する悪魔を全てなぎ倒してくるお前も普通じゃないぞ。手にしている得物が先程までとは変わって、悪魔に特別な効果があるからといって出来る芸当でもないだろうに。さっきまで10体全員健在だったんだが。やはり意味があってわざと悪魔どもを暴れさせていたんだな。


「あ、バーニィだ! 元気だった?」


「こんにちは、リリィ。君も周囲を少しは気にした方がいいと思うよ」


 若干の呆れを感じさせる声でバーニィがぼやいた。ちなみに二人は既に顔見知りになっている。

 バーニィはそういうが俺だってグレンデル相手に遊んでいたわけではない。


 今、奴は周囲に盛大に腕を振り回している真っ最中だ。奇怪な叫び声を上げながら大人の胴ほどもある屈強な腕が唸る度に、長椅子や地下の石壁が破壊される音が響きわたる。

 しかしこちらからは二十メトルは離れているので全く被害はない。


「元が人間だから効くんじゃないかと思ったが、すんなり決まったな〈洗脳魔法〉」


「あらゆる魔法は本家本元の悪魔には一切効かないはずだが……受肉した奴は別なのかもしれないな」


 始めに詳しく覚えていないほど取得したスキルの一つ〈洗脳魔法〉を使って、俺がグレーター・デーモンの周囲で戦い続けているように思わせているとうわけだ。いやあ、これが効かなかったらひたすら魔法を撃ちまくって足止めするしかなかったかもしれないな。ヤバ過ぎて人間には使わないようにしようと決めていたが、グレンデルは既に人間ではないので問題なし。


 俺の魔力に不足はないので回復魔法を使いつつ、このまま奴の魔法を妨害し続けても良かった。しかし魔力に問題はなくても裏で戦っていたバーニィへ流れ弾が飛んでいくのが怖かった。俺は当てない自信があるがさっきの火魔法みたいに範囲魔法を撃たれたらバーニィも巻き込まれる恐れがあった。理性のないグレンデルはかつての配下を巻き込む事に一切の遠慮はないだろう。

 なので搦め手である<洗脳魔法>の出番となった。こちらで何を洗脳するかの指定は出来るので、グレンデルには無限に分裂する俺を相手してもらっている。だが、時折本物の俺を攻撃するのが玉に瑕だ。咄嗟の事だったので雑になってしまった。もっと違う内容で洗脳すればよかった。

 


「とにかくこの子を安全な場所に移そう。いまだ絶対安静なのは変わらないし」


「抱き上げるというわけにもいかないか……担架がほしいな」


 〈鑑定〉で見た彼女の体力値は最大値まで戻っているが、油断はできない。一刻も早く本職に見せるべきなのは変わらない。最悪台車でもいいから何かないか思っていると、隣から信じられない人物の声がした。


「探して持ってきました。使ってください!」


「……ええっと、なんでここにいるの?」


「え? だって私が手伝ってって頼んだから。ソフィアのスキル便利だし」


「はい、頼まれちゃいました。こっそり抜け出すのも楽しかったです!」


「いやいやいやいや、無茶すんなよ!!!」


 俺は非常時であることを完全に忘れて頭を抱えたくなった。



 今夜の主賓の一人である、ライカール王国第一王女ソフィアが台車を手に佇んでいるからだった。さてはこいつ、<隠密>使ってメイドたちやジュリアを撒いてきたな。後でどうなっても俺は知らないからな。


「こ、これは……王女殿下!! 何故こんな危険な場所へ?」


 クロイス卿とバーニィは流石に貴族で、この状況でもかしこまることを忘れない。これでも戦闘中なんだが。さっさと移動した方がいいぞ。


「色々言いたいことはあるが……とにかくここを離れろ。助力には感謝する。急げ」


「その、怒ってますか?」


「いや、俺は別にそこまでは。ただし、他の皆には一人で弁解するように。絶対怒ってるぞ」


 途端に真っ青になったソフィアは「それだけは許してください!」と騒いでいる。やはり黙って抜け出してきたようだ。普通に考えれば命に代えても止めるはずだから、今あの4人は生きた心地がしないはずだ。

 心配させた罰だ、しっかり怒られてきなさい。



 とにもかくにもソフィアの勇気ある行動で事態は劇的に改善した。ソフィアがシルヴィを乗せた大きな台車を動かし、リリィが回復魔法をかけ続けてクロイス卿がその護衛という形になった。シルヴィアを王女であるソフィアに運ばせるのには抵抗があったが、護衛がいない状況の方がよほどまずい。


「僕が代わった方がいいだろう。殿下にそのような事をさせるわけにはいかないよ」


「バーニィは急いで離れの部屋を確認してくれ。あのメイドがまだあそこに居るみたいなんだ。もう誰も居ないはずなのにあそこに留まるのはおかしいだろう」

 

 バーニィは俺が生きてはいる、という言葉を発する前に既に地下を離れていた。俺の目にも残像しか残らないほどの凄まじい速度で消えたな。


「アンジェリカの事はバーニィに任せておけ。あいつは非常時以外じゃ頼りないが、ここぞというときには必ずなんとかするから大丈夫だ。そういえば、お前は何か得物を持っているのか? いくら魔法が得意でもグレーター・デーモン相手に通用はしないだろう。こいつを貸してやる」


 立ち去る間際にクロイス卿が自身の腰の剣を渡してきた。抜いてみると惚れ惚れするほどの剣であることが分かる。強い魔力を帯びた剣に握りの感触も良く馴染む。一瞬とはいえグレンデルの存在を忘れさせる程に、震えが来るほどの名剣だ。


「俺が冒険の最中に手に入れた中でも一番の業物だ。こいつならどんな敵でも引けを取らないだろうよ」


「確かに。こいつは……途轍もなく凄い剣ですね。銘は何ですか」


「無銘だった。特に気にもしなかったからな」


「じゃあ、今日から悪魔狩り(デーモンスレイヤー)で」


「そいつはいい。楽しみにしている」



 彼らが非常用の出口から姿を消すと、俺と未だ暴れまわるグレーター・デーモンだけが残る。周囲は倒された下級悪魔と破壊された長椅子などがあるだけだ。

 今まで滅茶苦茶に打ち込まれていたこちらのサクラによる魔法攻撃が止んだ。クロイス卿たちがそちらにたどり着いたのだろう。シルヴィはもう安心だ。


「さて、悪魔と化して暴れる”グレンデル”ねぇ……ベオウルフは俺の柄じゃないな。俺はもう爺さんらしいから時期的に二度目のはずだし」


「ねえ、私必要だった?」


 意味もなく呟く俺の背後から少女の声がする。いざという時のためにずっと備えてもらっていたが、思った以上にクロイス卿が早く到着したために出番が来る事はなかった。元々保険で呼んだから出番はないほうが良かったのだが、リノアは不満そうだ。


「その姿で表に出るわけにも行かないだろ、あの黒装束はどうした? あれなら姿を隠せるから前に出てきても良かったが、あのドレス姿はまずいだろ」


「もうとっくに着替えているわよ! あれは潜入用!」


 グレンデルから視線を外さない俺に見せつけるように目の前に現れたリノアは初めて会った時と同じ黒装束に襤褸のマントを羽織っていて、体型がわからないようになっている。


「なんだ、もう見納めか。いい目の保養になったのに。次はいつやってくれるんだ?」


「あんたって本当に……あの妖精といるときと態度が違いすぎない?」


 死神を思わせる格好で少女の若い声を出すリノアもなかなかのものだが、そこには触れないでおく。


「あいつは相棒だ。もう一人の自分みたいなもんだよ。リノアは友達さ、流石に扱いは変わるさ。それより、奴がそろそろ正気に返る頃だ。君の仕事は十分にやってくれたから、ここで引いてくれないか」


「冗談でしょ、仕事に呼ばれてずっと隠れてたら、終わったんで帰っていいなんて言われてすごすご帰ったらこっちの面子が立たないのよ」


「言い争っている時間は……無くなったな。いいか、俺から離れるなよ」


 さっきまで無軌道に暴れていたグレンデルの動きが止まった。<洗脳魔法>の効果が終わったのだろうが……どういうことだ? さっきより魔力が明らかに増している。って、まさか!


「教団に身を置いて早十年、まさかこの身を悪魔に変えることが叶うとはな。感謝するぞ、少年」


 まさか、正気を取り戻しやがった! さっきまでは悪魔の本能で暴れまわっていたが、自我を取り戻した奴がここまでの力を発揮するとは。くそ、状況が一気に最悪になったぞ。こいつに関わっている暇なんてもうないってのに。


「まさに生まれ変わった気分だ。配下の仇を取るべきなのだろうが、何分これから忙しいのだ。上に居る貴族どもを皆殺しにせねばならぬのでね。君も貴族の生まれでなかった事を魔神に感謝するとよい」


「行かせる訳には行かなくなったよ。貴方にはここでしっかり死んでもらわないと困るんだ。既に上では貴方が悪魔化したことを祝う会が始まろうとしているんだ。皆渾身の演技で貴方を笑顔で讃えようとしているのに、本人が乱入しては興醒めだろう?」


「貴族どもめ! 民を食い荒らす事しか能のない害虫どもが!! あのクズどもがこの世界に一人でも生き残っている限り、私は何度でも蘇り、その係累を絶ってやる。どんな手を使っても必ずだ、全てを懸けて絶滅させてやる! 絶対に!」


 先程までのどこか余裕のある態度が貴族の話で一変した。その身を憎悪に焦がし、呪詛の言葉を吐き続けている。奴が決定的に壊れる原因なんだろうが、大悪魔の状態でそれをやられるとなかなか滑稽で笑えてくる。俺はそう思っていたのだが、隣のリノアは違うようだ。すっかり威圧されて俺の服の端を握って離さない。


「なんて憎悪……あれがグレンデル高司祭……」


 すっかり呑まれているリノアは役に立たなさそうだ。こうなる前に早く逃がしておくべきだった、自分の判断ミスだ。


「そこにいろよ、決して動かずに始まったら<隠密>で身を隠せ。いいな?」


「わ、私だって戦えるから! そのために修練を積んでいるのよ」


 気丈に振舞おうとしているが、言葉に怯えが消えていない。初めて悪魔を見た人間は恐慌状態になるものだから、リノアはだいぶマシだがそれより大事な事がある。


「無理するな。君はまだ人を殺した経験がないんだろう?」


 俺の言葉にリノアの気配が変わる。純然とした怒りが彼女を支配したが、それは図星を指された事も影響しているはずだ。


「そんな事関係ないじゃない! 生きていれば誰だって何か殺すものよ。私はまだ殺しの仕事を請けていないだけで……」


 手で彼女を制した。言い争う状況ではないのだ。この場は従ってもらう。


「責めているわけじゃない。むしろ俺は殺しをしないで欲しいと思ってるくらいさ。だが、今はその逡巡が死を招く。そこで見ていろ」


 言い捨ててグレンデルの元へ向かう。もう先程までの魔法妨害や<洗脳魔法>も効果はないだろう。自我を取り戻した奴は恐るべき力を放っていた。おそらくはダンジョン10層のサイクロプスなど話にならない膨大な力を持っている。


「話し合いは終わったかね。君達に用はないから立ち去れば見逃すが。この身を悪魔に変えてくれた礼でもある。この身で教団に帰還すれば全てが私のものになるだろう。この世界のおろかな貴族どもを地上から抹殺するに足る力を得たのだからな。そして教団を支配した私はその勢力でこの世界を闇に沈めてみせる。全ての命が平等の暗黒世界を作り出すのだ」


「一つ聞きたいんだが、貴族であれば赤ん坊や幼子でもひとまとめなのか?」


 俺の問いに答えたグレンデルは、優しささえ感じさせる声で答えた。


「貴族とは生まれてきてはいけない生命なのだ。その人生を終わらせてやる事は永遠の救いであり、讃えられる善行である。己の罪を自覚せぬまま生まれてくる貴族たちに生き地獄を見せるのは、罪の苦さを思い出させるのは、人として当然の行為なのだよ」


「なるほど、良く解った」


「理解が早くて助かる。君のような平民が増えれば面倒が無くて良いのだかな」



「簡単に死ねると思うなよ、外道」


 俺の心は平坦だった。怒りも悲しみもない、すごく平坦な心で悪魔の右腕を切り飛ばした。クロイス卿の名剣は、切断の感触さえ感じさせずに腕を肉塊に変えた。そのまま返す刃で左腕も飛ばすと、剣を握っていない左手で力の限り殴り飛ばす。


「な、何が……ごあっッっ!!!」


 体重が500キロルはありそうな巨体が水平に吹き飛んで轟音と共に地下聖堂の壁に大穴を空けた。切り落とした両腕を奴のほうに蹴飛ばすと回復を促した。


「さっさと癒せ。外道に”痛み”を教育してやるから有難く思えよ」


「き、貴様ぁ、平民と思って優しくしておれば付け上がりおって! なんだと!?」


 奴の切断された腕が勝手に浮き上がりくっついていくのを見て俺が驚いた。悪魔には自己修復機能があるのは知っていたが、まさか<回復魔法>も効果あるとは思わなかったのだ。


「よかったな。これで本当に簡単に死ななくなったじゃないか」


「き、貴様、何を考えギャアアアア!!!!」




 そこからはただの蹂躙なので詳しく話すほどの事ではない。壊しては直し、切り刻んでは癒し、と繰り返している内に、ようやく待ち人が到着した。俺がまだ戦っているのに気付いて駆けつけてくれたのは<マップ>で解っていたが、どうも様子がおかしい。



「また腕が千切れたぞ、ほら、早く直せよ、それともこっちで直してやろうか?」


「き、貴様ァ、殺す、必ず殺してやるぞ!」


「そういう御託はもう聞き飽きたぞ。やるなら早く殺してみせろよ。あ、手が滑った。また両腕なくなっちまったなあ、でどうやって俺を殺すんだ?」




「ユウ、遅れてすまない」


 幽鬼のような顔をしたバーニィを見た俺は思わず息を飲んだ。彼の体に返り血がはっきりと見えたのだ。


「あの人は無事だったんだよな?」


「ああ、持たせてもらったポーションが役に立ったが……すまない。渡された全てを使ってしまったんだ」


「いや、使うためにあるんだ。今は安静にしているのか?」


「ああ、お嬢様と同じ場所にいる。リリィが回復魔法をかけてくれたからもう大丈夫だ」


「そ、そうか。無事で何よりだった」


「それで、頼みがあるんだが、聞いて貰ってもいいかな?」


「も、もちろんさ」


「その生ゴミ(グレンデル)の始末を任せてもらって構わないかい?」


「そのために取って置いたに決まっているだろう。ちょっとムカついたけど、この件で俺は余所者だからな。バーニィの手で始末をつけるべきだと思っていたよ」


「ありがとう。僕は何もかも世話になってばかりだな。本当にダメな奴だ」


「俺の友にダメな奴はいない。それとこいつも使え。クロイス卿もそれを願っているはずだ」


 バーニィに剣を手渡すと俺はすぐさま距離を取ってリノアの元へと近寄った。


「こ、怖えぇぇーーーー! あいつマジギレしてんじゃねーか! 静かに殺気撒き散らされるとああも怖いんだな。俺絶対あいつ怒らせないわ」


「ちょ、ちょっと、いくら暗黒騎士のバーナード卿でもあのグレンデルに真正面からなんて無理でしょう!!」


 顔を隠していた布を外してリノアは叫んだが、俺は逆に彼女に訝しげな視線を送る。


「バーニィは剣だけなら間違いなく俺より強いぞ。ああ、なるほど、あいつのあの態度が強さを隠す欺瞞にでもなっているのか? もうこの先の展開は、どうやってバーニィがグレンデルを仕留めるかという話でしかないよ」


 しっかし本当に怖いなあいつ。只でさえ<戦士LV7>なんだぞ。俺もポイントの影響でレベルは5止まりだがあいつは自力でその上に至っているのだ。俺の5レベルで大陸を代表する腕前だどうとか言われるのだから、そのさらに上であるバーニィの技量はいかなるものなのか、興味は尽きない。

 だが、あいつがキレた状況も気になるところだ。あの返り血から見て恐らく俺が保険にかけておいた死者さえ復活させる<アレイズ>が効果を発揮したに違いないが、ということは彼女が死体になるようなことがあったということだ。効果時間を最大にして二日は保つようにしておいて正解だったな。

 

 後はキレたバーニィがやり過ぎないように注意しておくくらいか。




「立て! グレンデル高司祭! リットナー家次男、バーナードが粛清を与えてやる! その歪んだ野望も今日この地で終わりにしてやる!!」

 

 怒気を迸らせながら叫ぶバーニィに修復を終えたグレンデルが立ち上がる。俺が与えた傷はすっかり癒えており、その迫力は先程まで動く肉塊だったとは思えないほどだ。


「ほざいたな薄汚い貴族の小倅が! 貴様の四肢を引き裂いて夜会の最中に放り込んでやればさぞ楽しい余興になるであろう!」


「死体になるのは貴様だ。災厄をばら撒く外道が!! 貴様の首こそが夜会のフィナーレを飾るに相応しい!!」


 異形の化物と、二振りの剣を手にした剣士は激突した。俺はグレンデルの善戦に驚いた。俺のときとは動きが違う、やはり憎むべき貴族と相対するとやる気が変わるのか、バーニィの剣を捌いて反撃をしている。


 だが、いくらグレーター・デーモンの力を得たとはいえ、本職の剣士に接近戦で敵うはずもない。しかもその手に握られているのは悪魔に特別な効果をもつ剣とクロイス卿の名剣だ。次第に癒えるよりも新たに出来る傷の方が増えてきている。


「凄い……あれが”麒麟児”バーナード!」


「なんか凄そうな二つ名じゃないか。一体どういう謂れなんだ?」


 思わず、といった体のリノアの呟きを拾った俺は彼女のほうを見た。頭に血が上ってもバーニィは冷静だったから、万が一の心配はないだろう。


「彼の名前が国中に広まったときについた渾名。詳しい話は聞けなかったけど、何でも必ず一度は落とされる試験で、優秀すぎて合格させざるを得なかったからとかなんとか。それが暗黒騎士の選抜試験だと知ったのはつい最近だけどね」


 言葉尻から彼女は教団の事情を知っていると見ていいだろう。王都にある暗殺者ギルドに王家の支配が及んでいないはずがないと踏んでいたが、想像通りだったな。多分このギルドは王家直轄か何かで、だからこそ俺達のホテルを警護してくれていたんだと思う。



「公爵閣下の痛みを受けろ! クロイス卿の苦しみを味わえ! 兄の苦悩を思い知れ!」


 バーニィが仕留めに入ったな。足を深く切り裂いて簡単に治らないようにした後で次々と深手を負わせている。恐ろしいほどに冷静だ。殺意に溢れていながらも、じわじわと真綿で首を絞めるように着実に殺しにかかっている。


「貴族などに、貴族などに負けてなるものかぁ!!」


「貴様らに殺されたアンジェの痛みを思い知れ!! 秘伝、死突っ!!」


 何事かの技の名を叫んだ後は、目にも見えない五段突きがそれぞれの急所に炸裂し、動きが止まったグレンデルの首をクロイス卿の剣が刎ね飛ばした。

 ちなみに、メイドはちゃんと生きている。さっき動いていたから意識も戻ったのだろう。一度心臓は止まったかもしれないから、死んだのは間違いではないが。


「やった!!」


「ああ、終わったな」


 ようやく最終局面になったな。こいつらの小細工で随分と時間を食った。()()()()のこともあるし、さっさと終わらせようか。


 頭部を失った胴体が音を立てて倒れる中、飛んできた首が俺の前に落ちた。バーニィの奴、なかなか憎い演出するじゃないか。


「とりあえず聞いておいてやる。何か言い残すことはあるか」


「キ……ゾク……コロス……!」


「最後までそれかよ。何があったか知らんが、人を恨むだけの人生ねぇ……しょうもない、その成れの果てが、()()なんだぞ」


「…………ッッ!!!」


 死に瀕した奴が何を見たのかはわからない。だが、俺を見た奴の最期は憑き物が落ちたように静かなものだった。

 貴族を憎みぬいた男だったが、歴史に名を残すであろう奸雄であったことは間違いない。

 貴族にどんな目に遭わされたか知らないが、その敵を討った段階で矛を収めていればもっと違った未来が開けていただろう。各所の弱小勢力を纏め上げる力があれば他の手段を用いる政治力もあっただろうに。

 奴の失敗は溢れる憎悪に身を任せてしまった事だ。際限なく敵を求めていればいつかは自分の身を滅ぼす

事を知っていても、復讐の持つ甘美さに抗えなかった。ある意味で望んだ最期だったのだろう。




 王都を襲った危機は消え去った。赤黒い血が石畳にその面積を広げるのを眺めながら、俺は重苦しい疲労感を感じていた。


 ウィスカの街を商隊護衛として出発してから10日ほどしか経っていないが、色々ありすぎてその何倍もの時間を過ごしたかのように感じる。それもこの一件でほぼカタがついたはずだ。


 あとは()()()をこなして終わらせようか。


「バーニィは閣下たちに報告を。クロイス卿にはその剣を持っていって欲しい。悪魔狩り(デーモン・バスター)になりましたと伝えて欲しい。俺は後始末をしてから消える。俺はここに居ないはずの人間だからな」


「わかった。じゃあ僕の剣は君が持っていてくれ。夜会に二本差しはまずいからね。そちらの彼女についてはまた後で話を聞かせて欲しい」


 かつてグレンデルであった物体を<アイテムボックス>にしまいながら、バーニィの剣を受け取り見送った俺は動かないリノアに視線を向ける。彼女も退いて欲しいのだか。


「こ、腰が抜けたっていったら信じる?」


「おいおい、バーニィを呼ぶってもう無理か。いいか、ここからは一切他言無用になる。リノアはこれ以上何も喋るな。ひたすら隠れてろ、わかったな」


 本当に腰が抜けているらしいリノアを担いで端に寄せる。そしてここから正反対の虚空を見据えて叫ぶ。


「さて、楽しい見世物はこれで終わりだぜ。いつまで隠れているつもりなんだ!?」


「ほう、下等生物にしては目聡いな。良く気付いたと褒めてやろう」


 驕りを隠さない尊大な声音と共に地下空間に強固な結界が張られたのを感じた。この強度に大きさ、かなりの力量が伺い知れる。


 そこにいたのは二人の男だった。一人が銀髪の青年で、もう一人は赤黒い髪の年齢の読めない男だったが、共通の特徴として赤い瞳がある。これだけでこの上ない身分証明だと言える。


 魔族だ。この世界の半分を支配しているとされる、闇の眷族。大魔王と呼ばれる存在を戴いて光ある世界を覆い尽くさんとする勢力。無知な俺でもそれくらいは知っているほどの有名人だ。


 伝説じゃ遥か北の大陸に都を築いているらしいが、それがなぜこんな辺鄙な場所にいるのか、疑問はつきないな。


「ずいぶんと珍しい生き物が現れたな。魔族ってぇのはそんなに暇なのか?」


「なに、久しく見なかった、上位悪魔の反応を察知したものでな。我が使役するに足る者か顔を出してみたのだが……とんだ無駄足であった。所詮は「虫」程度に討たれる程度のカスに過ぎなかったわ」


「そいつは無駄足ご苦労なことだ。今日の出し物は終わりだ。こっちも暇じゃない、さっさと帰りな」


 軽口を叩いては見たものの、この二人組の異様さは肌が粟立つほどだ。グレーター・デーモン(上級悪魔)を飼おうと考えるほどの力の差があるのは間違いない。それに奴等の言葉も気になるところだ。出入りが限られ、厳しく管理されたこの地下にどうやって侵入したのか。儀式が始まった当初は絶対に居なかったのは確かだが、俺がシルヴィアに回復魔法をかけている最中に突如現れたのだ。

 おかげでこの二人に気を遣って状況を進めなければならず、精神的に疲れた。


 グレンデルをバーニィに討たせたのも、魔族の介入を恐れたからだ。もし自分の手で始末をつけたとしたら、その瞬間を狙って動ける実力のある二人だった。俺はなんとかなってもリノアが狙われる可能性が高かった。保険のつもりで連れてきた彼女が枷になっているという笑えない冗談だった。

 性質の悪い事に赤黒い髪のほうがしきりにリノアを気にしていた。おかげで積極的な行動が取れなかったので余計に疲れる。先程バーニィを送り出したのが最後の機会だったのに本人が腰を抜かしているという残念仕様だった。


 だから、「それ」に気づけたのは本当に偶然だった。強いて言うなら奴の嘲笑う顔が罠に嵌った獲物を見ているかのようだったからだ。


 身を翻した俺と、その背後に巨大な爪のような物が空振るのがほぼ同時だった。



 あぶねぇ……なにも感じなかったぞ!今のは一体なんだ!?



 高速移動なんかじゃないし、熱源さえ確認できなかった。<マップ>で確認したからわかるが、本当に突然現れたぞ。

 このいきなり現れる感覚、最近どこかで感じたな、幸い俺の記憶は少ないのですぐに思い出すことが出来た。

 くそ、セラ先生が使っていた<転移>だ。周囲に残る微細な魔力が奴が発するものと同一だ。



 …………なんか、腹減ってきたな……考えてみればリネン室にこもって寝てたからあれから何も食ってないや。慣れない回復魔法を使いまくったし、余計な連中はしゃしゃり出てくるし。


 あーもう、面倒くさいな。転移だろうが、なんだっていいや。首を飛ばせば生命体は死ぬんだよ。



「ほう、中々勘の鋭い下等生ぶ……」


 奴は台詞を最後まで言うことができなかった。次の瞬間にはその首が宙を舞っていたからだ。


 俺は、物言わぬ物体と化した魔族とやらが倒れ伏すことさえどこか他人事のように感じていた。



「呼んでない役者が終わった舞台に上がりたがるなよ。部外者は帰りな」




 残りの借金額  金貨 15002232枚 



 ユウキ ゲンイチロウ  LV128 

 デミ・ヒューマン  男  年齢 75


 職業 <村人LV143〉


  HP  2084/2084

  MP  1454/1454


  STR 363

  AGI 341

  MGI 357

  DEF 332

  DEX 290

  LUK 208


  STM(隠しパラ)572


  SKILL POINT  505/515     累計敵討伐数 4699

楽しんでいただければ幸いです。


今回で王都編はほぼ終了です。後は後日談を少し(かなり?)やって

ダンジョンに戻ります。


あ、あと、今回で世界最強クラスの奴が二人消えました。



ポイント、ブックマークありがとうございます。

誤字脱字を指摘される方、あなたは神ですね。間違いないですわ。

面白いと思ってくださる方、本当にありがとうございます。

愚作を読んでくれるだけで感謝感激です。


次は水曜予定です。ストックとの勝負になってきましたが更新は

このままがんばります。

ぼちぼち活動報告も増やしていきます。よろしくお願いします。


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