8 俺たちもっと筋肉が欲しい
「ちょっと待って!私たちは話し合いに来たの!でも、攻撃されるかもって思ったら、不安でしょう?少しお互いに距離を空けて話しましょうよ。ね?」
私は慌てて、合体して大きくなったビッグスライムに距離を取ることを提案する。
「話し合い?」
「何のために?」
「それしたら殺す♪」
いやいや、殺さないための話し合いよ……
というか、一つの体に合体しても、会話はそれぞれ好き勝手にするわけね。
いまいち統一性がないから、スライムって弱いんだわ。
私は、大きくなってもスライムはスライムであることを悟る。
アレクに、とりあえず剣を下げるように目で合図をすると、アレクも仕方ないと息を吐いて、少しだけ剣を下に下げた。
「みんな、この野原もいいけど、アグリ村に来ない?みんなの力を借りたら、美味しいお野菜も食べられるし……そうそう、神様が神通力を含んだすごい水を作り出しているから、スライムさん達もそれを飲めるわよ!なんだったら、お風呂もご招待するわ」
「お風呂?」
「神通力?」
ブルースライムたちが、ざわざわするように、巨大な体をぶるんぷるん震え始める。
体は一つでも、意見は分裂し始めている。
「その水飲んだら強くなるのか?」
「すぐに強くなるかは分からないわ。テイムっていうのをしたら、少なくとも村は強くなるわ」
私は、さりげなく論点をすり替えてみる。
「村が強くなったら、俺たち強くなるのか?」
ああ、会話が戻ってしまった……
強くなるのかしら?
嘘ついたら、二度とテイムしてくれないわよね
「それは……アグリ様に聞いてみないと分からないわ」
そうだ!アグリ様に丸投げしよう!
私の頭がそれがいい!と心の中で喝采する。
「でも、神様って言うぐらいだもの……」
嘘はつかない。ここは思わせぶりに……
そして、ちらっとアレクを見ると、そう来たかと頷いた。
「ああ、きっと、俺たちが魔物と会話出来るみたいに、アグリ様のために働けば圧倒的な力をあたえてくださるかもしれない!」
アレクも私の会話にのって、そうだ!そうに決まっていると頷いた。
だが、あくまでも「かもしれない」だ。
「んー、どうしよっかなあ」
ぷるん
「他の魔物みたいに力強くなりたいんだよねー」
「そうそう、筋肉欲しいよね」
ぷるんぷるん
「つまりは、強くなりたいのね?」
筋肉マッチョなスライムは、きっとアグリ村では役に立たない。
そこはさりげなくスルー
「じゃあ、ついてきて、アグリ様を紹介してあげるわ」
私は、テイムの方法もわからないし、とりあえずアグリの元に連れて行くことを考える。
「わかったあ〜」
そう言われてビッグスライムになったまま、ぽよーんぽよーんと跳ねながらついてくる。
道中、何となく世間話をして交流をしながら……
「ブルースライムたちは何を食べるの?」
「食べないよ、魔素をもらうだけぇ」
ポヨンポヨンと跳ねて行く。
「魔素……どこから?」
「んー、花とか植物からもらったり、水からももらう」
「へぇ、水からも……」
綺麗な水じゃないとダメなのかしら?
アグリ村は、今、森以外草も生えてないのよね……
「もし、村が気に入ったら、焼け焦げてて何もないんだけど、どうする?」
テイムしろと言われたけど、食べるものないんじゃ困るわよね?
アグリ様はその辺り全く考えてなさそうだしなあ……
「土に魔素あれば、土でもいい……」
そうなのね……魔素……聞き慣れないけど何かしら?
土から魔素をとって、いいものが育つならそれでもいいけど。
知らなかっただけで、魔物も奥が深い生き物らしい。
その横のアレクは、ずっと私を守るように長剣を離すことなく、私とビッグスライムとの間にずっと入って無言で歩き続けていた。
◇
「なんだ!なんだ?テイムはどうした。ぐぼっ!」
ああ、アグリ様、また興奮しすぎて溺れそうになってる。
アレクが「仕方ないなあ」と湖から持ち上げるのもお約束。
もちろん、そのあと干上がりそうになって、酸欠になるのもお約束……
そんなお約束を経て、アグリはビッグスライムに声をかける。
「お前たち、この村の再建を手伝う気はあるのか?」
「ない!神様が筋肉つけてくれるって言った」
ぷるんとした体を震わせて、このあたりに欲しいとばかりに揺れ動く。
「は?筋肉?アホな!!お前達が筋肉をつけたら重さで動けなくなるぞ。するなら私の神通力の含まれた水を体内に入れ込み体を浄化してみろ」
アグリが、スライムはやっぱり頭が弱いと嘆き始める。
「えーっ!筋肉あると動けないの?」
ぷるんぷるんと震えて衝撃を受けるビッグスライム。
「あー、確かに筋肉の方が重いはず。そうすると合体しても一番下にいる子は下敷きになるかも……ね?」
「ガッチガチのスライムになったら、飛び跳ねられないのは確かだな」
私とアレクも、言われてみればそうかもしれない!と大袈裟に驚いてみせた。
「ええーっ!浄化したらどうなるの?」
筋肉できないなら帰る――
そんな勢いで、スライムはアグリにぷるぷると抗議するように聞いてみる。
「体が軽くなる。最後には魔素を食わずとも、私の力だけで生きていける。更には浄化されて攻撃力もパワーアップだ」
「攻撃力!パワーアップ!する!神通力の水を飲む!」
ビッグスライムは、そこで分裂して元の姿に戻る。
「では……テイムだ。ええと、この村の持ち主は……どっちだ?」
アグリは、私とアレクを交互に見つめる。
「私よ。アレクは私の手伝いを少しの間してくれるだけ。この後は、ここからいなくなるの」
私は、手を挙げて自分がアグリ村を再建させることを伝える。それを聞いたアレクは、瞬間言葉に詰まったように見えたが、渋々頷いた。
「そうだな……俺は、いつまでここにいられるかは分からない。親父の考え次第だから……」
そう唇を噛みしめるように、アグリに伝えた。
それを聞いて、私は、アレクがアグリ村から離れて、ちゃんと自分の道を歩んでくれるという安心感と、遠くない未来にいなくなるという現実に目を背けたくなる。
「そうか。女村長は初めてだな……では、手を伸ばしてみろ!スライム、テイムはラリアと行う」
「わかった」
「テイムだ」
「テイム」
「よろしく」
5匹のスライムの体から、細長い管のようなものが伸びて来て、私の手に全員のスライムが触れる。
「ラリア、テイムと叫ぶのだ!」
アグリの言葉に、私は頷いて大きく宣言した。
「テイム!!」
その瞬間、頭の中にスライムの情報が雪崩れ込んでいく。
【ブルースライム】
【レベル】 1
【体力 】 10
【素早さ】 50
【守り 】 5
【賢さ 】 1
【魅力 】 10
【信頼度】 0
うわぁ、これがスライムの情報か。
なんか……納得かも。賢さ……うん、それでも「1」あるんだって感じ。
「アグリ様、頭の中にブルースライムの情報が流れて来たんですけど……」
「そりゃ、自分がテイムした魔物の力量が分からなければ、どういう場面でお願いしたらいいかもわかるまい。どんなにテイムしても信頼できない奴の言うことは聞きたくないしな」
呆れたように何も知らないのだなとアグリは水中でため息をぶくぶく泡立てた。
なるほど……だから信頼度か……
でも、これってゼロだから減りようがないんじゃないかしら?
「それで……このスライム達に何を、どうお願いするのですか?」
「ふむ……この村に井戸があるだろう。そこを彼らに管理してもらうのだ」
アグリは、そこまで話して、おっ!という顔をした。
「どうやら、村の住人の魔物が5匹増えたから少し力が出たようだぞ!よし、それなら移動して説明しよう。変身!」
湖から大きく跳ね上がった錦鯉は……
「ん?」
スライムの頭の上に羽ばたきながら、キョロっとくりくりの目をこちらに向けたアグリがいる。
「もしかして……アグリ……さま?」
「私以外誰がいる!おお!飛べるようになったではないか!」
アグリは大喜びしているが、手乗りサイズのフクロウだった。




