9 さあ、レベルアップだ
スライムの頭に乗っかったふくろうのアグリと、私とアレクは、森を抜けて、畑まで出てくる。
「な、なんだ!あのにょろにょろは!」
フクロウの目玉が、ギョッと飛び出る。
やっぱり本当のフクロウじゃないから、動きもコミカルなんだわ。
でも、そこまで驚かれたら、鍬で分裂させたって言いにくいじゃないの。
「泥ミミズです。耕してくれたのはいいんですけど、このままでは、何かを植えても耕し続けそうで……」
私は、どうしたらいいかアグリに聞く。
森の端にみんなのお墓があるから掘り起こされなかったが、もし、村にお墓があったら、骨が分別されてしまうシュールな場面になるところだった。
「あの泥ミミズは、優秀でした。土は掘り起こされたし、焼けた廃材たちも分別してもらったし。でも、道も畑になったし、残されたのは、本当に井戸だけになっていて……」
「なるほど……あれは魔物ではないから、テイムすることも言うことも聞かぬ。土の力と私の力が引き合っているだけなのだから……そうだ!」
アグリは、スライムをみて「ほっほっほぅ」と鳴く。
すると、泥ミミズがにょろにょろとこちらに近づいて来た。
「スライム達、わしの神通力の塊のようなものだ。あの泥ミミズを飲み込むが良い。魔素よりうまいぞ」
そういって、アグリはスライムからアレクの肩の上に飛び移る。
「さあ!行けっ!」
「うまい?」
「美味しいなら食べる」
アグリの呼び声と共に、ぴょんぴょんと好き勝手にスライムたちは泥ミミズに向かって飛び跳ねる。
「ああっ!ちょっと!」
信頼度ゼロ――
私の方を見もしなかったわ。
全く言うことを聞く気もない。
これは……私とスライムの関係って大丈夫なのかしら?
スライムは、口のような空洞がカパッと空いたかと思うと、吸い込むように泥ミミズを飲み込んでいく。
「あっ!ブルースライムが茶色に!」
ごくん
ぷるん
ごくん
そんな咀嚼音と共に、泥ミミズはスライムに吸い込まれ、五匹のブルースライムは茶色になっていく。
そんな咀嚼音が、しばらくリアルに鳴り響き……
そして、あんなに大量にいた泥ミミズは消えた。
「ちょっと!あんなに汚れたスライムになって大丈夫なんですか?」
「消化されたらスライムは土に還すだけだ。心配はいらぬ。それよりは、これでスライムは私の力の一部を手に入れたと言うことだ」
「それによって何か変わるのかしら?」
「それは、スライムを見て見たらわかる」
ちょっとは聞かないで自分で考えろとアグリにため息をつかれるが、そもそもそんなことがわかる人間は誰もいない。
「うまかった!」
「甘かった!」
「魔素よりうまい♪」
おっ!スライムがご機嫌になった。
「ああ、でも、今の泥ミミズを飲み込んだことで……」
頭の中にピロン♪という電子音が鳴る。
【ブルースライム】
【レベル】 1 → 3
【体力 】 10 → 50
【素早さ】 50
【守り 】 5
【賢さ 】 1
【魅力 】 10 → 50
【信頼度】 0 → 10
【特技 】 噴水攻撃を手に入れた
「ラリアには何が見えるんだ?」
「テイムした魔物を見たら、数字が出てくるの。ちなみに、私たちスライムと今まで信頼度ゼロだったの。美味しい物を食べて、急に信頼感増したらしいわよ」
私は、自分がスライムのステータスをどう把握できるのか、アレクに話すが、アレクからは見えないので、首をかしげるのみだ。
「他には、一気にレベルや体力、魅力?上がったって言ってるけど……そうなのかな?」
言う通りにしたら、美味しいものにありつけたから、信頼度が増した……
私は、増えた項目を伝える。
「先ほどまで殺し合いの世界線だったんだから、今まで信頼度ゼロなのはわかる。賢さも……わかる。あっさり信頼しすぎだろ」
「特技……噴水攻撃を手に入れた……」
「噴水攻撃?」
私たちは、もしかしてアグリの狙いはコレ?と、アグリに視線を投げかける。
だが――
「おい、寝てないか?」
「うん、寝ているわ……」
私たちが、スライムのステータスを話している間に、アグリは眠ってしまっている。
先ほどまで起きていたじゃないの!
「ちょっと!アグリ様ってば!」
「この後はどうするつもりなんだ?スライム達は噴水攻撃出来るようになったぞ!」
アレクは、両手でフクロウのアグリを掴んで揺らしてみる。
「うむ……眠い……これは……ダメだ」
先ほどまでは会話していたのに――
「えーっ!アグリ様どうしちゃったのよ?何か病気かしら?」
「もしかしてだけど……フクロウだからじゃないか?まだ夜じゃないからな……」
心配する私に、アレクは今までの行動が、生き物の特性がある行動だったことに関連していることに気づいたと話す。
「まさかの夜行性?」
大事なところで困ったわね。
私は頬に手を当てて、この後はどうしようかしらとアレクと計画を練る。
「畑に種を蒔こう。そして、種を蒔いたところだけ水をかけてもらう。俺たちは、このままでは、荷物の搬入が出来ないから、道を先に作るしかない」
「そうよね。幌馬車が村に入らないのは地味に困るわ。何も買ってこられないし、収穫したものを売ることもできないもの……」
もし、この畑一杯に物を育てるなら、収穫の時は人を雇わないといけないだろうし……
「道かぁ、どうしようかな。前と同じでいい?」
「いや、この際、広い道にしてもいいし、お店やお風呂を作るならそれを考えた動線にした村にした方がいい」
「そういえばそうよね。細い道を太くしてもいいし、区画を大きく取った畑にしてもいいのか……」
私は、なるほどと呟いた。
道が広いと、多くの人が村に出入りできる。
そして、区画が広い畑を作れば、水やりも肥料を撒くのも楽だし、収穫もしやすいんだわ。
「だったら、村の入り口から、集落の出口までは太い道を一本用意する。そして、農業ゾーンと商業ゾーンは分けると言うことでどうかしら?」
「日当たりが良い平野が広がるところを農業ゾーンにして、少し坂になっている北側を、見晴らしの良い温泉とするか?」
アレクは、紙を持ってきてざっくりと道の配置と、農業、商業、居住のゾーンを作る。
「お前、肝心の村人が住むところをしっかり考えないと……」
「あ、そうよね」
へへっと舌を出すが、頭のどこかに全く知らない人たちがこの村に住む姿が想像できなかったのかもしれない。
「ここに住みたいと思う人が、便利に過ごせないとダメよね」
買い物と畑の距離が近い……
井戸を中心に……
「意外と、空間の確保って難しいわよね……」
私は頭を抱えたが、ここは大切にしたい。
「何悩んでるのぉ?」
「まだおいしいものがあるのぉ?」
「アグリ様、すごいねぇ……」
茶色に濁ったスライムは、私とテイムしたにも関わらず、アグリに向けてキラキラとした視線を送る。
「お前たち、今の泥ミミズを口にして特技が身についたらしいけど、早速使えるのか?」
アレクが、スライムたちに声をかけると、スライムたちが嬉しそうにぷるんと震えた。
「特技!いいねぇ!」
「どう使うんだろう?」
スライムたちが首を傾げるように、ぴょんぴょん跳ねている。
「アグリ様は、ここにある井戸の水を畑に撒くのをスライムたちに手伝ってもらったらと言っていたの。多分その噴水攻撃が役立つんだと思うんだけど……」
「噴水?」
「井戸……?」
スライムは、私がこれが井戸だと見せると、みんなで体を寄せ合う。
村人がいた時とはだいぶ違う井戸端会議だ。
「ちなみにこの水にもアグリ様の力が含まれてるぞ。ここで錦鯉に変わったんだからな」
アレクがスライムにそういうとスライムたちの目が輝く。
「アグリ様の力!」
スライムたちが井戸の石積みの前でおしくらまんじゅうを始めるので、私は危ない!と声をかけようとするが……
ボッチャーーーーン
ああ、言わんこっちゃない……
井戸の石積みの壁は高さが低すぎるのだ。
スライムたちはみんな井戸に真っ逆さまに落ちていく。
「大変!バケツで掬い上げなきゃ!」
私とアレクは、慌てて井戸を覗き込むが……
バシャッ、プシュ、バシャッバシャッ
「うぉっ!」
「わああっ!」
私たちは、水で膨張したスライムから、泥混じりの噴水を浴びせられたのだった。




