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竜に焼かれた村をぽんこつ守り神と魔物をテイムしながら復興します  作者: かんあずき


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2/10

2 まずは水の復活から

寒さはまだ強く、地面は霜が残っている場所もあるが、それでも確かに春は近づいている。


「早く、土地を耕して、少しでも緑豊かだった村に戻したいわ」


焦げた臭いはもう無い。

それでも、明らかにその景色だけ黒い。


「家はあれか?」


アレクが、小さな石積みの小屋のような建物に目を向けて、指差した。

小さいが焼け野原に、一際目立つ。


「結局、この村の好きな場所に住んで良いって思っても、元々自宅があった辺りに家を建てちゃったのよね」


住み慣れた景色とは違うのに。


「でも小さいの。ワンルームに風呂、トイレ、炊事場がついた小屋のような物で、アレクに見せるのも恥ずかしいんだけどね。村の人たちの最後のお金を使わせてもらうのに、贅沢はできないじゃない?」


それでも、村で焼け残った材料で、火に強い石を積んだ壁にしてもらい、冬の寒さをしのげるように、暖炉と煙突はつけてもらった。


その横には、雨風を凌ぐ立派な馬小屋を作ってもらった。


「ワンルームか……俺、外でテントを張るよ」


アレクは、玄関を開けた瞬間、呆然と立ちすくむ。


「何言ってるの?狭いけど、テントよりいいわよ」


「いや……俺たちは年頃の男女だ。そして、君は女性だ、こういうのは……」


アレクは、私の評判を心配する言葉をかけたが、笑いとばす。


「ふふっ、アレクがそんな事を言うなんてね。でもあなたのファンはこの村に多かったの。我が家で、一緒に過ごしたら、怒って化けて出てくれないかな……」


そう言って、アレクの体を「さあ、さあ!」と、ぐいぐい押す。


街には美人で、綺麗な人がたくさんいるし、身分に釣り合う女性もたくさんいるのだから、私を見てそんな気を起こすわけがないのは知っている。


「むしろ私がアレクの評判を傷つけないか心配するぐらいよ。あなたがどうしても別というなら、私がテントに寝るわ」


そういうと、とんでもないとアレクも中に入ってくる。


私は、冷えた体を温めるために、村の廃材を暖炉に使って燃やし始めた。


「この後、今日中に井戸の掃除をしてしまおうと思う。燃えかすが落ちているけど、井戸は生きていたの。ただ、滑車や屋根はやられていたから、作り直すしか無いわね」


「それなら、日が落ちる前にやってしまおう。水は大事だよ。ご飯と風呂は絶対使うんだからさ」


アレクも腕まくりをして、バケツに紐を結びつけて、二人で井戸を覗き込む。

井戸の木枠は焼けて、土台となる低い石積みだけが残されている。


「井戸に潜らないとだめ?」


「いや、かなり浮いてるからバケツで行けるんじゃないか?」


私とアレクは、言うが早いか、紐付きのバケツを投げては、沈んでいる炭となった木の破片を取り出していった。


「さすが、ラリア!力があるな!」


「そっちこそ、騎士団で鍛えてるって言ってたけど、ひ弱だった腕が強くなったようじゃないの!」


二人で顔を見合わせて、どちらが早く取り出すか競走するかのように汚れた燃えかすを掬い上げる。


とはいえ、沈んだ不要物を除去する作業は、かなりの重労働で、気づけば二人とも、寒さで手は冷え切っているのに、汗だくだ。


「うへぇ、体がバキバキだな」


だが、アレクも私も、手も頬も寒さで同じように真っ赤なのに、アレクの汗で濡れてキラキラと光るキャラメル色の髪と色気に思わず私は、瞬間立ち止まって見惚れてしまう。


村には、こういう綺麗な顔立ちの子はいなかったからだわ。

やっぱり領主の息子は、頬が赤くなっても綺麗な顔立ちに見えるのね


これが、田舎娘との違いか……


「アレクはやっぱり、街の人なんだって実感するわ」


私は、少し、自身の身なりが恥ずかしくなって視線を逸らす。


「は?何のことだ?そんなことより、今晩から、汚れを取り切れば使えそうだな」


アレクは、私の逸らした視線には気づかず、バケツの中に沈む炭となった木の破片を見て言う。


「そうね……」


みんなで井戸の周りで遊んだり、井戸端会議をした思い出が通り過ぎる。


ここは、何軒かで共有していた井戸だったから……


「うちの旦那が、いい鹿の肉を狩って来てくれたんだよ」


「そうなのかい?うちは旦那は、この間、猪肉を手に入れた。少し、交換しないか?」


「うちは、野菜だけど交換してくれない?」


「それより、みんなで持ち寄ってる鍋にしよう。きっとその方が美味しいよね」


この井戸に集まってきていたおばちゃんや、近くの子供達……


あの時の笑い声が聞こえた気がしてふわっと消える。


子供が風車を回して、


「回れ回れ!」


そう、言いながら走り回っていたのを思い出す。今は、その風車の片鱗さえない。


みんないなくなってしまった。



バケツの中で水のなかを浮かぶ炭は、やがてスカスカの軽いものに変わって、水が澄んでいく。



「おい、大丈夫か?あらかた綺麗になったから、あとは水を汲んで持っていくよ」


気づけば、私は大号泣しながら、井戸の中のゴミを掬い上げていたらしい。


アレクが、慌てて止めに来るまで気づかなかった。



「あ、ごめん。みんなを思い出しちゃって……」


「涙が出るのは当たり前だ。ラリア、泣かずに頑張ろうと思うなよ。悲しいのは当たり前なんだからな」


アレクは、そう言って汲み上げた水を、近くの焼け焦げた畑に撒いた。


これを一人で泣きながらやっていたとしたら……


ベッセルには、その姿が想像できたのだろう。


「ありがとう、アレク」


アレクとベッセルには感謝しかない。


本当に辛くなるのは、アレクもこの村を去った後かもしれない。


私は、汗を拭いながら、その周辺の景色を再度見回した。


みんな焼け焦げているのに、この村の一箇所だけ、唯一緑が残った森がある。

そして、今は、その入り口に、みんなが眠っているお墓も――


(あそこは、村を守るための神様の祠もある森なのよね)


結局守られたのは、その祠と森だけだ――


何が「村を守る」よ……


そう思うと悔しくてたまらなかった。

森は、周囲が焼けこげているだけに、そこだけ緑の空間となって違和感があった。



それから、少しして、井戸の水の透明度は戻っていき、底が綺麗に澄んで見えるようになってきた。


「おおっ!これならちゃんと今晩から使えるな。うん、綺麗な水が湧き出しているしいいぞ!」


アレクが、額の汗を拭って、これにて作業終了と告げる。


「ありがとう。一人だったら、今晩は水が使えないところだったわ。明るい今のうちにちょっとラッキーを散歩させてくるわね」


私は、森の方向を指さして、森で散歩をしてくると告げる。

その間に、ずっと動きっぱなしのアレクに、休むように伝えたつもりだったが、みんなの墓が森の入り口にあることを案じているのだろう。


「俺もついていこうか?」


アレクは心配そうに私の顔を見つめて、一人にすることが不安そうな顔をした。


「いいって。暖炉の前で休んでて。幌馬車にパンを積んでいるからそれを焼いて食べるのと、水が復活したからスープを作るね。あと、小さなお風呂もついているから、後でお湯を沸かすわ」


私は、手を振って大丈夫だと告げる。

先ほどは、少し思い出してしまっただけ。


これからは、みんなとずっとここで一緒にいるんだもの。

会えないだけで、きっと私を見ているわ。


そう、自分に言い聞かせた。


「それなら、俺は、ラリアとラッキーが散歩に行っている間に、馬房の寝床を作っておくよ」


アレクは、そのまま休まず再び動きはじめる。

街で購入しておいたラッキーのための藁を幌馬車から出し始めた。


「休んでいいのよ。私は、散歩ついでに、この奥の祠に芋とか、酒とか絶対供えたものが残っているはずだから奪ってくるつもりなの。今日は、村復活1日目よ。ご馳走にしましょう。全く、神様なんてこの世にはいないってことよね。いつも五穀豊穣を祈っていたのにバカみたいよ」


私は、その残った緑の森に再度視線を送った。


「祠?」


聞き返すアレクにも、村を守る祠の話をする。


「本当にあの区画だけ、砲撃を免れたんだな。そこだけ守られると腹が立つ気持ちもわかる。うん、取ってきたらいいんじゃないか?食べてやろうぜ」


そう言ってアレクは、私に合わせて軽口を叩き、二人でにやっと笑う。


そうだった。アレクも父親に似ている。


外では貴族のような品の良さで過ごすけど、この村に遊びにくる時は、やんちゃないたずらっ子だったわね。


アグリ村は、領主の父と息子が少しだけ肩の力を抜くことができる村だったのだ。


アレクにとっても、思い入れのある村だったと思っていいよね。


私は、少し気持ちが軽くなり、ラッキーと共に勢いよく祠に向かっていく。





祠は、木々の端の岩場の上にあり、扉は、以前より、少しカビが生えているがきちんと閉じられていた。


それなのに!


「おかしい!絶対にお供えがあるはずなのに!ここは燃えてないんだから、残っているはず?どうして!誰がお供えとったの?」


森の中で、私の怒りが炸裂する。


長期保管が効く芋や豆、穀物を祠の中には入れていたはずなのだ。


動物だって、祠の扉を開けて取り出すのは不可能。


「誰よ!みんなの最後の農作物を取った奴!出てきなさいよ!」


だが、森の中はシーンと静まり返る。


誰もいない――


当たり前だ。


そこで誰が生きている村人がいたなら、祠の食べ物なんてみんなにあげるわよ。


そんなやり場のない怒りと、むしろ、村人ではない盗人がこの辺りを歩いている可能性にぞっとする。


「なにさ、役立たず!村どころか、自分のお供えすら守れないじゃないの!」


私は腹が立って、そばの石を使って祠に投げつけた。


バキッ


「あ……」


そんなつもりなかったのに……


祠が傾いて、木が割れた音がして急に罪悪感が襲う。


だが、祠と言いつつ、何の神様も飾ってないのだ。


でも、みんなが大切にしていたものに罰当たりだわ!


ただ、正直、御神体がない祠って?


それなのに、父は、この神様が、村を守ってくれると言い続けていた。


「祠って、そんな石を投げたぐらいで動くの?固定とかしないの?」


私はその祠に駆け寄ったが、扉に石で壊された跡がぼこっとへっこんでいた。


「とりあえず元の位置に戻そうかしら?」


私は、岩場の上に戻そうとした時――


「何これ?」


移動した下にあったのは、岩の窪み。

その中には、透明色の澄んだ水晶のような丸い球があった。


私は、恐る恐るその水晶球のようなものに手を伸ばす。


サイズは、ちょうど片手で掴めるほど。


「誰が入れたのかしら?もしかして、神様の御神体とか?」


それに触れた瞬間――


うっ!


バアアアアアアアッと自身に稲妻のような激しいフラッシュが走った。

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