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8 タイタン・セジン・リング

 CUBEを抜けた瞬間、イシュマール号の周囲に数機のセキュリティ・ドローンが接近した。トランスポンダー情報を瞬時に読み取り、入国手続きを数秒で完了させると、ドローンは無言で去っていった。


「巨大《タイタン》という名前を、よくもまぁ選んで付けたものですね」

 ジスが操舵席から呟いた。


 タイタン・リングに近づくにつれ、その圧倒的なスケールが徐々に明らかになっていく。リングの側面に到達した頃には、視界のほとんどがその巨大構造物で埋め尽くされていた。

 無数の船が列をなし、リング外壁に向かって一つのラインを描いている。

 イシュマール号もその列に加わり、指定されたドッキングポート〈一般船格納エリア36B-8〉に接続された。


「さ、行きましょう」

 彼らは狭い接続通路を抜け、チューブリフトに乗り込んだ。ジスが〈テグ・シティ〉と表示されたパネルに触れると、わずかな浮遊感の後、人工重力が安定した。


 リフトの上半分は透明になっており、巨大なリング上に広がる都市の光景が眼下に広がっていた。あまりにも巨大で、遠くの景色は薄く霞(かす)んでいる。

「プレートシティみたいだ……」

 リゲルが思わず呟いた。

「なんだそれ?」ウェンが怪訝《けげん》そうな顔をした。

「よく知ってるわね。とても古い本よ。驚いたわ」

 エイカがリゲルを見て、少し目を細めて言った。

「古い……本?」

「ええ、エディカルロ・ルパティオの『閉鎖された都市』って本に出てくるダイソン球の話よね?」

 リゲルは不思議そうな顔をしたので、ジスがすかさずフォローした。

「きっと孤児院の図書室で読んだのでしょう?」

「うん……図書室で」

  エイカは窓の外を見ていて、リゲルの顔色が変わったことに気づかなかった。

「亡くなった祖母がね、小さい頃によく話してくれてたのよね……」

「……そんなことより腹減ったぜ」ウェンがドアの前でウロウロし始めた。

「ちょっと、ウェン。見苦しいからからやめて」

 エイカが呆(あき)れたように言った。ウェンが「ブー」とふくれっ面になった。



 リフトはステーション内に入り、窓の外が灰色の壁に変わった。

「では、先程話した通り、ウェンとリゲルは数日分の食料品と船のメンテナンスツール。エイカと私は医療室に足りない薬品の補填《ほてん》と緊急医療物資担当です。各自の衣類など生活必需品も忘れずに。購入したものは船の貨物室に直接届けてもらうようにしてください。それから──」

「了解!」ジスが話し終わらないうちに、ウェンがリゲルの背中を押して歩き出した。

「……まったくもう」

エイカはため息をついた。

「ここは比較的治安もいいですし、ネットワークも安定しているので、なにかあればUNIで連絡しましょう」



 『ネオ・トンデムン・モール』はこのリングの一大商業施設だった。西部エリアには古き良き商店街が広がり、東部エリアは最新の工業製品や医療機器が並ぶ近代的なゾーン、北部は歓楽街とスポーツドーム、南部は人工湖『キセキ・レイク』を囲む特別居住区という、4つの顔を持つ複合施設だ。


「じゃあ僕たちは西部エリアに行けばいいのかな?」

 リゲルがUNIのマップをじっと見つめながら言った。

「そんな焦るなって。時間はまだたっぷりあるんだから、美味(うま)いもん食べて楽しもうぜ! 広いからな、あそこからトラムに乗るぞ、ほらっ駆(か)け足!」

 ウェンがふざけてポーズを取ると、リゲルはくすくすと笑った。このときの二人の様子は、どこから見ても親子のように自然だった。

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