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2 調査任務

 しばらくしてからジスは全員をラウンジに集めると、静かに話し始めた。

「私から少しお話したいことがあります。ですが、その内容については少なくとも地球に着くまで、我々だけの秘密にしてください。もうすでにリゲルについてはある程度知られてしまいましたが……。実は私がリゲルと初めて出会ったのは、襲撃があったあ(・)の(・)日(・)ではありません」

 リゲルが驚《おどろ》いて目を丸くした。「そうだったの?」

「ええ。とある人物を調査する任務を受け、その足取りを追う過程でヌールに派遣《はけん》されました。あれは今から3ヶ月ほど前……」




 2937年1月1日

 ジャンナト惑星・サイラ荒野西端


 日が落ちかけた空はオレンジ色に染《そ》まり、乾燥した風がまだ生ぬるく頰(ほお)を撫《な》でていた。ジスは街の外《はず》れにある薄暗いパーキングに小型シャトルを停め、もう一度UNIで対象者の情報を確認した。表示されているのは、ヒスパニック系で口ひげを生やし、黒縁《くろぶち》眼鏡をかけた30代後半の男性——


 〈ドクター・ホルヘ・ヴェガ〉

 〈生化学博士/機密《きみつ》情報窃盗(せっとう)の容疑で指名手配中〉


 ジスは〈ナダルの滝〉と書かれた派手《はで》な看板のバーに近づいた。薄着《うすぎ》の女性が酒樽《さかだる》に跨《またが》り、そこから酒が滝のように溢《あふれ》れ流れる下品なホログラムアニメーションが、荒野の寂《さび》しさを強調するように派手に光っていた。


 ドアを開けると、薄暗い店内にやかましい音楽と酒の匂いが押し寄せてきた。2メートルはあろうかという巨大な用心棒がジスを一瞥《いちべつ》したが、何も言わずに通した。


 カウンターに座ると、腕にタトゥーが入った中年女性のバーテンダーが近づいてきた。

「いらっしゃい。何にする?……おや、珍しい客だね」

 ジスは静かにUNIでエクレシアのIDを見せた。バーテンダーは小さく頷(うなず)き、耳元で囁(ささや)いた。

「あんた、気をつけなよ。ここいらは〈E〉に恨《うら》みのあるやつが多いからね。あたしは違うけどさ」

 そう言い残して、彼女は奥へ下がっていった。

 テーブルに居たカウボーイハットを被った初老の男が、ジスの隣《となり》に腰を下ろした。

「あんたがジセリオスか?」

「はい。では、あなたが情報提供者の方ですね?」

「ああ、そうだ。もうちょっと声を落とせって」

 ジスはUNIでドクター・ホルヘ・ヴェガの写真を表示した。男はグラスを一気に空《あ》け、ゆっくりと話し始めた。


「もうちょっとくたびれた見た目だったが、確かにその博士《ドクトール》だったな。先月までこの店に入り浸ってたぜ」男は不機嫌そうにグラスをぐいっと一気に流し込んだ。

 そしてバーテンダーの女性に向かって空(から)になったグラスを指差した。

「ちょいとじいさん、あんたのツケがいくら溜(た)まってるかちゃんと覚えてる?」

 バーテンダーの女性が、頭を指でトントンと叩くジェスチャーをした。

「お願いします。私が彼のツケの分もお支払いしますので」ジスはそう言うと、UNIをバーテンダーに向けた。

「もう、仕方ないわねぇ」そういいながらバーテンダーは彼女のUNIを操作した。

「おう、悪いな!」あからさまに上機嫌になった男が肩を寄せてきた。


「悪いが俺が知っている情報はこんだけなんだ。だが……」と続けた。

 ニヤついた赤ら顔を見せながら男はボロボロのズボンのポケットからヒビの入ったUNIを取り出してジスに渡した。

「これは彼のものですか?まさか」

「いやいや!俺は盗んじゃいねぇよ?ちょっとした『騒《さわ》ぎ』があってな、そんときに外の路地で拾ったんだよ」

 男はバーテンダーが注ぐグラスの酒を嬉しそうに眺めながら言った。

「その『騒ぎ』について詳しく聞かせてください」


 ジスはバーテンダーの女性にボトルを置いたままにするように合図した。

「先月、あの日、そんときがやつを見た最後だったよなぁ、モリーナ?」

 男はカウンターの奥に向かって話すと、彼女はいそいそとこちらに近づいてきて「ちょっとマイク、トラブルはゴメンだからね。それにあたしは他のお客さんと一緒に裏に隠《かく》れてたんだから、な~んにも見(・)て(・)な(・)い(・)よ(・)!」男の耳元でわざと大声で釘を差すように言った。そして、奥のテーブルを片付けに行ってしまった。

 

「なんだよつれねぇなぁ⋯」

「続きを、お願いします」

 マイクと呼ばれた初老の男は少しムッとしたが、目の前のボトルを見て少し考えてからぽつぽつと話しだした。




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