17 救出
第三惑星ハルカ
主要都市『アイオニア・シティ』
街外れの廃村──『旧ウスベニ村』
ジスたちはイシュマール号から小型シャトルで地上に降りた。
「今は廃村ですが、昔は農業を中心とした人口約500人の、穏やかで素敵な村だったそうです。警察署から出たシャトルはこの近くに……ほら、あれですね」
ジスは雑草で覆われた民家の庭に停められた、S.T.R.P.D(セジン・タイタン・リング警察)と書かれた護送用シャトルを指さした。
「さあ、早くあの子を探しましょう」
エイカが焦れた様子で言った。
民家の地下室は薄暗く、昨晩の雨で小窓から水がポタポタと滴り落ちていた。かろうじて差し込む日光も雑草に遮られ、鈍い明るさしかなかった。照明が時々電圧降下で明滅するたび、ヘルマン・ワイズのやせ細った顔に鋭い影が落ちた。
「あぁ……これが終われば、クロエ、ジョナサン……」
汗で不気味に光る額を袖で拭いながら、彼は注射器の針を小瓶に突き刺した。
「ジョ……ナサン……ってだ……れ?」高く澄んだ子どもの声が響いた。
「そんな……だめだ、どうして……」ヘルマンの額から一粒の汗が流れて目に入った。
必死に腕を使って拭おうとするが上手くいかない。
霞んだ目で、見上げると彼の息子のジョナサンの顔がリゲルに重なった。
「ウソだ、違うんだ!ジョナサン!! ……しまった!」
ヘルマンの手が激しく震え、硬いコンクリートの床に薬剤の入った小瓶を落としてしまった。
パリーン!
ガラスの割れた音は地下室を貫き、家の外まで届いた。
「今の音は? こっちだ、この家からだ!」
ウェンが音のした民家へ全力で走った。正面ドアは劣化して開きっぱなしになっていた。
エイカとジスもすぐ後を追う。地下から話し声が聞こえるのに気づき、ジスが人差し指を唇に当てた。三人は息を潜めて階段をゆっくりと降りていく。
「く、クソ!」
ヘルマンは必死に幻覚を振り払うように目を擦った。そして点滴チューブを乱暴に掴んだが、焦りと恐怖で手が震えて針が上手く刺さらない。
「なぜだ!?どうして……クソッ! クソォォッ!!」
「そこまでです!」ジスがパルスガンを構えて叫んだ。
「そうだ、もういい……これで私は」
ヘルマンは持っていた注射器を自分の喉元に当てた。
「おい、よせ!!」ウェンが叫ぶ。
「すまない、クロエ──」
「──ダメ!!」
リゲルが叫ぶと、ヘルマンの手から注射器が吹き飛び、壁に当たって粉々に砕け散った。ヘルマンはがっくりと力が抜けたように膝をついた。
「リゲル!!」
ウェンはリゲルに駆け寄り、素早くナイフを使ってロープを切り、左腕の点滴針を慎重に引き抜いた。
「……そのナイフかっこいい」
リゲルは汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔を、一生懸命どうにかして笑顔に変えた。ウェンは何も言わずに彼を強く抱きしめた。火傷でただれた拳から血がにじみ、リゲルの白いシャツに染み込んだ。
「無事で、本当に良かった」
彼はそう囁くと、喜びと安堵の熱い涙がリゲルの肩にこぼれ落ちた。




