18 疑念と後始末
エクレシア地球本部との通信が一時的に回復した。エディソン局長がタングク・ハンルの警視庁長官に直接話を通してくれたおかげで、ジスたちにかかっていた窃盗容疑は即座に晴れた。
ヘルマン・ワイズは誘拐と殺人未遂の容疑で起訴され、地元警察によって正式に逮捕されることになった。警察が到着するまでの間、ジスはヘルマンの両手に電磁手錠を装着した。意外なことに、ヘルマンは一切抵抗しなかった。ただ虚ろな目で床を見つめているだけだった。
やがて警察官たちが地下室になだれ込み、ヘルマンを連行していく。彼はエイカのすぐ横を通り過ぎながら、掠れた声で耳元に囁いた。
「……彼は他と何が違うんだ? なぜDFGが効かない?」
連行されていくヘルマンを背に、エイカは無言でその場に立ち尽くした。
彼女はゆっくりと部屋の中央に近づき、床に敷かれた妙なマットと、テーブルに置かれた装置を凝視した。
「ドロル場発生装置 (DFG)……これでニールの能力を抑えていたのね。けど、さっきリゲルは……」
エイカは振り返り、ウェンの腕の中で静かに眠るリゲルの姿を見つめた。
(あの少年が本当は何者なのか……私はまだ何も知らないんだわ)
エイカの視線が、テーブルの下に落ちていたヘルマンのUNIに移った。彼女は素早く周囲を確認し、警察の現場検証班に見つからないよう、そっと上着の内ポケットにそれを滑り込ませた。そして、彼女は地下室を後にした。
アイオニア・シティ警察署、殺人課。
シギョン・タカズギ刑事は、机の上に散らばったドーナツの食べかすを乱暴に払いながら、ディスプレイに表示された資料を睨んでいた。
「どこもかしこも人手不足っと。さて、こいつぁ……〈ヘルマン・ワイズ〉、43歳、妻子あり、GRAMサイテック社CFOだって? とんでもない大物じゃねぇか。そんな身分のやつが誘拐と殺人未遂ねぇ」
中年太りで腹がぽっこり出ているが、検挙率85%以上を常にキープするベテラン刑事は、頭をぽりぽりと掻きながらぼやいた。
「おい、ヒメネス! 尋問室空いてるよな? それと、こいつこのワイズってやつをさっさと連れてこい」
ヒメネスはため息をつきながら立ち上がった。「人使い荒いよな、やれやれだ……」
彼は署内の一時拘置セルがある棟へと向かった。
「ワイズだ、ヘルマン・ワイズ」
受付の中年女性がUNIで確認し、すぐに答えた。
「7番。解錠コード、UNIに送ったわよ」「サンキュ」
ヒメネスはセルに近づき、覗き窓から中を確認した。
瞬間、彼の表情が凍りついた。
「……まずい! 誰か来てくれ!! くそ、なんてこった!」
ヒメネスは頭を掻きむしりながら、受付の方へ全力で駆け戻った。
7番セル内──
天井の照明が激しく破壊され、陥没した部分に皮のベルトが掛けられていた。
そのベルトは、ヘルマン・ワイズの首に深く食い込んでいる。
足元には、花柄の刺繍が施された薄いピンク色のハンカチが、まるで儀式のように綺麗に畳まれて置かれていた。
第二章 (了)




