15 誘拐
リング外壁部のゲートから内部につながるトンネルを抜けた先は、警察署ステーションのシャトルベイになっていた。
シャトルが到着すると同時に、彼らは別々のフォースフィールド・セル (電磁波牢) に拘置された。
ジスはセルの外で見張りをしている長身の男に向かって、落ち着いた声で言った。
「私はESIAです。なにか誤解があるようなので、エクレシア本部と連絡させてください」
男はインカムで何かを短く話した後、ジスのセルに近づいてきた。
「悪いが、それはできない。そもそも、現在テラとは通信ができない状態だしな。貴様らには貨物窃盗の容疑がかかっている。後ほど尋問するので大人しくしていろ!」
男は乱暴に電磁警棒でセルのフォースフィールドを叩くと、踵を返して出ていった。
「おい! エイカ、ジス、リゲル! 大丈夫か?」
ウェンが隣のセルから大声を上げた。
「ええ、なんとかね」さらにその奥のセルからエイカの声が返ってきた。
「まいったな、おい。ん? リギー? どこだ?」
5つあるセルのどこからも、リゲルの声はしなかった。
「リゲル!! 大丈夫ですか?」
「どういうこと? あの子、ここに居ないの?」
「そんな……リゲルをどこへやったんだ!! おい看守! 聞こえてんのか、こら!」
ウェンの怒鳴り声は、虚しく鋼鉄の壁に反響するだけだった。
一方——
リゲルは左腕に鋭い痛みを感じて、ゆっくりと目を覚ました。
「……痛い」
視界がはっきりしてきたので、痛む左腕に触れようとしたが、体が全く動かなかった。
「なに、これ……」彼は硬い椅子に体を固定され、左腕には包帯が巻かれ、透明な管が繋がれていた。
「なんで、点滴なんか──」
「お目覚めかな? リゲル・ヨラン」
薄暗い部屋の片隅に、背が高く薄毛で、濃い青のスーツを着た細身の男が立っていた。
「あなたは誰? どうして僕は……腕がすごく痛い!」
男がゆっくりとリゲルに近づいてきた。
「いやだ…やめて」リゲルは叫ぼうとしたが、恐怖で声にならない。
(痛いのはもう嫌だ……ニール、助けて)
リゲルの目がゆっくりと閉じ、再び開いた。
先ほどまでの怯えた少年は消え、その目には冷たい光が宿っていた。
「ほう、これが、そのもうひとつの人格か。いいだろう、名乗りもしないのは失礼だからな。はじめまして、私はヘルマン・ワイズだ」
男はリゲルを殺気立った目で睨みながら言った。
「全く知らない名だな」
ニールが表面化したリゲルは、低く落ち着いた声で返した。
「フン、偉そうに! 貴様は『忌むべき』存在だろう、おぞましいリローデットめが!」
ヘルマン・ワイズは近くにあったパイプ椅子を力いっぱい蹴り飛ばした。
「さあ、ほらやってみろ。その穢れた能力を使って私を痛めつけてみるか?」ヘルマンは薄笑いを浮かべて近づいた。
その瞬間、リゲルの体が激しく痙攣した。
「ぐあああ!!!」
「それはキツそうだなぁ。だが見ているこちらも辛いのだよ。私はこれでも善人なのでね。実にこんな拷問じみた野蛮なことなど……だから、安心していいぞ。すぐに終わらせてやる」
ヘルマンは血走った目でそう言うと、床に置かれたカバンから注射器と薬剤の入った小瓶を取り出した。




