13 秘密結社
第一惑星ヌーラーン軌道上
アル・サフィア孤児院宇宙ステーション
眼下に雲で白く濁った惑星を眺めながら、パウラ・ミランダー婦人はいつも以上に不機嫌な表情を浮かべていた。
「クー、オーン? ですって?」
すぐ後ろから、嫌に耳につく高い声でイザベラ・マクスウェルが言った。
「いいえ、違うわイザベラ。『久遠』よ。古い日本の言葉で、永遠とかそんな意味だったはずよ」
「で、なんなの? それ」
イザベラは派手な赤色のハンドバッグからUNIを取り出し、ミラーモードにして自分の顔を映しながら、小指の先で口紅の乱れをチェックし始めた。
「いわゆる、秘密結社ね。ここ半世紀ほどはあまり耳にしなかったけど……リローデットの失踪や不審死の裏には、必ずその『久遠』が関わっていると言われているわ」
ミランダーはゆっくりと振り返って言った。
「それが、今回の襲撃に関わっていると?」
「どうかしらね。ただ、リヤドで彼らを襲った連中は、武器や装備からして明らかにプロの暗殺部隊だったそうよ」
「ここを襲撃したゴロツキどもとは大違いね」
イザベラはUNIをハンドバッグに戻し、部屋の隅にある白いソファーにドスンと腰を下ろした。
「あ、そうだ!」彼女は慌てて先程しまったUNIを取り出した。
「パウラに頼まれていたから、私もリヤドの警察に確認したけど、現場は綺麗さっぱり掃除されていて、付近のカメラ映像も含めて痕跡は一切無かったらしいわ。本当に徹底してるわよね」
そう言いながら、UNIをテーブルにあるミランダーの端末に向けた。
「ジスはこのドクター・ホルヘ・ヴェガという人物を追っていたのね。なるほど、エクレシアで情報の窃盗……どうもきな臭い話だわね」
「なによ、その情報を得るのに、かなり危ない橋を渡ったのよ? 報酬はいつもの倍で、お願いね」
彼女はミランダーの耳元に顔を近づけて甘く囁いた。キツすぎる香水の匂いに、ミランダーは思わず顔を歪める。
「この暗号化されたデータは一体何?」
イザベラは買ったばかりでツヤのある、いやらしい赤紫色のピンヒールがお気に入りなのか、腰に手を当てモデルのようにクネクネとポーズをとりながら話した。
「何かのメモリカードのデータらしいわ。専門家に頼んだけど、かなり複雑に暗号化されてて解読は難しいって。それでも、いくつかの画像ファイルは取り出せたみたいよ?」
そう言うと、ランウェイを歩くかのように華麗にターンをキメて部屋を出ていった。
ミランダーは端末に表示された画像ファイルを開いた。
そこに映っていたのは——
真っ直ぐな黒髪に濃い青色の瞳を持つ、幼い少女の写真だった。
「これは……ホルヘ・ヴェガ、って顔じゃないわよね?」
ミランダーは独り言を呟き、眉を深く寄せた。




