12 暗闇
薄暗い部屋に、一人の男がスポットライトを浴びて立っていた。
「ミスター・ヘルマン・ワイズ。ここへ呼ばれた理由を、どのくらい把握しているのかね?」
声はどこからか響いてくる。スポットライト以外は一切の光がなく、部屋の大きさすらわからない。 ヘルマンは額に浮かぶ汗を、花柄の刺繍が入った薄いピンク色のハンカチで丁寧に拭った。
(ここで間違えてはいけない……)
「彼らがタングク・タイタン・リングにいた事までは掴んでおりますし、例の爆破で足止めも成功しました。ですので──」
「そんなことは訊いていない」
低く歪んだ声が、ヘルマンの言葉を切り捨てた。まるで地獄の底から這い上がってくるような、悪魔じみた声だった。
「君は機会があったのにもかかわらず、2度も失敗している。3度目の成功を我々が君に対して期待できる理由を言いたまえ」
ヘルマンの背中を冷たい汗が伝う。
すると、もう一つの別の冷たい声が割って入った。
「まぁ、待ちなさい。彼の言うとおり、あの足止めは我々の計画にとっても有利に働く。とはいえ、次の失敗は許されない」
「ミスター・ワイズ。君の事情も我々はよく分かっている。そうだ、『ルーリン』に居る君の家族のことだよ。さぞ会いたいだろう?」
ヘルマンは拳が固く握りしめ、腕が小刻みに震えた。
「次で……次で必ず終わらせます。ですから、どうか妻と息子だけは──」
「よろしい! もう下がりたまえ」
突然、部屋の照明が一斉に点灯した。眩しさに目を細めながら、ヘルマンはふらつきつつも、ゆっくりと部屋を後にした。背後で、重い扉が閉まる音が響いた。




