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10 アヤ

 ネオ・トンデムン・モールの西部エリアにある小さなレストラン『イロカゼ』の外には、テーブルとベンチが並んでいた。狭い店内に入りきらない客たちが、賑やかに外で食事を楽しんでいる。

 そのテーブルの一つに、ウェンとリゲルが座っていた。


「どうだ、楽しかったか?」

「うん! あのゲーム、すごいリアルなグラフィックだったよね? でも、このUNIだと動かないか……。それと、さっき流れてた音楽、孤児院であんな音楽を聴かせてくれた子が居たんだよ」

 リゲルは紙コップに入ったスムージーをストローで一気に吸い込み、冷たさに少し顔をしかめた。

「ゆっくり飲めって。ヤンニョムチキンも全部食べていいからな。その間に俺は……」

 ウェンが公衆トイレを指さして立ち上がった。

「すぐ戻るから、一人でどこにも行くなよ?」

 彼は何度も振り返りながら、トイレの方へ歩いていった。


リゲルはテーブルに残った甘辛いヤンニョムチキンを頬張《ほおば》った。

「美味しい……こんな柔らかいお肉は初めてだ」


 プレートシティでの思い出のほとんどは、苦い薬と味気ない流動食ばかりだった。こんなに辛いものを食べたら、きっと体中に発疹《ほっしん》ができて痛くなるはずだった。

 リゲルは何度も肘の裏や、袖をまくった皮膚を確認した。なんの変化もない。


「なんでそんな事してるの?」


 突然、目の前に真っ直ぐな黒髪で、深い青色の瞳をした少女が座っていたので、思わずリゲルは「うわ!」っと大声を出してしまった

「『うわ!』って何よ。ちょっと失礼っしちゃうわね」少女が口を尖らせて言った。

「だっていきなり……それよりも、君は誰?」

 リゲルの頬(ほお)が少し赤くなった。

「私はアヤ。賑(にぎ)やかな街よね?ここ」

 少女は周りをぐるっと見渡して言った。

「ぼ、僕はリゲル。君みたいな子供がこんなところにひとりで何してるの?」

「あなただって子供だしひとりじゃない。これ、もらうわね」

 アヤは遠慮《えんりょ》なく、最後に一つだけ残ったヤンニョムチキンを勝手に食べた。

「僕は、ええと、その、ウェンがトイレに行ってて……」

「ウェンって誰?」「え? だから、その、保護者だよ」

 リゲルはちょっとムキになって言った。


「おまたせ! ん? どした? 誰と話してるんだ?」

 ウェンが戻ってくると、目の前にいた少女の姿は忽然《こつぜん》と消えていた。

「あれ? さっきまでそこに女の子が……」リゲルは立ち上がり、あたりを歩き回った。

「リギー、ちょっと落ち着け」

 ウェンはかがみ込んでリゲルの肩を優しく掴んだ。

「あの、ええと、さっきまでアヤって言う女の子がそこに座ってて。ウェンが来たらどこかへ行っちゃったみたい……」

 リゲルはようやく落ち着いて、テーブルに座った。


「なんだ、そういうことか? 見知らぬ土地で女の子に声掛けるなんて、なかなかやるじゃないか、この色男《いろおとこ》リギーめ!」

 ウェンはイタズラっぽく肘でリゲルを突いた。

「なんだよヤンニョムチキン、まだ残ってるじゃねぇか、んじゃ俺が」

 リゲルはそれを見て凍りついた。


(そんな……アヤがさっき最後の一つを食べていたのに!!)


 でも、そんなことを言ったら、頭が変だと思われてしまう。


「お腹もいっぱいになったことだし、そろそろ買い出し任務に向かうとするか」

「うん、そうしよう」

 リゲルは精一杯の愛想笑(あいそわら)いを浮かべて、このことはもう忘れようと思った。


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