第51話 雷速の理屈と、ヴォルタクセル
「……というわけで、君は雷だね! それも規格外の!」
カイはパンッと手を叩き、張り付いたような――いや、努めて明るい笑顔を作った。
足元の砂山でバチバチと鳴る紫電から無理やり視線を逸らし、レンへと向き直る。
「ふーん。ま、強けりゃなんでもいい」
レンはあっさりと頷き、つまらなそうにカイに向かって手を突き出した。
「で? さっさとその重りを奪う『秘策』とやらを教えろ。俺はあいつからアレを毟り取らなきゃならねぇんだよ」
鼻息荒く急かすレンを見て、カイは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
(不憫に思うほどの脳筋……こんなところまで師匠譲りか……)
内心で密かに同情しながらも、カイはやれやれと苦笑して見せる。
「焦らないでください。その『秘策』を成立させるために、君の属性を知る必要があったんです。だから、まずは少しだけ『魔法』について知ってください」
「あ? 御託はいい。俺は剣で――」
カイが食い気味に遮る。
「だーかーら! その秘策にも通ずるから、少し話を聞いてよ!」
カイが声を大にすると、レンはチッと舌打ちをして腕を組み、不満気に聞く姿勢をとった。
「いいですか。この世界の魔法は、大気中にある『精源』と呼ばれる魔素に、術者の魔力を反応させて具現化します。君がさっき水晶で見せたのは『自然系』の魔法です」
カイは指を立てて、一つ一つ噛み砕くように説明を始める。
「自然系の基本要素は、火、水、風、土、電の五つ。そして君の『雷』は、電のさらに上位に位置する要素です。上位と基本の違いはシンプル。電流や電圧といった、純粋なエネルギーの総量が桁違いに大きいということです」
「エネルギーがでかい。だから強い。それだけだろ?」
カイが人差し指を振る。
「ただ威力が高いだけじゃありません。ここからが本題です」
カイは悪戯っぽく目を細め、レンの足元を指さした。
「雷の魔力を外部へ放つのではなく、体内に留め、自身の神経や筋肉に流し込む。そうすることで、常人ではあり得ない反射神経の向上と、極限の肉体強化、そして『超加速』が可能になります。……それこそが、レグルスさんの理不尽な速度に喰らいつくための、唯一の理屈です」
「……!」
レンの瞳に、ギラリと猛禽類のような光が宿った。
雷を体に纏い、己を加速させる。
それなら、あの陽炎のように揺らぐレグルスの動きにも届くかもしれない。
「わかった。なら、どうやればその雷を出せる?」
「順序としては、まず空間の精源を知覚し、自らの魔力波長を合わせて電気信号へと変換。そこから上位の熱量と電圧をイメージして……」
そこから先、カイは宮廷魔導士もかくやという流暢さで、魔法顕現のプロセスをペラペラと語り始めた。
魔力回路の接続、精源の圧縮、イメージの固定化。理路整然とした完璧な理論。
「――というわけです。さあ、やってごらん」
「…………」
レンは無言のまま、手のひらをじっと見つめていた。
そして、ぐっ、と力を込める。
顔を真っ赤にして、ひたすらに力む。
「……出ねぇぞ」
「いや、力むだけじゃなくて、精源の知覚と変換のイメージをですね」
レンが手のひらを突き出したまま睨む。
「イメージ? 知らねぇよ! なんでさっきは水晶に触っただけで出たんだ!」
「あれは魔力を吸い上げて勝手に変換してくれる魔道具だからでして……。いいですか、レン君。魔法というのは繊細な感覚と論理的な演算が――」
レンの額に、青筋が浮かぶ。
「うるせぇ! 四の五の言ってねぇで出し方を教えろっつってんだよ!」
キャンキャンと吠えるレン。
困り果てるカイ。
レンは完全な『野生』であり『感覚派』だった。
知の国であるアルヴァレイン王国の最高峰の教育を受けたカイの理論的な説明など、右から左へと抜けていくどころか、そもそも言語として認識されていない。
何度やっても火花一つ散らない己の手に、レンの苛立ちはピークに達していた。
「使えねぇなら別の方法教えろ! じゃねぇとテメェを――」
修練場に険悪な空気が満ち、レンが殺気を膨らませた、その時だった。
「カイさーん! 面白いことあるって聞いたから、飛んできたよーん!」
重苦しい空気を物理的にぶち破るような、明るく軽快な声が背後から響いた。
場違いなほど無邪気な声の主は、王族らしからぬ活発で動きやすいドレスを翻しながら、スキップ交じりに二人の間へと乱入してくる。
内や外にぴょんぴょんと跳ねたくせっ毛のボブを揺らすその少女は、アルヴァレイン王国第三王女、ナタリー(11歳)だった。




