ep.9 親父
「ふあああああああああぁぁぁぁ、良く寝たぜ」
朝、ヒロ男は大きく伸びをし立ち上がる。
(おはようございます凰我さん。意外に早起きなんですね?)
「……、やっぱり夢じゃねぇのか…」
ティオリアの声を聞いた途端、重しを乗せたかのように身体が重くなった気がした。
(ちょっと! おはようって言ってるんだから返事してよ!)
独り言を言って返事を返さなかったことにティオリアがプリプリ怒り出す。
「ごめんて、おはようティオリア。朝から元気だな」
(魂だけの状態だから眠くならないの。今日の夜は何か暇つぶし出来るものを用意してから寝てください)
「えぇ…、面倒な幽霊だな…」
(幽霊じゃない!!! せめて天使と呼んで!)
頭の中から聞こえる声と言い合いをしながら階段を下りるヒロ男。
サッと顔を洗い、リビングに行くと体格の良い男性、ヒロ男の父がスマホを見ながらパンを食べていた。
「おはよう親父。今日はパンなんだな」
「んぐ…、おはよう凰我。昨日帰りが遅くて即行寝ちまったから何も準備してなかったんだ。たまには簡単でいいだろ?」
「あー…、俺もすぐ寝ちまったからなぁ。悪いな親父、何か準備しとくんだった」
「バカ言え、お子ちゃまはそういうの気にしなくていいんだよ。そういうのは未来の嫁にしてやれ」
そう言いながらヒロ男にパンの入った袋をポイッと投げてくる父。
ヒロ男はそれを受け取りながら苦笑いする。
「気がはえぇよ、彼女なんていねぇし」
「全く、お前ってやつは…。ティオリアちゃん、こいつに彼女できるように揉んでやってくれないか?」
(えーと…、ちょっと私には荷が重いですね)
「……………、は!?????? ちょっと待て! 何普通に会話してんのあんたら!」
突如始まった父とティオリアの絡みに一瞬理解が追い付かなかったヒロ男。
そんなヒロ男に父がため息を吐きながら話す。
「凰我よ、幽霊だろうと異世界人だろうと、お客さんが来たら家族に紹介するもんだ。その責務を放棄してぐっすり寝ちまうとは…。俺は悲しいぞ…」
(昨晩お父さまが凰我さんの部屋の前を通った時にご挨拶しておきました! あの距離ならギリギリ声を届けられますので!)
「な…ん…??? え…??? は???」
意味不明な説教を始める父と、ヒロ男が寝てる間に勝手に自己紹介をしていたティオリアに挟まれ大混乱のヒロ男。
「いやな? 俺も廊下歩てたら突然可愛い声が聞こえて腰抜かしそうになったんだがよ。話してみたら物腰柔らかい良い子じゃねえのよ。とりあえずその時は俺も疲れてたから簡単に話しただけなんだがな? 今日廊下歩いてたらまた挨拶して来てくれてよ。いや~ティオリアちゃんみたいな子が家に居てくれるとパーッと空気が明るくなるよな!」
(ふふふ、褒めても何もできませんよ? それとさっきは話の流れ上スルーしましたけど、私のことは幽霊ではなく天使と呼んでください)
「はっはっはっはっはっ! こりゃすまなかった! 可愛い天使様の頼みなら仕方ねぇな!」
結局その後も父とティオリアは楽し気に会話に花を咲かせ、ヒロ男は混乱した頭でパンをもぐもぐ食べた。
「じゃ、俺は行くぞ。二人で仲良くな」
(いってらっしゃいませ、お父さま)
「いってらっしゃい…」
挨拶を交わし、父は仕事へ。
リビングから出て行く父を見送り、再びズゥンと身体の重さを感じたヒロ男。「はぁぁぁぁ」とため息を吐く。
「どこまで話した?」
(変身と戦い以外は話しました。凰我さん、男らしさに拘っていたようなので)
拘っていなかったら話していたのか…、と少しヒヤッとする。
「…親父には余計な心配掛けたくないんだ。戦いに関してはこれからも話さないでくれると助かる」
(…家族思いなんですね)
「男手一つで育ててくれてるんだ。心労は少ない方が良いだろ?」
ヒロ男の話を聞き、ティオリアは一つ疑問が湧いた。
(お母さまについては…聞いても大丈夫ですか…?)
「6年前に病気で死んだ」
ポンと一言。
(……そう…ですか…)
続ける言葉に悩み、こんな言葉しか出なかった。
ティオリアの困惑を感じ取ったのか、ヒロ男はリビングの椅子から立ち上がり、隣の部屋へ入る。
そこには小さな仏壇があった。
ヒロ男は仏壇の前に座ると写真立ての中で微笑む優し気な女性に話し掛ける。
「母さん、紹介するよ。異世界人のティオリアだ。自称天使の変なやつだけど、三ヶ月間一緒にいることになった」
それを見て、ティオリアも言葉を重ねた。
(初めましてお母さま、ティオリアです。三ヶ月間、こちらにお世話になることになりました。よろしくお願いします)
ティオリアの言葉を聞きながらヒロ男は優しく微笑み、手を合わせて目を閉じた。




