ep.66 奇妙な信頼
その後、一人分のからあげをあっという間に平らげた疑似ちゃんは、コーセーと琴乃から一つずつからあげを恵んでもらい嬉しそうに完食。しかしまだ物足りなそうにしていたのでヒロ男が追加でフランクフルトを買ってあげ、現在公共ベンチに座りもぐもぐとフランクフルトにかぶり付いている。
(よく食べますね。ゼノウィータ、疑似ちゃんにしっかり食べさせてるんでしょうか。自分の身体なので余計心配ですよ)
「まぁこんだけ食えば数日は大丈夫じゃないか? 顔色も良くなったしな」
「………」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ
隣に座るヒロ男に頭を撫でられながらフランクフルトをもぐもぐする疑似ちゃん。もはや餌付けされた猫である。
「しっかし…、警戒心の欠片も無いね…。いったいどんな指示で動いてるんだろう…」
コーセーが呆れ気味に呟くと…。
「観察対象二人の監視と情報収集を命じられている」
「「「!!!」」」
なんと疑似ちゃんが返事をした。
ヒロ男、コーセー、琴乃が驚く。まさか喋るとは思っていなかったのだ。
そして三人が固まっている中、ティオリアが疑似ちゃんと会話を開始。
(こんにちは。貴方は疑似人格ですよね? 私たちは貴方の事を疑似ちゃんと呼んでますよ)
「オリジナルを認識、こんにちは。私は疑似人格で間違いない。『愛称:疑似ちゃん』了解」
顔を見合わせる三人。「疑似ちゃん呼びが受け入れられたぞ…」と困惑を隠せない。
(監視と情報収集を命じられているのに何故私たちの前に出てきたのですか? 普通は隠密行動が基本でしょう?)
「隠密行動の指示を受けていない。監視と情報収集ができれば問題ない」
この答えにはさすがヒロ男も口を出したくなった。
「なぁ…、もし俺たちがお前を捕まえたら監視も情報収集もできなくなるぞ? その辺はどう考えてるんだ…?」
「捕まえないで」
「懇願かよ…」
疑似ちゃんのあまりの幼稚さにヒロ男は右手で頭を抱える。コーセーは眉間を押さえて渋い顔をしている。
「ねぇ疑似ちゃん、疑似ちゃんが帰る時ついていっていい?」
琴乃が面白い質問をした。これに疑似ちゃんの許可が下りれば隠れているゼノウィータのところに案内してもらえる。
「拒否。ゼノウィータの拠点地は秘匿しなければならない」
「…やっぱりだめか…」
ちょっと期待していたのか、小さくため息をついて肩を落とす琴乃。
「こっそりついていっちゃダメか?」
ヒロ男が粘ってみるが…。
「ついてこないで」
「また懇願…」
琴乃同様、ヒロ男も小さくため息をつく。
(貴方が受けている指示をすべて教えてもらうことはできますか?)
ティオリアもこのチャンスにできる限り多くの情報を聞き出そうとする。
「ゼノウィータの拠点地の秘匿。観察対象二人の監視と情報収集。目的達成のため、及び危険が迫った時にゼノウィータから預かった力の行使を認める」
「預かった力…? それは何?」
疑似ちゃんが零した気になる言葉について、コーセーが追及する。
「生き物の精神エネルギーを負に傾ける」
(!!! ラベス化能力!?)
「「!!!」」
ティオリア、コーセー、琴乃に緊張が走る。しかしヒロ男は未だ疑似ちゃんを撫で続けている。
「あぁ…疑似ちゃんや…、今その力を使う状況だったりする?」
撫でながら、ヒロ男が苦笑いで尋ねる。
「否。観察対象と空間を共有することで情報収集が捗る。力の行使は非効率と判断」
「だってよ。仲良くしてれば危険は無いみたいだぞ?」
ヒロ男はそう言うが、コーセーと琴乃は警戒を解くことができない。
「そ、そうは言うがおーが、警察署のラベスも、白いバンの中のラベスも、最近の弱いラベスも、たぶん全部疑似ちゃんの仕業だぞ…? 一緒にいて俺たちがラベスにされたらどうするんだよ…」
コーセーが真剣な表情で訴えるが…。
「疑似ちゃんや? 俺たちのことラベスにしちゃったりする?」
「否。そのような指示は受けていない。危険がない限り力は行使しない」
「だってよ?」
ヒロ男はそう言って一層わしゃわしゃと疑似ちゃんを撫で回す。…こころなしか疑似ちゃんの表情が嬉しそうに見える。
「で、でも…」
琴乃が尚も困惑するが…。
(…まぁ、一度ゼノウィータのところに戻ったら別の指示を受けるかもしれませんけど、今なら大丈夫じゃないですか? 二人とも、疑似ちゃんと触れ合うなら今が最初で最後のチャンスかもしれませんよ?)
ティオリアがため息混じりに話す。それを聞き、コーセーと琴乃は顔を見合わせる。そして揃ってため息をつき、コーセーはフランクフルトを再びもぐもぐし出した疑似ちゃんの隣に腰を下ろし、頭を撫でる。
「確かに、リスク無しで仲良くするなら今しかないかもね。予定変更して町中にでも遊びに行こうか」
「それもいいかも」
「………」
もぐもぐもぐもぐ
幸せそうにフランクフルトを食べる疑似ちゃんを囲み、三人は笑い合うのだった。




