ep.67 ○○○のふれあい
ヒロ男たちはフランクフルトを食べ終えた疑似ちゃんを連れて町中にやってきた。そしてティオリアが興味を惹かれる店を渡り歩き、疑似ちゃんに見せていく。ティオリアの身体に刻まれた記憶をベースに作られた疑似人格ならば、興味のある物もティオリア基準なのではないかと思ったのだ。
「……! ……!」
「予想通り目がキラキラしてるな」
「この姿を見ると普通の女の子なんだけどな…」
店内の商品棚を楽しそうに眺める疑似ちゃんを見て、ヒロ男とコーセーが話す。ここまでスイーツショップ、服屋、アクセサリーショップなどなど数店舗を歩き回り、いずれも『心が無い』はずの疑似ちゃんが激しく反応を示していた。
(ん~…、なんだか私が過去に対応したことのある疑似人格たちとは反応が違うんですよね…。疑似人格ってもっと無機質なはずなんですけど…)
「そうなの? 疑似ちゃん楽しそうだよ?」
(それですよ琴乃さん。疑似人格は普通『楽しい』という感情を持たないはずなんです。でもこの子は明らかに楽しんでます。コンビニでもスイーツショップでもおいしそうに食べてましたし…。ゼノウィータ…、いったいどんな作り方をしたのやら…)
(うーん…)と悩むティオリア。
「なぁ疑似ちゃん、楽しいか?」
「…? 私は疑似人格、感情は無い」
「……ふむ」
唐突なヒロ男の質問に冷たく返す疑似ちゃん。しかしヒロ男は大きな身体をほんの少し屈め、疑似ちゃんと目線を合わせると頬をむにむに弄り出す。
「感情が無い奴はニンマリ笑ったり目が輝いたりしないぞ? 自分で『感情が無い』って思い込んでるだけじゃないのか?」
「………………………………………」
返答せず、考え込む疑似ちゃん。ヒロ男はニッと笑う。
「難しいこと考えずに『湧き上がってくるものを素直に感じてみろ』。……例えば、この二つのヘアピン、どっちが好きだ?」
ヒロ男はそう言うと近くの商品棚に置いてあった二つのヘアピンを手に取り、疑似ちゃんに見せた。
「………質問の意図が不明」
「いいから選んでみろよ」
「………………」
強引に二択を迫られた疑似ちゃんは無言で二つのヘアピンを見比べる。
(意味不明。この二つは形が違うだけ、機能に差異は無い。どちらを選んでも――)
疑似ちゃんはそう思考し、テキトーに右のヘアピンを指差そうとして…、止まった。
(何故…、選べない…? テキトーに選んでこの無意味な問答を終わらせるだけなのに…)
ほんの少し持ち上がった右手が鉛のように重くなり、視線は左右のヘアピンを見比べてゆらゆら揺れる。
「くくく…、なんだよ、両方好みだったのか? 時間はたっぷりあるから存分に悩めよ」
「…………っ」
視線を揺らす疑似ちゃんを見てヒロ男がクスクス笑う。そんなヒロ男を見て、疑似ちゃんは何故かイラッとした。
「ふふふっ、疑似ちゃん、焦らなくていいからゆっくり選びなよ。『なんとなく"いいと思う"』方でいいんだ」
コーセーが疑似ちゃんの頭を撫でながら優しくアドバイスする。
「そうそう、『なんとなく』でいいんだよ。それか自分が着けてるところを想像すると選びやすいよ?」
(ふむ…、猫のヘアピンと花のヘアピン…、これは私も悩みますね。まぁ大丈夫ですよ疑似ちゃん。私の身体は超かわいいのでどっちを着けても似合います)
「……ティオリアって自己肯定感めちゃくちゃ高いよな…」
琴乃とティオリアもアドバイスを送り、ヒロ男がサラッとティオリアに突っ込みを入れる。
そして散々悩んだ疑似ちゃんがついに重い右手を持ち上げた。
「…………花の…ヘアピン…」
「お! 選んだか! うん、似合うと思うぞ。ちょっと待ってな」
ヒロ男はそう言うと店の奥へ消え、すぐに紙袋を持って戻ってきた。
「買ってきた。やるよ」
ガサガサッ
ヒロ男は紙袋からさっき疑似ちゃんが選んだ『花のヘアピン』を取り出し、雑に疑似ちゃんの髪にくっ付けた。
(ちょっとおーが!?)「ちょっ! ヒロ男くん雑すぎ! ちょっと待ってね……」
ティオリアと琴乃がヒロ男の雑な着け方に苦言を呈し、琴乃が自分のポーチから小さな櫛を取り出し疑似ちゃんの前髪を整える。
そして最後にヘアピンで留め、満足そうに頷く。
「うん、できた。良く似合ってるよ」
(かわいいですよ疑似ちゃん。さすが私の身体です)
琴乃が優しく褒め、ティオリアが褒めながら自画自賛する。
きれいにヘアピンを着けてもらった疑似ちゃんは照れるように恥ずかしそうな表情を浮かべ、その様子を眺めるヒロ男は満足そうに笑う。
(ふふ…、敵味方なのが信じられないや。願わくば…、疑似ちゃんと戦うようなことにはならないといいな…)
コーセーの心にはティオリアが言った『疑似ちゃんと触れ合うなら今が最初で最後のチャンスかもしれませんよ?』という言葉が重くのし掛かっていた。
しかし、"今だけは…"と、コーセーもこの温かい輪の中で笑顔を見せるのだった。




