ep.64 秘めておきたいもの
(あ、コーセーさん、琴乃さん、少し浮いた状態で話してもらっていいですか? おーがさんに飛ぶとは自然なことだと刷り込みたいので)
「わかった」「仕方ない…」
ティオリアの要請でコーセーと琴乃がふわぁと浮き上がる。ヒロ男は神妙な表情でそれを眺める。
(おーがさんそんな顔しないで! 貴方も飛べるはずなんですから!)
「おぅ…、がんばる…」
ティオリアの励ましを受け、ヒロ男は悲し気に頷いた。
コーセーも心の中でヒロ男に「がんばれ…」とエールを送り、琴乃にさっき気になったことを聞いてみる。
「椎名さんはもしラベスに拘束された時の脱出方法とかはあるの?」
「う…」
聞いた直後、琴乃はあからさまに嫌な顔をした。
「もしかして無いの?」
「あ…、ううん、あるよ。ごめんね、初日のあれ思い出しちゃって…」
「あぁ…、ごめん、嫌な事思い出させちゃったね」
やはり琴乃の中ではラベスに捕まり取り込まれる寸前までいった記憶はトラウマになっているらしい。なるべくあの記憶に触れないようにしてあげなければ…。
そしてコーセーの謝罪を聞いた琴乃はフルフルと首を横に振る。
「大丈夫、戦う以上捕まるのも織り込んで考えないといけないから…。私はもし捕まってもカエシオ・ウンディクェとウィース・ディルンペンスで二重で対策してるから…、たぶん大丈夫だと思う…」
「カエシ…ウンディ…???」
「ウィース・ディルンペンス???」
「!!!!!!」
ヒロ男とコーセーが謎の言葉を聞いて首を傾げ、琴乃が「しまった」というようなすごい表情をして両手で口を押さえる。
すると琴乃の膝で丸くなっていたノワールが口を挟む。
「何を恥ずかしがっているのだ琴乃よ。別に無詠唱で魔法が使えるからと言って魔法名を付けない理由にはなるまい? この際ノリノリで付けた全魔法名を公開するのも――」
「ノワール黙って!!!!!」ぎゅうううううう
琴乃が顔を真っ赤にしてノワールの顔を握り潰す。
(なるほど、無詠唱でイメージのまま魔法を使えるから魔法名は自由に選べるんですね。無詠唱にそんな利点があったとは…、盲点でした)
真っ赤の琴乃を尻目にティオリアは興味深そうに考察している。
「いいな…、自由に魔法名を決めれるって…。俺なんて『ルミナ☆』強制だぞ…」
(ちょっとおーが! 私の魔法にケチ付ける気!?)
「あ! いやごめんそんなつもりじゃ――」
そしてポロっと本音を零したヒロ男がティオリアと喧嘩を始める。
「あー…、椎名さん? さっきの二つの魔法はどんな効果なのか教えてもらっていい?」
いろいろ脱線しそうだったのでコーセーが無理やり軌道修正を試みる。
説明を求められた琴乃は真っ赤のまま恥ずかしそうに説明を始めた。
「えーと…、カエシ――全方位斬撃魔法と、魔力炸裂魔法だよ…。後者はたぶんティオリアさんのルミナ☆バーストと同じだと思う」
また魔法名を口走りそうになったが無理やり方向転換し、わかりやすい日本語で説明しきった琴乃。どこか安心した表情だ。
(全方位斬撃…、そんな高度な魔法を無詠唱で…)
ティオリアが斬撃魔法に驚いているようだ。しかし琴乃は首を傾げている。難しいと思っていないようだ。
「全方位への斬撃ってすごい魔法なんだ?」
ちょっと気になったので詳細を求めてみるコーセー。
(はい、すごいです。私含め、高位の魔導士でも斬撃の数や方向を制御するために長い詠唱を必要とします。普段使いしている魔法のような魔法名だけの詠唱では発動しません)
「そうなんだ…」
自分の魔法なのにどこか他人事のように呟く琴乃。実感が無いらしい。
(琴乃さん、その魔法見せてもらえませんか? とても興味があります!)
「え? いいけど、ここじゃやっ君の部屋がめちゃくちゃになっちゃうよ?」
「やめて!?」
とんでもないことを言い出す琴乃に必死にストップを掛けるコーセー。部屋を切り刻まれるのは勘弁願いたい。
「いつもの公園に行こう! おーがもあそこの方が飛ぶ練習しやすいでしょ!」
「だな。いろいろやるならあそこが一番いい」
「わかった」
コーセーが移動を提案し、ヒロ男と琴乃も了承。皆でコーセー宅を後にした。




