ep.63 悔しかったら早く飛べるようになることだ!
「コーセー、助けてくれ」(コーセーさん、知恵を貸してください)
「二人してどうしたのさ…」
次の日の朝。コーセーこと夜久輝星(愛称:やっ君)は、おーがこと日色凰我(愛称:ヒロ男)とヒロ男の身体の中に居候している異世界人のティオリアに泣きつかれていた。
「昨日一回目の戦闘の後にティオリアと『ラベスに捕まってもすぐ脱出できる方法』を考えようって話になってさ」
「ほう」
(現状使える魔法ではルミナ☆ブレイズが拘束解除に適してるんですけど、おいそれと練習できる魔法じゃないんですよ)
「……ほう?」
首を傾げるコーセー。ティオリアが詳細の説明を開始。
(ルミナ☆ブレイズはおーがさんの全身から魔力の炎を噴出させる魔法でして、なんとその炎は魔力障壁を貫通してラベスの体表に燃え移る狂気の炎なんです)
「ほ、ほう…」
コーセーの顔が引きつる。
「でもどうも発動条件に俺の"怒り"が関係してるらしくてな。今まで二回しか使えてないんだ」
(あとたぶん家とか草木に燃え移ったら消火が大変なんです。魔力の炎なので)
「……ここでは練習しないでね?」
話を聞き、一応釘を刺すコーセー。話を聞いているここはコーセーの部屋である。燃やされるのは勘弁願いたい。
「ちなみにティオリアさんはそういう拘束解除魔法は使ってたの?」
とりあえず疑問に思ったことを聞いてみる。
(えぇ、私はルミナ☆バーストという魔力を炸裂させる魔法を使っていました。全身から勢いよく魔力を放出して周囲の物体を消し飛ばす魔法です)
「それをおーがに教えることはできないの?」
それを聞き、ティオリアは(えーと…)と口を濁す。
「俺の魔力量と魔力制御だとかなりの広範囲が消し飛ぶんだとよ。敵と一緒に周辺の建物も巻き添えだそうだ」
「……練習すら難しいってことね」
ヒロ男の説明を聞き、コーセーは苦笑いを浮かべる。
(おーがさんが空を飛べれば上空で練習できるんですけど、その…、まだ飛べないので…)
「それについても助けてくれコーセー」
「そう言われてもなぁ…」
ヒロ男が飛べないことについてはコーセーもお手上げ状態なのだ。ティオリアの話ではルミナ☆バスターをぶっ放した際に少しだけ浮いたらしいが、それ以降全く飛ぶことができていない。いろいろ試したが全て失敗。コーセーも半ば諦め掛けているのだ。
(そういえば椎名さんは拘束された後の対策はしてるのかな)
ヒロ男の『飛べない問題』から逃げるように唐突に別の心配が脳裏を過る。
椎名琴乃は初めてラベスに遭遇し触手で拘束された際、それはもう盛大に取り乱し、この世の終わりのような悲鳴を上げていた。
変身して戦うようになった今、その辺の対策はきっちりしておかないと非常に危険だ。
ピンポーン
その時コーセー宅のインターホンが鳴った。すぐにコーセーの母の声が聞こえてくる。
「輝星ー? 琴乃ちゃん来たわよー?」
「今行くよー」
噂をすればなんとやら(口に出してはいないが…)、コーセーはすぐに部屋を出てパタパタと階段を下りていった。
「……ヒロ男くん、飛ぶ練習とルミナ☆ブレイズの練習どっちがやりたい?」
「両方」
「欲張るな」
昨日に引き続きコーセー宅に来た琴乃。ある程度話を聞いた上でヒロ男に確認したが、その返答を聞き額に手を当てため息をつく。
「ティオリアさんはどっちから練習させた方がいいと思う? 私は飛ぶ方が先だと思う」
(そうですね…、心情的にはルミナ☆ブレイズですが、立ち回りに飛行が加わればそもそも捕まり難くなりますし、今後他の魔法の練習にも繋がりますしね…。本腰入れて飛ぶ練習をしてもらいますか)
「だってさ。おーが、がんばって飛べよ」
「まじかよ…」
未だうまくいかない飛ぶ練習が始まると思うと気が滅入るヒロ男。体育が苦手な学生の気持ちが今になって痛いほどわかった。
そしてそんなヒロ男の眼前に子猫サイズの黒猫のぬいぐるみがふわふわと浮遊し始め、ヒロ男に謎のダンスを見せつける。
イラッとしたヒロ男はその黒猫ぬい、ノワールをバシッと叩き落とす。
「ふざけんじゃねぇノワール! 毎回毎回煽って来やがって!」
「ふははははは! 悔しかったら早く飛べるようになることだ! 我は貴様と空で追いかけっこできる日を心待ちにしているのだぞ!?」
「この野郎…っ!」
拳を握ってぷるぷるしながら頭上をスイスイ飛び回るノワールを睨みつけるヒロ男。
「…おーが、今のイライラを覚えておけばいつでもルミナ☆ブレイズ使えるんじゃないか?」
「あぁん!? 使う度にこいつを思い出せってか!?」
「ふはははは! 構わぬぞ!? 存分に我を活用するがいい!」
コーセーの提案にあからさまに嫌な顔をするヒロ男。ガシッとノワールを捕まえ床にベシッと叩きつけ、押さえつける。
「保留だ!」
「ふはははは! 素直になるがいい凰我よ! 我のおかげで魔法が安定――」
「だ・ま・れ…っ!」ぎゅうううう
ノワールの頭を握り締め無理やり黙らせるヒロ男。こめかみに血管が浮き出ている。
「ノワール、その辺にして。収集がつかなくなるから」
握り潰されるノワールを琴乃が優しく救出し、琴乃の腰から伸びるベルトとノワールの首輪をカチッと繋げる。
コーセーがそのベルトに興味を示す。
「椎名さん、何それ?」
「勝手に動き回れないように物理的に拘束できるように作ったの。やり過ぎた時のお仕置きみたいな感じ」
「へー…」
繋がれたノワールは大人しく琴乃の膝の上で丸くなった。




